昨日、鄧小平氏が「改革開放」を始めてから40年を迎えたそうだ。ところがここ数年、逆行する動き、所謂「国進民退」が顕著になってきた。市場の活力を生かす「市場経済」ではなく、「中国の特色ある社会主義」という形容詞がつく「市場経済」として、「党」や「政府」の存在感が増しているため、起業家やシンクタンクからは変化を求める声があがっているようだ。実のところ、中国の内部からよりも外部から、より大きな圧力がかかっている。
今月はじめ、アルゼンチンで習近平国家主席とトランプ大統領がとりあえずの貿易戦争「一時休戦」(と報じられているが私にはどうもそうは思えない)の握手をしていた頃、カナダでアメリカの要請を受けて中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)副会長兼最高財務責任者(CFO)孟晩舟女史が逮捕された。トランプ大統領のしたたかな変幻自在ぶり(とあるメディアが呼んでいたが、予測不能といった一見突き放した言い回しより余程トランプ大統領らしい掴みどころのなさが表われているように思う 笑)には畏れ入る(苦笑)。早速、中国の王毅外相は、「中国国民の正当な権益を侵害するいじめのような行為に対し、中国は絶対に座視しない。全力で中国国民の合法的な権利を守る」と吠えて、カナダ人二人(先ほどのニュースによると三人目も)を拘束する報復措置に出た。これは報復もさることながら、中国人民に対して弱腰と見られないための言い訳のようにも映る。
というのも、中国の核心的利益の第一が共産党による統治にあるのはよく知られた事実だからだ。コワイモノ知らずの中国共産党でも、何が一番コワイかと言って、人民の反乱こそコワイものはないと言われる(のは、中国四千年の歴史を振り返れば分かる)。しかし中国では、西欧や日本などの民主主義国のように選挙制度を通して被治者の負託を受けるといった政治プロセスがないため、共産党の統治を正当化する必要に迫られる。共産党こそが抗日を戦い抜いて国家の独立を果たしたという捏造の歴史のプロパガンダを流し続け、実生活においては共産党の指導のもとで人民の生活を豊かにする経済成長を確保しようと躍起になるのは、そのためだ。ところが最近の若者ときたら(田舎はともかく都会では)テレビの抗日ドラマは見なくなったし、経済成長の方もちょっと怪しくなってきた・・・先進国と新興国の間に挟まれて、所謂中所得国の罠に陥っているのだ。この罠を超克するための鍵は、安い労働力をテコにした「世界の工場」を脱して、付加価値を付けていくことだとされており、そのために先端技術の国産化を目指すプログラム「中国製造2025」を立ち上げ、産業の高度化を図ってきた。
ここまでならば、中国の意図は理解できなくもない。これら一連の動きは、よくよく見れば必ずしもアメリカの覇権を脅かすことを直接、狙ったわけではなく、飽くまであの手この手で中国共産党による統治を延命させようと企図するものだと言えるかも知れない。しかしその実現の仕方には大いに問題がある。
「中国製造2025」を立ち上げたのはいいが、中国人民は技術を磨き上げる、育てるといった悠長なことはそもそも苦手で、国内で投資する外資に対して技術移転(技術開示)を要求し、あるいは手っとり早く技術(ひいては技術をもつ企業)をカネで買い、それが叶わなければ企業スパイやサイバー攻撃を辞さずに技術を盗もうとする民族性だ。数日前の産経Webにこんなエピソードが掲載されていた。
(引用)
香港の骨董街の店をのぞいてみると、秦、漢時代と称する置物が所狭しとばかり並んでいる。値は1万円以下で安い。店のオヤジさんに「こんな値段で出るはずはない。偽物だよね」と話しかけると、「そうだよ。でもね、中国ではね、コピーはいつの世もある。漢の時代のオリジナルが、宋、明、清、さらに現代というふうに繰り返しコピーされてきたのさ。偽物の偽物というわけだね」と。要するに偽物づくりは中国の伝統文化なのである。ハイテクの窃盗やサイバー攻撃や技術提供の強要をやめるよう強く抗議しても、その伝統の上に立つ共産党政権や組織自体が知財権侵害に手を染め、指令し、実行している。
(引用おわり)
2008年のリーマン・ショックのときに、4兆元の公共投資により世界の金融危機を救ったのは自分たちだと増長して、鄧小平以来の「韜光養晦」の国是をかなぐり捨て、周辺国に対して大国然と振る舞い始めたのが良くなかったのかも知れない。一帯一路や南シナ海への海洋進出によって、新植民地主義とも呼ばれる中国の悪行ぶりや軍事拡張が世界中に知れ渡ってしまった。国内の社会的安定を守らんがために、情報統制・社会統制を強める法制化を進め、民主主義国とは異なる権威主義的な国家のありようが浮き彫りになってきた。キャッシュレス決済は全て国営銀行経由となることで、全ての決済情報が政府(共産党)に把握されることになった。主要都市のあちらこちらに張り巡らされた監視カメラは、人民の行動を追い続ける。外資も含む企業への関与が強まり、定款で共産党支部を設置することが義務付けられ、経営の重要事項決定に共産党が関与する懸念が強まった。如何なる組織であれ個人であれ、政府(共産党)への協力が義務づけられる、一種の国家総動員の体制まで出来上がってしまった。そして今年3月の全人代で、国家主席の任期を取り払って終身としたことは、国家ぐるみの収奪体制である国家資本主義が強まりこそすれ、後戻りすることはなく、アメリカの長年の関与政策が失敗だったことを認めさせる最後の一押しとなった。結果としてアメリカの覇権を脅かしていることには変わりないと受け止められても仕方ない状況にある。アンフェアは許さないのが、アメリカの民族性だ。輸出規制や投資規制を盾に立ちはだかったのが、ここ半年ほどの米中摩擦の真相だ。
冒頭に登場した華為技術などの中国製通信機器については、何等かの形でバックドアが設けられて政府・軍や産業界の機密情報が抜かれているとの懸念があり、所謂ファイブ・アイズという、第二次大戦以来、機密情報を共有する米・英・豪・NZ・加のほか、日本などの同盟国による基幹インフラの調達から排除されることになった。真に懸念されるのは、いざというときに通信が遮断され、軍組織が無力化されることだろう。さらにイランに供給されて、同国内の反体制派などの監視に活用されてきたとの疑惑もある。ロイター通信によれば、華為技術や中興通訊(ZTE)は、イラン企業に対し、携帯電話の通話者の居場所を特定できるシステムや、携帯電話を盗聴しあるいはネット上の通信情報を収集できるシステムを供給し、イランの反体制派などの監視強化を支援した可能性があるという。余り報道されていないが、アフリカや中東やアジアの発展途上国で格安スマホがばらまかれることで、期せずして貧しい人々がISILなどのテロリストとコミュニケートする道が開かれていることも一部で問題視されているようだ。
川島真・東大教授によれば、中国に対する米国の厳しい対応は、一部には、トランプ大統領の気まぐれで中間選挙までだろうと予想されていたが、今やこのような対中姿勢は党派を超えたものとなっており、この点で中国は見誤ったという。一方で中国も、今年に入ってから新たに何か悪いことをしたわけでもなく、またアメリカ内部でもこの厳しい姿勢の意味について脱エゲージメント、あるいはエンゲージの継続などで大きく割れており、中国側としては何をしたら米国が収まるのかつかみきれていないともいう。そうした中で、株価や人民元が下落するといった悪影響があり、対外協力を伴う一帯一路への反発や、トランプへの対応を誤ったとして習近平への批判がなされているという。ブログ・タイトルを習近平の自業自得としたのは、このあたりを皮肉ってみたものだ。
こうした状況は、産経Webが言うように、第一ラウンド:貿易戦争、第二ラウンド:ハイテク戦争、第三ラウンド:金融戦争の可能性も・・・と徐々にエスカレートしているのではなく、そもそも貿易摩擦の背景にハイテク摩擦があり、さらにその背後に覇権の意思が隠されていると見るべきだろう。今から30年前、1980年代後半の日米摩擦に似た様相を呈して来たようだ。日本の後を追う中国は日本の歴史に学んでいるというが、日本が経験したような経済の停滞を招くことなく、そのプロセスの中で日本が痛みを伴う構造改革を通して些かの課題を解決したように、中国も課題解決のための改革を実行し、平和的・互恵的な台頭とすることで、米中摩擦をマネージ出来るだろうか。米中双方と密接な利害をもつ日本だからこそ出来ることがいろいろあるように思うのだが。
今月はじめ、アルゼンチンで習近平国家主席とトランプ大統領がとりあえずの貿易戦争「一時休戦」(と報じられているが私にはどうもそうは思えない)の握手をしていた頃、カナダでアメリカの要請を受けて中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)副会長兼最高財務責任者(CFO)孟晩舟女史が逮捕された。トランプ大統領のしたたかな変幻自在ぶり(とあるメディアが呼んでいたが、予測不能といった一見突き放した言い回しより余程トランプ大統領らしい掴みどころのなさが表われているように思う 笑)には畏れ入る(苦笑)。早速、中国の王毅外相は、「中国国民の正当な権益を侵害するいじめのような行為に対し、中国は絶対に座視しない。全力で中国国民の合法的な権利を守る」と吠えて、カナダ人二人(先ほどのニュースによると三人目も)を拘束する報復措置に出た。これは報復もさることながら、中国人民に対して弱腰と見られないための言い訳のようにも映る。
というのも、中国の核心的利益の第一が共産党による統治にあるのはよく知られた事実だからだ。コワイモノ知らずの中国共産党でも、何が一番コワイかと言って、人民の反乱こそコワイものはないと言われる(のは、中国四千年の歴史を振り返れば分かる)。しかし中国では、西欧や日本などの民主主義国のように選挙制度を通して被治者の負託を受けるといった政治プロセスがないため、共産党の統治を正当化する必要に迫られる。共産党こそが抗日を戦い抜いて国家の独立を果たしたという捏造の歴史のプロパガンダを流し続け、実生活においては共産党の指導のもとで人民の生活を豊かにする経済成長を確保しようと躍起になるのは、そのためだ。ところが最近の若者ときたら(田舎はともかく都会では)テレビの抗日ドラマは見なくなったし、経済成長の方もちょっと怪しくなってきた・・・先進国と新興国の間に挟まれて、所謂中所得国の罠に陥っているのだ。この罠を超克するための鍵は、安い労働力をテコにした「世界の工場」を脱して、付加価値を付けていくことだとされており、そのために先端技術の国産化を目指すプログラム「中国製造2025」を立ち上げ、産業の高度化を図ってきた。
ここまでならば、中国の意図は理解できなくもない。これら一連の動きは、よくよく見れば必ずしもアメリカの覇権を脅かすことを直接、狙ったわけではなく、飽くまであの手この手で中国共産党による統治を延命させようと企図するものだと言えるかも知れない。しかしその実現の仕方には大いに問題がある。
「中国製造2025」を立ち上げたのはいいが、中国人民は技術を磨き上げる、育てるといった悠長なことはそもそも苦手で、国内で投資する外資に対して技術移転(技術開示)を要求し、あるいは手っとり早く技術(ひいては技術をもつ企業)をカネで買い、それが叶わなければ企業スパイやサイバー攻撃を辞さずに技術を盗もうとする民族性だ。数日前の産経Webにこんなエピソードが掲載されていた。
(引用)
香港の骨董街の店をのぞいてみると、秦、漢時代と称する置物が所狭しとばかり並んでいる。値は1万円以下で安い。店のオヤジさんに「こんな値段で出るはずはない。偽物だよね」と話しかけると、「そうだよ。でもね、中国ではね、コピーはいつの世もある。漢の時代のオリジナルが、宋、明、清、さらに現代というふうに繰り返しコピーされてきたのさ。偽物の偽物というわけだね」と。要するに偽物づくりは中国の伝統文化なのである。ハイテクの窃盗やサイバー攻撃や技術提供の強要をやめるよう強く抗議しても、その伝統の上に立つ共産党政権や組織自体が知財権侵害に手を染め、指令し、実行している。
(引用おわり)
2008年のリーマン・ショックのときに、4兆元の公共投資により世界の金融危機を救ったのは自分たちだと増長して、鄧小平以来の「韜光養晦」の国是をかなぐり捨て、周辺国に対して大国然と振る舞い始めたのが良くなかったのかも知れない。一帯一路や南シナ海への海洋進出によって、新植民地主義とも呼ばれる中国の悪行ぶりや軍事拡張が世界中に知れ渡ってしまった。国内の社会的安定を守らんがために、情報統制・社会統制を強める法制化を進め、民主主義国とは異なる権威主義的な国家のありようが浮き彫りになってきた。キャッシュレス決済は全て国営銀行経由となることで、全ての決済情報が政府(共産党)に把握されることになった。主要都市のあちらこちらに張り巡らされた監視カメラは、人民の行動を追い続ける。外資も含む企業への関与が強まり、定款で共産党支部を設置することが義務付けられ、経営の重要事項決定に共産党が関与する懸念が強まった。如何なる組織であれ個人であれ、政府(共産党)への協力が義務づけられる、一種の国家総動員の体制まで出来上がってしまった。そして今年3月の全人代で、国家主席の任期を取り払って終身としたことは、国家ぐるみの収奪体制である国家資本主義が強まりこそすれ、後戻りすることはなく、アメリカの長年の関与政策が失敗だったことを認めさせる最後の一押しとなった。結果としてアメリカの覇権を脅かしていることには変わりないと受け止められても仕方ない状況にある。アンフェアは許さないのが、アメリカの民族性だ。輸出規制や投資規制を盾に立ちはだかったのが、ここ半年ほどの米中摩擦の真相だ。
冒頭に登場した華為技術などの中国製通信機器については、何等かの形でバックドアが設けられて政府・軍や産業界の機密情報が抜かれているとの懸念があり、所謂ファイブ・アイズという、第二次大戦以来、機密情報を共有する米・英・豪・NZ・加のほか、日本などの同盟国による基幹インフラの調達から排除されることになった。真に懸念されるのは、いざというときに通信が遮断され、軍組織が無力化されることだろう。さらにイランに供給されて、同国内の反体制派などの監視に活用されてきたとの疑惑もある。ロイター通信によれば、華為技術や中興通訊(ZTE)は、イラン企業に対し、携帯電話の通話者の居場所を特定できるシステムや、携帯電話を盗聴しあるいはネット上の通信情報を収集できるシステムを供給し、イランの反体制派などの監視強化を支援した可能性があるという。余り報道されていないが、アフリカや中東やアジアの発展途上国で格安スマホがばらまかれることで、期せずして貧しい人々がISILなどのテロリストとコミュニケートする道が開かれていることも一部で問題視されているようだ。
川島真・東大教授によれば、中国に対する米国の厳しい対応は、一部には、トランプ大統領の気まぐれで中間選挙までだろうと予想されていたが、今やこのような対中姿勢は党派を超えたものとなっており、この点で中国は見誤ったという。一方で中国も、今年に入ってから新たに何か悪いことをしたわけでもなく、またアメリカ内部でもこの厳しい姿勢の意味について脱エゲージメント、あるいはエンゲージの継続などで大きく割れており、中国側としては何をしたら米国が収まるのかつかみきれていないともいう。そうした中で、株価や人民元が下落するといった悪影響があり、対外協力を伴う一帯一路への反発や、トランプへの対応を誤ったとして習近平への批判がなされているという。ブログ・タイトルを習近平の自業自得としたのは、このあたりを皮肉ってみたものだ。
こうした状況は、産経Webが言うように、第一ラウンド:貿易戦争、第二ラウンド:ハイテク戦争、第三ラウンド:金融戦争の可能性も・・・と徐々にエスカレートしているのではなく、そもそも貿易摩擦の背景にハイテク摩擦があり、さらにその背後に覇権の意思が隠されていると見るべきだろう。今から30年前、1980年代後半の日米摩擦に似た様相を呈して来たようだ。日本の後を追う中国は日本の歴史に学んでいるというが、日本が経験したような経済の停滞を招くことなく、そのプロセスの中で日本が痛みを伴う構造改革を通して些かの課題を解決したように、中国も課題解決のための改革を実行し、平和的・互恵的な台頭とすることで、米中摩擦をマネージ出来るだろうか。米中双方と密接な利害をもつ日本だからこそ出来ることがいろいろあるように思うのだが。
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