野わきする空のけしきに成りにけり村雲はやき秋の夕暮
(宝治百首~日文研HPより)
野分を 藤原為名朝臣
草も木も野分にしほる夕暮は空にも雲の乱れてそ行
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
野分を 前大納言為兼
野分たつ夕の雲のあしはやみ時雨ににたる秋の村雨
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
題不知 藤原定兼朝臣
今朝も猶野分のなこり風あれて雨ふりそゝく村雲の空
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
題しらす 院一条
吹みたし野分にあるゝ朝あけの色こき雲に雨こほるなり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)
風後草花といふ事をよませ給うける 新院御製
夜すからの野分の風の跡みれは末ふす萩に花そ稀なる
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
野分の又の日こそ、いみじう哀におぼゆれ。立蔀、透垣などのふしなみたるに、前栽ども心ぐるしげなり。大なる木ども倒れ、枝など吹き折られたるだに惜しきに、萩女郎花などのうへに、よろぼひ這ひ伏せる、いとおもはずなり。格子のつぼなどに、颯と際を殊更にしたらんやうに、こまごまと吹き入りたるこそ、あらかりつる風のしわざともおぼえね。いと濃き衣のうはぐもりたるに、朽葉の織物、羅などの小袿著て、まことしく清げなる人の、夜は風のさわぎにねざめつれば、久しう寐おきたるままに、鏡うち見て、 母屋よりすこしゐざり出でたる、髮は風に吹きまよはされて、少しうちふくだみたるが、肩にかかりたるほど、實にめでたし。物あはれなる氣色見るほどに、十七八ばかりにやあらん、ちひさくはあらねど、わざと大人などは見えぬが、生絹の單衣のいみじうほころびたる、花もかへり、濡れなどしたる、薄色の宿直物を著て、髮は尾花のやうなるそぎすゑも、長ばかりは衣の裾にはづれて、袴のみあざやかにて、そばより見ゆる。わらはべの、若き人の根籠に吹き折られたる前栽などを取り集め起し立てなどするを、羨しげに推し量りて、つき添ひたるうしろもをかし。
(枕草子~バージニア大学HPより)
野分、例の年よりもおどろおどろしく、空の色変りて吹き出づ。花どものしをるるを、いとさしも思ひしまぬ人だに、あなわりなと思ひ騒がるるを、まして、草むらの露の玉の緒乱るるままに、御心惑ひもしぬべく思したり。おほふばかりの袖は、秋の空にしもこそ欲しげなりけれ。暮れゆくままに、ものも見えず吹きまよはして、いとむくつけければ、御格子など参りぬるに、うしろめたくいみじと、花の上を思し嘆く。
(源氏物語・野分~バージニア大学HPより)
野分したるあしたに、おさなき人をたにとはさりける人に 赤染衛門
あらく吹風はいかにと宮木野の小萩かうへを人のとへかし
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)
野分の後、思ひまさらるることありてよめる 御垣が原の右大将
思ひ草さらでも末の露の身をいかに吹きつる秋の嵐ぞ
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)