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古典の季節表現 春

2018年02月17日 | 日本古典文学-春

萬里の好山に雲忽におこり。 一樓の明月に雨はじめて晴れり。げにのどかなる時しもや。春のけしき松原の。浪立ちつづく朝霞。月ものこりの天の原。及なき身のながめにも。心そらなるけしきかな。
(謡曲・羽衣~バージニア大学HPより)
春霞。たなびきにけり久かたの。月の桂も花やさく。げに花かづら。色めくは春のしるしかや。
(謡曲・羽衣~バージニア大学HPより)

正治二年後鳥羽院に百首歌奉りける時、春歌 後京極摂政前太政大臣
梅の花うすくれなゐに咲しより霞色つく春の山陰 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

山中春望といふ事をよみ侍し 前大納言為兼
鳥の音ものとけき山の朝あけに霞の色は春めきにけり
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

山里のはるのなさけやこれならん霞にしつむ鶯のこゑ
(若宮社歌合~群書類従・第十二輯)

ふるすたつゆきまのくさのはつこゑはわかなつむののはるのうくひす
(明日香井集~日文研HPより)

京極御息所かすかにまうて侍ける時、国司のたてまつりけるうたあまた有ける中に 藤原忠房朝臣
鶯のなきつるなへにかすか野のけふのみゆきを花とこそみれ
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

山ふかみ霞こめたる柴のいほにこととふものは谷のうぐひす
(山家集~バージニア大学HPより)

あつまのかたより京へまうてくとて、道にてよめる おと
山かくす春の霞そうらめしきいつれ都のさかひなるらん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

修理大夫顕季はりまのすけにてくたりける時、川尻まてをくりにまかりて、舟こきはなるゝ程はるかにかすみわたれるをみて 津守国基
島かくれ漕行まてもみるへきにまたきへたつる春の霞か
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 前内大臣
朝ほらけはまなの橋はとたえして霞をわたる春の旅人
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

都にのほり侍ける時、二村山をこゆとてよめる 藤原行朝
越ゆけは一かたならすかすむなり二村山の春の明ほの
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 恵慶法師
春をあさみ旅の枕に結ふへき草葉も若き比にも有かな
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

建長二年、詩歌を合せられけるに、江上春望 冷泉太政大臣
こき出る入江の小舟ほのほのと浪まにかすむ春の明ほの
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

眺望の心をよめる 円玄法師
なにはかた塩路はるかに見渡せは霞にうかふ沖のつり舟
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

わたのはらくもにかりかねなみにふねかすみてかへるはるのあけほの
あかしかたかすみてかへるかりかねもしまかくれゆくはるのあけほの
(秋篠月清集~日文研HPより)

亀山殿千首歌に、霞 前大納言為世
もしほやく煙も波もうつもれて霞のみたつ春のあけほの
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

同歌合に、春風を 前大納言家雅
吹となき霞のしたの春風に花の香ふかきやとの夕暮
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

暮山春望といふ事を 中務卿宗尊親王
花の香はそこともしらす匂ひきてとを山かすむ春の夕暮
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 順徳院御製
難波かた月の出しほの夕なきに春の霞のかきりをそしる
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

旅なる所にて、月を見て
春の夜の月は所もわかねどもなほすみなれし宿ぞ恋しき
(和泉式部続集~岩波文庫)

牡鹿伏すなる春日山、牡鹿伏すなる春日山、水嵩(みかさ)ぞ増さる春雨の、音(おと)はいづくぞ吉野川。よしや暫しこそ、花曇りなれ春の夜の、月は雲居に帰らめや、頼みをかけよ玉の輿、頼みをかけよ玉の輿。
(謡曲・国栖~岩波・日本古典文学大系41「謡曲集 下」)

道助法親王家五十首歌、旅春雨 源家長朝臣
宿もかなさのゝわたりのさのみやはぬれてもゆかむ春雨の比
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 八日、雨ふる。夜は石の上の苔くるしげにきこえたり。
(蜻蛉日記~岩波文庫)

春ノ風暗(そら)ニ庭ノ前ノ樹ヲ剪定(き)リ、夜ノ雨ハ偸(ひそか)ニ石ノ上ノ苔ヲ穿(うが)ツ
(千載佳句)

いはのうへのこけたにたへぬはるさめにのへのくさはのいかてもゆらむ
(堀河百首~日文研HPより)

あさみとりなるそらの気色いみしくすみわたりたるに、こほれてにほふ御前の花さかりめてたきにもよをされ給て、物のねもはへぬへき程なるを、わたり給て、すこしも聞ならし給へかしときこえ給を、(略)
(狭衣物語~諸本集成第二巻伝為家筆本)

草のいと青やかなるを、遠くいにし人を思ふ
浅茅原見るにつけてぞ思ひやるいかなる里にすみれ摘むらん
(和泉式部集~岩波文庫)

春の歌とて 従三位親子
すみれさく道のしはふに花ちりて遠かたかすむ野への夕暮
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

燭(ともしび)を背(そむ)けては共に憐れむ深夜の月 花を踏んでは同じく惜しむ少年の春
(和漢朗詠集~岩波・日本古典文学大系)

そむけつる窓のともし火深き夜の霞にいづる二月の月
(拾遺愚草員外~笠間叢書)

有明の月に背くるともしびの影にうつろふ花を見るかな
(拾玉集)

怪しぶことなかれ紅巾(こうきん)の面(おもて)を遮(さしかさ)いて咲(わら)ふことを 春の風は吹き綻(ほころ)ぼす牡丹の花
(和漢朗詠集~岩波・日本古典文学大系)

康永三年後二月、仙洞にて、松遐年友と云事を講せられけるに 照光院前関白右大臣
千とせともかきらぬ君か友なれは松も花さく春やかさねん
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
康永三年後二月十二日、仙洞にて、松遐年友といへる事を講せられけるに 藤原為重朝臣
我君のめくみをそへて契るらし松のときはの行末の春
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

貞治二年二月、春松久緑と云事を講せられけるに 前参議実名
君かへん千とせの春の行すゑも松のみとりの色にみゆらし
藤原雅家朝臣
いく千世そみとりをそへて相生の松と君とのゆくすゑの春
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

 後堀川院御位すべらせ給て、内大臣の冷泉富小路亭にわたらせ給けるに、天福元年の春の比、院・藻壁門院、方をわかちて、絵づくの貝おほひありけり。大殿・摂政殿、女院の御方にてぞおはしましける。一方に、しかるべき女房四五人ばかりにて、ひろきには及ざりけり。(略)
(古今著聞集~岩波・日本古典文学大系)


春さればもずの草ぐき見えずとも我れは見やらむ君があたりをば
(万葉集~バージニア大学HPより)

(たいしらす) 貫之 
津の国の難波のあしのめもはるにしけきわか恋人しるらめや 
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

題不知 正三位家隆 
春の浪の入江にまよふはつ草のはつかにみえし人そ恋しき 
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

過かてによその梢をみてしより忘れもやらぬ花の面かけ
見てしよりわすれもやらぬ面影はよその梢の花にや有らん
散もそめす咲も残らぬ俤をいかてかよその花にまかへん
(鳥部山物語~バージニア大学HPより)

夜、寝(い)もねぬに、障子をいそぎ開けて眺むるに
恋しさも秋の夕べにおとらぬは霞たな引く春のあけぼの
(和泉式部続集~岩波文庫)

女御まうのほり給へと有ける夜、なやましきとてさも侍らさりけれは、又の日給はせける 天暦御歌 
ねられねは夢にもみえす春のよをあかしかねつる身こそつらけれ 
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

心ならぬこと侍りける暁よみ給ひける 慣れて悔しきの桂のみこ
春の夜のはかなきほどの契りゆゑ人のつらさを見つる夢かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

女のもとより帰りて、あしたに遣はしける み山隠れの宰相中将
見るほどもなくて明けぬる春の夜の夢路にまどふ我が心かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

題不知 永福門院
鳥の声さへつりつくす春日影くらしかたみに物をこそ思へ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
.

物思ひけるころ、木々の梢の青みわたれるを見て 老人(おいびと)の形見の源大納言女
人知れぬ嘆きはいつも絶えせねど萌え出づる春はわびしかりける
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

歎事侍ける時、述懐歌 後京極摂政前太政大臣
数ならは春をしらましみ山木のふかくや苔にむもれ果なん
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

 御庭の草は、やうやう青みだちて、己が心のままに茂るも、秋の霜には、あへずけたれなんと、はかなく見ゆるものから、霜うちはらふ人もあらざりけらし。
 霜がれし庭の草葉も春にあひぬ我が身ひとつぞつれなかりける
 小さき桜の一重なるが、初めて春を知りけるにや、所々咲き出でたるは、雲と見紛ふらん折まで、御命のつれなくて、ものを思はせ給はんかと、うちながめさせ給ふ。
(松陰中納言~「中世王朝物語全集16」笠間書院)

百首歌奉りし時、述懐 前内大臣
一時の花のさきしは夢なれや春の外なる谷の埋木
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

春比、憐れなる事を、人しれず歎くに
わが袖を心も知らぬよそ人は折りける花のしづくとや見る
(和泉式部続集~岩波文庫)

心にもあらず東宮の御あたりもかけ離れて、山里に侍りけるころ 緒絶えの沼の内侍のかみ
いかにしていづれの世にか霞晴れ春のみやこの花を見るべき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

題しらず 緒絶えの沼の右大臣
たぐひなき花の匂ひを身にしめて今いくとせの春を嘆かん
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

春述懐の心を 伏見院御歌
花鳥の情はうへのすさひにて心のうちの春そ物うき
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

春歌とて 徽安門院
心うつすなさけよこれも夢なれや花うくひすの一時の春
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

述懐の心をよめる 覚審法師
すきゝにしよそちの春の夢のよは憂より外の思ひ出そなき
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

世を背かんと思ひ立ちて、后の宮にまうでて、女房に申し侍りける 二葉の松の中納言
心しむる花のあたりの月かげもこれや限りの眺めなるべき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)
.

前大納言光頼春身まかりにけるを、桂なる所にてとかくしてかへり侍けるに 前左兵衛督惟方
たちのほる煙をたにも見るへきに霞にまかふはるの曙
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

後鳥羽院かくれ給うてのころ 順徳院御歌
のほりにし春の霞をしたふとてそむる衣の色もはかなし
大原におさめたてまつるよし聞えけれは 順徳院御歌
いる月のおほろのし水いかにしてつゐにすむへき影をとむらん
春のよのみしかき夢と聞しかとなかき思ひのさむるともなし
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

後朱雀院かくれ給て後、源三位かもとにつかはしける 弁乳母
あはれ君いかなる野辺の煙にてむなしき空の雲となりけむ
返し 源三位
おもへ君もえし煙にまかひなて立をくれたる春のかすみを
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

こぞの夏よりうすにびきたる人に、女院かくれたまへる又の春、いたうかすみたる夕ぐれに、人のさしおかせたる
雲のうへもものおもふ春はすみぞめにかすむ空さへ哀なる哉
返しに
なにしこの程なき袖をぬらすらんかすみのころもなべてきるよに
(紫式部集~岩波文庫)

贈皇后宮かくれての春のころ、山のかすみを御覧して 堀川院御歌
梓弓はるの山へのかすむこそ恋しき人のかたみなりけれ
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

先坊うせ給ての春、大輔につかはしける はるかみの朝臣のむすめ 
あら玉のとしこえつらしつねもなきはつ鶯の音にそなかるゝ 
返し 大輔 
ねにたてゝなかぬ日はなし鶯のむかしの春を思ひやりつゝ 
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

内大臣かくれて後、一条院の紅梅も時を忘れず咲きぬらんと人のいふを聞かせ給ひて 言はで忍ぶの女院
鶯も春や昔と忘るなよ荒れまく惜しき花の古里
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

後京極摂政かくれ侍けるあくる日、従二位家隆とふらひて侍けれは 前中納言定家
昨日まてかけてたのみし桜花一夜の夢の春の山かせ
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)
後京極摂政春身まかりにけれは、前中納言定家もとへ読てつかはしける 従二位家隆
ふして思ひおきてもまとふ春の夢いつか思ひのさめむとすらん
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
後京極摂政身まかりて後、四五日ありて従二位家隆許より、「ふしてこひおきてもまとふ春の夢いつか思ひのさめんとすらん」と申て侍ける返事に 前中納言定家
夢ならてあふよも今はしら露のをくとはわかれぬとはまたれて
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

あにのふくにて一条にまかりて 太政大臣
春のよの夢のうちにも思ひきや君なき宿を(イ君なき宿に)行てみんとは
返し (読人不知)
やとみれはねてもさめても恋しくて夢うつゝともわかれさりけり
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

あひ知りし人のみまかりて又の春ものへまかる道にて 過ぎて見れば、住む人はなくて花は庭に散りみだれてありければ
おもほえず又この庵に來にけらし有りし昔の心ならひに
(良寛歌集~バージニア大学HPより)

洞院摂政のことを思ひてよみ侍ける 前右大臣
わかれにしむかしの春を思ひ出て弥生のけふの空そかなしき
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

(2013年2月19日と2014年2月8日の「古典の季節表現 春」の記事は削除して、この記事にまとめました。ついでに、謡曲・国栖、蜻蛉日記、狭衣物語、松陰中納言、古今著聞集などを追加しました。)