先週末5日金曜日の米雇用統計発表前のここに、「結果次第でNY金上振れも」というタイトルで「雇用統計は波乱なく通過するというより、仮に賃金の伸びが予想を下回れば、さらに上値を伸ばすのではないかと思うが、果たしてどうなるか」と書いた。
結果を受けNY金は急伸し、通常取引は前日比36.90ドル高の2345.40ドルで終了。史上最高値を更新した。
その後の時間外取引では一時2350.00ドルまで買われ、2349.10ドルで週末の取引を終了した。ほぼ高値引け状態で、テクニカル上は上昇相場のモメンタム(勢い)の強さを表した。先週は4月2日、3日にも同様の値動きが見られており、5営業日中3営業日で現れた。ちなみに取引時間中の史上最高値更新は、6営業日連続となった。
一連の上昇相場については、金市場にありがちな世の耳目を集める特定の事件や事故に反応して急騰する、いわばイベント型の上昇相場ではないことから、過熱を感じさせる一方で意外性のある水準切り上げが続いている。
買いの主体は引き続き目先の値動きに乗じて利益を上げようとする短期投機筋(CTA=商品投資顧問)となっている。そこにファミリー・オフィスと呼ばれる超富裕層(high net worth)の資産管理ファンドや国家ファンド(SWF)なども加わっているとみられる。
買いの基本シナリは、米連邦準備理事会(FRB)の利下げへの政策転換で変化はない。一般にFRBによる年内の利下げ回数が3回か2回かなどと見通しが揺れるごとに、ここまで金市場も上下動を繰り返してきた経緯がある。しかし、すでに市場の期待値が低下することでFRBの見通しと一致し、あるいは状況によっては市場の方がタカ派的見方をする状況まで生まれており、もはや利下げ回数(=今後の利下げ幅)の材料性は低下している。
利下げ転換という基本シナリオが崩れない限り、今後調整局面はあるものの、金市場の基本的な底堅さは続くだろう。
先週末の雇用統計の結果に対するNY金の反応には、金の専門家とされる人々の中でも金融分野へのかかわりが薄い向きには、何で騰がるのか?ということだったと思われる。
雇用統計の結果を受け、米長期金利(10年債利回り)は約4カ月ぶりの高水準に急伸したが、その中でNY金も急騰した。はっきり言って、こんなことが起きても、何の不思議もない。なぜなら、米長期金利はゴールドの値動きに影響を与えるものの、突き止めれば多くある要因の一つに過ぎないからだ。他の要素が強ければ、無視される。
トンボの眼鏡(複眼)で市場を見る必要がある。
注目された3月の米雇用統計の結果に対しNY金が急騰したのは、FRBの年内利下げシナリオを変えるほどの材料性はなかったことによる。
前月比の(非農業部門)就業者数増減が30万3000人増と市場予想の20万人増を大きく上振れとなり、失業率も前回の3.9%から3.8%に低下。FRBの利下げ転換は後ずれするとの観測が強まった。それを受け先に書いたが、債券市場が反応し10年債利回りは急伸した。
一方、インフレとの関連で注目されるのは賃金上昇率だが、3月の伸びは予想通りで前年比では4.1%と2021年6月以来の低水準だった。
いまNY金を大量に買っている資金はこの話に飛びつくと思われたし、実際に飛びついた。そして価格は2350ドルに駆け上がった。
本日はアジア時間に2370ドル台まで買われたが、あまり引っ張られない方がいいだろう。
本日のNY通常取引に入ってからの値動きがどうなるか。相場のことは相場に聞けということに。