ここまでの流れを見る分には、結局5月の米雇用統計は無風で通過することになった。
報じられたように注目の5月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.0%上昇と、12年9カ月ぶりの大幅な伸びとなった。市場予想は4.7%の上昇となっていた。前月比では0.6%上昇と、市場予想(+0.4%)は上回ったものの、2009年6月以来の大幅な伸びだった前月の0.8%からは鈍化している。前年比の伸びの大きさは、昨年春の新型コロナ禍による経済活動を止めたことからくる軟調な物価が影響していて、こうしたいわゆるベース効果が大きい。
前回4月分でも話題になったが、中古車・トラックの価格が前年比4月は+18%だったが、今回は+29.7%と3割もの上昇となった。ガソリンなどエネルギーが28.5%となっているのは、そもそも原油の上昇や米国でパイプラインがハッカーに止められたりして押し上げられたとみられるが、それを中古車は上回った。そもそも半導体不足で自動車生産が止まり、新車の販売価格が需給要因から上がり、それが中古車にも波及したとされる。
ワクチンの普及で経済活動が一斉に復活したことで、いろんな分野で需要超過になり物価が上がるのはわかる。なるほどなぁと思ったのは、レンタカー料金が大きく上がっているのだが、その理由が貸す自動車の不足。借り手が一気に押し寄せたのだから、そうだろうと思うのは一部正しい。昨年のコロナパンデミックの中、行動制限で借り手がいなくなり困った(ハーツなど)レンタカー会社はコストカットで保有車両の売却を進めたそうな。身軽になったところで、やって来たのが借り手の復活、しかも一気に。夏の旅行シーズンでもあるし。こういうことが、CPIの総合指数には乗っている。こういう状況は、確かにいつまでも続くものではない。ベース効果は、ものによっては6月以降薄れる見込みとされる。
それしても10日の金市場の反応は、現状の金市場を表すものだった。そもそも予想自体が4.7%上昇と4月比上振れとなっているにもかかわらず、アジア時間から売りが先行する流れで、NYの通常取引に入りCPIの発表直前には1871.80ドルまで売られていた。CPIの上振れがインフレ懸念として買い材料として捉えるよりも、(テーパリングなど)FRBの政策方針の修正につながるのではと、金市場特有の根強い警戒が働いたことによる。2013年バーナンキショックのトラウマは根強い。
一方、米10年債利回りは上昇で反応し1.535%まで付けることに。しかし、すぐに沈静化し低下に転じると終盤に向けて水準を切り下げながら相場は進行し、1.440%で終了となった。ベース効果が剥がれた後は沈静化に向かうとのFRBの見方が、債券市場では浸透しているということだろう。経済成長についても、足元の4-6月期がピークとの見方もあり、今後成長が鈍化するとみる投資家も多いとされる。本日11日は、ここまでのところ一時1.428%まで低下している。
いずれにしても、こう着状態突破の手掛かり材料と期待された米CPIは無風で通過ということになった。
6月9日のYouTubeに続き、本日音声バージョン、ポッドキャスト版「亀井幸一郎のゴールドボイス」を先ほど更新。
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