注目のパウエルFRB議長の発言内容は、市場が警戒したほどにはタカ派的色彩は強くなかった。
この日は、主要な米経済指標の発表のない手掛かり材料不足の中で、発言内容如何で市場の振れ幅が拡大する可能性があった。しかも、ネガティブな方向に。
ワシントン経済クラブの対談イベントに登壇したパウエル議長。前日はアトランタ連銀のボスティック総裁が、件(くだん)のNFP(非農業部門雇用者数)の大幅上振れ(51.7万人増)と失業率の3.4%へのさらなる低下(1969年5月以来の水準)の雇用統計の結果を受け、「われわれにはもう少しやるべき仕事がある」として、「それは私の今の予測よりも大きく利上げすることにつながると予想する」と語っていた。FRBが0.50%の利上げを検討する可能性もあるが、それは自身の基本シナリオではないとも語っていた。
当然、7日の議長発言に対し市場は身構えた状態にあった。
発言内容には、当然ながら予想外の労働市場のひっ迫を引き締め要因として警戒するニュアンスが込められた。内容の上振れに関し、「私の知る限り、明らかに誰もが予想していたよりも強かった」とし、「これほど強いとは予期していなかった」とした。その上で労働市場ひっ迫が賃金上昇などを通しインフレ低下に向けたFRBの進展を脅かすなら、(当然ながら)「予想以上の利上げにつながる可能性はある」とした。
市場の警戒感を解かせたのは、先週に続き「(物価の伸びが鈍化する)ディスインフレのプロセスが始まった」という足元の経済分析に再び言及したことだった。とくに「ディスインフレ」という単語は、利上げの逆方向の言葉ゆえに市場センチメントに与える影響は大きいといえる。
その上で議長は「今年はインフレが大幅に鈍化する年」とまで言い切ったことで、そこまでのドル高は一服し、米債利回りは低下し、NY金は買われた。 発言を受けNY金は1900ドルに接近するところまで急伸した。ただし、高値は1897.20ドルまでで、1900ドル超えには至らなかった。値動きは大きくなり、1900ドル手前で上下した後、節目の1900ドルを突破できなかったことで一転して売りを浴び、反落状態で1877.50ドルとこの日の安値まで売られた。売りが一巡すると、押し目買いから値を戻しプラス圏に浮上。結局、通常取引は1884.80ドルで終了し、その後の時間外取引は1885ドルを挟んだ値動きとなりそのまま終了ということに。
昨日、いったんモメンタムが失われたことで、ファンドの中には戻り売りに転じるところも出るとみられるとして、1900ドル超を巡る攻防が再び始まりそうだとした。まずは、1900ドル手前の売り物をこなせるのか、このまま調整色を強めるのか。
上昇基調は失われていないとみられることから、逆風が吹く中で底堅さ(resilient)を示せばおもしろい。
本日8日もウィリアムズNY連銀総裁、ウォラーFRB理事、クックFRB理事他の発言が予定されている。以前からタカ派的発言でFRB執行部をリードしていたウォラー理事だが、昨年末はややスタンスが軟化していたので、どのような発言内容になるのか興味深い(おもしろい)。