亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

2020年 年始からトランプ砲さく裂でNY金戻り高値更新 国内も40年ぶり高値

2020年01月06日 19時37分13秒 | 金市場
2020年が明けた。切りのいい数字で見た目のバランスが取れた数字は安定を連想させるが、現実は荒れた年になるだろう。もともと市場にとって「トランプ・パフォーマンス」というかく乱要因の存在は周知のことなので、何かあると思っていたが、さっそく出たかというのが足元の事件を見ての多くの感想だろう。米国にしてもイランにしても、双方の言い分は文化的な視点の違いやらここまでの両国の歴史的な関係、政府の思惑やら、さらに個人的な事情などが絡んでいるので“我に正義あり”の水掛け論が続きそうだ。ただし、双方ともに本格的な戦争は望んでいない。

米イラン間の事の経緯は報道に詳しいので割愛するとして、本日6日のアジア時間午前の金市場の反応は、ジャンプスタートとなる1562.70ドルで取引を開始した後に1590.90ドルまで急伸。その後、売り物が出たものの1580ドル前後での取引となっている。これは昨年9月に記録した取引時間中の高値1566.20ドルを更新、2013年4月1日以来の水準となる。円建て価格も5400円台後半まで買われ、東京商品取引所の先物価格は昨年末に続き上場来高値の更新となった。店頭小売価格はまさに40年ぶりの高値で、消費税を乗せると6000円を超えることになった。

「有事の金」の賞味期限は短いというのが経験則の教えるところだ。戦時リスクをかぎ取って急伸しても、マーケットが事態の変化を刻々と織り込み、上昇は一過性に終わることが多い。今回のパターンはどうか。米イランの双方がどこまで自制するかにかかっている。ツイッターによる威嚇合戦が展開されても、早晩金相場も沈静化しそうだ。
足元の反応の大きさはマーケット全体がリスクファクターとしての中東情勢への関心が低かったことの裏返しでもある。米国がイラン核合意から撤退し、その後制裁を強化する中でイラン側の反発は見られたが、限られたものだった。
その後もサウジ石油施設への大規模攻撃など、いくつかの事件が起きたものの大過なく経過してきたことが、中東リスクへの意識を低下させてきた。米国サイドも米中通商交渉に注力しており、軍事面でもペルシャ湾よりも南シナ海、台湾海峡への関心の方が高かったとみられた。

気になるのは、米国側がターゲットにしたイラン革命防衛隊の司令官がイラン国内で英雄視される人物であったこと。今後イラン国内で一般民衆を巻き込んだ全国的な反米行動に火が付くことになると、政権上層部も何らかの報復行動に出ざるを得なくなるケースがある。また、逆に政権側が対外的な民衆の怒りを政治体制の引き締めに使うケースもある。この流れの中で、偶発的な米国との衝突の可能性は否定できない。イスラエルとサウジを巻き込む動きとなるとリスクファクターはさらに上がる。
(米系メディアが伝える経過から)作戦としてはいくつかある選択肢から衝動的に選んだものと思われるが、生じる結果の国内的効果の大きさは、相手側の反応の大きさと裏腹であって、(選択した本人は)ここまで想定していなかったのではないかと思われる。それを見通しての本日1月6日のアジア時間の金市場の反応だったと思う。

材料は何であれ、今やマーケットの中心に座っているAIプログラムによるロボット・トレードは、年末年始の上昇によりテクニカル面で「保合い放れ」となった上昇に追随する動きを見せている(トレンド・フォローおよびモメンタム・トレード)。今回の事件を「中東リスク」の高まりと捉える見方が主流だが、事態を俯瞰するならば、これは秋の米大統領選をめぐる「トランプ・パフォーマンス」の派生要因であるのは言うまでもないだろう。米中通商交渉などと同じ部類で、そもそも選挙に向けた支持率上昇を狙った動きなのだから。
金融環境を見渡せば、米国株式は年始にかけて異例の上昇を続け、過去最高値圏にある。株価の乱高下自体がリスク要因として意識される中での不透明要因の拡大は、金市場をサポートする大きな材料となる。

つまり、足元で起きている米イランの緊張の高まりは、「有事」というよりも今後も形を変えて現れるトランプリスクへの意識を高めさせることになりそうだ。結果的にNY金に1550ドルを下値ラインとするレンジの切り上げをもたらしそうだ。


フロントの写真は東京の初日の出。


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