ヒラヒラと舞う原油価格の歪み

まさに「糸の切れた凧」状態でヒラヒラと舞う原油価格だが、上昇ピッチの加速はやはり主要国よりもエネルギー資源を持たない途上国あるいは新興国にダメージが目立っている。もとより経済的な余裕という面で主要国に比べ大きく見劣りするにもかかわらず、ここまでのコストの上昇分は「一物一価」ゆえに国境を越えて同じ程度になる。余裕がないから先に音をあげるのは途上国となる。中国、インドなど新興国ならまだ高成長という“懐の広がり（？）”により凌げる場もあるが、それでも補助金で抑えていた石油製品の価格を上げざるをえない状況になってきた。必然的にインフレの昂進につながる。

5月に発表された1－3月期の金の需給統計で「地金退蔵」と呼ばれるアジアを中心とした投資需要の項目でベトナムが31.5トンと僅かながら31.0トンの（あの）インドを抜いてトップに立つという結果が見られた。価格が1000ドルを超え四半期の平均価格が924ドルと前年比で275ドルも上昇したにもかかわらずベトナムでは投資需要は前年同期比で倍増した。ちなみに昨年1年の総量は56.1トン。ベトナムの2007年のインフレ率は11．6％。このなかで株価も冴えない展開。ところが政府が原油の上昇に音をあげ石油製品の統制価格を引き上げたいま、インフレ率は25.2％になっている。富裕層は金を買うわけだ。

ロシアや中国のインフレも目立っている。まだ賃金の上昇が見られるので混乱には陥らぬという見立てはその通りだろうが、新興国特有の「急速な貧富の格差拡大」の下、物価上昇のなかでも賃金の上がらぬ層も多く、早晩社会問題化という流れに見える。中国の場合、そこに地震が起き中央政府の対応が注視されているということ。盛んにＴＶなどで流れているとされる愛国プロパガンダで人心をどこまで繋ぎ止められることやら。それでも全体の成長が、こうした問題を覆い隠してしまうというのが、ここまでの新興国のあり様だった。主要国では原油150ドル時代の到来などと気楽に予想しているのだけれど、歪みはそこかしこ。