亀井幸一郎の「金がわかれば世界が見える」

マクロな要因が影響を及ぼす金(ゴールド)と金融の世界を毎日ウォッチする男が日常から市場動向まで思うところを書き綴ります。

2つのイベントの陰でスルーされた雇用指標の悪化

2021年01月15日 21時23分50秒 | 金市場
14日に注目された2つのイベントは、ここまでのところ無風状態で通過した。材料出尽くしといったところと言いたいが、このあとジワジワと材料性を発揮する可能性もありそうだ。

それぞれ報じられてように、14日NYの昼間の米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長のWebセミナーでの発言内容。2つ目は、東部時間の夜に地元デラウェア州で行われたバイデン次期大統領の経済対策の詳細発表だった。

プリンストン大のWebセミナー(同大教授との対論)に参加したパウエルFRB議長の発言は、総じてハト派的な内容に始終した印象だった。足元の米景気が減速傾向を強めていることから意外感はないといえるもの。もっとも、タカ派的な印象を与えるだけで、高みに上った株価の急落など市場混乱につながるのは明らかなので、端からその気はないというのも事実。

このところの米長期金利の上昇から明らかなように、足元の市場では、新型コロナワクチンの接種拡大とバイデン次期政権の大型経済対策による経済正常化から、FRBによる異例の緩和策が早期に終息するのではとの見通しが高まっている。実際にタカ派の地区連銀総裁の中には、テーパリングを思わせる発言もみられた。市場でも、さすがに年内などという予想は少ないものの、23年が22年に前倒しになるというような捉え方は増え、それが金市場では上値を抑える要因となっている。

この日、パウエル議長は「必要になれば利上げするが、そのときはすぐに来ない」とした。経済正常化に伴い物価上昇は予想されるとはしながらも、「一時的であり基調的な物価上昇を意味しない」とした。過去10年来、上昇基調を強めない物価に手を焼いてきた経緯から、物価上昇の持続性には疑問というスタンスといえる。今回もこの見通しが正しいのか否かが、今後のポイントといえる。日本の例もあってか、中銀のインフレに対する警戒感は低い。

その上で議長は、一時的に2%を超えても、利上げにつながらないという昨年8月以来の方針を強調した。また資産購入の縮小については、「(市場に混乱を起こさないよう)変更を検討するよりも前にわかりやすく知らせる」とした。一連の発言内容に対し、市場の反応が薄かったのは、想定内ということか。

一方、バイデン次期大統領が発表した追加の新型コロナ対策案の予算規模は、1.9兆ドル(約200兆円)と大規模なものとなった。1兆ドルは家計支援に充てる方針で、1人あたり1400ドル(約14万5000円)の現金給付を盛り込み、失業給付の特例加算も9月まで延長となるなど、民主党左派にも納得感のある内容ということだろう。新型コロナ対策に4000憶ドルを当てワクチン接種などを進める。また財政難の州・地方政府にも3500億ドルを支援するなど、昨年末に共和党の反対で実現しなかった内容も広く盛り込んだものとなっている。市場では、当初1.5兆ドル規模という見通しも流れたが、それを上回る規模に。しかし、現時点で市場に目立った反応が見られていないのは、そもそも「数兆ドル規模」との報道があったこと。さらに共和党の反対は必至とみられ、どの程度実現できるかが未定であることによると思われる。成立が、遅れる可能性もあろう。ただし就任前に発表したことで、新政権の立ち上がりとしては国内的なアピールには十分というか。

指標で目を引いたのは、(悪化は予想したものの振れ幅が大きかった)週次の失業保険新規申請件数だった。1月9日までの1週間で前週比18万1000件増の96万5000件と前週の78万4000件から急増となった。8月下旬の週以来の高水準で、コロナの影響の大きさを表す。新政権による大型対応策への期待が、この結果の市場への影響を抑えたと見られるが、足元で米景気失速の可能性を思わせるもの。先週発表された12月の雇用統計にてNFP(非農業部門就業者)が前月比でマイナスになったが、その延長線上の結果といえるもの。要注意。パウエル議長でなくとも、出口戦略を協議する時期にはないのは明らかだろう。

1月14日のNY市場の金価格は小幅に反落。前日比3.50ドル安の1851.40ドルで終了。総じて米長期金利(10年債利回り)の上下動に影響を受ける値動きで、1840ドルを挟んだ上下動が中心だった。10年債利回りは、NY時間外には一時1.075%まで低下した後に上昇に転じ、NY時間の終盤には1.1275%に上昇となった。この日は、米投資銀行ゴールドマン・サックスが米金利見通しを上方修正。2021年末の米10年債の予想利回りを従来の1.3%から1.5%に引き上げた。相場の基調に応じて、見方を引き上げたり、引き下げたりするするのは大手投資銀行も同じで、当てにはできないと思っている。トレンドを考える参考材料という感じ。

余談だが、万国共通のワクチン接種証明書構想があり、なるほどコロナ禍を通った時代の産物だわい、と思った。新型コロナのワクチン接種を受けたことをスマートフォンのアプリ上で証明できる世界共通のいわば「ワクチンパスポート」で、入出国やイベント参加時など様々な機会で使われることになりそうだ。どこが扱うのか、その該当企業探しは株式投資家の間では、既に進んでいるのだろう。

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