ワシントンのブルッキングス研究所でのイベントで13時半から講演したパウエル議長の発言内容は、11月3日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見や、11月23日に発表された会合の議事要旨、さらにこのところ続いた多くのFRB高官の発言内容におおむね合致するものだった。この点でサプライズはなかった。
市場の動きを牽制するタカ派的な発言を警戒していた市場には、従来と変化のない内容にもかかわらず、ハト派的との受け止め方が広がり市場の反応も大きくなった。
結論からいって、大枠は以前の発言内容と大差なかったが、重要ポイントは細部にあった。それは、利上げを続ける意向に変わりはないものの、景気への配慮もにじませたものだった。
発言内容で目に留まったのは、利上げペースを緩やかにすることは、「過度の引き締めリスクを低減させるよい方法」だとした上で、ここまで「かなり積極的な」利上げを行っているとして、「インフレの早期鎮静化のためだけに一段の大幅利上げで経済を破綻させることはしない(ロイター)」と言明した部分。
いままでインフレ抑制のみを前面に掲げてきたが、スタンスの変化が読み取れる内容だった。景気のみならず、歴史的ペースでの引き締めで、国債市場の値動きが大きくなるなど不安定化が見られ、(ブレイナード副議長など)FRB内部からも警戒する声が上がっていた経緯もある。
この発言内容を本日早朝に見たときに、やはりそうだったと。
一昨日のラジオNIKKEI「マーケット・トレンドPLUS」の番組内で、今回のパウエル発言の内容を示唆するものとして、先週月曜日11月21日のサンフランシスコ連銀デイリー総裁の発言内容を取りあげた。
具体的にデイリー総裁は、引き締めについて「留意する必要がある」点として「調整が足りなければインフレは高過ぎる状態が続くが、調整が行き過ぎれば、不必要な痛みを伴う景気低迷を招きかねない」とオーバーキル(やり過ぎ)に警告を発していた。11月17日には、利上げ見通しの水準として4.75~5.25%という見通しまで発言していた。もともとハト派で知られる同総裁だが、これは議長はじめFRB執行部との意見調整が進んでいるとにらみ、デイリー総裁は代弁者と捉え、この内容こそが30日のパウエル発言のポイントだろうと予測していた。
一昨日29日の更新に飛んでもらいクリックすれば放送内容は聞いてもらえるが、具体的に時間で表示すれば9分20秒から11分22秒の間に、デイリー発言について語っている。
昨日の更新で最後にここに、利上げ不足で高インフレが続き苦しむよりも、過剰な利上げによる景気への痛みの方が軽く済むとFRB執行部は考えてきたが、このスタンスに変化が見られるか否かが注目とした。本日日本時間早朝のパウエル発言は、やり過ぎ(オーバーキル)への警戒を示したことで、スタンスに変化が生まれていることを示したことが、ドル安の加速、NY金急伸に現れている。
200日移動平均線が現在1804ドル前後としたが、どのようにアプローチするか。12月FOMCをきっかけに突破するとみていたが、どうなるか。