さてジャクソンホールを巡る動き。この先の景気後退が来た場合のFRBの対応策について量的緩和策などいくつかの手法の有効性を取りあげたイエレン講演。その冒頭には、報じられているようにテーマを離れて米国景気の見通しと政策判断に触れた。自身の今回の発言に対する市場の注目度の高さを考慮したものであるのは、言うまでもないだろう。
しかし、その内容については8月17日に発表された7月のFOMC議事録要旨と大差なく、9月利上げについて示唆するものはなかった。ただし、伝えられているように講演終了後のタイミングでTVインタビューに応えたフィッシャー副議長の発言内容が、結局、9月利上げ観測を高め、ドル高につながり、金市場ではやや売り優勢の環境を作り出した。
結局、「経済指標次第」ということを今回フィッシャー副議長も発言しており、これはFOMCメンバー全員に共通すること。8月22日のここに、ジャクソンホールより8月の雇用統計としたが、もともとそれが本筋ということ。今週は、雇用統計以外にも米系で注目指標の発表が多く、そのつど金をはじめ市場は反応することになる。
ところで、先週金曜日にカンザス連銀ジョージ総裁の発言内容を取り上げたが、今後の利上げへの道筋を読むのに今でも注目に値する発言と思っている。金曜日の最後には以下の湯にも書いた、
「タカ派で知られる総裁の昨日の発言内容から感じるのは、FRB全体のこの先の利上げ継続スタンスの後退ではないかということ。もう年内2回という見通しは消えており、適正な金利水準を探る話し合いがこれから中心に上るのではないだろうか。イエレン議長の話も、そういったものに落ち着くのではないだろうか。従って金市場が大きく売りで反応するような内容にはならないと思われるが、果たしてどうなるか。」
年内2回の利上げは消えたとしたが、フィッシャー副議長は、2回の可能性もあるとしたではないか、と思う方もいるだろう。今後発表される指標が、よほど良ければ別だが、それは無理だろう。この時点で年内2回との発言は、余りに利上げの可能性に無頓着になっている市場へのウォーニングという意味合いの濃い発言ととらえている。
そもそも経済構造の変化を映し、“自然利子率”なるものや潜在成長率の低下が見られ、労働生産性の低下が問題視されるなど、ほんの数ヵ月前に利上げに向かう前提としていた経済環境が変わってきており、イエレン議長自身もそれを口にしている中で、利上げペースを加速するというのも考えにくい。
金市場では先週以降、ファンドによる買い建て(ロング)の手仕舞い売りが目立っているが、過去最高水準のネットでの買い越し(8月23日時点で重量換算912トン、オプション取引を除く)を維持しているだけに、内部要因から来る値動きの重さは否めない。雇用統計を代表に今週発表される指標が良く、直近安値の1310.70ドル(7月21日)を下回れば、1300ドルの攻防となりそうだ。このラインを維持すればかなり強気のシグナルとなるが、1270~1280ドルまでの下げもあろう。
仮にそうなれば、この段階で前にここでも指摘した「Brexiti、ブリグジット(英国のEU離脱)」騒動をきっかけにした“イベント反応型の上昇相場” が一巡したことになる。
しかし、ここからの下げこそが買い残整理の格好の機会となると思われる。ジャクソンホールを経て、さらに注目度が上がった8月の雇用統計の発表を終え3連休に入り、明けてレイバーデイ明けの市場を迎えるタイミング環境は、金のみならず市場の値動きが大きくなりそうだ。“doldrums夏枯れの無風相場”も終わることになる。