徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

忘れ得ぬ大先輩

2024-07-13 22:51:32 | 友人・知人
 社会人時代にお世話になった方は数多いが、中でも僕たち夫婦が結婚式を挙げる時、実質的な仲立ちの労をとっていただいたNさんは特に忘れられない。Nさんはもともと労働省系のお役人だったのだがワケあって退職し、創業したばかりのブリヂストン熊本工場に人事労務担当として転職して来られた方だった。社員は入社仕立ての僕ら若手ばかりで、総務部門のリーダー的存在だった。特に僕は人事労務担当に配置されたので公私にわたってお世話になった。仕事の面でもちろんいろいろ教えていただいたが、アフター5も仕事以上にみっちり仕込んでいただいた。週末の夜はNさんが僕ら若手を数人ひきつれて熊本の街へ繰り出すのがお決まりになっていた。下通あたりを歩いているといつも何人もの人がNさんに頭を下げた。わけを聞くとNさんは「戦後間もない頃、職安で仕事を世話した連中だよ」と言った。ある店の店主の証言では、Nさんは本当に親身になって仕事を探してくれたと感謝していた。
 Nさんが僕らを連れて行くのは普通の飲み屋ばかりではない。今でいうゲイバーのような店もあった。実はそこのママさん、といっても旧日本陸軍の猛者だった人なのだが、やはりかつてNさんにお世話になった人だった。そして最後の締めは二本木の「トルコ風呂」(今のソープランド)というのもお決りだった。当時は赤線が廃止されてもう10年以上経っていたが、いつも行くなじみの店はかつて二本木遊郭の妓楼だったところで、Nさんはその頃から通っていたのだろう。いつも行くとまず二階の部屋にみんなで上がって、ビールやおつまみを持って来させてしばらく談笑した。その後、めいめい風呂に降りて行くという段取りだった。
 あれから50年。そのNさんも亡くなって20年以上過ぎた。あの頃のNさんや仲間の顔を最近しきりに思い出す。

二本木遊郭ゆかりの「東雲節」