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森繁久彌さんを偲ぶ特番「ありがとう 森繁久彌さん~日曜名作座、再び~」(NHK第1)の昨夜は、向田邦子作「かわうそ」だった。向田さんが亡くなった2ヶ月半後に、急きょ放送されたものだそうだ。気のせいか、森繁さんの語りも、いつもより少しばかりトーンが低かったような気がした。しかし、「指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった」で始まり、「写真機のシャッターがおりるように、庭が急に闇になった。」で終る向田さんの表現力豊かな文は見事というほかなく、まさに「文は人なり」だ。さらにその文を、森繁さんの話芸が紡いでいく。死者(おそらく)の視点で語る衝撃のラストは、ビリー・ワイルダーの名作「サンセット大通り」を思わせる。これぞ最高の“芸”というものを味わわせてもらった。