兵庫のむかし話/兵庫県小学校国語教育連盟編/日本標準/1978年
「食わず女房」に にていますが、細部で異なり、結末にも地域性があります。
ある日、おじいさんの家に、女の巡礼がやってきて、一晩とめてくれるよういいます。一晩だけと思ってとめてやると、女はそのまま、おじいさんの家にいついてしまいます。
おじいさんは、おばあさんを早く失って一人暮らし。
女はこまめに働いてくれたのでよろこんでいましたが、みょうなことに気がつきます。米がどんどん減っていくのです。おじいさんが出かけてくるといって、家を出るふりをし、家の裏側で、隠れるようにまどからなかをのぞくと、腰をぬかさんばかりにびっくりしました。女の顔がそれはそれは恐ろしい顔にかわり、おおきなおひつにいっぱいはいっていた飯を、あっという間に平らげてしまったのです。
あ、おそろしい! 「どないしたらええやろ。どないしたらええやろ」と思いながら、あてもなく歩き回ったが、夕やみがせまったので、しかたなく、おじいさんは家に帰り、女にどこかへいくように切り出しました。
女は、おなごりおしゅうございます、長い間お世話になりましたといいながら「大きな袋がほしい」といいだします。おじいさんが袋をだすと、「おじいさん、この袋にはいってみてくれませんか」と、みょうなことをいいだします。
女に、またいすわられたら困ると思ったおじいさんが、女の言う通り袋に入ると、女は袋の口を閉め、「こら、このじじいめ!わしの正体を見抜きよったな。山へ持ち帰って、お前の生き血をすうたる!」といって、袋を担いで走り出しました。
道の途中で、女が小便しているとき、おじいさんが、もがくと、うまいことに口がほどけて、抜け出すことができたので、後ろも向かずに 逃げ出します。
おじいさんがふもとの茶店まで逃げのびると、ちょうど茶店のあるじが、みそマメをたいて味をみていました。おじいさんは、あるじにたのんで、知らん顔をして、あるじとふたりでしゃべりながら、みそマメを食べていたところに、魔もの(女は魔ものだったのです)がやってきたが、おじいさんに気がつかず、「いない! いない!」と叫んで、別の方向へ駈けて行ってしまいます。
このあたりで、みそマメを食べる風習がのこっているのは、こんな話があったという結末。