遠い野ばらの村/作・安房直子 絵・味戸ケイコ/偕成社文庫
安房直子さんの作品が好きな方には申し訳ないのですが、書店で購入しようと思った本がなくて、たまたま購入したのが安房直子さんの「遠い野ばらの村」。
はじめてふれる安房直子さんの作品ですが、9編の童話がありました。
どの作品もやさしく、ほっこりした気分になりました。
どの作品も動物と人間の交流が描かれ、色と食が巧みに取り入れられています。
たぬき(遠い野ばらの村)
うさぎ(初雪のふる日)
猫(ひぐれのお客、ふしぎなシャベル、猫の結婚式)
ひらめ(海の館のひらめ)
カエル(秘密の発電所)
はち(野の果ての国)
<ひぐれのお客>
黒い猫が、黒いマントに赤い裏をつけたいと裏通りの手芸屋にやってきます。
裏地につける赤色について猫と店主の論議が続きます。
ピンクがかった赤の裏地は小さな花のやさしくあまいかおりです。
畑のスイトピーが、かぜにゆれ、口々に、ねえ、ねえとよびかけてくる感じは、いつでもだれかにささやきかけられているみたいで落着きません。
紫がかった赤は、お酒を飲まされてくらくらします。
もうひとつの赤は、布地から、かすかに薪のもえる音がして、木のにおい。さわってみると、ほんのりとあったかく、炎がすこしづつひろがります。
猫がほしかったのは、薪ストーブが、ぱちぱち音をたて、心がやすまるあったかさの火の色でした。
色がにおいをもち、音をだすのがつたわってくる物語。
少しこましゃくれた猫ですが、猫が好きな方には、ふんふんうなずけそうです。
<ふしぎな光景>
・どこまでも続く石けりの輪(初雪のふる日)。
・公園の砂場の砂をシャベルですくってみると、穴は海につながっています(ふしぎなシャベル)
・レストランの下働きをしていた若者に、ひらめがひそかにさまざまな料理のつくりかたを教え、お嫁さんになる娘をさがし、古い小さな店をもたせる手助けをする(海の館のひらめ)
「現実と異世界の見えない仕切りを またいでしまった主人公たちの物語」というコピーが、作品の内容をよくあらわしていますが、50歳でなくなられたとあって残念です。