丘の上の小さな家/安房直子コレクション4 まよいこんだ異界の話/偕成社/2004年 1989年初出
ちょっぴり、ほろにがさを感じさせる物語。
13歳のかなちゃんが家を留守にしたのは、クモのレース学院にいっていたほんの7,8時間のはずだったのですが、家に帰ってみるとお母さんは亡くなっていて、40年がたっていました。
クモがみごとな巣をつくっているのをみて、この世で一番美しい模様を編んでみたいとレース学院に入学したかなちゃん。
家に帰るとまだらの猫がむかえてくれますが、すばらしいレース編みをつくると、町の評判になって予約が30枚もはいります。
しかし、あまり騒がれるので、やがてお客をみんなことわり、猫を話し相手にすごしますが、春になるとレース編みを教えてくださいと、むかしのかなちゃんを思わせる13歳の少女がやってきます。
その少女もレース学院にはいりたいと尋ねますが、かなちゃんは首をふります。
そしてかなちゃんが少女にいったことは?
木もれ陽編みと呼ばれるレース編みを身につけるのは、40年の歳月をようし、かなちゃんはうしなったたくさんのことを考え、きらめく日々を、むざむざ捨ててしまったことを後悔します。
しかし、猫の「いつまでもかなしんでいるのはやめましょう。新しい生活をはじめましょう。ぼくはあなたの力になりますよ。」という言葉にうなずいて、あたらしい生活をはじめます。
きっかけをくれた猫は、その後もかなちゃんのよき話し相手になります。
かなちゃん、いつか自分が花嫁になる日のためのレースを編んでいるのですが、13歳で花嫁になる日のことを考えるのは、男にとっては想像がつかない。結婚願望か・・ハアア。
青春の一番輝く時期を失ったかのようにみえるかなちゃんですが、ぎらぎらする青春のかわりに、じっくり味のある50代をむかえられたのは、かえってよかったのかもしれません。
<丘の家の風景>
かなちゃんの丘の家を目に浮かべてみます。
ゆるい坂道をゆっくりのぼっていくと、赤い煙突のついたかわいい家がみえます。寝室の入り口にはりんごのアップリケのあるスリッパ、部屋のなかには小さな木の椅子。
ストーブの上では、野菜のシチューやリンゴのジャムがコトコト煮えています。
そして、おやつは、星や三日月や木の葉のかたちをしたビスケット。
水は井戸端でポンプをおしながらくんできます。
お母さんが元気なころは、かぼちゃが植えられていました。小さな畑にはそのほかの野菜も植えられていたのでしょう。
春には梅、桃、桜の花が咲きますが、この木もお母さんが残していってくれたもの。
そして夏のおわりには、赤、白、うすもも色のコスモスが咲きます。コスモスはどのくらいのおおきさだったのでしょう。
そういえば、昔、母親がストーブで料理をコトコト煮込んでいたのを思い出しました。
物語を楽しんでから
あれ、かなちゃんは、お母さんと二人暮らしか?
父親は?
母親は、神隠しにあったように消えた娘を探したのか
何かメッセージを残していなかったのか?
かなちゃんの友達はどうしたのか?
こうしたものを全部捨象するのが、ファンタジー?
などなど余計なことがうかんできます。
夏の日、朝露に輝いているクモの巣。こんなにも細かいのかと目をみはります。
このお話、クモの巣をみて紡ぎだしたのでしょうか。
普段何気なくみているものから、こんな着想がうまれるとは!
小雨の日、コキアのクモの巣で、水玉がキラキラしていました。