鬼ぞろぞろ/舟崎克彦・文 赤羽末吉・絵/偕成社/1978年
大晦日の夜遅く、鬼の行列に遭遇し、唾をかけられ姿を消されてしまった身分のひくいさむらい。
「神仏のお力にすがるほかない」男は心にきめると、三条の六角堂におまいりに。
本堂にこもって、いっしんにいのりつづけます。はらがへるとお参り客の弁当を盗み食いしてしのいでいましたが、だれひとりきずきません。
そのうち、姿が見えないことをいいことに、お堂にこもっている客の荷物をくすね、ちいさな盗みに飽きると、町の屋敷をねらい、すぐちかくのあばらやにためこんだので、たからものは はちきれるばかり。
そんなある日、男は夢の中で観音さまのおつげをききます。
「はじめにであったものの、いうことをきくがよい。それから先は、こうふくになるもならぬのも、おまえしだいじゃ。」
一番どりの声で、お堂をとびだすと、おそろしげな牛かいに「おまえはなかなか悪い男らしいな。おれのしごとを、てつだわしてやる」と連れていかれたのは、とある大きな屋敷。
屋敷には床に臥せった姫ぎみがいて、牛かいは、男の手に 槌を握らせ女のからだをおもうぞんぶんうつようにいいます。
男はいわれたとおり、姫のからだをうちはじめますが、姫があわれな声をあげてなきもだえるので、すぐに自分のやっていることが我慢できなくなります。
「なぜおれが こんなうらみもない人を痛めつけなければならないんだ。盗みを働いたり、人を痛い目にあわせたりしているうちに、おれは、人間の心をなくしてしまうぞ。それどころか もう二度と 人間の姿に もどれなくなってしまうんだ」
男がとっさにとった行動とは?
今昔物語のなかの物語です。
男は、盗みでほうせきをどっさりため込み、さらにもとのすがたにもどりたい観音さまにおいのりするのは、じつに自分勝手。
しかし、最後は、男が屋敷の跡取りにむかえられるハッピーエンド? でも、たからものをかくしたあばやらは? 男が良心を失っていないのが救いです。
赤羽末吉さんが描く鬼、観音さまのシルエット、絵巻物風の屋敷、人物など今昔物語の世界も楽しめました。