世界むかし話8/イギリス・アイルランド/おやゆびトム/三宅忠明・訳/ほるぷ出版/1979年
年とった王さまから、はやくむすこのよめをみたいといわれ、よめさがしの旅でかけた王子。
最初に泊まった宿屋から、宿屋の向かいの家に美しい娘が三人いて、朝になったら部屋からみえるといわれます。この三人はとても似ていて、なかなかみわけがつかない ただ一番上の娘には顔にホクロがあるのが見分ける方法だいわれます。
娘をよめにもらうには、自分のほしい娘が、何番目かあて、さらに百ポンドの大金が必要でした。
王さまは、あまり裕福ではなさそうで、王子に持たせたのは50ポンド。ホクロがある娘が一番上とわかりますが、50ポンドたりません。
宿屋の主人は「一年と一日たったら、必ず返すという約束で、貸しましょう。もし返せなかったら、頭のてっぺんから足の先まで、すっかり皮をはいでしまうからな」という条件で、50ポンド貸してくれます。
王子は娘を城に連れ帰って、結婚します。王さまはのぞみがかなって安心したのか、それからまもなくなくなってしまいます。
ある日、新王はひとりの船長とつまらぬ賭けをしてしまいます。妻を自慢する王さまに、船長が奥方の寝室にはいれるか、はいれないかを賭けたのです。新王は全財産、船長は船の積み荷。
船長はまず下女に相談します。下女は、妹が生きるか死ぬかの大病なのですぐにいかせてほしい、ただ、わたしの大切なトランクを留守の間、お后の寝室においてほしいと仲良しの侍女に頼ませます。
トランクのなかにかくれた船長は、お妃が眠るまえにはずした指輪と首飾りを手にとって、またトランクに隠れます。
翌朝、指輪と首飾りがなくなっていても大騒ぎしないのが昔話。
しょげかえった王さまは、「わしはもう城に帰る元気もない。海の向こうの国につれていってくれ」と船長に頼みます。船長は王さまを海の反対側にはこぶと、すぐにひきかえし、王さまの城で暮らすことにしました。
城もなにもかも自分のものだという見知らぬ船長にこまったお妃は若者の姿に身を変えて城を出ます。
海の反対側の国についたお妃は、ある立派な屋敷で馬の番人として働くことになりました。
ところが馬屋には、毎日夜になるとすごいやじゅうのむれがやってくるのです。むれのうしろには、いつもひげぼうぼうの男がついていました。主人に相談してもなにも対策をとろうとしません。そこでお妃はひとりでまち、男とやじゅうのむれが 馬屋にはいったのを見て、カギをかけます。男のひげをそりおとしてみると、その顔は、長い間行方の分からなかった夫でした。王さまは若者に変装したお妃に気づきません。王さまも これまでのことをすっかり忘れていました。
お妃は、王さまといっしょに馬の番人をしていましたが、ひさしぶりに国にかえらせてほしいと主人にお願いして、二人で屋敷をあとにします。
二人がやってきたのは、王さまが最初にとまった宿屋。50ポンド借りた宿屋でした。
王さまは記憶がもどっていませんでしたが、宿屋の主人は王さまをみると、頭のてっぺんから足のさきまで、皮をはぐ約束をはたそうとします。
お妃は、「ベニスの商人」のポーシャよろしく、「それはけっこうです。でも、いっておきますが、皮だけですよ。さあ、この白い布の上でやってください。もしも、赤い血が一滴でもこぼれたれたら、わたしが同じことをおまえさんにさせてもらいますからね。」と、危機をのがれます。
宿屋の向かいに家は、お妃の実家。お妃の父親が出てきて、自分の嫁をどこにやったとせまりますが、記憶をなくした王さまはこたえることができません。お妃が自分の正体をいえば解決するのですが、お妃はなにもいいません。父親は王さまを木につるすことにします。
お妃は外に出て立派な馬を500ポンドでゆずってもらうと、すぐにその馬を射ち殺させてしまいます。そして王さまが結納金をはらったのを確認すると、「このかたがあなたのむすめさんをどうしようと、関係ないじゃありませんか。わたしはいまこの町で一番立派な馬を買いました。そして射ち殺させました。それにたいしてだれが文句をいえますか」と、王さまをすくい、妹たちのガウンをかしてもらうと、若者からもとの姿にもどります。
それでも王さまの記憶はもどりません。まだ城は船長のものです。
お妃は城にのりこみます。
昔話は都合のいいことの連続。船長を手助けする下女も、すぐに船長のいうことに協力したり、馬屋にあらわれるやじゅうの目的もはっきりしない、自分の正体をあきらかにすればいいことにもそうしないなどの連続です。
この話をロシアのウラジミール・プロップによる物語の31構造に分類する方法でいうと
「主人公の出発」「結婚」「謀略」「発端の不幸または欠如の解消」「主人公の移動」「主人公の新たな変身」「調停」「主人公の帰還」「主人公が再確認される」「敵対者に対する勝利」などに分類できそうです。