大人と子どものための世界のむかし話13/タンザニアのむかし話/宮本正興・編訳/偕成社/1991年初版
アブヌワスはタンザニアのトリックスターでしょうか。
アブヌワスは、「神さまのおめぐみがあって、たとえ九百九十九リアルをいただけることになっても、わたしはちょっきり一千リアルでなければ、おうけしないつもりだ」と、町の人びとにいいふらしていました。
この話を聞いた、あるものずきなお金持ちが、皮袋の中に九百九十九リアルだけ入れ、アブヌワスの家の前にそっと置いておいたのです。
しばらくして、お金持ちは、皮袋に九百九十九リアルあったはずと、かえしてくれるよういいますが、もちろんアブヌワスは、返そうとしません。
アブヌワスの言い分は、こうでした。「このお金は神さまからのおめぐみなのですよ。わたしがおねがいした一千リアルの一部です。九百九十九リアルもくださるものなら、慈悲深い神さまのこと、あとの一リアルだって、お貸ししておけば、ちかいうちにくださらないはずがないでしょう。」
ペテンにひっかったお金もちは、王さまのところへ行って訴えることにします。アブヌワスは、「わたしのような貧乏人は宮殿にきていく服がありません。あなたとおなじようなりっぱな着物とターバンと、それにロバをわたしにくださいますか。」といい、お金持ちから着物とターバン、それにロバを手に入れ、王さまの宮殿にいきます。
王さまの前で、アブヌワスは言い立てます。「いやはや、世間の連中はゆだんがなりません。このお金持ちはわたしをペテンにかけようとしているのです。皮袋がこのお金持ちのものだという証拠など、何もありません。おまけにこのロバも、着物も、このターバンも、みんなじぶんのものだといいふらそうとしているのです。」
さてさて、王さまのおさばきは?
リアルは、円に換算するといくらぐらいになるでしょうか。