大人と子どものための世界のむかし話16/アラブのむかし話/池田修・康君子・編訳/偕成社/1991年初版
強欲な金持ちの商人が、むすめたちをよんで尋ねます。「みんなからうらやましがれるほどの地位についているが、どうしてこれだけの財産があつまったかわかるかね。」
うえの二人は、「おとうさまが頭がよくて、骨身をおしまずおはたらきになったからですわ」と、おせじをいいますが、末のむすめは、「まずしい人たちから、ようしゃなくとりあげたからです・・」と答え、家から追い出されてしまいます。ここまでくると、末のむすめが主人公になると思うと、ちょっとちがった展開で、むすめがうんだ女の子が中心になって話が続きます。
すえのむすめが、おちちをあたえようと、赤ん坊のベッドに近づくと、ベッドの中はむせかえるほどによいかおりのジャスミンの花と、まばゆくひかる黄金でいっぱいになっていました。このむすめはやがて<ジャスミンむすめ>とよばれるようになります。
ある日、とおい外国からバグダートにやってきたひとりの若者が、ジャスミンむすめと結婚を承諾してくれるよう、父親に申し出ます。父親から承諾された若者は一足さきにじぶんの国へ帰って婚礼の準備をすることになりました。このとき、はめていた高価な指輪をジャスミンむすめにおくり、ジャスミンむすめは若者に、ジャスミンの花束をおくりました。
若者よりおくれて出発したジャスミンむすめの隊商には、おばがつきそっていました。おばは、若者からもらった指輪を見て、若者は身分の高い大金もちのむすこにちがいないと考え、ジャスミンむすめとおなじ年頃の自分のむすめを結婚させようと思っていました。
おばは、砂漠の旅をつづけているうち、ジャスミンをラクダの背からつきおとし、かわりにじぶんのむすめをのせて、さっさといってしまいます。
ジャスミンむすめは、まずしい若者にたすけられ、その若者の家で朝をむかえると、むすめの寝床はジャスミンの花と黄金でいっぱいになっていたので、その一家から、いつまでもとどまってくれとたのまれます。
一方、ジャスミンむすめをおきざりにしたおばは、じぶんのむすめと、花婿のすむ町につきました。結婚式の夜、若者は、はなよめにじぶんのおくった指輪をみせてくれるようにいうと、はなよめはなくしてしまったといいはり、かれることのないジャスミンは、一年のうち、きまった季節の数日間だけしか咲かないと言いのがれます。若者は、はなよめがジャスミンむすめでないことを知りましたが、ほんとうのはなよめのゆくへがわからないので、しかたなく、にせのはなよめと結婚式をあげました。
ジャスミンむすめは、泊めてもらっている家の主人に、はなむこがすんでいる都にいってジャスミンの花を売ってほしいとたのみました。この花は、たしかにはなむこのところで買い取られますが、はなむこはまったくしらんかおしているばかり。
じぶんのはなむこである若者に、なにごとかおこったのではないかと考えたジャスミンむすめは、じぶんをかわいがってくれた一家に、別れを告げ、都に向かい、やわらかなこもの着物をきて、はなむこの家の門までいきました。ジャスミンむすめが、門の前で、美しい声でうたうと、若者は、「あの声には、ききおぼえがあるぞ。」とつぶやき、.おこもすがたのジャスミンむすめは、その家においてもらうことになりました。
ある日、若者が旅に出ることになり、召使に旅のたべものをつくるようにいいつけると、できあがったのはパンケーキ。おこもすがたのむすめが、できあがったパンケーキになかに、若者からもらった指輪をそっとさしこんでおくと、おこもがジャスミンむすめとわかった若者は、あらためてジャスミンむすめをはなよめとしてむかえいれます。
「美しい」といっても受け取り方はさまざま。それにくらべ、ジャスミンというネーミングは、魅力的な女性を想像させてくれます。でてくる若者の正体も不明で、大金持ちとか王子でないのも好感が持てます。