奈良のむかし話/奈良のむかし話研究会/日本標準/1977年
むかし、奈良のシカは神さまの使いやゆうて、えろう とうとい生き物。もしシカを殺しでもしたら「石子づめ」にされることになっていたという。「石子づめ」というのは、生きたまま土の中にうめられて、おまけに石をぎょうさんのせられるのやな。
あるとき13になる男の子が、寺子屋で習字の稽古をしているとき、シカが習字の紙をムシャムシャ食べているのをみて、びっくりさせようと、文鎮を投げると、運悪くシカが倒れてしまい、生きたまま土の中にうめられてしもうた。こんなことがあるので奈良の人は、シカが死んでいるのを見たら、えらい怖がっていた。
ある冬の寒い日、春日神社にいく参道のお店の前に、シカが死んでるやないか。びっくりしたお店の人は、これは大変と、シカをひっぱって隣の家の前に置いた。しばらくして、隣の人が起きだして店の戸を開けるとシカが死んでいたので、この人もえらいびっくりして、この人も隣の家の前にそのシカを置いた。その隣の人も、また隣の人もみんな同じようにした。
それでいちばん遅くまでねている、ねぼうすけが目をさますと、その家のまえに死んだシカがいたので、役人がやってきて連れていかれたという。
こんなことがあったので、むかしから奈良の人は、みんな早起きという。
「死体」をたらいまわしにする話は外国にもありますが、結末はさまざま。