アメリカ・インディアンの民話/精霊と魔法使い/マーガレット・コンプトン・再話 ローレンス・ビヨルクンド・絵 渡辺茂男・訳/国土社/1986年
人の名前やでてくるキャラクターが、これまでの昔話とはだいぶ違います。
「はぐれおおかみ」というのは、十人の息子の父親。両親が死んでしまった息子たちは、母親の兄弟だった「ふかい湖」というおじさんのところで暮らすことになりました。「ふかい湖」は兄たちが狩りをして弟をやしなうことができるようになるまで、子どもたちに食べ物と住む場所を与えました。
兄たちは狩りにでかけますが、そのまま行方不明になり、一番末の「小さいしか」だけが「ふかい湖」のもとに、取り残されてしまいました。
ある日、「ふかい湖」と「小さいしか」が、森に行くと、ひくいうめき声がきこえました。
大きな朽ち木のしたになり、土におおわれている男の体を、くまの油で、けんめいにこすると、やがて男は意識を取りもどしました。
この男は「おれは、腐れ片足といって、巨頭のただ一人の弟だ」と、いいました。
「巨頭」は巨大な頭だけの怪物で、大きな目玉、かたい髪の毛。どんな生き物でも、その姿を見つけると、空を切るような鋭い声で「みたぞ、みたぞ! そなたのいのちは、もらったぞ!」と、叫ぶのでした。
おいたちが、巨頭に殺されたことはほぼまちがいないと考えた「ふかい湖」は、まだ十分に回復していない「腐れ片足」を看病し、巨頭を探すようにいいます。
「腐れ片足」は、魔法の力で、もぐらのからだの中にもぐりこみ、見つからないように、地中の穴をほってすすみます。しかしいくらもすすまないうちに、「みたぞ、みたぞ! そなたのいのちは、もらったぞ!」という巨頭の叫び声がきこえました。しかしその叫び声はふくろうにむけられたものでした。
「腐れ片足」は、矢で巨頭を誘い出し、近づいてくる音を聞いた「ふかい湖」は、「小さいしか」と、斧で待ち構えました。
巨頭と腐れ片足は、もともと兄弟で、弟がとうのむかしに死んでしまったものだと思っていた巨頭は、北の国にすむ魔女をころしてやるといいました。
「わしは、勇ましい戦士や罪のない子どもは、けっしてころしはせぬ」「魔女のやつは、あまい歌声で人間をおびき寄せ、情け容赦なくころしてしまうのだ。」
魔女が、「小さいしか」の九人の兄弟をころしたことがわかり、「巨頭」「小さいしか」のふたりは、魔女のところにむかいます。魔女のすみかは、死人の骨でみたされたほら穴。指の骨が天井からぶら下がり、頭の皮が山と積まれて寝床になり、しゃれこうべが、なべややかんの代わりとなっていました。魔女の歌声を聞いたものは誰でも、体が氷のように冷たくなってふるえだし、ついには、体から皮や肉が、ぼろぼろになってくずれおち、かわいた骨だけになってしまうのです。
「巨頭」「小さいしか」は、両耳にクローバーのつぼみをつめ魔女のほら穴に近づきます。
「巨頭」の「おまえは、いつから、ここにすんでいる?」という問いは、魔女の魔法の力をさまたげますが、頭からも毛が抜けます。巨頭は「小さいわし」に、抜けた毛をすぐに、頭にもどすようにいいます。
巨頭に魔女にとびかかり、許しをこうた魔女にかみつき、ころしました。魔女の体の肉片がとんで、平原は動物であふれ、川は魚でみたされました。
それから一年だけしかたっていない骨をほら穴に集め、つむじ風をおくりこんで「みんな、おきろ!」と叫ぶと、骨は、いっせいに立ちあがり、たちまち人間の体にもどりました。兄弟たちはよろこびあい、「小さいしか」の勇気と忍耐心をほめそやし、森の中へ消えていきました。
魔女や巨頭がどんなものかイメージしやしくなっていますが、巨頭というのはお化けにちかい存在でしょうか。楓のぶつ切りをむさぼり食います。巨頭には”おおあたま”というフリガナがついています。