花粉症治療、あなたに合うのは? 新薬増え選択肢広がる
田村建二
2017年2月15日05時05分
鼻に噴霧するステロイド薬。1日1回で済むタイプが多い
スギの花粉が飛び始め、本格的な花粉症シーズンが始まった。鼻水やくしゃみなどを抑える薬の種類が増え、花粉の飛び始めにする治療では新たな薬が選択肢に加わった。時間をかけて「体質」を変える方法も、その実力がわかってきた。
花粉症に詳しい湯田厚司医師に聞く
日本気象協会の予測によると、今シーズンの花粉の飛散量は、九州から東海地方にかけて多くの地域で例年を上回り、関東や東北などではやや少なくなる見通し。スギ花粉の飛散は2月下旬から3月下旬にかけてピークを迎えるという。
山梨県市川三郷町の女性(56)は20年以上前から花粉症に悩む。以前は薬を飲んでもくしゃみと鼻水が止まらず、1日で自宅のごみ箱がティッシュでいっぱいになっていた。
2年前から、鼻の中に噴霧するタイプのステロイド薬を本格的に使う。医師に処方してもらい、1日1回、シュッシュッと2度吹き付ける。今年も2月初旬から使い始めた。「くしゃみが少し出るけれど、あまり気にならない」と話す。
花粉症の治療で最もよく使われるのは、「第2世代抗ヒスタミン薬」という種類の飲み薬だ。くしゃみや鼻水を抑える効果が高く、早いタイプでは飲んで20~30分で効果が表れる。鼻づまりがひどい人には、「抗ロイコトリエン薬」がよく使われる。
鼻アレルギー診療ガイドラインでは、症状のタイプに応じて薬を選び、重い場合は異なる種類の薬を組み合わせることを勧めている。2016年版からは、初期の治療の選択肢として鼻噴霧用ステロイド薬が追加された。炎症を抑える作用があり、花粉症の代表的な症状であるくしゃみ、鼻水、鼻づまりのいずれにも効果があるとされる。
最初に始めるのは、鼻噴霧ステロイドがよいのか、抗ヒスタミン薬なのか。どちらが効果的かを比べた山梨大などのグループの研究によると、鼻噴霧ステロイドから始めた人たちの症状の程度は、抗ヒスタミン薬の人たちの半分ほどで済んだという。
ステロイドには、免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなるのではないかという懸念がある。しかし、山梨大の松岡伴和(ともかず)講師は、医師が処方する鼻に噴霧するタイプは血液中にほとんどステロイドが移行しないため、花粉症シーズンに限っていれば、毎日使ってもこうした副作用が出る可能性はほぼないと説明する。
ただ、鼻に薬を噴霧すること自体が刺激になると、抵抗感を抱く人も少なくない。ガイドライン編集委員代表の大久保公裕(きみひろ)・日本医科大教授は「いつも症状が重くなりやすい人には鼻噴霧ステロイドがお勧め。それほどでもない人や、噴霧が苦手な人は飲み薬から始めてもいい。担当医とよく相談してほしい」と語る。
鼻噴霧では効かない重症の人には、飲むタイプのステロイドもある。ステロイドが全身に及ぶため、1週間以内の使用にとどめたほうがいいという。
最近は、処方箋(せん)のいらない市販薬も多くの種類がある。それぞれの症状に応じた薬をうまく選ぶためにも、松岡さんは「まずは医療機関を受診してほしい」と呼びかける。
■手軽な「舌下免疫療法」
花粉症の体質を変えたい人には「アレルゲン免疫療法」がある。原因物質を少しずつ体に入れて、体を花粉に慣れさせる方法だ。以前は注射しかなかったが、より手軽な「舌下免疫療法」が14年から公的医療保険の適用となった。
1日1回、決められた量を舌の下に垂らし、2分間そのままにする。シーズン中に開始すると逆に症状が重くなったり、副作用が出やすかったりするので、終了後から始める。効果が出るまでには2年間は続ける必要があるとされる。
ゆたクリニック(津市)の湯田厚司(あつし)院長らは、この療法を2年続けた患者133人の効果を調べた。症状がゼロか軽症になって薬がいらなくなった人が2割あまりいて、ほかの治療よりも効果が高かった。副作用で口の中がかゆくなることなどがあったが、重いものはなかった。
「『完治』までいかなくても、つらい時期を大幅に短くできた人もいる」と湯田さん。講習を受けた医師しか処方できないため、まずかかりつけの医師に聞くとよいという。(田村建二)
田村建二
2017年2月15日05時05分
鼻に噴霧するステロイド薬。1日1回で済むタイプが多い
スギの花粉が飛び始め、本格的な花粉症シーズンが始まった。鼻水やくしゃみなどを抑える薬の種類が増え、花粉の飛び始めにする治療では新たな薬が選択肢に加わった。時間をかけて「体質」を変える方法も、その実力がわかってきた。
花粉症に詳しい湯田厚司医師に聞く
日本気象協会の予測によると、今シーズンの花粉の飛散量は、九州から東海地方にかけて多くの地域で例年を上回り、関東や東北などではやや少なくなる見通し。スギ花粉の飛散は2月下旬から3月下旬にかけてピークを迎えるという。
山梨県市川三郷町の女性(56)は20年以上前から花粉症に悩む。以前は薬を飲んでもくしゃみと鼻水が止まらず、1日で自宅のごみ箱がティッシュでいっぱいになっていた。
2年前から、鼻の中に噴霧するタイプのステロイド薬を本格的に使う。医師に処方してもらい、1日1回、シュッシュッと2度吹き付ける。今年も2月初旬から使い始めた。「くしゃみが少し出るけれど、あまり気にならない」と話す。
花粉症の治療で最もよく使われるのは、「第2世代抗ヒスタミン薬」という種類の飲み薬だ。くしゃみや鼻水を抑える効果が高く、早いタイプでは飲んで20~30分で効果が表れる。鼻づまりがひどい人には、「抗ロイコトリエン薬」がよく使われる。
鼻アレルギー診療ガイドラインでは、症状のタイプに応じて薬を選び、重い場合は異なる種類の薬を組み合わせることを勧めている。2016年版からは、初期の治療の選択肢として鼻噴霧用ステロイド薬が追加された。炎症を抑える作用があり、花粉症の代表的な症状であるくしゃみ、鼻水、鼻づまりのいずれにも効果があるとされる。
最初に始めるのは、鼻噴霧ステロイドがよいのか、抗ヒスタミン薬なのか。どちらが効果的かを比べた山梨大などのグループの研究によると、鼻噴霧ステロイドから始めた人たちの症状の程度は、抗ヒスタミン薬の人たちの半分ほどで済んだという。
ステロイドには、免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなるのではないかという懸念がある。しかし、山梨大の松岡伴和(ともかず)講師は、医師が処方する鼻に噴霧するタイプは血液中にほとんどステロイドが移行しないため、花粉症シーズンに限っていれば、毎日使ってもこうした副作用が出る可能性はほぼないと説明する。
ただ、鼻に薬を噴霧すること自体が刺激になると、抵抗感を抱く人も少なくない。ガイドライン編集委員代表の大久保公裕(きみひろ)・日本医科大教授は「いつも症状が重くなりやすい人には鼻噴霧ステロイドがお勧め。それほどでもない人や、噴霧が苦手な人は飲み薬から始めてもいい。担当医とよく相談してほしい」と語る。
鼻噴霧では効かない重症の人には、飲むタイプのステロイドもある。ステロイドが全身に及ぶため、1週間以内の使用にとどめたほうがいいという。
最近は、処方箋(せん)のいらない市販薬も多くの種類がある。それぞれの症状に応じた薬をうまく選ぶためにも、松岡さんは「まずは医療機関を受診してほしい」と呼びかける。
■手軽な「舌下免疫療法」
花粉症の体質を変えたい人には「アレルゲン免疫療法」がある。原因物質を少しずつ体に入れて、体を花粉に慣れさせる方法だ。以前は注射しかなかったが、より手軽な「舌下免疫療法」が14年から公的医療保険の適用となった。
1日1回、決められた量を舌の下に垂らし、2分間そのままにする。シーズン中に開始すると逆に症状が重くなったり、副作用が出やすかったりするので、終了後から始める。効果が出るまでには2年間は続ける必要があるとされる。
ゆたクリニック(津市)の湯田厚司(あつし)院長らは、この療法を2年続けた患者133人の効果を調べた。症状がゼロか軽症になって薬がいらなくなった人が2割あまりいて、ほかの治療よりも効果が高かった。副作用で口の中がかゆくなることなどがあったが、重いものはなかった。
「『完治』までいかなくても、つらい時期を大幅に短くできた人もいる」と湯田さん。講習を受けた医師しか処方できないため、まずかかりつけの医師に聞くとよいという。(田村建二)