ハヴァーガル・ブライアンの「ティンカーの結婚」、32の交響曲、横浜から星川駅まで

1876年生まれのハヴァーガル・ブライアン、
彼ほどイギリスの作曲家の中で不思議な存在はない。
労働階級に生まれた彼は、小学校を卒業してから働き始め、
正規の音楽教育は受けることはできなかったが、
生涯で32もの交響曲を作曲しているし、
交響曲第1番「ゴシック」は売られているCDの中で
演奏時間が最長かつ大編成の作品であるといえる。
しかも96歳まで生き、意欲的に作品を書き続けたのは驚きだ。

1907年に指揮者ヘンリー・ウッドによって作品が取り上げられ、
その上演によりイギリスの音楽界で一躍有名になったものの、
その後は無視された時期が続き、
再評価されるようになったのは、
1960年代になってからであり、彼の晩年の時期であった。

横浜駅から星川駅の間を歩く間に聴いた曲は、
1908年に作曲された序曲「ティンカーの結婚」だ。
７分ほどの短い作品ではあるが、なかなかの曲だ。
金管楽器が活躍する華やかな冒頭の部分が終わると、
中間部は静かでやさしい音楽に変わり、
聖歌風のような旋律が流れ、フルートが活躍する。
そして、再び冒頭の旋律が登場し、最後華やかに終わる。
イギリス風で、しっかりした構成で作られたこの作品を、
正規の音楽教育を受けることの出来なかった彼が、
作曲したことには驚嘆してしまう。

ＣＤの英文の解説によるとこの作品は、
スタフォードシャーの旧友ジョージ・ハウリーに捧げられた。
友人はダンスの楽団にブライアンを1890年代に連れて行き、
ピアニストと編曲者として彼はそこで活躍したらしい。
これはそこにいたみんなの話によるものだが、
ハウリーは素晴らしいトランペット奏者だったようだ。
この序曲の中にあるトランペットのための作品が、
たくさんあるようだが、確かにこの序曲で、
トランペットは重要な役割を持っている。

とはいえ、1900年代一躍有名になったブライアン。
その後地域の裕福な実業家が、
彼に早く自立してもらおうと年金を与えると、
しばらくは作品を作曲していたものの、
美食や海外旅行など、
今まで味わっていない享楽に没頭したらしい。
そのうえ、金銭トラブルや不倫など続き、
波乱の人生であったことは間違いない。
人の幸福というものはわからないものだが、
それでも32もの交響曲を作曲したのはなぜ？