吉田秀和著、『覚え書ベートーヴェン』より
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では、どこが、ベートーヴェンはちがうのか?
ベートーヴェンでは、その結果が、音楽であると同時に劇になったのである。
ということは、発展の仕方の中に、ものすごい緊張力の集中と爆発と解放、別の角度からいえば、表現の多様性と多層生が達成されているということになるだろう。
バッハでは持続であったものが、ベートーヴェンでは高まり、広がり、深まり、自分から矛盾を生みだし、衝突が起こり、戦いが行われた末に、解決がやってくるという形をとる。
音楽は、だから、多くの場合、ずいぶんと騒々しいものになるが、それが終わった時、人びとは興奮のあとにくる充実感から生まれた勇気を抱いて、音楽会場を離れ、人生の中に帰ってゆく。
そうして人間は、生きていくために、何度でも勇気を必要とする場面に遭遇するのである。
だから、ベートーヴェンは、こんなにも多くの人びとに好んできかれるのだろう。
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