Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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長期間の原因不明の髄膜炎の鑑別診断として抗NMDA受容体脳炎も考慮する

2023年08月12日 | 自己免疫性脳炎
当教室の山原直紀先生らによる抗NMDA受容体脳炎に関する症例報告です.脳炎に先行して,症例1は60日,症例2は22日間の髄膜炎症状(発熱,頭痛)を認めました.抗菌薬やアシクロビルなどによる治療が行われましたが無効でした.当院に紹介され,脳脊髄液抗NMDAR受容体抗体陽性が判明し,ステロイドパルス療法と血漿交換療法により改善しました.いずれの患者にも腫瘍の合併はありませんでした.またHSV感染やクリプトコッカス髄膜炎,MOGAD,NMOSD,GFAPアストロサイトパチーの合併も認めませんでした.



抗NMDAR脳炎では頭痛や発熱が先行しうるものの,既報では頭痛は2週間以内,発熱は中央値5.5日程度で,これら2症例のような長期の髄膜炎の報告は渉猟した範囲ではありませんでした.長期間の持続する髄膜炎の鑑別診断としてNMDA受容体脳炎も検討する必要があります.
Yamahara N, Yoshikura N, Takekoshi A, Kimura A, Harada N, Mori Y, Shimohata T. Anti-N-methyl-d-aspartate receptor encephalitis preceded by meningitis lasting up to 60 days. J Neuroimmunol. 382; 2023, (期間限定ですが,フリーでDLできます)


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非定型パーキンソニズムを呈する自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群 ―スコーピングレビュー―

2023年08月01日 | 自己免疫性脳炎
8月号の「臨床神経」誌に当科から2つの論文が掲載されます.1つ目は専攻医,山原直紀先生とともに,大量の論文を精読して執筆した論文です.先日,開催されたMDSJ@大阪の教育講演・ポスター発表で報告し,反響を頂いた内容です.ちなみにスコーピングレビューは,比較的新しい文献レビューの手法で,既存の知見を網羅的に概観・整理し,まだ研究されていない範囲(ギャップ)を特定することを目的としています.文献検索はシステマティックに行いますが,システマティックレビューよりハードルは低いです.今後,総説を書く場合にナラティブレビューと使い分ける必要があります.

さて取り組んだ2つのclinical questionは「非定型パーキンソニズム(MSA,PSP,CBS)のなかに自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群が含まれているか?(含まれる場合,陽性となる抗神経抗体はなにか?)」「どのようなときに自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群を疑うべきか?」です.

前者については,非定型パーキンソニズムを呈する多数の自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群が存在し,非定型パーキンソニズムの種類ごとに多数の抗神経抗体が報告されていることが分かりました.



後者については,亜急性・急性の経過をたどる例,脳脊髄液検査にて細胞増多,蛋白上昇,OCB 陽性,IgG index 上昇を認める例,腫瘍を認める症例の報告が多く,臨床経過の把握,脳脊髄液検査,全身の腫瘍の検索は重要と考えられました.さらに,40 歳未満の若年発症例,体重減少を認める症例,神経変性疾患ごとに特徴的な画像所見を認めない症例は注意が必要です.オープンアクセスです.詳細は下記からご覧いただけます.

山原直紀, 木村暁夫, 下畑享良.非定型パーキンソニズムを呈する自己免疫性脳炎/傍腫瘍性神経症候群―スコーピングレビュー―.臨床神経doi.org/10.5692/clinicalneurol.cn-001871



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症候から自己抗体を推定する際,とても役に立つFigure

2023年05月02日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎の研究は非常に大きな進歩を遂げています.抗神経抗体は細胞表面抗原と細胞内抗原を認識する抗体に大別されますが,前者は治療可能性が高いことから見逃さないことが重要です.さらに後者でもGFAP抗体やKLHL11抗体のように比較的免疫療法が奏効する脳炎もあります.しかし急速に自己抗体が増加し,その臨床像が明らかになったためフォローが難しく,症候から自己抗体を推定することが難しくなっています.今回,Oxford大学のグループから発表された総説は,治療可能で見逃したくない自己抗体について解説したもので,非常に有用です.とくに各抗体が呈しうる臨床症候の頻度をヒートマップで,希少または不明(0=青)から一般的(4=赤)まで示したFigureは役に立ちます.

上段の細胞表面抗原は受容体が多いため,痙攣や意識障害,そして記憶障害が多く認められることが分かります.運動異常症(hyperkinetic MD)はNMDARとGlyR,睡眠障害はIgLON5とAMPARでとくに目立ちます.一方の細胞内抗原では小脳性運動失調が多く,意識障害や睡眠障害,自律神経障害は少ないことが分かります.この図からおよその自己抗体に当たりをつけてから,その詳細は「自己免疫性関連脳炎・関連疾患ハンドブック(https://amzn.to/41RdCS7)」でご確認ください(最後は宣伝です!笑).
Varley, J.A., Strippel, C., Handel, A. et al. Autoimmune encephalitis: recent clinical and biological advances. J Neurol (2023).



LGI1: leucine-rich glioma-inactivated 1
NMDAR: N-methyl-D-aspartate receptor
CASPR2: contactin-associated protein-like 2
MOG: myelin oligodendrocyte protein
GABABR: γ-aminobutyric acid B receptor
GABAAR : γ-aminobutyric acid A receptor
AMPAR: α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazolepropionic acid receptor
mGluR5: metabotropic glutamate receptor 5
GlyR: glycine receptor
Sez6L2: seizure-related 6 homolog like 2
DNER: delta/Notch-like epidermal growth factor-related receptor
GAD65: glutamic acid decarboxylase (65 kDa isoform)
ANNA 1/2: anti-nuclear neuronal autoantibody type ½
PCA: Purkinje cell cytoplasmatic autoantibodies
KLHL11: kelch-like protein 11
AK5: adenylate kinase 5
GFAP: Glial Fibrillary acid protein

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PSP類似の非定型パーキンソニズムを呈し免疫療法が有効であった自己免疫性脳炎の1例

2023年05月01日 | 自己免疫性脳炎
当初,肺炎を合併した進行性核上性麻痺(PSP)と考えられましたが,じつは自己免疫性脳炎であった症例を大野陽哉先生らが報告しました.

81 歳男性が発熱し,その3週間後に意識障害,4週間後に筋強剛,運動緩慢を呈しました.レボドパは無効で体軸性の筋強剛であったことから当初PSPが疑われました.発症から6週間後に当院に紹介され入院したときには,意識障害のため核上性注視麻痺と認知機能の評価できず,MDS PSP基準での評価はできませんでした.意外なことに頭部MRIで両側側頭葉内側と基底核の高信号病変を認め,診断の再考を要しました(図A,B).脳脊髄液の細胞数は正常でしたが,蛋白は上昇(55mg/dL),オリゴクローナルバンドも陽性でした.自己免疫性脳炎によるPSP mimicsの報告は,CRMP-5,DPPX,GAD65,GlyR,Hu,IgLON5,LGI1,Ma2,Ri がありますがこれらを含め測定可能な抗神経抗体は陰性でした.しかしラット凍結切片を用いた患者血清による免疫染色では海馬と小脳顆粒細胞の細胞表面および細胞内抗原を認識する抗体の存在が示唆されました(図F,H,J).ラット海馬初代培養神経細胞も陽性に染色された(図L)(図E,G,I,Kは対照).免疫グロブリン静注療法とステロイドパルス療法を行ったところ,意識レベルは改善,寝たきり状態から介助歩行が可能となりました.DaT-SPECT所見も改善しています!(図C→D).

以上より,非定型パーキンソニズムでもとくに亜急性の増悪の場合,自己免疫異性脳炎を疑う必要があります.今後,原因となる自己抗体を同定することが重要だと考えました.同様の患者さんがいらっしゃいましたらご相談いただければと思います.
Ono Y, Higashida K, Takekoshi A, Kimura A, Shimohata T. Autoimmune encephalitis presenting with atypical parkinsonism: A case report and review of the literature. Neurol Clin Neurosci 28 April 2023


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自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック先行販売です!@第120回日本内科学会総会

2023年04月15日 | 自己免疫性脳炎
昨日から開催されている第120回日本内科学会総会の書籍販売コーナーでご覧いただけます(図左).368ページ,ずっしり重いです.高級紙のせいもありますが,自己免疫性脳炎の領域の近年の進歩が顕著で(図右上),これほどの情報量があるということかと思います.重い本が気になる方は電子版もあります.来週以降発売予定です(isho.jpとm2plusで発売).

【本書をお勧めする理由】
1.複雑な自己免疫性脳炎の診断・検査・治療の進め方がわかります.とくにどのようなときに,どの抗体を,どこに依頼するかがわかります.
2.第4章の「自己抗体一覧」は特に便利です(図右下).最新45種類の自己抗体を岐阜大学チーム5人(下畑,木村,吉倉,竹腰,大野)でまとめました.簡単に情報を確認することができます.
3.抗体等により分類した代表的な13疾患(自己免疫性辺縁系脳炎,NMDAR,AQP4,MOG,LGI1,Caspr2,GFAP,IgLON5,DPPX,GlyR,Sez6l2,KLHL11など)の最新情報を得ることができる.
4.認知症,精神病,てんかん,小脳失調症,運動異常症,睡眠異常症,自律神経節障害,小児疾患のなかに紛れている自己免疫性脳炎をどのように見出したら良いかが分かります.

本邦初の自己免疫性脳炎のハンドブックです.脳神経内科医のみならず,内科医,精神科医,総合診療医,小児科医等,多くの先生のお役に立つのではないかと思います.ぜひ手にとっていただければと思います.


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「自己免疫性脳炎・関連疾患ハンドブック」予約開始です!

2023年04月06日 | 自己免疫性脳炎
自己免疫性脳炎に関連する新たな自己抗体がつぎつぎに同定されています.これに伴い,新たな疾患概念が確立されています.さらにこれらの疾患はさまざまな臨床像を呈しうることも判明し,これまで認知症,精神病,てんかん,小脳性運動失調症,運動異常症,睡眠異常症,自律神経障害と診断されてきた症例のなかに含まれている可能性があります.自己免疫性脳炎では,免疫療法が有効であることが少なからず存在することから,これらの疾患を正しく早期に診断することは極めて重要な課題と言えます.

以上を踏まえ,自己免疫性脳炎に焦点を絞ったユニークな書籍を企画しました.本書は,①自己免疫性脳炎と自己抗体・傍腫瘍抗体に関する総論,②代表的な自己免疫性脳炎・脳症とその主な臨床病型,③神経・精神疾患と自己免疫,そして④これまでに明らかになった自己抗体一覧(とても便利です)から構成されています.脳神経内科医や内科,小児科,総合診療医のみならず,救急医,精神科医になどの医師全般に役立つ内容になったと確信しています.ぜひ手にとっていただければと思います.

定価 7,920円(本体 7,200円+税10%)B5判・368頁 ISBN978-4-7653-1956-0
Amazon予約
金芳堂ホームページ

◆目次
I 総論
1 定義・歴史・展望
2 自己免疫性脳炎の疫学と特徴
3 自己免疫性脳炎の診断・検査の進め方
4 自己免疫性脳炎・脳症の治療
5 抗神経抗体の分類と病態(細胞内抗原抗体vs細胞表面抗原抗体)
6 傍腫瘍性神経症候群関連自己抗体の分類と病態

Ⅱ 自己免疫性脳炎·脳症の主な臨床病型
1 抗NMDAR脳炎
2 自己免疫性辺縁系脳炎
3 視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)
4 MOG抗体関連疾患(MOGAD)
5 抗LGI1脳炎・抗Caspr2脳炎
6 Bickerstaff脳幹脳炎
7 橋本脳症
8 自己免疫性GFAPアストロサイトパチー
9 IgLON5抗体関連疾患
10 DPPX抗体関連脳炎
11 抑制性シナプスに対する自己免疫疾患
12 Sez6l2抗体関連脳炎
13 KLHL11抗体関連脳炎

Ⅲ 神経・精神疾患と自己免疫
1 自己免疫性認知症
2 自己免疫性精神病
3 自己免疫性てんかん
4 自己免疫性小脳失調症(傍腫瘍性小脳変性症)
5 自己免疫性小脳失調症(抗神経抗体を伴う非傍腫瘍性小脳性運動失調症)
6 自己免疫性運動異常症
7 自己免疫性睡眠異常症
8 自己免疫性自律神経節障害
9 免疫チェックポイント阻害薬と自己免疫性脳炎
10 小児の自己免疫性脳炎

Ⅳ 自己抗体一覧
1 細胞表面抗原抗体
2 細胞内抗原抗体

◆執筆者一覧
本書の趣旨に賛同し,熱のこもったご原稿をご執筆くださった著者の先生方に感謝申し上げます.
■編著
下畑享良  岐阜大学大学院医学系研究科 脳神経内科学分野
■執筆者一覧(執筆順)
大石真莉子 山口大学大学院医学系研究科臨床神経学
神田隆   山口大学大学院医学系研究科臨床神経学
中嶋秀人  日本大学医学部内科学系神経内科学分野
河内泉   新潟大学大学院医歯学総合研究科医学教育センター/新潟大学医歯学総合病院脳神経内科
木村暁夫  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
田中惠子  新潟大学脳研究所モデル動物開発分野/福島県立医科大学多発性硬化症治療学講座
飯塚高浩  北里大学医学部・脳神経内科学
横山和正  東静脳神経センター/順天堂大学医学部脳神経内科
中島一郎  東北医科薬科大学医学部脳神経内科学
三須建郎  東北大学病院脳神経内科
渡邉修   鹿児島市立病院脳神経内科
古賀道明  山口大学大学院医学系研究科臨床神経学(脳神経内科)
米田誠   福井県立大学大学院健康生活科学研究科
原誠    日本大学医学部 内科学系神経内科学分野
松井尚子  徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床神経科学
矢口裕章  北海道大学神経内科
石川英洋  三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学講座
新堂晃大  三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学講座
竹内英之  国際医療福祉大学 医学部 脳神経内科
髙木学   岡山大学学術研究院医歯薬学域精神神経病態学
神一敬   東北大学大学院医学系研究科てんかん学分野
吉倉延亮  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
大野陽哉  岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野
筒井幸   特定医療法人祐愛会 加藤病院精神科/秋田大学医学部 神経運動器学講座精神科分野
神林崇   筑波大学 国際統合睡眠科学機構/茨城県立こころの医療センター
中根俊成  日本医科大学脳神経内科
鈴木重明  慶應義塾大学医学部神経内科
福山哲広  信州大学医学部小児医学教室
竹腰顕   岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野




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「エクソシスト」のモデルとなった脳炎の病態 ―活性化NMDA受容体の画像化―

2022年12月10日 | 自己免疫性脳炎
若年女性に好発するNMDA受容体脳炎という病気があります.医師としてのキャリアのなかでも忘れられない病気です(https://bit.ly/3FDrl6i).映画「エクソシスト」のモデルとも言われています(Ann Neurol. 2010;67:141-2).日本では映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」で知られています.「エクソシスト」は英語で悪魔祓い(祈祷師)のことですが,この疾患はまるで悪魔に憑依されたかのような精神症状,運動異常症,痙攣発作を呈します.現代のエクソシストは脳神経内科医で,祈祷のかわりに免疫療法で治療します.

病名の「NMDA(N-methyl-d-aspartate)受容体」はシナプス後膜に局在するイオンチャネル型グルタミン酸受容体です.興奮性神経伝達によりシナプス可塑性や学習・記憶に関わります.NMDA受容体脳炎では,おもに卵巣にできた奇形腫のため,NMDA受容体に対する自己抗体が産生されます.実験の結果,この自己抗体がNMDA受容体を架橋して「内在化」させてしまい,細胞膜表面の受容体が減少することが本症の病態機序と推測されてきました.しかしその証明は剖検脳の海馬におけるNMDA受容体の減少のみでした.



さてJAMA Neurol誌にNMDA受容体を画像化した報告があり驚きました.NMDA受容体のイオンチャネル内に結合する放射性リガンド[18F]GE-179を用いたPET検査でした.NMDA受容体はグルタミン酸が結合し活性化するとイオンチャネルが開き,Na+,K+,Ca2+ などの陽イオンが通過します.このPETでは受容体の活性化を評価できます.対象は患者5名と,健常対照29名です.患者のうち4名は退院後2〜8カ月の血清中に持続的に自己抗体を認める時期に検査を行い,残り1名は退院後16カ月目で抗体が検出されなくなった時期に行っています.自己抗体が残存する4名では程度の差がありますが,開放型活性化NMDA受容体の密度が平均30%減少し,前側頭葉と上頭頂葉で顕著でした.しかし認知症状は軽度で,脳の代償能力の高さが示唆されました.一方,抗体が陰性になった1名はむしろ受容体密度が上昇しており,受容体機能のリバウンドが示唆されました.以上より,NMDA受容体の「内在化」仮説が生体でも証明され,かつ大脳辺縁系以外の広い皮質領域がこの疾患では障害されていることが示されました.



本症では退院後の回復過程でも長期間さまざまな症候(過眠症,食欲亢進,性欲亢進)を呈します.睡眠中に突然目を開け,体を起こしたり話をしたりするconfusional arousals(混乱性覚醒)を起こすこともあります.カンファレンスでは,こういった症候にNMDA受容体の機能変化(活性化の抑制からリバウンド)が関わっているのかもしれないなどと議論をしました.



受容体の画像化 JAMA Neurol. 2022 Dec 5.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.4352)
受容体内在化 Lancet Neurol. 2011;10:63-74.(doi.org/10.1016/S1474-4422(10)70253-2)
自己免疫性脳炎の睡眠障害 Lancet Neurol. 2020;19:1010-1022(doi.org/10.1016/S1474-4422(20)30341-0)

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重要!腫瘍随伴性神経症候群の診断においてYo,Hu抗体の結果は慎重に判断する

2022年11月24日 | 自己免疫性脳炎
腫瘍随伴性神経疾患症候群(PNS)は腫瘍に伴い発症する免疫介在性神経疾患です.細胞内神経抗原に対する自己抗体(腫瘍神経共通抗原認識抗体;onconeural antibody)の測定が診断において不可欠です.抗体の同定にはラット脳切片を用いた間接免疫蛍光法やcell-based assay(CBA)が用いられますが,日常臨床では簡単・迅速に実施でき,かつ同時に複数の抗体をスクリーニングできるイムノドットアッセイ(抗原を直接ニトロセルロース膜上に滴下し,結合した自己抗体を二次抗体,酵素反応を用いて発色させ自動検出するもの)が行われます.PNS+2 blotおよび EUROLINE PNS 12 Ag という2種類が市販されています (いずれもドイツ製).NS+2 blotは,Yo, Hu, Ri CV2/CRMP5, Ma2, SOX1, amphiphysin, Ma1, GAD65の9種類の抗原を,EUROLINE PNS 12 Ag はamphiphysin,CV2/CRMP5,PNMA2(Ma2/Ta),Ri,Yo,Hu,recoverin,SOX1,titin,zic4,GAD65,Tr(DNER)の12種類の抗原を検索します.しかし感度と特異度は不明です.

市販イムノドットによる診断の正確性を調べた研究が,2020年にフランスから報告されています.PNSが疑われる患者血清(n=5300)を2つのイムノドットアッセイにより検査し,陽性サンプルは,さらに間接免疫蛍光法および組換えタンパク質を用いたCBAまたはウェスタンブロットを用いて追加検査しました.

さて結果ですが,PNS+2 blot は 128/1658 (7.7%) の血清で陽性,そのうち47/128 (36.7%)のみが追加検査でも陽性でした. EUROLINEは186/3626(5.1%)で陽性,そのうち56/186(30.1%)が追加検査でも陽性でした.抗体ごとの陽性率は,Yo抗体ではわずか7.2%(PNS+2ブロット)ないし5.8%(EUROLINE)と低く,抗Hu抗体では88.2%(PNS+2ブロット)ないし65%(EUROLINE)と比較的高く,抗体によってばらつきを認めました(表).EUROLINEでバンド強度弱陽性(8-14)の27検体は全例追加検査が陰性でした.図はMa2抗体の実例を示しています(上段はイムノドット陽性ですが,免疫組織とCBAは陰性で検査結果に解離を認めます).



追加検査で陽性となる最低のバンド強度は,Yo抗体(n=3)およびHu抗体(n=11)全例で71以上(強陽性),SOX1抗体では15~70(陽性;n=19)または71以上(強陽性;n=9)と抗体によってばらつきがみられました.EUROLINEにおいて追加検査が陰性であった症例で,臨床情報を入手できた者のうち,癌を認めたのは6.7%のみでした.

以上より,イムノドットはPNSスクリーニングに有用ですが,各抗体で陽性とする閾値を設定する必要があり,さらに臨床情報および他の追加検査による確認が必要ということになります(診断に悩むことになります).少なくともバンド強度弱陽性例や,陽性となった抗体と臨床像が合致しない場合には,結果を疑ってかかる必要があります.ちなみになぜこのように検査結果に解離が生じるかについては,市販のイムノドットはリコンビナントタンパクを使用しており,天然のタンパク質のコンフォメーションを示さない可能性があること,またアッセイに用いられる標的腫瘍抗原は,真の抗原ではない可能性が議論されています.
Déchelotte B, et al. Diagnostic yield of commercial immunodots to diagnose paraneoplastic neurologic syndromes. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2020 Mar 13;7(3):e701.(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000701)


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当科のIgLON5抗体関連疾患症例がStanley Fahn Lectureship Award講演で紹介されました!

2022年10月08日 | 自己免疫性脳炎
マドリードで開催されたMDSコングレス(パーキンソン病・運動障害疾患コングレス)にて,Stanley Fahn Lectureship Awardを受賞されたK. Bhatia教授(Queen Square, London)による講演で,私どもが報告したIgLON5抗体関連疾患症例が詳細に紹介されました.私はあとからオンデマンドで視聴しましたが,現地で聴講された京都大学高橋良輔教授よりご連絡をいただいたときには,多くの世界のエキスパートにご紹介いただき「夢ではないか?」と思いました.



Bhatia教授の講義はじつに示唆に富むものでした.運動異常症の原因遺伝子や自己抗体が続々と明らかになる現代において「神経症候学を大切にする臨床家は時代遅れか?(Is the Clinical Phenomenologist Obsolete?)」というタイトルのご講演でした.答えはNOで,むしろその役割は益々重要になるという含蓄深い講演でした.以下がその根拠です.

◆希少疾患のなかに治療可能な因遺伝子を見い出せるかは臨床家にかかっていること
◆1つの表現型もさまざまな遺伝子により生じるが,症候を適切に評価しないと正しい遺伝子にたどり着けない恐れがあること
◆遺伝子変異を認めた場合,臨床家に本当に意味があるものかの判断が求められること
◆同じ表現型でも,各症例の原因にあった治療を行う精密・緻密な治療「precision medicine」がすでに始まっており,遺伝子変異,自己抗体を認めたときに,最新の正しい治療ステップを理解していることが求められること

私どもの症例はその「precision medicine」がうまく行った事例として,講演のラスト近くで紹介されました.治療不可能と考えられた大脳皮質基底核症候群のなかに,IgLON5抗体を見出し,適切に免疫療法で治療したことが評価されました.私たちは現在,治療できないと考えられている脊髄小脳変性症や進行性核上性麻痺のなかにも自己抗体が存在することを報告し,前者に対しては医師主導治験を開始しています.治療できる神経疾患を見いだせるよう頑張っていこうと思います!

Fuseya K, et al. Corticobasal Syndrome in a Patient with Anti-IgLON5 Antibodies. Mov Disord Clin Pract. 2020 May 5;7(5):557-559. (doi.org/10.1002/mdc3.12957)
Takekoshi A, et al. Clinical Features and Neuroimaging Findings of Neuropil Antibody-Positive Idiopathic Sporadic Ataxia of Unknown Etiology. Cerebellum. 2022 Sep 3. (doi.org/10.1007/s12311-022-01468-3)
特発性小脳失調症を対象とした多施設医師主導臨床試験のご紹介(http://www.med.gifu-u.ac.jp/neurology/research/idca.html)

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「自己免疫性運動異常症―本邦の現状と新規自己抗体の同定に向けて―」オンデマンド配信を開始しました!

2022年09月23日 | 自己免疫性脳炎
9月19日に開催しました日本神経学会難治性神経疾患基礎研究支援事業シンポジウム「自己免疫性運動異常症―本邦の現状と新規自己抗体の同定に向けて―」のオンデマンド配信を開始させていただきました.私自身大変勉強になりました.下記よりアクセスいただけます.ぜひご覧ください!

動画へのリンク
プログラムは以下で,各演題発表25分+質疑5分です.

1. イントロダクション,IgLON5抗体関連疾患
下畑享良(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)

2. GFAPアストロサイトパチー
木村暁夫(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)

3. DPPX抗体関連疾患
原 誠(日本大学医学部神経内科学分野)

4. 自己免疫性小脳失調症(1)Sez6l2抗体関連疾患
矢口裕章(北海道大学大学院医学研究院神経病態学分野神経内科学教室)

5. 自己免疫性小脳失調症(2)mGluR1抗体関連疾患
吉倉延亮(岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野)
(敬称略)



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