Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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パーキンソン病に対する2つのαシヌクレイン抗体による臨床試験の失敗

2022年08月06日 | パーキンソン病
New Engl J Med誌の最新号に,凝集αシヌクレインに結合するヒト由来のモノクローナル抗体を用いた2つの臨床試験(シンパネマブCinpanemabとプラシネスマブPrasinezumab)の結果が報告されました.パーキンソン病の進行を初めて抑制する病態修飾薬となるのではないかと期待された臨床試験でしたが,結果はまったく効果がありませんでした.私も落胆した反面,やはりそうかという感じもしました.

いずれも病初期のパーキンソン病患者(発症3年以内,修正版 Hoehn-Yahr 重症度分類2~2.5以内等で,両試験で異なるため詳細は論文参照)を対象とした52週間の多施設共同二重盲検第2相試験でした.前者は偽薬またはシンパネマブ(250 mg,1250 mg,3500 mg)を4週間ごとに静脈内投与するもので,2:1:2:2の割合(100人: 55人:102人: 100人)で割り付けています.一方,後者は偽薬またはプラシネズマブ(1500mg,4500mg)を4週間ごとに静脈内投与するもので,1:1:1(105人,105人,106人)で割り付けています.主要評価項目は,52週目(および72週目)におけるMDS-UPDRS合計スコア(範囲0〜236,スコアが高いほど不良)のベースラインからの変化です.結果は,両試験とも偽薬群と比較して,主要評価項目において有意な効果が得られませんでした(図).画像バイオマーカーを含む副次評価項目でもまったく効果はありませんでした.



ちなみにシンパネマブはαシヌクレインのN末端を認識し,モノマーとの結合親和性は低く,プラシネスマブはαシヌクレインのC末端を認識し,モノマーともよく結合できる特徴をもちます.性質の異なる2つの抗体で効果がなかったことは,細胞外のαシヌクレインを標的とする抗体療法単独では少なくとも病初期の患者の進行を抑制できない可能性がかなり高まったように思います.試験失敗の原因に関する議論は深くなされていませんが,介入のタイミングの遅さのみ記載されていました.「αシヌクレインオリゴマーが神経細胞内に入り機能不全をきたすのはより早期のイベントであり,発症前もしくは前駆症状期に治療介入を行う必要がある」と述べています.アミロイドβ抗体はいままで明らかな成功はなく,進行性核上性麻痺のタウ抗体も2つのN末端抗体で無効,そして今回の結果です.多系統萎縮症に関するαシヌクレイン抗体LuAF8242も国内も含め進行中ですが,標的タンパクに対する抗体療法はそう簡単には行かない様相を呈してきました.
N Engl J Med 2022; 387:408-420(doi.org/10.1056/NEJMoa2203395)
N Engl J Med 2022; 387:421-432(doi.org/10.1056/NEJMoa2202867)

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近未来の脳神経内科 ―神経疾患を発症前から治療する―

2022年04月18日 | パーキンソン病
今朝のカンファレンスで「ニューロフィラメント軽鎖(Nf-L)は近い将来,血液検査の炎症の指標であるC反応性タンパク(CRP)のように使用されるだろう」という最新のNeurology誌に掲載されたコメントを紹介しました.ニューロフィラメントは神経細胞に特異的なタンパク質で,軸索や樹状突起の主要な細胞骨格成分として中枢神経系(脊髄を含む)の神経細胞,末梢神経系の神経節に広く分布しています.4種類のサブユニット,すなわちNf-H,Nf-M,Nf-L,α-interenexinから構成されています.神経細胞が軸索の変性や炎症により破壊されると,Nf-Lは軸索から放出され,血液中にも移行します.超高感度免疫測定法(従来のELISAの約1000倍の感度)を用いることでこれを測定できます.つまり神経変性や炎症,脱髄の程度を客観的に血液検査で評価できることになります(血液バイオマーカーと呼びます).神経変性疾患の発症前から検診などで測定していれば症状が出現する前に,予防療法を開始することができます.

論文を紹介します.米国シカゴから高齢者1254人を16年間追跡して,血清Nf-L濃度とパーキンソン病(PD)の発症の関連を検討した研究です.77人(6.1%)がPDを発症しました.血清Nf-L濃度が2倍高いと,PD発症のオッズ比は2.54倍となり,その相関は診断前の5年間において有意でした.また血清Nf-L濃度が高いほど,身体機能の低下速度が速いことが分かりました.つまり血清Nf-L値は,PDの発症および身体機能の低下と関連していました.

図はこのNf-Lが近未来の脳神経内科の臨床においてどのように使用されるか示したものです.健康診断などで発症前の段階から,血清Nf-L濃度を測定します.この結果,異常な濃度上昇を認めた場合,疾患ごとに特異的な脳脊髄液ないし血液バイオマーカーを用いて早期診断を行います.そして疾患のもっとも初期の段階で疾患修飾薬による治療を開始し,その発症や進行を遅らせます.治療効果の判定は血清Nf-L値を定期的に測定することでモニターできます.つまりNf-Lは神経疾患におけるCRPのような指標になるわけです.



これからの神経疾患はこのような治療が可能になるわけです.カンファレンスで指摘があったように解決すべき倫理的問題も生じはしますが,いずれにしても治療研究は加速し,ますます脳神経内科の領域はエキサイティングなものになると思います.ぜひ多くの若い人にこの領域に参入していただきたいと思います.
Neurology April 13, 2022(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200752)
Neurology April 13, 2022(doi.org/10.1212/WNL.0000000000200338)

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パーキンソン病の病因タンパクαシヌクレインは炎症・免疫のメディエーターとして作用する

2022年01月17日 | パーキンソン病
αシヌクレイン(αS)は,パーキンソン病(PD)におけるレビー小体の構成タンパクであり,かつPDの発症に関与している.しかしその本来の生理機能は不明であった.これまでの研究で,αSは脳の細胞内に多く存在し,神経細胞間の情報伝達の場であるシナプスの機能に重要な役割を果たしていると考えられてきた.しかしシナプスにおける正確な役割は,ほとんど謎に包まれていた.一方,αSが小児の腸管神経系におけるノロウイルス感染によって神経終末より分泌されること(かつ炎症が強ければ強いほど,その分泌量は多かった),マウスの実験で致死的な神経向性ウイルス感染から保護することが報告されていた.さらに食細胞の強力な走化性活性化因子でもあると報告されていた.

今回,Cell Reports誌に米国からの報告で,αSが炎症反応や免疫反応の重要なメディエーターであることが示された.実験では野生型およびαSノックアウトマウスを用いている.まず腹腔内に注入した細菌由来のペプチドグリカンにより惹起した腹膜の炎症が,腹膜を支配する神経細胞からのαS産生を誘発することを確認した(図).具体的には,注入後わずか数時間で,大腸および横隔膜の神経終末がαSを分泌し始めた(その濃度は注射部位に近い横隔膜でより高かった).そしてαSは,Toll-like receptor 4(TLR4)をトリガーとして抗原提示細胞を活性化し,腹腔内免疫後の抗原特異的反応およびT細胞反応の発現を促進した(自然免疫および獲得免疫が活性化させる).つまり神経細胞が供給源となるαSは,腹膜炎の誘発と免疫応答に必要と言える.一方,αSノックアウトマウスでは,これらの反応が限定的で遅かった.さらに注目すべきは,白血球もαSを産生できるが,この系ではほとんど産生していなかったことである.つまり炎症反応を起こしているのは,腸における免疫細胞ではなく神経細胞であった!



今回の報告は,αSは腸における免疫や炎症反応に不可欠な役割を果たすというだけでなく,著者らはPD患者の神経系内にαSが蓄積するのは,炎症/免疫反応のためであるという仮説を支持するものと考えている(こうなると腹膜炎後の脳の変化が気になるが,本論文ではマウスの脳は検索していない).PDでは以前から感染症に伴い症状が悪化することが言われていたが,単に廃用ではなく,シヌクレイン病理が増悪するのかもしれない.しかしウェブ上の研究者の意見を読んでいると,αSの本来の役割は興味深いが,ミスフォールドしたαSが凝集して新たな毒性を獲得することが本態であるため,αSの生理機能は直接関係はなく,必要な治療法を追求するには無関係であるという意見も認める.確かに正常の機能を果たすαSが,PDを引き起こす病原性をもつαSに変化するメカニズムは最大の関心事である.そうなると,腸の炎症や環境が,αSのコンフォーメーションを変えうるのか今後,検討されるものと思われる.

最後にこの論文を読み,印象深く思った点を2つ示したい.①調べつくされたと思われるテーマでも,過去の研究を丹念に紡いでいけば新たなアイデアの糸口を見いだせること,②神経変性疾患の病態解明にはやはり神経免疫学的アプローチも必要であることである.

Alam MM, et al. Alpha synuclein, the culprit in Parkinson disease, is required for normal immune function. Cell Rep. 2022 Jan 11;38(2):110090.(doi.org/10.1016/j.celrep.2021.110090)

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神経変性疾患研究を変えるかもしれない1枚の写真  ―パーキンソン病に立ち向かうミクログリアたち―

2021年09月28日 | パーキンソン病
最新号のCell誌に驚くべき写真がありました.パーキンソン病はαシヌクレイン(αSyn)というタンパク質が凝集することで発症すると考えられています.脳内に常駐する免疫細胞ミクログリアは,このαSynを分解しようとしますが,今回,その仕組みが報告されました.まずミクログリアはαSynを迅速に取り込みます.しかし取り組むにつれ分解能力は低下するだけでなく,炎症性サイトカインや活性酸素種を放出し,自身の細胞死につながります.これを防ぐため,瀕死のミクログリアの周りに元気なミクログリアが集まり,トンネル状の連絡路(ナノチューブ)によって繋がります.図の緑がαSyn,青がミクログリアの核,赤がミクログリアの細胞骨格のFアクチンを示しますが,αSynを取り込んだ中央下のミクログリアの周囲に元気なミクログリアが複数集まって,連絡路でつながっています.



ミクログリアたちの協力など見るのは初めてですが,驚くのはその連絡路を使って,瀕死のミクログリアは元気なミクログリアにαSynを送り込み,分解の手助けをしてもらっているというのです.その結果,αSynが減少すると,瀕死のミクログリアの炎症性変化は軽減し,細胞死が起きにくくなります.さらに,元気なミクログリアは,その連絡路を使って,瀕死のミクログリアにミトコンドリアを送り込むのだそうです(ミトコンドリアは細胞にエネルギーを供給します).

一方,家族性パーキンソン病(PARK8)を引き起こす遺伝子変異LRRK2 G2019Sでは,αSynの分解能が低下していることが知られていましたが,この変異を持つミクログリアでは,上記の連絡路を介するαSynの分解が損なわれていることが示されました.孤発性パーキンソン病でもミクログリアの分解能の個人差が影響しているのかもしれません.本研究はパーキンソン病のみならず神経変性疾患全体にも影響を与える重大な発見です.今後,神経変性疾患研究はミクログリアを標的とした神経炎症の研究,つまり免疫学的アプローチによる病態・治療研究に移行していく可能性があります.



Microglia jointly degrade fibrillar alpha-synuclein cargo by distribution through tunneling nanotubes. Cell. 2021 Sep 21:S0092-8674(21)01054-0.(doi.org/10.1016/j.cell.2021.09.007)

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第15回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2021)ビデオセッション症例解説

2021年07月05日 | パーキンソン病
標題の学会(大会長.仙台西多賀病院 武田篤先生)が7月1日から3日にかけて行われました.WEBでの参加になりましたが,大変,勉強になった素晴らしい学術集会でした.私は「COVID-19と運動異常症update」という特別プログラムで講師を務めさせていただきました.私のMDSJの一番の楽しみは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の12症例の一覧をご紹介します.議論の時間も限られており,少々残念でしたが,GNAO1異常症など勉強になりました.

▶EV-1:治療可能な病態と考えられた進行性歩行障害を呈した50歳男性例

尿閉,便秘,下肢痙性と四肢腱反射亢進,足クローヌスにアキレス腱肥厚を認めた.血清コレスタノール若干高値.脳腱黄色腫症(CTX)を疑うもCYP27A1遺伝子変異なし.しかしケノデオキシコール酸の補充療法後進行はなし.
(回答)診断? 議論ではNiemann-Pick disease type C(NPC)の可能性が議論された.
→ やはりコレスタノールが上昇し,ケノデオキシコール酸の補充療法が有効であることを考えると,アセチル Co-A からコレステロールを経て胆汁酸が合成される経路で唯一,27-hydroxylaseをコードする CYP27A1 遺伝子が原因になるはずではないか?文献検索でもCTX mimicsとなる遺伝子変異の報告はないが・・・

▶EV-2:左大腿の不随意運動を呈した49歳男性

4年前から左大腿の筋肉がもこもこと動く.睡眠時も持続する.ミオキミア?半年前から左下肢痙性,左のlimping gait.自律神経症状あり.筋電図的にもミオキミア.
(回答)脊柱管内に石灰化を伴うL2-4高位に一致する髄膜腫.術後に不随意運動は消失した.

▶EV-3:手が勝手に動くことを主訴に受診した83歳男性例

本年2月から起床時から左手指の異常な動き(おでこを触るとき握るような動き)が出現.ふらつきもあり.左同名半盲と左上肢温痛覚消失.左手のAlien hand?偽アテトーゼ?舞踏運動?
(回答)右頭頂葉(中心後回病変)の脳梗塞.

▶EV-4:頻回に体をビクッとさせ書痙を呈した16歳男性

書字の際に筋緊張にて手が止まる.実際に筋トーヌス↑.局所性ジストニアと考えられるが,体幹のミオクローヌス,下肢振動覚低下もあり.さらに腹直筋にもミオクローヌスあり.全身性のミオクローヌス・ジストニア症候群.ゾニサミドで顕著に改善した.
(回答)診断? ミオクローヌス・ジストニア症候群で頻度の高いDYT11;SGCE (Sarcoglycan Epsilon)遺伝子変異なし.下肢振動覚低下はミオクローヌス・ジストニア症候群ではまれ.ADCY5遺伝子変異,瀬川病?むしろ腹直筋ミオクローヌスを認めることから脊髄病変のチェック,また固有脊髄性ミオクローヌスの鑑別診断である機能性障害の除外が必要.

▶EV-5:左右差のある静止時振戦を呈した67歳男性例

30歳初発のてんかん発作の既往,以後,バルプロ酸で治療.3年前から右上肢の安静時振戦.姿勢時にもあり.しかし再現性振戦ではなく,本態性振戦的だが,両上肢筋強剛,運動緩慢あり.MRI正常,DAT正常.スルピリド内服中で薬剤性パーキンソニズムを疑い,スルピリド1週間中止したが不変(本人の希望ですぐに再開).
(回答)バルプロ酸による薬剤性パーキンソニズム.バルプロ酸中止3ヶ月後に急速に改善した.バルプロ酸による振戦は有名だが,極めて稀.上肢の姿勢時振戦が多い.パーキンソニズムも生じる.

▶EV-6:四肢の筋緊張が亢進し会話も困難となった47歳女性

3日前から話をしなくなった.唸り声のみ.開口障害,上肢反射亢進,フルニトラゼパムが有効.ステロイドパルス療法を行ったが精神症状持続.下肢にも痙性.progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)?セロトニン症候群?
(診断)診断? 精神疾患を背景とした悪性カタトニア.機序不明.コメントとして,自己免疫疾患で,ある時点からステロイド精神病になった可能性が指摘された.

▶EV-7:振戦を主訴としてパーキンソン病が疑われていた60 歳代男性

右手の震えにて発症し,本態性振戦と言われた.しかし認知機能障害(HDS-R 13点)を合併していた.L-DOPAは効果が乏しかった.ある薬剤を追加したらある程度振戦は改善した.姿勢時に振戦が増強し, wing beating tremor様.hyperkinésie volitionnelle的で小脳性の要素もあるかもしれない.ミオクローヌスではないかという意見もあり.DAT左有意で低下
(回答)神経核内封入体病(NIID).皮膚生検で核内封入体.アマンタジンが有効であった.NIIDの振戦は歯状核の機能障害の可能性がある. 

▶EV-8:眼球運動障害,随意運動の持続性低下,失立失歩を呈し,Blink reflexで脳幹部機能障害を認めた一例

20歳代女性.左上下肢脱力により立てなくなった(失立失歩).失調,眼球運動障害,眼瞼下垂も認めた.免疫療法は有効だが繰り返す必要があった.運動は繰り返すと症状が目立つようになる.血漿交換を含む免疫療法前後で一過性に改善する.核酸テンソル画像でFA(fractional anisotropy)値に異常を認めたが,血漿交換を含む免疫療法前後で変化が生じる.
(回答)診断? 重症筋無力症では?という意見もあったが,自己抗体陰性,反復刺激陰性とのこと.診断不明.画像も重要だが,まずは症候学の議論が大切と考えさせられた症例.

▶EV-9:発作性ジストニア / ジストニア痛を呈する知的障害 45歳女性

小児期からの有痛性ジストニア.軽度の失調歩行を合併.ジストニアに対し,ガバペンチンが有効.てんかん発作合併なし.
(回答)ATP1A3遺伝子関連疾患.小児交互性片麻痺(alternating hemiplegia of childhood;AHC)に近いとのこと.しかしてんかん発作がなく,軽度の小脳症状を認めた点が本例の特徴.

▶EV-10:喘鳴を伴う痙攣様吸気動作と呼気開始困難による呼吸苦を認めた 1例

73歳男性.主訴は呼吸がしにくい.浅い呼吸は困難で,喉頭内視鏡では声門の吸気時の狭窄を認めた.以前で言うspasmodic dysphonia(最近はlaryngeal dystoniaに統一された).頸部筋のジストニア?もみられる.画像や検査所見など明らかな異常はなし.アーテンとリボトリールでかなり改善,遺伝子診断未.
(回答)respiratory laryngeal dystonia(特発性).→ 遺伝子変異に加えて,再発性上気道感染症,胃食道逆流,頸部損傷なども誘因になるので気になるところ.

▶EV-11:Guitarist's crampで発症した局所性ジストニアの一例

回線不良となり病歴聴取できず.
(回答)職業性ジストニアで発症した初めての瀬川病(DYT5a).

▶EV-12:乳児期よりアテトーゼ型脳性麻痺と診断されたが経時的に不随意運動が増悪し集中治療を要した11歳男児

もともと精神発育遅延がある.低トーヌス.絶え間ない激しい全身の不随意運動.後弓反張を呈する.ジストニア重積?舞踏運動?治療としてGPi-DBSが有効であった.
(診断)GNAO1 異常症.2013年に本邦からはじめて報告された.GNAO1(Gタンパク質サブユニットαO1のこと)をコードする遺伝子変異により発症する.GNAO1 遺伝子は3 量体 G タンパク質による細胞内のシグナル伝達に関与し,シグナル伝達の異常がてんかんを引き起こす.てんかんを伴わずジストニアを主とすることもある(図は遺伝子変異と表現型の関係).運動異常症を呈する患者では,筋トーヌス低下と精神運動発達遅滞がみられ,のちにジストニアと知的障害が明らかになる.アテトーゼ型脳性麻痺と誤診されることが多いが,周産期異常や頭部MRI異常はない.検査費用が安価になれば世界中でもっとも多い希少疾患の一つになるだろうと言われている.




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本当に最初のパーキンソン病患者さんの写真

2021年03月19日 | パーキンソン病
昨年「世界で最も有名なパーキンソン病患者の臨床像」というブログを書きました.教科書で目にしてきた有名なパーキンソン病のイラストに,Pierre Dさんというモデルが実在したという論文の紹介でした.タイトルは「Pierre D. and the first photographs of Parkinson's disease」で,左図が世界で最初のパーキンソン病患者さんの写真と書かれています(Mov Disord. 2020;35:389-391).このPierre Dさんは,1876~9年にかけて,パリのSalpêtrière病院に通院しています.そして臨床神経学の父,Jean-Martin Charcot先生の弟子であるSt. Legarが,1879年の論文のなかにその写真を残しました.それをもとに,ガワーズ徴候で有名な「史上最高の臨床神経学者」William R. Gowersがイラストに書いたものを,今日の私達はよく目にしているわけです.

ところがこの論文には複数の歴史学的な誤認があったようです.学会でご挨拶をさせて以来,親交のある神経学史研究で有名なOlivier Walusinski先生は,この論文に対するレターを執筆し,その中で以下の3点を指摘しています.Pierre Dさんは非パーキンソン性の振戦を有し,後年,症状はだいぶ回復していたこと,考察におけるJames Parkinson先生の医学的貢献に対し認識の誤りがあること,そして驚いたのはPierre Dさんの写真は最も古い写真ではないということです.正しくはAnne-Marie Gavrという女性の写真(右図)が最も古いもので,Charcot先生が実際に治療を行い,1875年の『L'Iconographie de la Salpêtrière』の第1巻に掲載されているのだそうです.Walusinski先生はとても穏やかな先生ですが,学問に対する厳しさを感じさせるレター論文でした.あらためて論文は,徹底的に勉強した上で書かねばならないと思いました.
Hurwitz B, et al. Light and Shade in Patrick Lewis et al's Paper on the First Photographs of Parkinson's Disease. Mov Disord. 2020 Oct;35(10):1880-1881.




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第14回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(MDSJ 2021)ビデオセッション症例解説

2021年02月24日 | パーキンソン病
標題の学会(大会長.福岡大学坪井義夫教授)が2月22日から24日にかけて行われました.WEBでの参加になりましたが,非常に勉強になった素晴らしい学術集会でした.私は「COVID-19と運動異常症」「PSP/CBD治療研究update」という2つセミナーで講師を務めさせていただきました.メインイベントは,学会員が経験した貴重な患者さんのビデオを持ち寄り,その不随意運動や診断・治療について議論するビデオセッションです.今年の12症例の一覧をご紹介します.当教室からも発表し,伏屋公晴先生の行ったプレゼンテーション(治療が奏功した大脳皮質基底核症候群:抗IgLON5抗体陽性関連疾患)が金賞を受賞しました.とても嬉しく思いました.

1.急性に発症し持続性左下肢限局性強直性けいれんを生じた70歳男性例
70歳男性.入院2週間前から旧に左下肢全体の突っ張りが出現.左下肢は強直し,自動・他動できず,有痛性で1~2Hzの筋痙攣を伴う.髄液,腰部MRI異常なし.
(回答)肺小細胞癌に伴うStiff-limb症候群(抗amphiphysin抗体陽性)・・・Stiff-person症候群の一側下肢限局型.免疫疾患で片側に症候が出現するメカニズムは不明.

2.舌の律動的不随意運動をエコーで評価しえた一例
72歳男性.1年前から喉の違和感.ふるえてしゃべりにくい.安静時に強い舌の不随意運動.下顎の舌からエコーを当てると,安静時に律動性5Hz,挺舌ないし歯を食いしばると3~4秒間止まるが,また再開する.
(回答)パーキンソン病の舌振戦(re-emergent tremor)・・・全身にも軽度のパーキンソニズムを認め,L-DOPA内服で改善した.

3.顔面と下肢の進行性不随意運動を呈した59歳男性
59歳男性.10日ほどの経過で,顔面と下肢の不随意運動(ミオクローヌス)が進行した.また眼瞼下垂,失調,筋力低下,腱反射亢進に加え,高血圧,尿閉,便秘を合併した.頭部,脊髄MRIは異常なし.3Hz反復刺激でwaningなし.血中カテコラミン濃度上昇.眼輪筋の強い収縮,球麻痺,呼吸不全が出現し,人工呼吸器管理.
(回答)抗グリシン受容体抗体を有する progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM)・・・この不随意運動はspasmodic reflex myoclonusと呼ばれている(Stayer C et al. Neurologia. 1998 Feb;13(2):83-8).種々の免疫療法を行い,人工呼吸器は離脱した.

4.突然発症の片麻痺と対側に出現した不随意運動を呈した一例
89歳女性.膵癌の既往.突然の左片麻痺にて発症(左下肢不全麻痺).同時に右上下肢に不随意運動出現(ヘミコレア).MRAで右MCA水平部近位から途絶.DWIで右被殻,淡蒼球,前頭葉皮質に異常信号.なぜ右半身に不随意運動が出現したか?
(回答)一側の視床下核病変で,両側のヘミバリズム・ヘミコレアが出現するが,左片麻痺があるため,右側にのみ不随意運動が出現する.STN-DBSでも同側にジスキネジアが出現することがあるとのこと.

5.ふらつきと物忘れを主訴に受診した男性例(銀賞)
60歳男性.16年前から歩行時のふらつき.徐々に増悪した.四肢失調に加え,コレア,変動性の物忘れも見られた.顔面の小色素沈着(しみ,そばかす)と一部,皮膚がんも見られた.日光過敏あり.頭部MRIで,小脳,脳幹,大脳の萎縮.
(回答)小脳萎縮を合併した色素性乾皮症・・・通常,生命予後は不良で,罹病期間30年程度のことが多く,本例のような症例は稀である.

6.不規則な足趾の不随意運動をきたし拡大胸腺摘除術後に消失を認めた後天性自己免疫性Rippling muscle diseaseの64歳男性例
64歳男性.運動後の筋強直にて発症.筋の叩打後の隆起(筋の過興奮現象)あり.CK上昇.筋生検にて,Rippling muscle diseaseで認められるcaveolin-3のモザイク状の発現低下あり.多くの症例で認めるcaveolin-3遺伝子変異はエクソーム解析でなし.合併して認められた下肢の有痛性の不随意運動は何か?
(回答)いろいろな意見が出たが,胸腺摘出術後に改善したことから自己免疫性の病態が考えられる.不随意運動については,主治医はpainful legs and moving toe syndromeの合併を考えている.

7.下肢に強い左半身失行の1例(金賞)
岐阜大学からの症例.4年の経過で,左半身の失行(動画では時間がなく示せなかったが上肢にも肢節運動失行や観念運動失行あり),右上肢筋強剛,右下肢ジストニア,腰を引く小刻み歩行,皮質性感覚障害を呈するが,認知機能障害なし.ある治療を行い,症候は顕著に改善した.右半球優位の萎縮,DATシンチで左右差.
(回答)CBSの表現型を呈した抗IgLON5抗体関連疾患・・・IVIGにて症候はかなり軽減した.

8.振戦とジストニアを呈し、脳波異常、DAT SCAN低下を示した15歳男児
15歳男児.言語発達の遅れ.13歳で右手の振戦と歩行障害が出現.徐々に増悪した.下肢および左手にジストニア.夕方に症状は悪化傾向.知能も軽度低下.DATシンチ両側で低下.
(回答)瀬川病(DYT5A)・・・L-DOPAが有効であった.

9.自己免疫機序が想定される半側舞踏病の68歳女性の例
68歳女性.2年ほど前から左手足が勝手に動くようになった.当初,年数回であったが,徐々に増加した.家族歴はなく,既往歴にGraves病があった.左上肢の筋トーヌス低下.認知症なし.髄液異常なし,腫瘍検索異常なし.抗TPO抗体陽性.DATシンチ正常.
(回答)抗TPO抗体に関連した自己免疫性舞踏運動・・・抗TPO抗体が病因となる自己抗体かは不明.非腫瘍性の自己免疫性コレアとしては,IgLON5やCASPR2,GAD65,CRMP-5/CV2といった報告がある.

10. 階段を下りる際に脚が勝手に動く女性(銅賞)
59歳女性.20歳ごろから階段を降りる際にのみ,右足を前に蹴り出すような不随意運動が見られる.股関節が過屈曲し,膝関節は過伸展する.
(回答)task-specific dystonia of stepping down stairs・・・動作特異的ジストニアである.狭い家屋のため,階段が急である京都において認めることがあるジストニアとのこと.トリヘキシフェニジルが半数で有効.階段を緩やかにすると良い.

11. 1歳からの精神運動退行と小脳萎縮を認めた4歳女児~小児と成人で異なる表現型を示す ある遺伝性疾患~
4歳女児(インドネシア人).家族歴なし.1歳で歩行や会話が困難になった.眼振,嚥下障害,視神経萎縮,痙性と腱反射亢進,筋トーヌス低下を認めた.1歳の時点で小脳萎縮あり.両側淡蒼球の異常信号(鉄沈着).
(回答)PLAN(PLA2G6-associated neurodegeneration)のうちのINADタイプ(infantile neuroaxonal dystrophy)・・・成人の表現型であるPARK14(ジストニア・パーキンソニズム)とは異なる.

12. 慢性片頭痛患者に発現した持続性不随意運動:ブレクスピプラゾールによるアカシジア?
50歳女性.20歳から頭痛.40歳から連日となり,慢性片頭痛と診断される.スマトリプタン,バルプロ酸,トピラマートにて改善.7年前から抑うつ.オランザピンおよびブレクスピプラゾールにて改善.しかし坐位で左下肢の貧乏ゆすり状の不随意運動出現,立位で消失.歩行も遅くなった.MRI,MIBG心筋シンチ異常なし.
(回答)薬剤性遅発性ジスキネジア・・・薬剤中止2週間で改善した.




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MDS バーチャル・ビデオ・チャレンジ

2020年09月15日 | パーキンソン病
パーキンソン病・運動障害疾患コングレスの目玉企画は,世界各国の学会員が経験した症例の不随意運動の動画を持ち寄り,症候や診断・治療を議論するビデオ・チャレンジです.例年と違って事前収録で行われました.今回は日本を含む10カ国12演題が発表されました.「症例提示→第1討論者による臨床推論→解答提示→第2討論者による解説」と時間をかけて行い,予定の3時間を大幅に超過し5時間近くかかりました.名物司会のLang教授とSethi教授も今回はエンタメ要素を廃して,通常の2人のカンファレンスを見ているようでした.私もじっくり勉強しました.さて症例を見ていきましょう.まれな遺伝性疾患はやはり診断は難しいですが,免疫疾患や古典的疾患の意外な症候なども見られます.



◆Case 1 - India
【症例】48歳女性.9年前から,多くは朝に生じる1日3~4回の全身の異常運動.7年前から月3~4回の全身性強直間代発作.発作時の動画はねじるように大きく足首で円を描くなどのchoreo-ballisticな不随意運動.顔面はgrimacing,加えて持続性(非発作時にも見られる)体幹失調・失調歩行.ある治療後,発作消失したが,失調・ジストニアは残存した.
【解答】発作中低血糖が認められ,治療はグルコース静注.膵体部に9×10 mmのインスリノーマ.診断はインスリノーマに伴う上肢・顔面の発作性舞踏運動とジストニア+持続性小脳性運動失調.腫瘍摘出術後,発作は消失したが,失調とジストニアは持続した点がインスリノーマでは非典型的(グルコーストランスポーター欠損症ではしばしば認めるが・・・).

◆Case 2 – Japan(順天堂大学,小川崇先生の症例提示)
【症例】44歳,2ヶ月前から下肢のこわばった感覚(tight sensation).歩行障害と転倒.発作性の全身痙攣(歩行時に跳ね上がる感じの歩行困難→過剰な驚愕反射?ミオクローヌス?).構音障害・嚥下障害,眼瞼下垂.眼球運動障害と複視,網膜色素変性症.BUN↑,Cre↑,Na↑,髄液細胞軽度増加,OCB陽性,MBP陰性.MRI正常,脳波正常.呼吸不全となり人工呼吸器を要した.抗てんかん薬とIVIG後,抜管.過剰な驚愕反射・ミオクローヌスは消失.
【解答】胸部CTで胸腺腫あり.易疲労性もあった.抗グリシン受容体抗体,抗AchR抗体,抗titin抗体が陽性.診断はPERM(progressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus)+MG.本例の複雑な症候はPERMのhyperekplexia,ミオクローヌスとMGに伴う筋無力症状の両者によるものだった.既報に胸腺腫に伴う両者の合併例あり.

◆Case 3 - India(銀賞受賞)
【症例】18歳男性.血族結婚+.30~90分間の眼球上転持続(Oculogyric crisis;眼球上転発作)を過去3回経験(意識障害なし).間欠性の閉眼困難と開口,手指のふるえ(振戦?ポリミニミオクローヌス?),軽度の運動緩慢,上肢筋萎縮,舌線維束性収縮.頭部MRI,脳波正常,針EMG:神経原性変化.
常染色体性劣性遺伝性パーキンソニズム+MND+Oculogyric crisis?
【解答】エクソーム解析でPARK7(DJ-1遺伝子ミスセンス変異ホモ).DJ-1変異で,若年性ジストニア+パーキンソニズム,認知症,脊髄前角障害,Oculogyric crisisが生じうる.

◆Case 4 - Kazakhstan(銅賞受賞)
【症例】両親同じ村出身(血族婚?).兄が類症(軽症).20歳女性.12歳まで正常,その後,進行性の運動障害,認知障害.口舌ジストニア,slow saccade,手指の運動緩慢,Stiffな歩行(ジストニア?パーキンソニズム?痙性?),姿勢保持障害,腱反射亢進,夜間の低換気.頭部MRI T2被殻外側高信号. 骨格異常(骨盤部,脊椎).
【解答】エクソーム解析:GLB1遺伝子遺伝子ミスセンス変異(Phe107Leu)ホモ.GLB1遺伝子はβガラクトシダーゼ酵素をコードする.診断はGM1ガングリオシドーシス.タイプ3(成人型).日本で多い.発症年齢が高齢化すると神経症状が増加し,ジストニアなどの錐体外路徴候,小脳性運動失調が目立つようになり,脊髓小脳変性症などとの鑑別が必要になる.

◆Case 5 - United Kingdom
【症例】18歳女性.一卵性双生児で両者発症.両親にも同様の症状.生後3週後から筋緊張低下と,音などに反応するhyperekplexia.発作性チアノーゼを認めたが年齢とともに減少,クロナゼパムが有効.現在,鼻やおでこを触ると過剰な驚愕反射.手指のミオクローヌス? 脳波,頭部MRI正常.
【解答】診断:遺伝性Hyperekplexia(GLRB遺伝子変異).遺伝性Hyperekplexiaには,3つの原因遺伝子が知られている(GLRA1; glycine receptor subunit A,GLRB; glycine receptor subunit B,SLC6A5; presynaptic glycine transporter 2).チアノーゼと突然死が生じうるので注意が必要.

◆Case 6 - Mexico(金賞受賞)
【症例】11歳女子,血族結婚なし.母の祖父:パーキンソニズム.1.4歳で歩行障害.その後,書字障害,自転車に乗れず. 8歳で上肢安静時振戦,運動緩慢,バランス障害.レボドパで改善会ったが,母が治療継続を希望せず自然食で治療した. 神経学的に上肢の安静時振戦,仮面様顔貌,右優位運動緩慢,両下肢反射亢進,手指ジストニア,歩行時つま先ジストニアないし痙性?(いわゆるCock walk;tiptoeing, erect trunk, exaggerated knee flexion),認知機能低下.頭部MRI正常.よって早期発症ジストニア・パーキンソニズム症候群+認知機能障害+レボドパ反応性が特徴.プラミペキソール少量で著明に改善.
【解答】診断:PARK19(PARK-DNAJC6).複数のDnaJ/Hsp40ファミリー分子(DNAJC6, DNAJC12, DNAJC5, DNAJC10)が家族性パーキンソニズムの原因となることが知られている.分子内にJドメインとよばれるHsp70結合ドメインを有するコシャペロンの一種.DNAJC6(Auxilin)はPARK19, DNAJC13はPARK21である.

◆Case 7 - Portugal
【症例】22歳女性.血族結婚なし,家族歴なし.5年間にわかる進行性の両上肢振戦と軽度の歩行障害にて発症.以後,ごく緩徐に進行.注意障害+遂行機能障害,アパシー.姿勢時振戦,運動時ミオクローヌス,運動緩慢,体幹失調,サッケード開始遅延,上方視制限.頭部MRI著名な小脳萎縮+被殻前方T2 high,T1 low.Jerk-locked averagingでpremovement cortical waveあり(よって不随意運動の一部は皮質性ミオクローヌス).臨床的にミオクローヌス・失調症候群+サッケード遅延+上方視制限.
【解答】メンデリオーム・シークエンス(https://bredagenetics.com/mendeliome/)により,ADRA2B遺伝子変異を同定.診断はFamilial cortical myoclonic tremor and epilepsy type 2(FCMTE type 2).

◆Case 8 - United Kingdom
【症例】45歳女性,家族内類症なし.右半身の運動緩慢とジストニア.歩行時にも異常姿勢を伴う歩行障害(手の振り↓).プラミペキソールにより幻覚,レボドパに変更し,運動緩慢は中等度改善したが,歩行は十分に改善しなかった.夜間の下肢の痛みあり.DAT正常.
【解答】α-GAL-A遺伝子点変異.診断:Anderson-Fabry病(日本ではFabry病が一般的だが,ドイツ人皮膚科医のJohannes Fabryと,イギリス人皮膚科医のWilliam Andersonにより別々に報告されたので,海外ではこのように呼ぶ).X染色体連鎖性,αガラクトシダーゼ活性欠損ないし低下.リソソーム病の一つだが,パーキンソニズムを呈するリソソーム病としてGaucher病が有名.αシヌクレインはリソソームで分解されるが,Fabry病でパーキンソニズムを合併するかは今後の症例集積が必要.

◆Case 9 - Canada
【症例】83歳男性.60歳発症,緩徐進行性眼瞼下垂(同胞にもあり).眼瞼下垂,眼球運動障害,レボドパ不応性パーキンソニズム(運動緩慢,姿勢保持障害,転倒),構音・嚥下障害,協調運動障害,失調歩行,深部覚障害.車椅子.パーキンソニズム・失調症候群.PSP mimics?ミトコンドリア病?
【解答】エクソーム解析でAFG3L2遺伝子変異.診断:SCA28.イタリアやフランスなど主に欧州で報告されるADCA.レボドパ不応性パーキンソニズムを呈する.眼瞼下垂が特徴的で,眼球運動障害も合わせるとミトコンドリア病を思わせる.実際にAFG3L2遺伝子はミトコンドリア・プロテアーゼをコードし,parapleginに近縁である.

◆Case 10 - Spain
【症例】34歳男性.新生児黄疸,生後24ヶ月で言語発達遅延,歩行障害.5歳,精神神経発達障害,感音性難聴,発語失行,構音障害,失調歩行.小頭症,長い手,大きな耳・鼻,頭部MRI脳室周囲白質異常.32~34歳,歩行,バランス障害増悪,歩行障害は進行性で転倒頻回.腱反射亢進(先天性+進行性).シアロトランスフェリンアイソフォーム異常.
【解答】GALT遺伝子変異複合ヘテロ.診断:ガラクトース血症I型.常染色体劣性.ガラクトースをグルコースに変換する酵素が遺伝学的に欠損することによって生じる.肝・腎障害,認知障害,白内障,早発卵巣不全などがある.日本では新生児マススクリーニングの対象疾患.

◆Case 11 - USA
【症例】32歳男性,精巣腫瘍(seminoma)の既往. 27歳,上肢と頭部の振戦,アルコールで軽度改善.
28歳,軽度のバランス障害.31歳,小脳性構音障害,頭部MRI小ぶりの小脳.おもりを持つと姿勢時振戦↑四肢失調,失調性歩行.OCB+.商業ベースの既報の自己抗体すべて陰性.
【解答】Mayo clinicにて,げっ歯類脳を用いた免疫染色を行い陽性. 診断: 抗KELCH-like protein 11抗体陽性の傍腫瘍性脳炎.

◆Case 12 - India
【症例】67歳.とうもろこしとご飯だけ食べていた.3週間前からじっとしていられない混迷状態となった.亜急性の前頭優位の皮質下認知症.下肢のアテトーゼ様運動,両肘などの左右対称性皮疹,下痢の持続.
【解答】診断:ペラグラ=ナイアシン(ニコチン酸)欠乏症.ナイアシンの内服で改善.3D(dermatitis, dementia, diarrhea)に加え,診断見逃し+無治療でdeath(4D).


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新しいパーキンソン病像(1886年からから2020年バージョンへ)

2020年07月29日 | パーキンソン病
Gowers先生による1886年のパーキンソン病のスケッチ(A)は4月27日の私のFBでも取り上げましたが,世界で最も使用され,教科書やインターネット上でしばしば見ることのできる有名な写真です.このスケッチに対し,フロリダ大学神経内科Melissa Armstrong先生ら(CBD の臨床診断基準;Armstrong 基準の先生です)は「この虚弱に見える男性のスケッチは確かにパーキンソン病について理解する助けにはなったが,今日のパーキンソン病とともに生きる人々の姿を反映していない」「患者数が急増し,社会的影響が拡大し続けるなか,病気を正確に表現することの重要性がますます高まっている」と考え,JAMA Neurology誌に2020年バージョンの新しいスケッチを発表しました.この疾患の多様性を1枚のスケッチで表すことは困難と考え,3つの絵で示しています.Bは症状が軽く活動的な生活ができる若い女性(右足にジストニア),Cは少し年配になり,「オン」と「オフ」を認める状態,そしてDは症状が進行し生活が制限された高齢男性が描かれています.性別,年齢,活動度に加え人種にも配慮がなされています.Armstrong先生らは「幅広い多様性を含むようにスケッチを改良することは,パーキンソン病の認知度を高め,現代のパーキンソン病患者さんが有意義な人生を送ることに役立つ」と述べています.今後,教育や説明資料等にこの図を使っていきたいと思います.

Armstrong MJ, Okun MS. Time for a New Image of Parkinson Disease. JAMA Neurol. 2020;10.1001/jamaneurol.2020.2412. doi:10.1001/jamaneurol.2020.2412


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世界で最も有名なパーキンソン病患者の臨床像

2020年04月27日 | パーキンソン病

この写真を見て「実在したのか!」と驚いた人もいるのではないでしょうか.教科書で目にしてきたパーキンソン病のイラストのモデルとなった人物です.この2枚の写真をもとにして,「史上最高の臨床神経学者」と評された英国の神経学者William R. Gowers(1845~1915年)が,著書A Manual of Disease of the Nervous System(1893)のなかにイラストを書きました.そしてこの患者さんの写真は,臨床神経学の父,Jean-Martin Charcot先生の弟子であるSt. Legarの博士論文のなかに含まれているものなのだそうです.この患者さん,Pierre Dさんは1822年,中央フランスの生まれで,1876~79年にかけてパリのサルペトリエール病院に通院しました.50歳より若くして発症し,初診時には筋強剛,振戦に加え,写真のように特徴的な姿勢異常を認めました.St. Legarは,さらに歩行時の一側の腕の振りの減少,仮面様顔貌,流涎,単調なしゃべりを指摘し,書字障害も記録に残しています.そしてそのなかで最も特徴的な所見は姿勢異常だと記しています.つまりJames Parkinsonが原著「振戦麻痺」に記載しなかった所見を,Charcot先生とその弟子が見出したという,この疾患の概念を大きく変えることになった症例でもあるわけです.世界でも最も有名なパーキンソン病患者さんのイラストは,パーキンソン病が現在の疾患概念に変わったことを示す記念碑とも言えるわけです. 

左はA Manual of Disease of the Nervous Systemのイラスト,右はGowersによるオリジナルのデッサンです.



Mov Disord 35;389-91, 2020



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