日本睡眠学会第40回学術集会@宇都宮に参加した.トピックスの一つとして,睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)への改訂があり,そのなかで中枢性過眠症群(ナルコレプシー,特発性過眠症,反復性過眠症)における変更点についてまとめたい.とくにナルコレプシーの診断が大きく変わって,糖尿病のように1型,2型という分類に変わった.
1.ナルコレプシー
ICSD-2では情動脱力発作(Cataplexy)の有無により分類されていたが,ICSD-3では脳脊髄液中オレキシンA濃度低下の有無でタイプ1,2に分類するということに大きく変わった.つまりICSD-2では以下の3つに分類されていたが,
1)情動脱力発作を伴うナルコレプシー
2)情動脱力発作を伴わないナルコレプシー
3)身体疾患によるナルコレプシー
ICSD-3では以下の2つになる.
1)ナルコレプシー タイプ1
2)ナルコレプシー タイプ2
これは髄液オレキシン欠乏こそが,現在使用できる最善のバイオマーカーとの考えに基づくもので,情動脱力発作がなくても髄液オレキシン欠乏があればナルコレプシータイプ1とし,脳腫瘍やNMOなど身体疾患に伴う二次性であっても髄液オレキシン欠乏があればナルコレプシータイプ1と診断することになる.以下,具体的な診断基準.
ナルコレプシータイプ1の診断基準
A. 耐え難い睡眠要求や日中に寝込んでしまうことが毎日,少なくとも3ヶ月以上続く.
B. 下記のいずれか,あるいは双方が存在する.
1.情動脱力発作*が存在,かつMSLT基準**を満たす.
2.髄液オレキシンA濃度低値***(髄液オレキシン欠乏)
(補足説明)
*情動脱力発作:定義の拡張が行われ,典型的なものに加え,「小児発症期に見られる非典型な情動脱力発作」も含めることになった.具体的には,首脱力,挺舌,眼瞼下垂,顔面筋緊張低下,全身筋緊張低下で,これらは経時的に典型的なものに移行することが分かっている.
**MSLT(睡眠潜時反復検査)基準:平均睡眠潜時が8分以下で,SOPEMP(入眠後15分以内でのREMの出現)が2回以上あること.ただし前夜のPSGでSOREMPが1回あれば,MSLTでの1回分として代替できるようになり,診断基準が緩和された.
***髄液オレキシンA濃度低値:髄液中のオレキシン値が110 pg/mL以下か,同時に測定された正常対照群から得られた平均値の1/3未満であること.
ナルコレプシータイプ2の診断基準
A. 耐え難い睡眠要求や日中に寝込んでしまうことが毎日,少なくとも3ヶ月以上続く.
B. MSLT基準を満たす.
C. 情動脱力発作が存在しない.
D. 髄液オレキシンA濃度が未測定か,測定した場合にオレキシン欠乏がない.
E. 他の原因で過眠症状やMSLT所見をよりよく説明できない.
すなわち,A,Bが必要な条件で,C-Eは除外条件になる.
ここで問題になるのは診断を行うのに髄液オレキシンA濃度測定とMSLTが必須になったことである.いずれも専門病院でしか診断ができないし,髄液検査を,過眠を訴えて受診する患者さん全員に施行するということは非現実的に思う(これに対し,ICSD-3では侵襲性の少ないHLA遺伝子型のタイピングを行い,ナルコレプシー特有のHLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ場合にのみ髄液検査を行うことを提案している).またMSLT(睡眠潜時反復検査)はどの病院でも施行できるというわけではなく,できたとしても1日脳波室を使用するため,そう多く検査が施行できるわけではない.さらにタイプ1,2いずれにしてもMSLT基準を満たす必要がある.つまり過眠,情動脱力発作があってもMSLT基準を満たさなければいずれにも診断されないわけで,このような症例をどう扱うかが難しい.個人的には今回の診断基準の改訂はデメリットも少なくないような印象を持つ.
2.特発性過眠症
十分量の睡眠をとっても熟眠感が得られず,終日強い眠気が遷延する疾患である.朝起きられず,重症例では「睡眠酩酊(不完全な覚醒状態が遷延し,無理に起こすと酩酊しているような状態になる)」が生じる.日中も,一旦寝るとなかなか起きられず1時間以上かかってしまう.
ICSD-2では「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」と「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」に分類されていたが,その後の検討で,これら2つの臨床検査所見には差が見られないため,単一の特発性過眠症として統合されることになった.診断基準において変更された項目としては,従来のMSLTの平均睡眠潜時8分以下のほかに,24時間の総睡眠時間が660分以上(典型的には12~14時間),あるいはアクチグラフィーで,7日間で平均した1日の総睡眠時間が11時間以上であることも追加された.24時間PSGやアクチグラフィー検査をどのように行うかが問題になる.
3.反復性過眠症
クライネ・レビン症候群に名称が変更になり.具体的な臨床の記述が追加され,認知機能障害,知覚変容,食行動異常,脱抑制行動という合併症の存在が診断基準に追加された.
日本睡眠学会 第40回定期学術集会
1.ナルコレプシー
ICSD-2では情動脱力発作(Cataplexy)の有無により分類されていたが,ICSD-3では脳脊髄液中オレキシンA濃度低下の有無でタイプ1,2に分類するということに大きく変わった.つまりICSD-2では以下の3つに分類されていたが,
1)情動脱力発作を伴うナルコレプシー
2)情動脱力発作を伴わないナルコレプシー
3)身体疾患によるナルコレプシー
ICSD-3では以下の2つになる.
1)ナルコレプシー タイプ1
2)ナルコレプシー タイプ2
これは髄液オレキシン欠乏こそが,現在使用できる最善のバイオマーカーとの考えに基づくもので,情動脱力発作がなくても髄液オレキシン欠乏があればナルコレプシータイプ1とし,脳腫瘍やNMOなど身体疾患に伴う二次性であっても髄液オレキシン欠乏があればナルコレプシータイプ1と診断することになる.以下,具体的な診断基準.
ナルコレプシータイプ1の診断基準
A. 耐え難い睡眠要求や日中に寝込んでしまうことが毎日,少なくとも3ヶ月以上続く.
B. 下記のいずれか,あるいは双方が存在する.
1.情動脱力発作*が存在,かつMSLT基準**を満たす.
2.髄液オレキシンA濃度低値***(髄液オレキシン欠乏)
(補足説明)
*情動脱力発作:定義の拡張が行われ,典型的なものに加え,「小児発症期に見られる非典型な情動脱力発作」も含めることになった.具体的には,首脱力,挺舌,眼瞼下垂,顔面筋緊張低下,全身筋緊張低下で,これらは経時的に典型的なものに移行することが分かっている.
**MSLT(睡眠潜時反復検査)基準:平均睡眠潜時が8分以下で,SOPEMP(入眠後15分以内でのREMの出現)が2回以上あること.ただし前夜のPSGでSOREMPが1回あれば,MSLTでの1回分として代替できるようになり,診断基準が緩和された.
***髄液オレキシンA濃度低値:髄液中のオレキシン値が110 pg/mL以下か,同時に測定された正常対照群から得られた平均値の1/3未満であること.
ナルコレプシータイプ2の診断基準
A. 耐え難い睡眠要求や日中に寝込んでしまうことが毎日,少なくとも3ヶ月以上続く.
B. MSLT基準を満たす.
C. 情動脱力発作が存在しない.
D. 髄液オレキシンA濃度が未測定か,測定した場合にオレキシン欠乏がない.
E. 他の原因で過眠症状やMSLT所見をよりよく説明できない.
すなわち,A,Bが必要な条件で,C-Eは除外条件になる.
ここで問題になるのは診断を行うのに髄液オレキシンA濃度測定とMSLTが必須になったことである.いずれも専門病院でしか診断ができないし,髄液検査を,過眠を訴えて受診する患者さん全員に施行するということは非現実的に思う(これに対し,ICSD-3では侵襲性の少ないHLA遺伝子型のタイピングを行い,ナルコレプシー特有のHLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ場合にのみ髄液検査を行うことを提案している).またMSLT(睡眠潜時反復検査)はどの病院でも施行できるというわけではなく,できたとしても1日脳波室を使用するため,そう多く検査が施行できるわけではない.さらにタイプ1,2いずれにしてもMSLT基準を満たす必要がある.つまり過眠,情動脱力発作があってもMSLT基準を満たさなければいずれにも診断されないわけで,このような症例をどう扱うかが難しい.個人的には今回の診断基準の改訂はデメリットも少なくないような印象を持つ.
2.特発性過眠症
十分量の睡眠をとっても熟眠感が得られず,終日強い眠気が遷延する疾患である.朝起きられず,重症例では「睡眠酩酊(不完全な覚醒状態が遷延し,無理に起こすと酩酊しているような状態になる)」が生じる.日中も,一旦寝るとなかなか起きられず1時間以上かかってしまう.
ICSD-2では「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」と「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」に分類されていたが,その後の検討で,これら2つの臨床検査所見には差が見られないため,単一の特発性過眠症として統合されることになった.診断基準において変更された項目としては,従来のMSLTの平均睡眠潜時8分以下のほかに,24時間の総睡眠時間が660分以上(典型的には12~14時間),あるいはアクチグラフィーで,7日間で平均した1日の総睡眠時間が11時間以上であることも追加された.24時間PSGやアクチグラフィー検査をどのように行うかが問題になる.
3.反復性過眠症
クライネ・レビン症候群に名称が変更になり.具体的な臨床の記述が追加され,認知機能障害,知覚変容,食行動異常,脱抑制行動という合併症の存在が診断基準に追加された.
日本睡眠学会 第40回定期学術集会