Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ナルコレプシー タイプ1,2(ICSD-3による診断基準の大改訂)

2015年07月05日 | 睡眠に伴う疾患
日本睡眠学会第40回学術集会@宇都宮に参加した.トピックスの一つとして,睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)への改訂があり,そのなかで中枢性過眠症群(ナルコレプシー,特発性過眠症,反復性過眠症)における変更点についてまとめたい.とくにナルコレプシーの診断が大きく変わって,糖尿病のように1型,2型という分類に変わった.

1.ナルコレプシー
ICSD-2では情動脱力発作(Cataplexy)の有無により分類されていたが,ICSD-3では脳脊髄液中オレキシンA濃度低下の有無でタイプ1,2に分類するということに大きく変わった.つまりICSD-2では以下の3つに分類されていたが,
1)情動脱力発作を伴うナルコレプシー
2)情動脱力発作を伴わないナルコレプシー
3)身体疾患によるナルコレプシー
ICSD-3では以下の2つになる.
1)ナルコレプシー タイプ1
2)ナルコレプシー タイプ2


これは髄液オレキシン欠乏こそが,現在使用できる最善のバイオマーカーとの考えに基づくもので,情動脱力発作がなくても髄液オレキシン欠乏があればナルコレプシータイプ1とし,脳腫瘍やNMOなど身体疾患に伴う二次性であっても髄液オレキシン欠乏があればナルコレプシータイプ1と診断することになる.以下,具体的な診断基準.

ナルコレプシータイプ1の診断基準
A. 耐え難い睡眠要求や日中に寝込んでしまうことが毎日,少なくとも3ヶ月以上続く.
B. 下記のいずれか,あるいは双方が存在する.
1.情動脱力発作*が存在,かつMSLT基準**を満たす.
2.髄液オレキシンA濃度低値***(髄液オレキシン欠乏)
(補足説明)
*情動脱力発作:定義の拡張が行われ,典型的なものに加え,「小児発症期に見られる非典型な情動脱力発作」も含めることになった.具体的には,首脱力,挺舌,眼瞼下垂,顔面筋緊張低下,全身筋緊張低下で,これらは経時的に典型的なものに移行することが分かっている.

**MSLT(睡眠潜時反復検査)基準:平均睡眠潜時が8分以下で,SOPEMP(入眠後15分以内でのREMの出現)が2回以上あること.ただし前夜のPSGでSOREMPが1回あれば,MSLTでの1回分として代替できるようになり,診断基準が緩和された.

***髄液オレキシンA濃度低値:髄液中のオレキシン値が110 pg/mL以下か,同時に測定された正常対照群から得られた平均値の1/3未満であること.

ナルコレプシータイプ2の診断基準
A. 耐え難い睡眠要求や日中に寝込んでしまうことが毎日,少なくとも3ヶ月以上続く.
B. MSLT基準を満たす.
C. 情動脱力発作が存在しない.
D. 髄液オレキシンA濃度が未測定か,測定した場合にオレキシン欠乏がない.
E. 他の原因で過眠症状やMSLT所見をよりよく説明できない.
すなわち,A,Bが必要な条件で,C-Eは除外条件になる.

ここで問題になるのは診断を行うのに髄液オレキシンA濃度測定とMSLTが必須になったことである.いずれも専門病院でしか診断ができないし,髄液検査を,過眠を訴えて受診する患者さん全員に施行するということは非現実的に思う(これに対し,ICSD-3では侵襲性の少ないHLA遺伝子型のタイピングを行い,ナルコレプシー特有のHLA-DQB1*06:02遺伝子型をもつ場合にのみ髄液検査を行うことを提案している).またMSLT(睡眠潜時反復検査)はどの病院でも施行できるというわけではなく,できたとしても1日脳波室を使用するため,そう多く検査が施行できるわけではない.さらにタイプ1,2いずれにしてもMSLT基準を満たす必要がある.つまり過眠,情動脱力発作があってもMSLT基準を満たさなければいずれにも診断されないわけで,このような症例をどう扱うかが難しい.個人的には今回の診断基準の改訂はデメリットも少なくないような印象を持つ.

2.特発性過眠症

十分量の睡眠をとっても熟眠感が得られず,終日強い眠気が遷延する疾患である.朝起きられず,重症例では「睡眠酩酊(不完全な覚醒状態が遷延し,無理に起こすと酩酊しているような状態になる)」が生じる.日中も,一旦寝るとなかなか起きられず1時間以上かかってしまう.
ICSD-2では「長時間睡眠を伴う特発性過眠症」と「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症」に分類されていたが,その後の検討で,これら2つの臨床検査所見には差が見られないため,単一の特発性過眠症として統合されることになった.診断基準において変更された項目としては,従来のMSLTの平均睡眠潜時8分以下のほかに,24時間の総睡眠時間が660分以上(典型的には12~14時間),あるいはアクチグラフィーで,7日間で平均した1日の総睡眠時間が11時間以上であることも追加された.24時間PSGやアクチグラフィー検査をどのように行うかが問題になる.

3.反復性過眠症
クライネ・レビン症候群に名称が変更になり.具体的な臨床の記述が追加され,認知機能障害,知覚変容,食行動異常,脱抑制行動という合併症の存在が診断基準に追加された.

日本睡眠学会 第40回定期学術集会


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どうして春になると眠くなるの?

2015年03月10日 | 睡眠に伴う疾患
新潟日報から子供向けの新聞コーナー「教えて!ふむふむ先生」の取材を受けた.テーマは睡眠に関する素朴な疑問で,極力わかりやすく答えることを心がけた.ここでは大人向けにもう少し詳しく回答を書いてみたい.質問は以下の4つであった.なかなかの難問である.

1)どうして春になると眠くなるの?
2)どうしてご飯を食べたあとは眠くなるの?
3)寝だめはできるの?
4)どうしたらよく眠れるの?


1)どうして春になると眠くなるの?
孟浩然の詩『春暁』にもあるとおり,国や時代を問わず,ひとは春は眠いようである.調べても良い文献は見当たらなかったが,一般に2つの説があるようだ.
理由1.夜明けが早くなったことに体が慣れていないため
例えば新潟の場合,日の出は1月で7時,4月で5時30分で,1時間半の差がある.脳の視交叉上核にある体内時計はこれに合わせて起きる時間をだんだん早くしていく.しかし脳は早く起きようとしても,体のほうがまだ慣れていないのでしばらく眠気を感じてしまう.
理由2.気候が暖かくなり,副交感神経が優位となるため
環境に応じて臓器のはたらきを調節する神経として自律神経系がある.冬の間は寒いので体を守るための交感神経がつよく働き眠気は起こりにくいが,春になり暖かくなると体をリラックスさせる副交感神経が強く働き,眠気が起こりやすくなる.

2.どうしてご飯を食べたあとは眠くなるの?
食後の眠気も年齢にかかわらず起こる.赤ちゃんもおっぱいを飲んだあとは眠くなり,おなかがすくと起きて泣く.またこの現象はヒトに限ったことではないらしく,睡眠学の教科書には鳥類やラット,ネコでも食後は睡眠が増加すると書かれている.

この食後の眠気の原因として,覚醒と食欲に関わるホルモンである「オレキシン」と満腹ホルモンの「レプチン」が影響している.空腹になり血糖値が低下すると,食欲をもたらすオレキシン(ヒポクレチン)が脳から分泌される(図左).オレキシンの増加は食欲とともに覚醒をもたらす.すなわち覚醒していることと食欲はセットで起こり, お腹が空いている時には眠くない!(例えばダイエット中は夜眠りにくくなり,結局食べてしまい,ダイエットに失敗するのはこのためである)逆に満腹になるとオレキシンが減って,覚醒しにくくなり,眠くなってくる(覚醒と睡眠はシーソーの関係とよく言われる).

また食事により血糖値が上昇すると,レプチンが脂肪細胞から分泌される.このホルモンはオレキシンを抑制するため,食欲が抑えられると同時に眠くなってくる.だから,大事な試験や仕事の時などのときには満腹は避けたほうが良いのだ.

3.寝だめはできるの?
新聞ではスペースが足らず,割愛されてしまった.寝だめは予めたくさん寝ていれば,次の日の睡眠時間を減らせるということ.たとえばいつも7時間寝ているヒトが,9時間寝れば,次の日5時間ですむかということだが,残念ながら眠くなってしまうので寝だめはできない.言い換えると,睡眠時間の貯金はできないということである.
しかし5時間しか眠れなかった人が,翌日9時間眠ることはよくあり,これは回復に役立つ.すなわち,睡眠の不足分(借金:専門的には睡眠負債という)をあとで返済することはできるのだ.ただし,長い時間寝るとき気をつけなくてはならないのは,夜いつもの時間に寝て昼近くまで寝ているのではなく,夜早く寝て朝はいつもの時間に起きるようにすることである.これは昼近くまで寝ていると,その後の睡眠時間のリズムがずれてしまうのでかえって良くないためだ.


4.どうしたらよく眠れるの?
1)体温
人は体温(深部体温=直腸温)が低下するときに眠くなる(図右).入浴後,体温が冷めていく時は眠るのに良いタイミングである.逆に電気毛布は体温が下がりにくくなるので,ずっとスイッチを入れておかず,温まったら切ることが良い.

2)光
もうひとつの眠りのホルモンに「メラトニン」がある.これは夜,脳から分泌されて眠けをもたらす.このメラトニンは光の刺激によって調節されている.暗い状態(光が目に入らない状態)だと,夜だと思いメラトニンが分泌され,眠くなる.逆に光が目に入ると,昼間だと思いメラトニンの分泌が抑えられ,眠くならない.
寝る前に強い光が眼に入ること(テレビゲーム,iPadなど)はメラトニンの分泌が抑えられ,眠れなくなるので避けたほうが良い.逆にカーテンを少し開けて寝ると,朝,光のためにメラトニンの分泌が抑えられて,スッキリ起きられる.
またメラトニンの減少は不眠を招く.メラトニンはセロトニンから合成され,そのセロトニンはトリプトファンから合成される.トリプトファンは必須アミノ酸であり,体内で合成できないので,牛乳やバナナなどトリプトファンを多く含む食物から補給する必要がある.




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REM睡眠行動障害発症の環境要因

2012年07月08日 | 睡眠に伴う疾患
REM睡眠行動障害(RBD)は睡眠時随伴症(パラソムニア)のひとつで,REM睡眠中に夢に関連した異常行動を示す.とくに睡眠の中~後期のREM睡眠期に,大きな寝言,腕を振り回す,布団を蹴るなどの動作をきたす.夢の内容は,ケンカをしたり,攻撃されたり,不快で恐怖に満ちた悪い夢が多い.ベッドの周辺の障害物にぶつけたり,場合によっては,自分,ベッドパートナーがケガすることもある.「ためしてガッテン」などでの放送のせいか,外来に受診される患者さんも増えている印象がある.

またRBDには,①αシヌクレイノパチー発症の危険因子になりうる,②RBDを合併するαシヌクレイノパチーは特徴的な臨床像を呈する可能性がある,という2つの意義もある.①については,海外では発症から10年が過ぎると半数以上の症例で何らかのαシヌクレイノパチー(パーキンソン病,レビー小体型認知症,多系統萎縮症)を発症するという報告がある.しかし日本人でのデータはなく,海外のデータが日本人に当てはまるか不明で,個人的には過度に心配し過ぎないほうが良いように思う.②は,RBDを合併するパーキンソン病は35~50%と報告されるが,それらの症例の特徴として,自律神経障害,幻覚,認知障害を認め,akinetic rigid subtypeとなる(無動や筋強剛を主徴とする)ことが報告されている.またRBDを合併するレビー小体型認知症は,パーキンソニズムや幻覚の出現が早く,病理におけるアルツハイマー病的変化が少ないとされている.

一方,RBD発症の環境要因としては,男性であることと加齢が知られているほかは不明である.しかし,上述のようにαシヌクレイノパチーと関連を認めることから,αシヌクレイノパチーにおける環境要因があてはまる可能性がある.今回,2008年に結成されたInternational RBD study group(RBDSG)による国際多施設症例対照研究の結果が報告されたので紹介したい.

参加施設は日本の獨協医大を含む13の施設で,対象は特発性RBDである.対照は年齢・性別をマッチさせた健常者である.環境および生活習慣因子は標準化を行った質問紙により行った.年齢,性別,施設を考慮したロジスティック回帰により環境要因を検討した.

結果として,計694名(患者347名,対照347名)を検討した.患者の年齢は平均67.7 ± 9.6歳で,81.0%が男性であった.環境要因としては,患者は対照と比較し喫煙者が多いが(64.0% vs 55.5%,調整オッズ比(OR)1.43,p = 0.028),カフェインやアルコールについては有意差を認めなかった.患者は頭部外傷の既往が多く(19.3% vs 12.7%,OR = 1.59,p = 0.037),患者は教育年数が短く(11.1 ± 4.4年vs 12.7 ± 4.3年,p < 0.001),農家として働いた頻度が高かった(19.7% vs 12.5%,OR = 1.67,p = 0.022) .マンガン暴露を生じうる溶接業はボーダーラインだった(17.8% vs 12.1%,OR = 1.53,p = 0.063).過去の職業での農薬暴露は患者群で多かった(11.8% vs 6.1%,OR = 2.16,p = 0.008).以上より,<font color="blue">喫煙,頭部外傷,農薬暴露,農業,短い教育年数がRBD発症の危険因子である可能性が考えられた.

今回,見出された環境要因のうち,頭部外傷,農薬暴露,農業はパーキンソン病の環境要因として知られ,また喫煙,頭部外傷,短い教育年数は認知症の環境要因として知られており,RBDとαシヌクレイノパチーの間の環境要因にオーバーラップがある可能性を示唆する.しかし,異なる点も認められる.例えばカフェイン(コーヒー)はパーキンソン病発症に抑制的であることが知られているが,今回,RBDにおいては関連は認めなかった.また喫煙はパーキンソン病発症のリスクを下げることが知られているが,逆にRBD発症のリスクを上げる結果となった.

以上より,RBDの環境要因はパーキンソン病とは完全には一致せず,発症のメカニズムはそう単純ではないものと考えられた.

Neurology. 2012 Jun 27. [Epub ahead of print]

RBDのビデオ画像(この方はREM睡眠期にあり,起きているわけではありません)


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〈眠り〉は必要か?

2012年04月01日 | 睡眠に伴う疾患
試験前や仕事が終わらない時など「眠らなくて済んだらどんなに良いだろう」と思った.Nancy KressのSF小説「ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)(Beggars in Spain;1993年)」は遺伝子操作で生まれた「無眠人(sleepless)」の話である.物語のなかでは,眠りは進化の過程で残った「不要なメカニズムの名残り」と考えられ,受精卵に対する遺伝子操作により「無眠人」が誕生する.彼らは眠らずにすむという絶大なアドバンテージを持ち,一般の「有眠人(sleeper)」よりあらゆる面で優れ,頭脳明晰で社会を牽引する少数派となる.しかし,弱者集団でありながら多数派である「有眠人」の嫉妬を買い,さらにNew Eng J Med誌(!)に報告されたある無眠人の脳病理の研究発表から憎悪の対象となることが決定的となる.物語では「無眠人」のひとりの女の赤ちゃんが司法試験を受けるまでが描かれるが,平等と社会格差,弱者集団への差別とaffirmative action(改善措置)など現代に通ずる社会的問題を絡めて展開され,SF小説の域を遥かに超える内容となっている(事実,ヒューゴー賞,ネビュラ賞など総ナメにした).ご一読をお勧めしたいが,ここで問題にしたいのは「はたして本当に眠りは不必要なものなのか?眠らないと人間はどうなるのだろうか?」ということだ.

実は最近の研究で,眠りは,身体を休めたりストレスを発散したりするだけではなく,記憶(陳述記憶や手続き記憶)を強化したり,認知症の防止(脳アミロイドの沈着抑制),免疫能の維持やホルモン分泌に重要であることが分かっている.動物実験では,高度の断眠(睡眠不足)は,視床下部の恒常性の破綻をもたらし,体重減少や体温低下などを引き起こす.ヒトにおいても遺伝性プリオン病である「致死性家族性不眠症」では徐波睡眠が欠如し,入眠や睡眠維持が困難となるが,病名のごとく予後はきわめて不良である.つまり眠りは「身体を休めている」という消極的なものでは決してなく,「積極的に脳のメインテナンスと情報管理を行う」という能動的な過程である.

さて最近,「<眠り>をめぐるミステリー―睡眠の不思議から脳を読み解く (NHK出版新書)」という本を読んだ.本書は,食欲や報酬系に関わり,さらに睡眠や覚醒を制御する神経ペプチドであるオレキシン(別名ヒポクレチン)を1998年に発見した櫻井武先生による「睡眠の謎」をわかりやすく解説したものである.「致死性家族性不眠症」の話に始まり,ノンレムパラソムニア(いわゆる夢遊病や,就眠後,無意識にものを食べはじめてしまう睡眠関連摂食障害[SRED; Sleep-related eating disorders]の話),現在,夢はどのように考えられているのかという話,ナルコレプシーという過眠症の話,「ためしてガッテン」で取り上げられて以降,外来に何人も訪れるようになったレム睡眠行動障害(RBD)の話,そして「小説,映画,音楽に見る眠りの謎」と,面白い話が続く.睡眠医学に興味を持ちつつも,忙しくて勉強する時間がとれない「有眠人」に最適な入門書かもしれない.その他,印象深かったいくつかの記載を書き出してみる.

・ 夢が奇妙なわけは,レム睡眠中,前頭前野の活動(=メタ認知:認知を認知する能力)が低下しているためで,また,夢を記憶していないわけは,海馬(=ワーキングメモリ)機能の低下があるため.
・ レム睡眠ではストレスに関係する脳内の化学物質のレベルが下がり,ショッキングな記憶に対する感情的な反応を和らげる作用がある.
・ 睡眠は脳全体に起こるのではなく「局所的に」起こりうる(ローカルスリープという).
・ 2008年にイギリスで,就寝中の妻を,レム睡眠行動障害に罹患した睡眠中の夫が(ケンカをする夢をみた結果)殺してしまうという事件が起きた.
・ ベルリオーズによる幻想交響曲は,自分の夢体験をそのまま作品として結実させたのではないだろうか.

昨年の日本睡眠学会に参加した際,「睡眠は夜の神経学である」という言葉を聞いた.睡眠やその異常から垣間見る「脳の機能」,つまり睡眠中に脳や身体に何が起こっているかを理解することは,今後,神経学において重要な方向性のひとつとなるのではないだろうか.まだまだ理解できていないことがたくさんあるように思う.以下,個人的に睡眠医学の学習におすすめの本をご紹介したい.


睡眠障害診療ガイド・・・入門書・教科書として最適(薄い本ながらエッセンスが詰まっている) 

睡眠障害国際分類 第2版―診断とコードの手引・・・睡眠疾患を理解する上でのバイブル 

臨床睡眠検査マニュアル・・ポリソムノグラフィーなどの睡眠の検査を学ぶのにお薦め 
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うとうとした時,ビクッとするのはなぜ?

2011年12月17日 | 睡眠に伴う疾患
新潟ローカルのテレビの視聴者からの疑問に答えるコーナーに出演させて頂きました.前回は「アイスクリームを食べるとなぜ頭が痛くなるの?」という質問でしたが,(なぜアイスクリームで頭痛が起こるか?を参照),今回は「うとうとした時,ビクッとするのはなぜ?」でした.

答えられず,勉強しました(笑).睡眠障害国際分類第2版(ISCD-2)を読むと,Ⅶ章の「孤発性の諸症状,正常範囲と思われる異型症状,未解決の諸問題」のなかの「5.睡眠時ひきつけ(睡眠時びくつき)」,英語で言うところのsleep starts(hypnic jerks)に相当するようです.診断基準があって(!)「A.睡眠開始に短い筋攣縮が突然起こり,主として足や腕であること.B.以下の少なくとも1つを伴うこと(主観的な転倒感,閃光感,入眠時の夢).C.他の睡眠障害や身体・神経・精神疾患,薬物使用の除外」だそうです.さらに調べると起こりやすい体位があって,椅子などに座って寝ているときに起こりやすく,またカフェインの過剰摂取,激しい肉体労働,情動ストレスが誘因になるそうです.

実は私もときどき経験します.新幹線でうとうとしてビクっとなり,布団のなかで起こるときは何か床下に落下する感じがします(たしかに落下感という記載もあります).頻度については,睡眠障害国際分類第2版には60~70%と書かれていますが,たまたま昨日の私の学生講義のテーマが睡眠医学であったので学生に聞いたところ,9割以上の学生さんが経験があると答えていました.

教科書的にはあらゆる年齢に認められ,性差もないそうです.病的な意義はないものの,あまりに強いと寝入るのが怖くなって慢性的な不安を生じることもあるそうです.鑑別すべき病態として,四肢の筋収縮が周期的に生じる「周期性四肢運動症」が考えられますが,これは明らかに症状が違っていて,足の筋収縮がゆっくり反復します.自分ではあまり分からず,隣に寝ているひとからよく足を動かしているとか指摘されて気が付きます(レストレスレッグス症候群やナルコレプシー,REM睡眠行動障害に合併することも多いです).

勉強になりましたが,何のためにこの現象はあるのでしょうね?


睡眠障害国際分類 第2版(睡眠障害を勉強するのに一番良い教科書の1つと思います)
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驚きの・・・むずむず「腹」症候群

2011年10月01日 | 睡眠に伴う疾患
レストレスレッグス症候群(RLS),別名むずむず脚症候群は,その名前を見ても,診断基準のurge to move the legs(足を動かしたい衝動)を見ても脚に症状を来す疾患である.しかし足以外にも,臀部,腕,体幹,顔面に症状を来すことはある.しかし脚に症状はなくお腹にだけ,むずむず症状を来すということはこれまでの常識ではとても考えられない.今回,Spainから腹壁に限局する症状を認めた「むずむず腹症候群」の3例がNeurology誌に報告された.症状の部位を除いて,RLSの診断基準は満たすという.驚いたので早速読んでみた.

症例は3例とも偶然62歳の発症.男性2名,女性1名.合併症として2名に貧血をみとめる.家族歴はなし.罹病期間は1年から14年.いずれの症例も夜になり,じっとしていると腹部の不快感が出現.身体を動かしたい衝動が生じ,動かすと不快感は軽減する.腹部の不快感のために患者はいずれも入眠困難と中途覚醒を来し,さらに周期性四肢運動症も合併した(PLM index 22-35 /h).腹部超音波や脊髄MRIでは異常なし.症状はドパミン作動薬のプラミペキソール(0.18-0.36 mg)にて劇的な改善(症状の改善のために徐々に増量を要した症例あり).

以上の結果より,RLSでは下肢の症状を伴わず腹部症状のみ呈する臨床亜型が存在すると言える.臨床医は診断や治療を誤らないためにも,このような腹部症状により不眠を呈する疾患が存在することを認識する必要がある.ただ個人的には比較的多くのレストレスレッグス症候群の患者さんを担当しているが,腹部のみの人はもちろん,脚に加えて腹部という人も経験がない.このような症例はあまり多くはないのではないかと思われるが,今後,注意して確認する必要があると思われる.

Neurology 77; 1283-1286, 2011
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症候性ナルコレプシーの新たな原因

2009年12月19日 | 睡眠に伴う疾患
 何らかの基礎疾患に伴って発症するナルコレプシー(症候性ナルコレプシー)として,腫瘍や外傷に伴う症例が知られていたが,近年,脱髄性疾患においても過眠症を合併するという症例報告が散見されるようになった.本ブログにおいても,血清抗アクアポリン4(AQP4)抗体が陽性で,左右対称性の視床下部病変を呈した過眠症の症例報告を取り上げたが,今回,多発性硬化症やNMOに合併した症候性ナルコレプシー,および過眠症症例の臨床像の解析が報告された(秋田大,新潟大,東北大,スタンフォード大学等の共同研究).

 対象は,多発性硬化症やNMOと臨床診断され,日中の過眠症(excessive daytime sleepiness; EDS)を呈した7症例である(既報例を含む).いずれも日本人で,6名が女性であった.MRI所見,髄液オレキシン(ヒポクレチン),および血清抗AQP4抗体の評価を行っている.

 頭部MRIでは,全例に間脳・視床下部周辺の両側性・左右対称性病変を認めた(一度,見ると忘れない画像である).睡眠学的には,いずれも過眠症状を呈し,さらに7名中4名で,睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)のナルコレプシーの診断基準を満たしていた.ただ不思議なことにcataplexy(情動脱力発作を呈した症例はいなかった(いずれの症例も早期に治療をしたことがcataplexyの発症を阻止した可能性がある).REM異常については検索を行った2症例の両者にsleep-onset REMを認めた(ナルコレプシーの特徴的所見).

 髄液オレキシンは著明低値が4名,中等度低値が3名であった.これら髄液オレキシン値は,免疫抑制療法後にいずれも正常化した.問題の抗AQP4抗体は,3名で陽性で,NMOと診断され,うち2名はナルコレプシーの診断基準を満たした.4名において抗AQP4抗体が陰性であった点は興味深いが,抗AQP4抗体以外にも同様の病態を引き起こす抗体が存在する可能性がある一方,測定時期や測定方法により偽陰性になった可能性も否定できない.

 抗AQP4抗体が陽性であった症例では,間脳・視床下部と第四脳室周囲にはAQP4が高発現するため,この抗体を介した免疫学的機序による傷害が生じ,さらに同部位に存在するオレキシン(ヒポクレチン)ニューロンも二次的に傷害され,過眠症・ナルコレプシーを来した可能性が考えられた.本研究は,症候性ナルコレプシーの原因として脱髄性疾患を考慮すべきであることを示すとともに,早期に診断し,不可逆的な障害が生じる前に,ステロイドや免疫抑制療法によって治療介入することが重要であることを示している.

Arch Neurol 66; 1563-1566, 2009
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不眠症治療を学ぶ

2009年12月08日 | 睡眠に伴う疾患
「不眠研究会」「不眠治療コンセンサス会議」というmeetingに週末参加し,不眠症治療についてみっちり勉強してきた.そこで話題となり参考になったことを列挙してみる.ただし不眠症治療についてはまだエビデンスが十分でないことも多く,経験則に基づいた部分が少なからずあるということをご了解いただいた上で,お読みいただきたい.

【不眠症治療の原則】
● 一般医(General Practitioner; GP)と,睡眠医療専門機関が連携して診療にあたるべき.
● 不眠症でも原因を追及することを忘れてはいけない.例えば,発熱に対しては解熱剤を処方するだけでなく原因検索を行うが,不眠症も同様で,睡眠薬を処方するだけでなく,その原因検索を行うことが大切である.
● 問診は十分に行い,必要以上の睡眠時間を確保するための睡眠薬にならないようにする.具体的には「4時に目がさめるので睡眠薬が欲しい」と言っても,いつも20時に眠ってしまう人であれば睡眠時間は十分で,睡眠薬は不要ということ.必要以上の睡眠を与える薬は「睡眠薬」ではなく,むしろ「麻酔薬」とも言える.また昼間寝ていないかの確認も必要である.
● つまり医師は,患者さんと相談のうえ,睡眠時間自体を決めてあげることができる.言い換えれば「睡眠を設計する」役割も果たす.


【不眠症治療のポイント】
● 2008年,厚労省清水班が発表した「不眠症の診断,治療,医療連携のガイドライン」において,GPが睡眠医療専門機関に紹介すべき症例に付いて詳しく書かれているが,まず大事なことは,不眠を訴える患者さんのなかから,「(原発性)うつ病,睡眠時無呼吸症候群,むずむず足症候群」の3疾患をしっかり探し出すことである.
● GPにおける不眠症の治療は,睡眠衛生指導と,ベンゾジアゼピン系睡眠薬の単剤処方で行う.もし4週程度継続しても,治療抵抗性である場合,睡眠医療専門機関への紹介を検討する.
● GPでは超短時間型と短時間型睡眠薬を処方するようにする.具体的には,現在8薬剤がこれに該当するが,筋弛緩作用で転倒リスクを上昇させるデパスを除いた7薬剤(マイスリー,アモバン,ハルシオン,レンドルミン,リスミー,ロラメット,エバミール)を処方する.ただしデパス以外でも,ω受容体に作用し,そのω受容体は小脳にも存在するため,ふらつき(失調)を呈する可能性は否定できず,注意を促す必要はある.
● 薬剤の半減期を考慮し,どのぐらいの時間ベッドにいなければならないか(起きだしてはいけないか)という安全性を考慮した服薬指導も必要である.具体的には,(いつまでもゆっくり寝てられる人を除き)午前2時以降の内服は避けてもらったほうが安全である.
● お酒と一緒に睡眠薬は内服してはいけない.事故が起こる可能性があるので医師はそれを是認すべきではない.
● 睡眠薬は多剤併用すべきではない.多剤併用してもあまり効果がない.むしろベースに存在する疾患を検討し,抗うつ剤などの処方を行うことが大切である.
● 睡眠に望ましくない睡眠環境を解消したり,心身の緊張状態を緩和したりすることを目的にした認知行動療法(CBT)も有効.例えば,不眠が続くと,睡眠時間を確保しようとして普段寝ない早い時間に床につくことがある.でもそもそも眠くならない時間なので余計眠れずあせり悪循環に陥る.「眠い時しか寝室に行かない,眠れなければ寝室を出る,起床時間を一定にし,就床時刻を遅くする」といった指導も必要となる.
● バルビタール系はもう睡眠薬として使用すべきではない.またうつ病を基礎疾患としてもつ患者さんの不眠薬としてSSRI/SNRIの眠前投与は無効と考えられ行うべきでない.
● 重症のSASでは睡眠薬が悪影響を及ぼす可能性があることを忘れない.
● 「長く睡眠薬を継続すると呆けてしまう」というエビデンスはない(らしい).睡眠薬を急いで中止しなければいけないとエビデンスもないらしい.
● 不眠症は,糖代謝や高血圧発症のリスクを高める可能性があるので治療が必要.


【不眠症治療の問題点】
● GPからの医療連携の行き先として睡眠医療専門機関を挙げたが,この専門機関が全く不足しているという問題がある.従来,精神科医に紹介されることが多かったが,精神科医は必ずしも不眠症の専門家ではないそうだ.むしろポリファーマシー(睡眠薬の必要以上の多剤併用)を行ってしまう医師は,精神科医に多いという指摘もあった.
● 一般に議論される不眠症は外来において治療されるものであるが,重要であるものの議論されてこなかった不眠症として,「入院患者の不眠症」がある.入院しなければならない身体状況に加え,ナース巡回のある大人数の部屋(例.4人部屋)に泊まり,しかも消灯時間が21時と来れば眠れる方がむしろ変である.そして「眠れない」と訴えたものなら,自動的に,いわゆる予測指示の睡眠薬が用意される.予測指示は自分もずいぶん行ってきたが,冷静に考えてみれば,かなりおかしなことをしてきたわけで,この「入院患者の不眠症」対策については病院システムも含めて考え直すべき時期に来ている.
● 不眠症を含め,医学部での教育が不十分である.複数の診療科が協力しての睡眠医学教育が行われる必要がある.
● 最後に外来において不眠症診療を行う時間的余裕がないという問題がある.通常,不眠症のみで来院する患者さんは少なく,他の病気の診療を行った残りの時間で不眠症診療を行っているわけである.つまり,5分程度の診察時間内に不眠症の訴えをじっくり伺うのは難しいということである.
● この発言を「確かにそうだよな・・・」と思って聞いていたが,実はこれに反論する意見があった.「大学院生が努力を重ねた1年間の研究成果を学会で発表する割り当て時間は,わずか6分程度だ.そこにすべてを詰め込んで話す.5分という診察時間も同様に貴重な時間であり,そのなかに問診し,伝えることをいかに詰め込むかを考えることは医師としての重大な責務だ」という発言であった.これを聞いて本当にびっくりした.「まいった!」と思ったが,でも確かにその通りだと考えさせられた.

初学者のための睡眠医療ハンドブック
とてもわかりやすく,ときどき眺めて参考にしている.参考図書としてあげておきたい.

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むずむず足症候群患者脳におけるドパミン系障害および鉄欠乏

2009年09月15日 | 睡眠に伴う疾患
むずむず足症候群の病態に関して,治療としてL-DOPAやドパミン作動薬が有効であることから,ドパミン系の障害が指摘されている.また,脳内鉄の欠乏が関与している可能性も示唆されている.しかし,実際の患者脳組織においてドパミン系の障害が生じていることは証明されていない.今回,患者剖検脳の被殻および黒質を試料とし,ドパミン代謝にかかわる種々の因子を定量的に検討した研究が報告された.

方法としては,むずむず足症候群患者8名と年齢,性別をマッチさせた15名の脳について検討を行った.むずむず足症候群の死亡年齢は53歳から84歳で,罹病期間は32年から78年であった.いずれの患者も連日のむずむず足症状を呈し,IRLSSスコア(国際RLSスコア)は平均31点で,重症例であった.

結果としては,被殻においてD2受容体の発現は,対象と比較して約30%低下していた(P=0.028).一方,D1受容体,ドパミントランスポーター,小胞モノアミン輸送体,ドパミンには有意差はなかった(各抗体によるWestern blotで得たバンドをdensitometoryで定量化している).被殻におけるD2受容体の発現低下は,疾患重症度と相関していた(R=0.80, P=0.018).また患者脳の黒質において,チロシンヒドロキシラーゼ(TH)が上昇していた.さらに被殻および黒質において,THの活性化型であるリン酸化チロシンヒドロキシラーゼ(pTH)が上昇していた.

従来の研究で,鉄欠乏とむずむず足症候群の関連が報告されていることから,ラットおよびカテコラミン系培養細胞(褐色細胞腫細胞)の鉄欠乏モデルを用いて,鉄欠乏がTHやpTHに与える影響を検討した.この結果,いずれの系においても鉄欠乏はTHおよびpTHの上昇を引き起こすことを示した.

ドパミンD2受容体は患者脳において減少し,その減少は重症度に相関したという結果は,本疾患におけるドパミン系異常の重要性を再確認させるものとなった.またラットおよび培養細胞モデルでの結果は,本疾患の病態において患者脳における鉄欠乏が重要であるということを示した点で重要な報告である.

Brain 132; 2403-2412, 2009 
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反復性過眠症のPSG所見

2008年03月15日 | 睡眠に伴う疾患
 睡眠時無呼吸症候群は,スタンフォード大学睡眠センターのGuilleminault教授らにより,1976年「7時間睡眠中に10秒以上つづく無呼吸が30回以上見られるもの」あるいは「non-REM睡眠1時間あたり5回以上認められるもの」と定義された.私はセンターに行って彼の研究室や外来を見せていただいたことがあるが,教授は「ポリソムノグラフィー(PSG)おたく(?)」の評判通り,ひたすらPSG所見を読んでおられた.その際,研究所で私が逆に質問されたのは「日本でKline-Levin症候群(KLS)を担当したことはあるか?」であった.私はひとりだけ担当した経験があると答えたが,今回,取り上げるNeurology論文を読んで合点が行った.

 KLSは反復性過眠症とも呼ばれる疾患であり,10歳代の男性に好発する.1週間ほど持続する過眠状態(睡眠期)がときどき生じるのだが,その時期を過ぎればまったく無症状になること(無症候期)が特徴的である.特異的な検査所見はなく,診断は臨床症状に基づく.睡眠期の誘因として,感染,睡眠不足,アルコールが知られている.教科書的には傾眠期に過食や性欲亢進を呈すると記載されているが(いわゆる人間の「3つの欲」を呈する病気である),本邦の症例では過食や性欲亢進をきたすことは少なく,ほとんどの症例では反復性の過眠のみを特徴とするといわれる.性格変化(攻撃性,持続性の興奮性)や自律神経症状を呈することもある.ナルコレプシーで低下するヒポクレチン(オレキシン)は正常である.病態機序は不明であるが,以下のような説がある.

hypothalamic dysfunction説
中枢性セロトニン・ドパミン代謝異常説
自己免疫疾患説(HLA-DQB1*0201)(Neurology 59; 1739-1745, 2002)
局所的脳炎説

 症候性KLSとして,外傷による「右視床下部と対側の側頭葉の障害」を来たした症例(Behav Neurol 11; 105-108, 1998)が報告されていたり,SPECTでは左側優位の前頭・側頭葉領域の著しい血流低下が報告されている(Acta Neurol Scand 105; 318-321, 2002).治療としては,リチウムやカルバマゼピン内服が有効と言われるが,有効性を疑問視する立場もある.

 ポリソムノグラフィー(PSG)では,睡眠効率の低下とNREMステージ2からの頻回の覚醒(Sleep 23; 563-567, 2000; J Sleep Res 10; 337-341, 2001)が少数例で知られていたが,今回,Guilleminault教授らが多数例でのPSGとMSLT(※)所見に関する検討を報告した.対象は17例の男性で,10例で睡眠期と無症候期の両方でPSG検査を施行した.結果はこれまでとの報告とは異なるもので,①睡眠期の前半ではslow wave sleep(すなわちNREM期ステージ3-4)の頻度が有意に減少し,かつ睡眠期の後半になるとslow wave sleep頻度が無症候期と同程度まで回復する,逆に②REM期は睡眠期の前半では保たれていたが,後半では有意に減少した.MSLTでは睡眠潜時は平均9.5分で,2回以上sleep-onset REM(寝て間もなくREM期が出現するナルコレプシーで高頻度みみられる所見)が出現したのは7/17で,頻度は高くはなかった.睡眠効率の低下は見られなかった.

 以上の結果から,睡眠期であっても時期により睡眠に変化が生じていること,MSLTは症状との関連が乏しく,KLSでは有用でないことがわかった.ただKLSの機序は不明のままであり,今後の検討が必要である.

Neurology 70; 795-801, 2008

※ MSLT(Multiple Sleep Latency Test)
他覚的眠気度検査で,被験者を暗く静かな記録室のベットの上に寝かせ,リラックスして眠るように指示し,記録開始時から入眠するまでの時間(睡眠潜時)やREM期が出現するまでの時間(REM潜時)を計測する.これを1日5~6回,記録する.

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