Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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寝ながら暴力をふるう人を探せ!

2007年11月11日 | 睡眠に伴う疾患
 寝ている間に突然,激しい寝言を言う,あるいは殴る・蹴るといった暴力的な行動をとる人がいる.もしくは寝たまま歩きだすといった行動がみられることもある.それらの行動は傍からみると異様であり,家族のなかには「お祓い」や霊媒師にみてもらうことを勧める人もいるぐらいである.もちろん,これはREM睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder: RBD)であり,迷わず病院を受診することをお勧めする(※).RBDは,睡眠時遊行症(いわゆる夢遊病;sleep-walking disorder)や夜驚症(pavor nocturnus, nocturnal terror)とともに睡眠時随伴症(parasomnia)のひとつである.睡眠中に起こるせん妄状態であり,通常恐ろしい幻視・幻触と興奮・多動を伴う.この時に起こすと簡単に目覚め,疎通性は良好で,夢の内容をよく覚えている.PSGでは筋トーヌス消失を伴わないREM睡眠期(REM without atonia)が見られる.REMの異常はどうも超常現象と縁があって,「金縛り現象」もまだ十分に眠りきっていないときにREMが生じて起こるものである(sleep-onset REM).

※ 治療としてはクロナゼパム内服で改善することが多いが,何科を受診するかは難しい.睡眠クリニックが近くにあればベストだが,そう多くはない.つぎは神経内科?

 さてRBDには,他の疾患に伴う二次性のものと,ほかに運動異常症などの疾患を合併しない一次性(特発性)のものがある.前者としてはパーキンソン病やMSA,ナルコレプシーが多いようだ.後者では50~60歳の男性が多いと言われているが,特発性のRBDの病態は一体何なのであろう?

 この疑問に大きな進展をもたらしたのは昨年報告された「高齢男性の特発性RBD 29症例の長期followで,3.7年以内に11名がパーキンソン病になった」という報告である(Lancet Neurol 5; 424-432, 2006).つまりRBDはパーキンソン病の運動症状が出るまでの前駆症状であるという説である.これはパーキンソン病の運動症状の発現の引き金となる黒質ドパミン・ニューロン変性に伴う臨床症状の発現の10-15年以上前から,嗅球や脳幹での病変が出現するという「Braakの病態仮説」を支持する知見として有名である.

 話変わって,先週,日本睡眠学会定期学術集会にはじめて参加した.精神科,耳鼻科,呼吸器内科医などが主体の学会で,神経内科医の参加は必ずしも多くはないが,restless leg syndromeやRBDが注目されつつあり,それらを考える上で神経内科の知識は重要で,神経内科的アプローチは今後さらに必要になるのではないかと思われた.さらに本年度の学会研究奨励賞を獲得した論文が,特発性RBD患者におけるMIBG心筋シンチグラフィーに関する研究であった(Neurology 67; 2236-2238, 2006).この論文の内容はシンプルで,13例の特発性RBDと,12名のパーキンソン病,そして8名のコントロールに対しMIBG心筋シンチグラフィーを行ったというものである.結果としてはRBDの13例全例が,パーキンソン病と同様,コントロール群に比し,有意に心筋への取り込みが低下していたというものである.個人的には特発性RBDといえど,heterogeneousな症候群であろうと思ったが,予想に反して全例があまりばらつきなく同等に取り込み低下していた.すなわち,特発性RBDでも心臓交感神経の障害が示唆され,特発性RBDがパーキンソン病,びまん性レビー小体病(DLB),純粋自律神経不全症(PAF)と同一スペクトラム上の疾患(Lewy body disease)である可能性があるという内容である.ちなみにRBDでは嗅覚障害(hyposmia)を高率に合併することも報告されている.

 となると次の関心は,もしパーキンソン病の運動症状が出現する前の段階で,つまりhyposmiaやRBDの段階で,神経保護作用のある薬剤を開始することができれば,パーキンソン病の根治療法,あるいは,病気の進展が阻止されることが可能なのではないかということだ.現在のところ,エビデンスを持って明確な神経保護作用が証明されておいる抗パーキンソン薬はないが,将来的には「寝ながら暴力をふるうひと」「嗅覚が落ちたひと」を積極的に探して,神経保護作用のある抗パーキンソン薬を予防的に内服してもらう時代が来るのかもしれない.

Neurology 67; 2236-2238, 2006 

追伸1;MIBG心筋シンチグラフィーは,パーキンソン病の診断確定や,認知症疾患であるアルツハイマー病とDLBの鑑別,さらにパーキンソン病とパーキンソン病類縁疾患(MSA,PSP,CBD)の鑑別にとても有用な検査であり,個人的にもとても重宝している.しかし,いまだ保険診療が認められていないという大きな問題がある.たしかにラジオアイソトープを使用する高額な検査であり,適応を選ばず無目的にこの検査を行うのは望ましいこととは言えないが,それでも診断確定や予後の推定,治療薬の決定に必要な症例が存在する.なるべく近い将来,保険適応されることが望まれる.

追伸2;最近読んだ睡眠障害関係の本でお勧めは以下の3点.

一般の方向け;
ササッとわかる「睡眠障害」解消法 (図解 大安心シリーズ)

神経内科医向け;
睡眠医学を学ぶために―専門医の伝える実践睡眠医学
睡眠障害診療マニュアル―症例からみた診断と治療のすすめ方
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時差ぼけにメラトニンは効くのか?

2006年05月22日 | 睡眠に伴う疾患
時差ぼけはつらい。みなさん対策をいろいろ講じているものと思われるが、メラトニンを内服するという方法がある。アメリカではサプリメントとして販売されているため,ドラッグストアや空港などで容易に入手可能である。一方、ヨーロッパではニューロホルモンと考えられ,OTC(over the counter)としては販売されていない。日本でも正式に認可・販売はされていないが、容易に個人輸入ができ、入手に対する規制は行われていない(このとき、天然性,動物性のメラトニンでないことを確認すべき;感染や抗原抗体反応を起すタンパクを含む可能性がある。人工・合成のものを購入する)。時差の程度にもよるが、通常は就眠前30分に1~10mg服用をする。

メラトニンは松果体において,トリプトファンからセロトニンを経て合成されるインドールアミン誘導体であるが,ヒトでは夜間上昇し,日中の約10~20倍に達する。生体リズムの調節作用,催眠作用,色素細胞に対する退色作用,性腺抑制作用,深部体温低下作用などの作用を持つ.よって時差ぼけに対しては、睡眠促進作用と、体内時計のリセットを期待して就眠前に内服するわけだ。

さて個人的な使用感であるが、「効いているかもしれない」という印象だ。でもエビデンスはあるのだろうか?実は「時差ぼけやシフトワーク等の睡眠不足を伴う睡眠障害に効果はない」というメタ解析がカナダから報告された。方法は13のデータベースから、有効性の評価に関してはrandomized controlled trialを、安全性の評価に関してはrandomized ならびにnon-randomized controlled trialを抽出した。1人のレビュアーが論文を抽出し、方法論的な質は別の1人のレビュアーが評価した.試験のデザインの吟味は、メタ解析ではしばしば使用される2つの方法(Jadadの方法とSchulzの方法)が使われている。ひとつひとつのRCTの重み付けに関しては、inverse variance method が用いられている。

注; Jadad(ハダッド)の方法は,ランダム化されているか,二重盲検か,そしてフォローアップは適切にされたかが報告されているか,という3項目を検討する。Schulzの方法は,concealment(ランダム化が崩れていないかどうかということ)が保たれているかどうかという1項目を検討する。

 さて結果であるが、身体・物質的原因で生じる2次的な睡眠障害を呈するひとを検討したRCTは6つで(97症例を含む)、睡眠潜時(入眠までの時間)に効果を認めなかった(weighted mean difference(WMD) は-13.2分, 95%CI -27.3~0.9)。つぎに時差ぼけやシフトワークなどの睡眠不足を伴う睡眠障害を呈するひとを検討したRCTは9つで(427症例を含む)、やはり睡眠潜時に効果を認めなかった(weighted mean difference(WMD) は-1.0分, 95%CI -2.3~0.3)。一方、17のRCT(651症例を含む)による安全性の検討では、少なくとも短期間の使用(3ヶ月以内)では明らかな副作用は認めなかった。つまり、メラトニンが時差ぼけに効果があるというエビデンスは存在しないことになる。

 ただこの結果を持って、時差ぼけに対するメラトニンの使用を否定できるだろうか?ここからは推論だが、メラトニン感受性に個人差がある可能性は否定できない。メラトニン受容体遺伝子は1994年にクローニングされているが(メラトニン受容体は G 蛋白結合性),3種類存在することが判明している。その遺伝子によりコードされる受容体はヒトではMT1とMT2受容体が知られる(主として視交叉上核に存在する)。つまり受容体遺伝子に多型が認められれば、メラトニンに対する親和性も変わってくるはずである。さらに考えを進めて、メラトニン受容体に対する強力なアゴニストを使用すれば、催眠作用および概日リズムの調整が可能になるのではないか?

実は4月にSanDiegoで行われたAANの企業の展示ブースで、ROZEREM (ロゼレム、ramelteon)という薬の説明を聞いた。概日リズムの調整に関与しているのが主としてMT1受容体であることに着目し,MT1受容体に高い親和性(メラトニンの約10倍)と選択性を持った薬剤を開発したということだ。慢性不眠患者を対象にしたプラセボ対照二重盲検第3相試験にて、睡眠潜時を短縮する効果を認め(プラセボに比べて50%短縮)、反跳性不眠や離脱症状も起こさなかったという。従来の睡眠薬との違いはベンゾジアゼピン系が覚醒に関わる神経機構を抑制することで催眠するのに対しメラトニンは睡眠に関与する機構を賦活する、という説が言われている。つまり、この薬剤はより自然な生理的睡眠をもたらし、依存などの副作用も回避できるということが売りである(第4世代睡眠薬といわれる)。実際、アメリカでは非指定薬物で、長期処方も可能となっている。日本でもおそらく近いうちに発売され、その安全性から頻繁に使用される薬になる可能性が高い。しかし、その作用メカニズムを理解することは必要で、神経症的な要素を認める不眠患者では、当然、ベンゾジアゼピン系のほうが有効である。不眠症治療も原因をきちんとタイプわけをし、睡眠薬のタイプを選ぶという時代に入ったということだ。

BMJ. 332:385-393, 2006
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中枢性睡眠時無呼吸症候群の機序解明に大きな進歩

2005年08月11日 | 睡眠に伴う疾患
睡眠時無呼吸症候群は,上気道の閉塞により生じる閉塞型,呼吸調節をする脳幹領域の障害で生じる中枢型,および混合型に大別される.中枢型睡眠時無呼吸症候群(CSAS)の機序についてはよく分かっていなかったが,今回,その機序を解明する上で非常に重要な研究が報告された.
まず,呼吸中枢神経回路の中核をなすpreBotzinger complexと呼ばれる吻側部領域が腹外側延髄に存在する.この領域にはneurokinin 1 receptor(NK1R)を高発現するpreBotC neuronが一側で300個ほど存在すると言われる.これまでにratを用いた実験で,このpreBotC NK1R neuronを80%以上,障害させると,覚醒時において失調性呼吸パターンが出現することが分かっていた.今回,睡眠呼吸障害におけるpreBotC neuronの関与について詳細に検討された.
 方法としては,簡単に言うとpreBotC neuronを選択的に障害する毒素を注入し,その後,ポリソムノグラフィー(PSG)を経時的に観察し,睡眠中および覚醒時の呼吸パターン,apnea(無呼吸),hypopnea(低呼吸;50%未満の呼吸flowの減少)の頻度,持続時間を経時的に観察している.具体的にはratに筋電図(横隔膜,腹,頚部)および脳波電極を植え込み,術後14日目にpreBotC NK1R neuronを選択的に傷害する毒素としてsubstance-p conjugated saporin(SP-SAP)を両側のpreBotzinger complexめがけて注入(対照としてとしてconjugateさせてないsubstance-p とsaporin混合物を使用).実際にNK1R抗体を用いた免疫染色にて,preBotC NK1R neuronの選択的な減少を確認している.
結果としては,対照では注入前との比較で,注入後に各睡眠パラメーターに有意差を認めなかったのに対し,SP-SAP注入群では注入後4日目の時点でREM期においてのみhypopnea およびapnea(中枢型)の頻度が有意に増加.注入後5-6日目ではこの傾向が顕著となり,Non-REM期でも対照と比べ,hypopnea およびapneaが軽度ながらも有意に増加した.覚醒時でも短時間のapneaが生じ始めた.7日目以降ではNon-REM期におけるhypopnea およびapnea(とくに持続時間より頻度)が顕著となり,睡眠の断片化と全睡眠時間の減少が生じた(データとしてはarousalの増加として観察される.つまりapneaに伴いStage-Wに入ってしまう).覚醒時でも呼吸パターンはさらに不規則化した.9-10日目で覚醒時の失調性呼吸が出現し,なかにはCheyne-Stokes呼吸パターンを呈するratも出現した.以上の結果は,中枢型無呼吸にpreBotC NK1R neuronが深く関与する可能性を示唆する.
 ではなぜ先にREM期に変化が現れるのだろうか? たしかにヒトでも中枢性無呼吸はREM期に出現しやすい.REMではセロトニンやノルエピネフリン産生ニューロンは不活化傾向にあり,preBotC neuronはセロトニンやノルエピネフリンにより刺激を受けるため,REM期ではpreBotC neuronニューロン活動は減少する.よってREM期ではpreBotC neuronニューロンの変化が表出しやすいのではないかと著者らは考察している.
またこの結果から神経変性疾患における睡眠呼吸障害(SDB)におけるpreBotC NK1R neuronの関与を考える必要がクローズアップされる.ALS,PD,MSAでも睡眠中の突然死が生じることがあるが,PDでは60%程度,MSAでは89%ものNK1R neuronの減少が生じることがすでに報告されている.さらにMSAではセロトニン作動性ニューロンの減少も知られている.MSAの夜間突然死については,声帯外転麻痺による閉塞性の呼吸障害がその原因として考えられてきたが,preBotC neuronニューロンの減少が突然死に関与している可能性も十分に考えられる.こうなると気管切開をしても突然死は防げない(実際にこのような症例は存在する).むしろCPAP,BiPAPのほうが有効である可能性があり,呼吸障害パターンを判断した上で,適切な治療を選択を必要するがあるものと思われる.

Nat neurosci. published online 7 August, 2005

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レストレスレッグズ(むずむず足)症候群の危険因子

2005年07月11日 | 睡眠に伴う疾患
夜間,膝から下がかゆくなったり,痛くなったり,あるいは虫が這うような不快感を呈するのがRestless leg syndrome(RLS)である.足を動かすと不快感は軽くなるが,じっとしているとまたぶりかえす.蹴るような格好で足が勝手に動く周期性四肢運動障害(PLMS)も合併する.夜間,症状が出現するため睡眠不足となり,日中,過眠を呈する.日本では130万人ほどの患者がいると推測されているが,実際に治療を受けている人は2万人程度と言われている.この理由としては,医師も患者もこの病気に関する知識が乏しいため受診することも診断することもできないためと考えられる.
 今回,イタリアより頻度,危険因子に関する横断研究の結果が報告された.対象は北イタリアのBruneckという小さな街の全白人(久山町研究のように動脈硬化,脳,骨疾患の疫学調査が行われている街)で,年齢は50-89歳の701名を調査した.RLSの診断は1995年にInternational RLS Study Groupにより定められた最低項目の4つをinterviewで確認,4項目すべてを満たすものをRLSと診断した(①足の不快感,痛みなどにより足を動かしたい気持ちになったことはあるか?②足を落ち着きなく動かすことがあるか?③足の症状は安静で悪化し,足を動かすと改善するか?④症状は夜間に悪化するか?).重症度については,RLS severity scaleを使用した.
 結果としては,患者数は74名で,有病率は10.6%と高率.性別では女性14.2%,男性は6.6%であった.重症度については軽症33.8%,中等症44.6%,重症21.6%.このなかで1例も過去に診断を受けた症例はなく,治療中の症例もなかった.RLSは鉄代謝異常が原因のひとつとして疑われているが,血清鉄,トランスフェリン,フェリチン濃度に関しては罹患者と非罹患者で有意差はなかった.しかし,可溶性トランスフェリン受容体については1.48 vs 1.34 mg/L(p<0.001)と罹患者で有意に高値であった.以上より,この横断研究では危険因子として女性であること,可溶性トランスフェリン受容体値が高値であることが分かった.RLSでは前述の通り,脳内鉄欠乏が原因として疑われている.例えばMRIで黒質,赤核の鉄濃度の減少が示されたり,黒質神経メラニン細胞における鉄代謝異常が報告されたり,髄液フェリチン濃度の減少とトランスフェリン濃度の上昇が報告されている.本研究の血清可溶性トランスフェリン受容体値高値もRLSにおける鉄代謝障害の支持する傍証となるのかもしれない.いずれにしてもRLSの治療として,dopamine agonistが有効であるので(Class Ib),この疾患が疑われた場合には積極的に診断・治療すべきである. Neurology 64; 1920-1924, 2005

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視床下部腫瘍に合併した過眠症 ~Asterexisと脱力発作の関係~

2005年01月15日 | 睡眠に伴う疾患
本邦からの症候性ナルコレプシーの報告.66歳女性が1ヶ月の経過で過眠症状,意識障害を伴わない突然の転倒を呈した.突然の転倒は夜間に生じ,本人の話では突然,下肢の力が抜けると言う.幻視を認めるものの入眠時幻覚ではなく,睡眠麻痺もなし.MMSEは21点で軽度低下.手指にはasterexis(negative myoclonus)を認めた.内分泌検査で視床下部ホルモンの低下が見られ,髄液では軽度の蛋白増加,細胞増加,さらにorexin A(hypocretin)値の低下(62pg/ml;健常280±33 pg/ml)を認めた.MRIでは視床下部,視床,中脳に及ぶGd造影効果を伴う脳腫瘍を認めた.PSGでは睡眠潜時は5分,REM期開始は11分であった(一般に入眠後10分以内にREM期が生じる場合をSleep-onset REM; SOREMと呼ぶので,ほぼ基準を満たす).治療として放射線療法,アリキル化剤,IFN-betaを併用し,認知機能は改善(MMSEは28点),また過眠症状,転倒,asterexisはいずれも消失した.
 本症例は,症候性ナルコレプシーにおけるorexin A値の低下は本態性ナルコレプシーと比較し軽度であり,かつ必ずしも典型的な症状(カタプレキシー,睡眠発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺)が揃わないという従来の報告に合致するものであった.本症例で興味深い点はdrop attackに加えasterexisが生じ,治療により消失した点である.これに関連し,従来よりasterexisはdrop attackの上肢型であるとする説がある(Ann Neurol 6; 362-364, 1979).本症例はこの説を裏付けるものになるのかもしれない.

J Neurol 251; 1534-1535, 2005

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ナルコレプシーが自己免疫疾患である新たな根拠

2004年12月15日 | 睡眠に伴う疾患
ナルコレプシーは有病率約0.1%の睡眠障害で,昼間の睡眠発作,情動脱力発作,睡眠麻痺,入眠時幻覚を主徴とする.ナルコレプシーでは遺伝要因の関与が示唆されており,約5%が家族性に発症する.一方,HLA-DQ遺伝子との強い関連もあり,自己免疫疾患の可能性が示唆されているが(MSやRasmussen脳炎との合併例も報告されている),脳組織や髄液での炎症所見や,特定の自己抗体も同定されていない.イヌにおいても孤発例と家族例のナルコレプシーが認められ(canine narcolepsy),これらは常染色体劣性遺伝形式で,浸透率は100%である(原因遺伝子はhypocretin receptor type 2).canine narcolepsyの表現型はヒト・ナルコレプシーと類似するが,イヌを用いた神経薬理学的実験の結果,ナルコレプシーの病態には①モノアミン系の機能低下と②コリン系の感受性の増大という脳内の生化学的バランスの異常が深く関わっていることが示唆されている.また興味深いことに免疫抑制剤や抗炎症剤がcanine narcolepsyの表現型の発現を遅らせることも報告されている(このことも自己免疫の関与を示唆する).
今回,ナルコレプシーにおける自己抗体の関与を証明する実験がオーストラリアから報告された.9人のナルコレプシー患者と9人の健常コントロールの血清からprotein A sephalose columnを使用してIgGを精製し,マウスに注射,すでに確立されているbladder stripを用いたbioassay系(副交感コリン作動性神経伝達への影響を調べる)を行った.この結果,ナルコレプシーIgGはムスカリン作動薬carbacholに対する膀胱収縮反応に対し増強効果をもたらし,アセチルコリン放出もコントロールと比べ有意に増加した(p<0.0001).以上の結果は,ナルコレプシーにおける自己抗体の関与を示唆するとともに,ナルコレプシーの診断に有効なbioassayが確立されたことを意味する.これまでナルコレプシーの診断は病歴,PSG,ヒポクレチンをベースに行ってきたが,ナルコレプシーの診断から除外され特発性過眠症に分類される患者が少なからず存在した.このような症例がこのbioassayでどのような結果を示すのか非常に興味が持たれる. Lancet 364, 2122-2124, 2004

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むずむず脚症候群に対するドパミン・アゴニストの長期的効果

2004年10月21日 | 睡眠に伴う疾患
むずむず脚症候群(Restless Leg Syndrome; RLS)は,脚の不快感(しばしば脚の内部を蟻が這いずり回るような感覚と表現される)を主訴とし,この不快感から逃れるために脚を動かさずにはいられない状態となる疾患である.症状は安静時,およびベッドに横になっている時に出現することが多く,しばしば重篤な不眠の原因となる.通常,40歳代前後で発症し,徐々に悪化する.RLS患者の多くに周期性四肢運動異常症(PLMD;前脛骨筋におけるIVM)を合併する.ドパミン・アゴニスト(DA)の短期的な効果が実証され第一選択として使用されることが多いが,その長期的な効果や副作用については明らかではない.
 今回,DAの長期的効果に対する検討がBaylor大学から報告された.対象は83名で,パーキンソン病,尿毒症,薬剤使用に合併すると考えられた症例は除外.観察期間は平均39.2ヶ月.この期間を通してDAは有効であったが,薬剤使用量は増加傾向を認めた.副作用は56.7%で認めたが(眠気,吐き気,四肢浮腫の順),重篤なものはなし.またDAはaugmentation(症状の増大や悪化)を引き起こすことが報告されているが,実際に48%で認められた.しかし一般にその程度は軽度で,家族歴のある症例や,末梢神経障害を伴わない症例ではaugmentationを呈する傾向が見られた.
本研究によりDAは長期的にもRLSに対して使用可能な薬剤であることが分かった.本邦では本疾患に対する医療サイドの認知度は低い状態と言わざるを得ず,まず的確な診断を行うことが重要と言えよう.

Arch Neurol 61;1393-1397, 2004

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若年性パーキンソニズムにおけるレム睡眠行動障害

2004年10月15日 | 睡眠に伴う疾患
レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder;RBD)は,レム期に弛緩しているはずの筋肉が弛緩せず,体が激しく動いてしまう状態で,しばしば不快な夢を伴う.なぜかalfa-synucleinopathy(パーキンソン病,MSA,DLB)ではRBDの合併が多いことが知られ,RBDとsynuclein蓄積症との関連が指摘されていた.
一方,parkin(Park2)遺伝子変異を原因とする若年発症パーキンソニズム(ARJP)では,synuclein陽性の神経細胞内封入体は認められない.今回,Park2患者10人に対しPSGを施行したところ,うち6人にRBDを認めた.この結果から,単純にRBDがsynuclein蓄積症によって生じていると考えるのは難しいことが分かった.
RBDの責任病巣については脳幹が疑われているが,詳細についてはいまだ不明である.

Ann Neurol 56;599-603, 2004

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