寝ている間に突然,激しい寝言を言う,あるいは殴る・蹴るといった暴力的な行動をとる人がいる.もしくは寝たまま歩きだすといった行動がみられることもある.それらの行動は傍からみると異様であり,家族のなかには「お祓い」や霊媒師にみてもらうことを勧める人もいるぐらいである.もちろん,これはREM睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder: RBD)であり,迷わず病院を受診することをお勧めする(※).RBDは,睡眠時遊行症(いわゆる夢遊病;sleep-walking disorder)や夜驚症(pavor nocturnus, nocturnal terror)とともに睡眠時随伴症(parasomnia)のひとつである.睡眠中に起こるせん妄状態であり,通常恐ろしい幻視・幻触と興奮・多動を伴う.この時に起こすと簡単に目覚め,疎通性は良好で,夢の内容をよく覚えている.PSGでは筋トーヌス消失を伴わないREM睡眠期(REM without atonia)が見られる.REMの異常はどうも超常現象と縁があって,「金縛り現象」もまだ十分に眠りきっていないときにREMが生じて起こるものである(sleep-onset REM).
※ 治療としてはクロナゼパム内服で改善することが多いが,何科を受診するかは難しい.睡眠クリニックが近くにあればベストだが,そう多くはない.つぎは神経内科?
さてRBDには,他の疾患に伴う二次性のものと,ほかに運動異常症などの疾患を合併しない一次性(特発性)のものがある.前者としてはパーキンソン病やMSA,ナルコレプシーが多いようだ.後者では50~60歳の男性が多いと言われているが,特発性のRBDの病態は一体何なのであろう?
この疑問に大きな進展をもたらしたのは昨年報告された「高齢男性の特発性RBD 29症例の長期followで,3.7年以内に11名がパーキンソン病になった」という報告である(Lancet Neurol 5; 424-432, 2006).つまりRBDはパーキンソン病の運動症状が出るまでの前駆症状であるという説である.これはパーキンソン病の運動症状の発現の引き金となる黒質ドパミン・ニューロン変性に伴う臨床症状の発現の10-15年以上前から,嗅球や脳幹での病変が出現するという「Braakの病態仮説」を支持する知見として有名である.
話変わって,先週,日本睡眠学会定期学術集会にはじめて参加した.精神科,耳鼻科,呼吸器内科医などが主体の学会で,神経内科医の参加は必ずしも多くはないが,restless leg syndromeやRBDが注目されつつあり,それらを考える上で神経内科の知識は重要で,神経内科的アプローチは今後さらに必要になるのではないかと思われた.さらに本年度の学会研究奨励賞を獲得した論文が,特発性RBD患者におけるMIBG心筋シンチグラフィーに関する研究であった(Neurology 67; 2236-2238, 2006).この論文の内容はシンプルで,13例の特発性RBDと,12名のパーキンソン病,そして8名のコントロールに対しMIBG心筋シンチグラフィーを行ったというものである.結果としてはRBDの13例全例が,パーキンソン病と同様,コントロール群に比し,有意に心筋への取り込みが低下していたというものである.個人的には特発性RBDといえど,heterogeneousな症候群であろうと思ったが,予想に反して全例があまりばらつきなく同等に取り込み低下していた.すなわち,特発性RBDでも心臓交感神経の障害が示唆され,特発性RBDがパーキンソン病,びまん性レビー小体病(DLB),純粋自律神経不全症(PAF)と同一スペクトラム上の疾患(Lewy body disease)である可能性があるという内容である.ちなみにRBDでは嗅覚障害(hyposmia)を高率に合併することも報告されている.
となると次の関心は,もしパーキンソン病の運動症状が出現する前の段階で,つまりhyposmiaやRBDの段階で,神経保護作用のある薬剤を開始することができれば,パーキンソン病の根治療法,あるいは,病気の進展が阻止されることが可能なのではないかということだ.現在のところ,エビデンスを持って明確な神経保護作用が証明されておいる抗パーキンソン薬はないが,将来的には「寝ながら暴力をふるうひと」「嗅覚が落ちたひと」を積極的に探して,神経保護作用のある抗パーキンソン薬を予防的に内服してもらう時代が来るのかもしれない.
Neurology 67; 2236-2238, 2006
追伸1;MIBG心筋シンチグラフィーは,パーキンソン病の診断確定や,認知症疾患であるアルツハイマー病とDLBの鑑別,さらにパーキンソン病とパーキンソン病類縁疾患(MSA,PSP,CBD)の鑑別にとても有用な検査であり,個人的にもとても重宝している.しかし,いまだ保険診療が認められていないという大きな問題がある.たしかにラジオアイソトープを使用する高額な検査であり,適応を選ばず無目的にこの検査を行うのは望ましいこととは言えないが,それでも診断確定や予後の推定,治療薬の決定に必要な症例が存在する.なるべく近い将来,保険適応されることが望まれる.
追伸2;最近読んだ睡眠障害関係の本でお勧めは以下の3点.
一般の方向け;
ササッとわかる「睡眠障害」解消法 (図解 大安心シリーズ)
神経内科医向け;
睡眠医学を学ぶために―専門医の伝える実践睡眠医学
睡眠障害診療マニュアル―症例からみた診断と治療のすすめ方
※ 治療としてはクロナゼパム内服で改善することが多いが,何科を受診するかは難しい.睡眠クリニックが近くにあればベストだが,そう多くはない.つぎは神経内科?
さてRBDには,他の疾患に伴う二次性のものと,ほかに運動異常症などの疾患を合併しない一次性(特発性)のものがある.前者としてはパーキンソン病やMSA,ナルコレプシーが多いようだ.後者では50~60歳の男性が多いと言われているが,特発性のRBDの病態は一体何なのであろう?
この疑問に大きな進展をもたらしたのは昨年報告された「高齢男性の特発性RBD 29症例の長期followで,3.7年以内に11名がパーキンソン病になった」という報告である(Lancet Neurol 5; 424-432, 2006).つまりRBDはパーキンソン病の運動症状が出るまでの前駆症状であるという説である.これはパーキンソン病の運動症状の発現の引き金となる黒質ドパミン・ニューロン変性に伴う臨床症状の発現の10-15年以上前から,嗅球や脳幹での病変が出現するという「Braakの病態仮説」を支持する知見として有名である.
話変わって,先週,日本睡眠学会定期学術集会にはじめて参加した.精神科,耳鼻科,呼吸器内科医などが主体の学会で,神経内科医の参加は必ずしも多くはないが,restless leg syndromeやRBDが注目されつつあり,それらを考える上で神経内科の知識は重要で,神経内科的アプローチは今後さらに必要になるのではないかと思われた.さらに本年度の学会研究奨励賞を獲得した論文が,特発性RBD患者におけるMIBG心筋シンチグラフィーに関する研究であった(Neurology 67; 2236-2238, 2006).この論文の内容はシンプルで,13例の特発性RBDと,12名のパーキンソン病,そして8名のコントロールに対しMIBG心筋シンチグラフィーを行ったというものである.結果としてはRBDの13例全例が,パーキンソン病と同様,コントロール群に比し,有意に心筋への取り込みが低下していたというものである.個人的には特発性RBDといえど,heterogeneousな症候群であろうと思ったが,予想に反して全例があまりばらつきなく同等に取り込み低下していた.すなわち,特発性RBDでも心臓交感神経の障害が示唆され,特発性RBDがパーキンソン病,びまん性レビー小体病(DLB),純粋自律神経不全症(PAF)と同一スペクトラム上の疾患(Lewy body disease)である可能性があるという内容である.ちなみにRBDでは嗅覚障害(hyposmia)を高率に合併することも報告されている.
となると次の関心は,もしパーキンソン病の運動症状が出現する前の段階で,つまりhyposmiaやRBDの段階で,神経保護作用のある薬剤を開始することができれば,パーキンソン病の根治療法,あるいは,病気の進展が阻止されることが可能なのではないかということだ.現在のところ,エビデンスを持って明確な神経保護作用が証明されておいる抗パーキンソン薬はないが,将来的には「寝ながら暴力をふるうひと」「嗅覚が落ちたひと」を積極的に探して,神経保護作用のある抗パーキンソン薬を予防的に内服してもらう時代が来るのかもしれない.
Neurology 67; 2236-2238, 2006
追伸1;MIBG心筋シンチグラフィーは,パーキンソン病の診断確定や,認知症疾患であるアルツハイマー病とDLBの鑑別,さらにパーキンソン病とパーキンソン病類縁疾患(MSA,PSP,CBD)の鑑別にとても有用な検査であり,個人的にもとても重宝している.しかし,いまだ保険診療が認められていないという大きな問題がある.たしかにラジオアイソトープを使用する高額な検査であり,適応を選ばず無目的にこの検査を行うのは望ましいこととは言えないが,それでも診断確定や予後の推定,治療薬の決定に必要な症例が存在する.なるべく近い将来,保険適応されることが望まれる.
追伸2;最近読んだ睡眠障害関係の本でお勧めは以下の3点.
一般の方向け;
ササッとわかる「睡眠障害」解消法 (図解 大安心シリーズ)
神経内科医向け;
睡眠医学を学ぶために―専門医の伝える実践睡眠医学
睡眠障害診療マニュアル―症例からみた診断と治療のすすめ方