Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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日本神経学会 2024年度 医学生・研修医のための脳神経内科ウェブセミナー (医学生・研修医に限らず,どなたでもご参加いただけます)

2024年08月26日 | 医学と医療
2024年9月8日(日) 10:00から,標題のウェブセミナーを開催します.
オーガナイザーは奈良県立医大の杉江和馬先生で,今回のテーマは「新時代を迎える脳神経内科」です.

講演1.「動画でマスターする不随意運動」
日本神経学会広報委員会委員長/岐阜大学脳神経内科教授   下畑 享良 先生

講演2.「ダイナミック脳卒中学~その魂とcutting edge」
岩手医科大学医学部内科学講座脳神経内科・老年科分野教授  板橋 亮 先生

講演3.「神経難病の明るい未来~Charcotも驚くALSのこれから~」
滋賀医科大学脳神経内科教授                漆谷 真 先生

講演4.「神経免疫疾患と生きる患者さんの送りたい人生を支える!脳神経内科医の醍醐味」
九州大学大学院医学研究院神経内科教授           磯部 紀子 先生

講演タイトルから各先生の気合いの入りようが伝わってくる感じがします! 医学生(3年生~6年生)・初期研修医を主な対象としておりますが,どなたでもご参加頂けます.若い脳神経内科医にとっては専門医試験対策,ベテランの先生には生涯教育としてお役立ていただけます.参加費は無料です.ただし事前申込が必要で,個人もしくは団体申込(大学ないし出身大学ごと)をお願い致します.
★ぜひ各ご教室,ご施設の先生がたより,医学生・研修医にお声がけいただけますと有り難く存じます.下記よりお申し込みをいただけます.最終締切は2024年9月7日(土)17:00までまです.どうぞ宜しくお願いいたします!!

日本神経学会 2024年度 医学生・研修医のための脳神経内科ウェブセミナー


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アドラーが説く「幸せ」になるために必要なこととは?@「医師こそリベラルアーツ!」連載第5回

2024年08月17日 | 医学と医療
「医師こそリベラルアーツ!」の連載第5回が,日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました.いままで岐阜大学にて29回のリベラルアーツ研究会を開催しましたが,各回で行なった私のミニレクチャーを紙面で再現する企画です.

今回のタイトルは「幸せになるために必要な『利他の心』とは」で,前回取り上げたフランクルの師アルフレッド・アドラー(1870―1937)による心理学について解説したベストセラー「嫌われる勇気(岸見一郎・古賀史健著)」を読みました.アドラーは自己の成長に加えて,他者の利益や社会への貢献を両立することが,幸せをもたらすと考えました.具体的には,「共同体感覚」「劣等感の克服」「自己決定と責任感」「目的志向」の4つが重要なキーワードです(図).これらのアドラー心理学を現在の医療者に当てはめたらどうなるか,また「利他の心」が大切な理由と「利他主義」で成功を手に入れるとはどういうことか議論しました.また私が大きく影響を受けた名著,稲盛和夫「生き方:人間として一番大切なこと」と,アダム・グラント「GIVE & TAKE:与える人こそ成功する時代」についてもご紹介しました.



さて第6回の課題図書は,ユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス」(河出書房新社,2018)と新井紀子「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(東洋経済新報社,2018)です.これからの人工知能(AI)時代をどのように生きたら良いのかを考えたいと思います.なお本連載は,医師・医学生限定コンテンツで,医師または医学生の方は,会員登録すると記事全文がお読みいただけるようになります.

第5回『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』幸せになるために必要な「利他の心」とは



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河井継之助と山本五十六のことばと教育の大切さ

2024年08月12日 | 医学と医療
夏休みを自宅のある新潟で過ごしました.長岡市にある河井継之助記念館と山本五十六記念館を訪ねました.河井継之助(1827-1868)は幕末の越後長岡藩の家老で,戊辰戦争では長岡藩を率いました.山本五十六(1884-1943)は太平洋戦争時の連合艦隊司令長官で,真珠湾攻撃をはじめとする多くの作戦を指揮しました.長岡市が生んだふたりの共通点は,最後まで戦争に反対しながらも,戦争の旗頭に立たざるを得なかったことかと思います.

今回,記念館を訪問して,さらに共通点に気づきました.それは教育です.継之助は藩校に通い,江戸や西国,長崎にも遊学して新しい価値観を身に着けましたし,五十六は海軍兵学校を卒業,アメリカへの留学経験を持ち,多くの外国を巡って国際的な視野を身につけました.これらの基盤があるからこそ,時代の変化を理解し,新しい方法を取り入れる姿勢を持てたのだと思います.そしてともに現代にも通用する箴言を残しています.それぞれのことばをまとめた2冊の本を読みました.そのなかから印象に残ったことばをご紹介します.

河井継之助のことば
◆何でもよい,一つ上手であればよいものだ.上手だければ,名人と謂はれる.是からは何か一つ覚えて居(お)らなければならぬ.→ 教室で私がいつも言っていることと一緒です.
◆眼を開け,耳を開かなければ,何事も行はれぬ.
◆学問というものは実行しなければ何の役にも立たないものである.
◆使ふものも使はるるものも,互に愉快に仕事を為(す)る.
◆人間はどんなに偉くとも,人情に通ぜず,血と涙がなくては駄目だ.

山本五十六のことば
やってみせ,言って聞かせて,させてみせ,ほめてやらねば,人は動かじ.話し合い,耳を傾け,承認し,任せてやらねば,人は育たず.やっている,姿を感謝で見守って,信頼せねば,人は実らず. → 教室のリーダーシップ講義で紹介してる言葉ですが,全文を知ってほしいです.
◆中才は肩書によって現はれ,大才は肩書を邪魔にし,小才は肩書を汚す.
◆人は誰でも負い目を持っている.それを克服しようとして進歩するものなのだ.
◆もらった恩は岩に刻め,与えた恩は水に流すべし.

ちなみに写真の「常在戦場(常に戦場に在り)」は長岡藩士にとっての精神規範で,ふたりとも「常在戦場」の書を残していました.この意味は,戦場の生活を予測し,平素から質素倹約をし,心身の鍛錬をして教養を向上させるというものです.幕末に長岡藩が苦難に陥った際,継之助とともに長岡維新三傑と呼ばれた小林虎三郎は,三根山藩から見舞いとして送られた米百俵を藩士らに分配せず,国漢学校設立資金の一部に充て,人材育成を呼びかけました(有名な「米百俵」の故事です).

数日前に科学論文が日本は過去最低の13位と朝日新聞の記事にありました.しかし日本人がダメになったのではなく,国家として教育が十分できていない結果なのだろうと思いました.パリオリンピックの日本人選手の大活躍を見ると,若いうちからしっかり教育をすれば世界に通用できることが示されているように思います.

河井継之助記念館(https://tsuginosuke.net/
山本五十六記念館(http://yamamoto-isoroku.com/




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脳神経内科はcommon diseaseを診ているか?@Brain Nerve誌8月号

2024年08月09日 | 医学と医療
標題の鼎談をさせていただいたBrain Nerve誌8月号が発刊されました.今月号の特集は「Common diseaseは神経学の主戦場である revisited」です.2013年9月号に「Common diseaseは神経学の主戦場である―現状と展望」という特集が組まれました.脳神経内科というと「難解で,治らない病気を診ている特殊な集団」というイメージを持たれている人もいるかもしれませんが,実は脳卒中,認知症,てんかん,頭痛,めまいといった,いわゆるcommon diseaseを最も多く診ている,あるいは診ることを期待されている診療科でもあります.この特集号ではこれらの多数の患者さんを実際にどの診療科が引き受けているのか,診療が不十分な原因は何か,脳神経内科が解決すべき課題は何かなどを議論しています.日本神経学会では西山和利代表理事が中心となり,common diseaseの診療レベルの向上を目指し,特別教育研修会(脳卒中・てんかん・頭痛・認知症コース)などの取り組みを行っていますが,前回の特集号から10年が経過してどのような状況になっているかを編集委員の3名が議論いたしました.

鼎談は興味深い内容になったと思います.内容は小見出しを並べると「脳神経内科への名称変更とその影響,Common disease の診療をめぐる現状,脳神経内科医が果たすべき役割と課題,脳神経内科のおもしろさを伝えていく,脳神経内科と他科との壁を壊して歩もう」となっています.また総説も下記のように力作ぞろいで,とても勉強になります.ぜひご一読いただければと思います.

◆【鼎談】脳神経内科はcommon diseaseを診ているか? 下畑享良×髙尾昌樹×神田 隆
◆認知症診療における脳神経内科医の役割(森 悦朗)
◆脳卒中の現場における脳神経内科医の存在意義(出口一郎,髙尾昌樹)
◆てんかん診療の進歩と課題(赤松直樹)
◆頭痛診療の進歩と今後の展望(永田栄一郎)
◆Common diseaseとしてのめまい──危険度で考える(福武敏夫)
◆末梢神経障害(しびれ)──神経・筋疾患の「総合診療科」としての役割(古賀道明)

Brain Nerve誌HP
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/41128
第8回特別教育研修会(2024年10月6日(日))
https://8neurology-kensyu2024.org/index.html




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芸術に見るジストニア 「アメデオ・モディリアーニ」

2024年07月31日 | 医学と医療
以前,Brain Nerve誌の特集号「芸術と神経学(2021)」のなかで,高尾昌樹先生がジストニアを描いた画家としてエゴン・シーレを紹介されていましたが,フロリダ大学のMichael S. Okun教授はご自身のTwitterで,アメデオ・モディリアーニ(1884-1920)の絵を紹介されていました.この印象的な絵は見たことがありましたが,モディリアーニについてよく知りませんでしたので調べてみたところ,Mov Disord Clin Pract誌に下記の論文がありました.

論文には1枚目の絵「 Portrait of a woman with hat」が紹介されていて,「モディリアーニはジストニアのような上半身の伸長,弯曲,ねじれによって,しばしば肖像画に官能性を呼び起こした.特に内縁の妻ジャンヌ・エビュテルヌを描いた作品では顕著である.傾いた顔に2本の指が軽く触れているポーズは,斜頸で観察される感覚トリックの典型である」と書かれていました(感覚トリックはある部位を触ることによってジストニア症状が緩和される現象のことです).

2枚目の絵「Jeanne Hebuterne in Red Shawl」もタイトルから分かるようにエビュテルヌを描いたもので,やはり頸部のジストニアを認めます.ただしこれらのポーズは,イタリア・ルネサンス期に流行した「ヴァージン・アンヌシャンテ(Virgin Annunciate:受胎告知)」であるとの指摘もあるようです.

モディリアーニは35歳の若さで結核性髄膜炎で亡くなりましたが,その翌日,エビュテルヌは5階の窓から飛び降り,身ごもっていた子供とともに自殺されたそうです.

エビュテルヌが頸部ジストニアであったという証拠はありません.一方,モディリアーニ自身が頸部ジストニアであったという確たる証拠はないものの,何枚かの写真には頭部の傾斜と右胸鎖乳突筋の肥大が写っているとの記載があります.
Newby RE, et al. A History of Dystonia: Ancient to Modern. Mov Disord Clin Pract. 2017;4(4):478-485.




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逃げたくなる『悩み』を成長のきっかけに@「医師こそリベラルアーツ!」連載第4回

2024年07月27日 | 医学と医療
「医師こそリベラルアーツ!」の連載第4回が,日経メディカル「Cadetto.jp」にて公開されました.いままで29回,岐阜大学にてリベラルアーツ研究会を開催しましたが,各回で行なった私のミニレクチャーを紙面で再現する企画です.

リベラルアーツに関するイントロを終えて,今回よりいよいよ本格的に読書を開始します.まずヴィクトール・フランクルの名著『夜と霧』を取り上げました.オーストリアの精神科医であるフランクルは,ナチスの強制収容所という極限の状態の中で「臨床医としての観察」を行い, 2つのことを見出します.1つは「人間の精神の崇高さ」であり,もう1つは「悩むことの大切さ」です.後者は逃げ出したくなるような苦しい状況や悩みこそが,人間の精神的成長や情熱を生む原動力となり得るというものでした.ひとの生死に関わる医療者の仕事も,悩みや苦悩は避けられないものです.フランクルの教えは,これらの悩みをただの苦しみと捉えるのではなく,それを乗り越えることで自らの成長と患者さんへの貢献につなげることができるという前向きな視点を提供してくれます.自分も年齢とともにそのような考え方ができるようになりましたが,医学生や若いドクターにもそういったことを伝えたいと思いました.今回は『夜と霧』のほかに,姜尚中の『悩む力』や夏目漱石の『三四郎』も紹介しました.



さて次回はフランクルの師アドラーについて解説したベストセラー『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』を取り上げ,幸せになるためにすべきことを考えたいと思います.なお本連載は,医師・医学生限定コンテンツで,医師または医学生の方は,会員登録すると記事全文がお読みいただけるようになります.




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第14回日本脳血管・認知症学会総会@長良国際会議場にお越しください!

2024年07月02日 | 医学と医療
準備してまいりました標題の学会がいよいよ今月20日(土),21日(日)に開催されます.プログラムをHPで公開しておりますが,非常に充実した内容になりました.

私は「アルツハイマー病に対する抗体療法の課題と将来の展望」という大会長講演をさせていただきます.シンポジウムでも「抗Aβ抗体療法の光と影」と題して,抗体療法に鋭く切り込んでいただく予定です.

また魅力的な講演が目白押しで,渡嘉敷崇先生は「地域在住高齢者から学ぶ認知症対策」という副大会長講演をなさいます.教育講演としては池田佳生理事長の「新時代の認知症トータルマネージメント」,長田乾顧問の「心房細動と認知症」があります.シンポジウムはほかに「認知症予防エビデンス2024」「血管性要因は中枢神経・筋疾患にどう影響するか?」,そして「血管障害と認知症」という脳と血管に注目した内容で行われます.一味違った学びの場になるものと思います.



また20日(土)の懇親会では大型の鵜飼い船を予約しました.1300年の歴史があり,織田信長公が保護し,徳川家康公もたびたび訪れて見物した鵜飼を楽しんでいただきたく思います.非学会員の先生の学会参加もOKです(ただし鵜飼は先着70人までです).皆様にお目にかかることを楽しみにいたしております!!



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flexion contractureはなぜか副腎機能低下に伴って生じる屈曲性拘縮である

2024年06月29日 | 医学と医療
カンファレンスで,flexion contractureについて議論しました.これは筋硬直により,腰が曲がり,両股関節や両膝関節も屈曲して歩行が困難になる状態をいいます(図1).筋硬直は下肢から腹部に多くみられますが,顔面や上腕にも生じるため,フランス語でcontracture facio-brachio-abdomino-crurale en flexionとも呼ばれます.



また筋硬直に加え屈曲性拘縮,有痛性筋痙攣を呈します.このため臨床的に自己免疫性・傍腫瘍性のStiff-person症候群やIssacs症候群との鑑別を要することになります.原因は汎下垂体機能低下症,ACTH単独欠損症,Addison病,Sheehan症候群などに伴う副腎機能低下です.論文を渉猟してみましたが,副腎機能低下がなぜこのような症候を来すかはまだ解明されていないようです.ただし関節拘縮は不可逆的なものではなく,「ヒドロコルチゾンによるホルモン補充療法」を行えば回復します.その期間も早い症例では数日(!)から数週で回復します(長い症例では数ヶ月かかります;図2).いずれにせよ治療可能な病態ですので,このような症候を認識し,見逃さないことが重要だと思いました.


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英語は伝える手段,完璧でなくてよいのです@「医師こそリベラルアーツ!」連載第3回

2024年06月22日 | 医学と医療
日経メディカルcadetto連載中の「医師こそリベラルアーツ」の3回目です.今回は楽天グループの創業者,三木谷浩史さんの『たかが英語!(講談社,2012)』です.リベラルアーツと英語の組み合わせは意外かもしれませんが,学ぶべき情報をインプットしたりアウトプットしたりする際に,英語は不可欠です.しかし英語で苦労している医学生や医師がとても多いことは事実で,このテーマは避けて通れません.私自身も,2004年から2年間,米国に留学した際には,とても英語に苦労しました.いまだに英語は苦手ですが,この本に書かれている内容を知っていれば,留学はもっと気が楽だったのではないかと思います.

 楽天は2010年に社内公用語を英語にする方針を打ち出し,準備期間の2年間で7000人以上の日本人が英語の習得に取り組みました.同書には,その過程と結果,日本での英語教育における問題点がつづられています.示唆に富む言葉が満載です.本文ではその中でも特に印象に残った5つの言葉をご紹介し,議論しています.

(1)完璧な英語は必要ない
(2)日本の英語教育はほとんど犯罪的と言っていいくらいひどい
(3)世界に発信する
(4)専門用語を学ぶ
(5)英語より大切なのは伝える中身
あとひとつ,私が留学中に経験し学んだことを追加すると
(6)真の国際化には,自国(つまり日本や日本人)の理解が不可欠 になります.

(6)を少し解説すると,私は多くの外国人から「このようなときに日本や日本人はどのように考えるのか? 行動するのか?」という質問を受けました.そのときに「単に英語を流ちょうに使えることが国際化ではない.自分や母国を理解し,周囲にきちんと伝えられることが真の国際化だ」と感じました.日本の文化や伝統に精通していること重要ということです.そう考えると,リベラルアーツは国際化にもとても役に立つわけです.

さて次回,第4回の課題図書は,精神科医・心理学者であるヴィクトール・E・フランクルによる名著『夜と霧』です.いよいよ本格的にリベラルアーツの世界に入っていきたいと思います.



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マイクロ・ナノプラスチックは全身の血栓に存在し,血栓中の濃度依存性に重症化をきたす

2024年05月27日 | 医学と医療
マイクロ・ナノプラスチック(MNPs)汚染は,世界的に重大な環境問題ですが,今年になりヒトへの直接の健康被害が明らかになりました.3月にNew Engl J Med誌に掲載されたイタリアからの前方視的研究では,頸動脈の動脈硬化病変(プラーク)を切除する頸動脈内膜切除術を受けた312人のうち,検討を完了した257人中150人(58%)からポリエチレンが検出され,電子顕微鏡検査ではギザギザしたMNPsが確認されました(図).MNPsが検出された患者では,心筋梗塞,脳卒中等による死亡リスクが,ハザード比4.53(!)とMNPsが検出されない患者と比較し顕著に高いことが示されました.これはMNPsがさまざまな化学添加剤(発がん性物質,神経毒性物質,内分泌かく乱物質)を含むため炎症反応が高度になるためと考えられます.つまりMNPsは心血管系疾患の新たな危険因子と考えられます.ペットボトル1本にMNPsは約24万個(9割がナノプラスチック)含まれることも報告されています.詳細はこちらのブログをご参照ください.



今回,中国より患者30人の3つの部位(脳動脈,冠動脈,下肢深部静脈)から採取した血栓中のMNPs(論文ではMPsと記載)の濃度,ポリマーの種類などを検討した研究がeBioMedicine誌に報告されました.MNPsの同定と濃度の定量には,熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析法(Py-GC/MS)を用いています.さらにレーザー直接赤外分光法(LDIR)と走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いてMNPsの物理的性質を分析しました.

結果ですが,虚血性脳卒中,心筋梗塞,深部静脈血栓症の患者から得られた血栓の80%(24/30)でMNPsが検出され,濃度の中央値はそれぞれ61.75,141.80,69.62μg/gでした.またMNPs検出群のD-ダイマー濃度はMNPs未検出群より有意に高値でした(8.3±1.5μg/L vs 6.6±0.5μg/L,p<0.001).10種類ポリマーのうち,ポリアミド66(PA66),ポリ塩化ビニル(PVC),ポリエチレン(PE)が同定されました.LDIR分析では既報同様,ポリエチレンが優勢で,全体の53.6%を占め,平均直径は35.6μmでした.LDIRとSEMで検出されたポリマーの形状は不均一でした(図A).

虚血性脳卒中に限定すると,MNPs濃度と血栓の大きさに関連はなし.統計的には有意ではないものの,後方循環の濃度は前方循環より高い傾向を示しました[131.1μg/g対60.68μg/g](図B).濃度が高い患者ではNIHSSスコアは有意に高値でした(22.0±7.5 vs 12.6±3.5,p<0.05)(図C).さらに線形回帰分析によりNIHSSスコアと血栓中濃度との間に正の相関があることが示されました!(調整β=7.72,95%CI:2.01-13.43,p<0.05).



考察では血栓中のMMPs濃度と重症度の間に用量依存関係がある可能性があること,その機序としてはMNPsが酸化ストレス,アポトーシス,パイロトーシス,炎症,ならびに免疫細胞や内皮細胞との相互作用を通じて血栓形成を促進する可能性があると述べられています.曝露源を特定することと,症例数を増やした今後の研究が早急に必要であると述べています.社会全体で取り組むべき課題であり,まずこの問題を多くの人に知っていただくきたいと思います.
Wang T, et al. Multimodal detection and analysis of microplastics in human thrombi from multiple anatomically distinct sites. eBioMedicine. 2024 May;103:105118.(doi.org/10.1016/j.ebiom.2024.105118

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