Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Painful legs and moving toes 多数例の報告

2012年04月14日 | その他
Painful legs and moving toes(PLMT)は,なかなか日本語の病名に訳しにくいが,「つま先の不随意運動と下肢の疼痛」を呈する疾患である.その病名は,神経内科医にとってはお馴染みであるものの,多数例の報告はなく(多くても20例未満),その臨床像や予後,不随意運動と痛みに対する治療の効果についての情報は乏しい.1971年にSpillaneらにより初めてその病名が報告されたが,その後,類縁疾患として
1985 Painful arms and moving fingers
2008 Painful mouth and moving tongue
も報告された.さまざまな身体部位に症状が出現しうるが,一般に症状は下肢に認められる.痛みの程度や頻度はさまざまである.基礎疾患としては末梢神経障害,神経根症,ミエロパチーが知られている.これらは頻度的に多い疾患であるが,PLMTを呈することはきわめて稀である.家族内発症も記載がほとんどなく遺伝的要因の関与は考えにくい.今回,Mayo clinicから,過去28年間に経験した76例のケースシリーズが報告された(過去最多.さすがMayo clinicと思う).

方法としては経験例の臨床データ,画像,電気生理検査,治療効果,長期予後を後方視的にまとめている.

さて結果であるが,76名のPLMTが存在し,性別は男:女=26:50で,女性が66%と多かった.発症年齢は平均58歳(24~86歳)で,神経学的な診察を受けた年齢は63歳(26~88歳)であった.症状の出現部位としては,やはり下肢のみが69名(91%)と多く,最終的に44例(全体の58%)が両側下肢に症状が出現した.上肢に限局した症例はなし.

痛みは70例(95%)で認められ,自覚的な訴えとしては不随意運動よりも疼痛が多かった.2名で痛みなし(つまりこれが以前紹介したpainless legs and moving toesとなる.4名は情報なし).痛みの表現はさまざまで,チクチク・ヒリヒリ(tingling)やしびれ(numbness),ズキズキ(aching)などが多かった.痛みの増悪因子は44例(58%)で存在し,内訳は,体位,日内変動,低い温度,圧迫(靴や服)であった.不随意運動は持続性だが,程度には漸増漸減が見られ,個々人によって特徴的なパターンが見られた.意図的に,もしくは足底を押すことで短時間であれば止めることができた.

原因としては,末梢性神経障害21例(28%;うち1/3はsmall fiber neuropathy),外傷8例(11%),神経根症7例(9%),その他11例(10%;神経遮断薬や抗不安薬の中止,つま先の手術,硬膜外注射,ミエロパチー)で,原因不明が32例(42%)と頻度が高かった.

画像所見が行われた44例では,原因となる異常所見は見つからなかった.電気生理学的には筋電図にて不規則な2~200 Hzの周期の正常の運動活動電位の発火が,50ミリ秒~1秒のバーストとして観察された.

疼痛,不随意運動とも治療抵抗性であった.痛みに対してはさまざまな薬剤(ガバペンチン,プレガバリン,カルバマゼピン,三環系抗うつ薬,SSRI,L-ドーパ,フェンタニル)や治療(硬膜外ステロイド,経皮的末梢神経電気刺激,マッサージ)が試されたが治療効果に乏しかった.不随意運動に対してはドパミンアゴニスト,クロナゼパム,ボツリヌス注射が試されたがやはり効果は乏しく,有効であった症例でも痛みには効果はなかった.

予後については,平均4.6年間の経過観察期間中,症状が持続することが多く(63例83%が持続),自然寛解率は高くない疾患であるものと考えられた.

以上より,PLMTは特に痛みへの治療が必要となる疾患であるが,種々の治療に抵抗性であり,おそらくこれは痛みに対する中枢性のリモデリングが生じているためと考えられた.


Painful Legs and Moving Toes Syndrome ―A 76-Patient Case Series―
Arch Neurol. Published online April 9, 2012. doi:10.1001/archneurol.2012.161



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脳の性分化と同性愛

2012年03月18日 | その他
Pride Celebrationはサンフランシスコ最大のお祭りで,いわゆるゲイ・パレードのことだ.ゲイ(gay)とは同性愛の人々,とくに男性同性愛者を意味する.留学中,このパレードを見学に出かけたことがある.参加者全員がゲイというわけではないそうだが,非常にたくさんの参加者がいることと,みなさん陽気であることに驚いた.とても楽しかった覚えがある.

ゲイ・パレード(サン・フランシスコ)の雰囲気

1.脳の性的興奮は視床下部から

書店で興味深い本を見つけた.「同性愛の謎―なぜクラスに一人いるのか (文春新書)」というタイトルだ.動物行動学の著作で知られる竹内久美子さんの新著.まず面白かったのは性フェロモンについて.性フェロモンは昆虫で研究が進められた物質で,匂いとしては感じられないほどの低濃度であっても,脳を性的に興奮させる.何と人間におけるフェロモン候補物質は最近のPETを用いた研究で分かっているそうだ.ラベンダーオイルなど良い匂いをかぐと前梨状皮質,扁桃体,視床下部,大脳皮質嗅覚野といった嗅覚中枢の局所血流が増加する.しかし,男性ホルモンの代表格テストステロンの構造が少しだけ変化し,揮発しやすい性質を持つアンドロスタジエノン(AND)の臭いを女性異性愛者が嗅ぐと,上記部位の血流は増加しない代わりに視床下部の血流量が増加する(ProS One 5; e8651, 2010).この視床下部は,動物が性フェロモンにより交尾を始める際に重要であることが知られている部位であることから,性的興奮の中枢の1つである可能性がある.
そして,男性同性愛者が男性に惹かれるのは,男の性フェロモンであるANDに,視床下部が興奮するためらしい.その血流増加のパターンはANDに対する女性異性愛者とよく似ていた.逆に男性異性愛者や女性同性愛者にANDを嗅がせても視床下部の血流は増加しない.つまり性行動は性フェロモンに対する視床下部の反応で規定されうるというわけだ.一方,女の性フェロモンについても分かっていて,エストラテトラエノール(EST)が有力視されているとのこと.ちなみにANDは汗,とくに脇の下や下腹部などのアポクリン腺からの汗に多く含まれ,ESTは尿に多く含まれるのだそうだ.

2.なぜ同性愛者の頻度は保たれるか?

さてこれから本題.この本によると,生涯にわたり同性とのみ関係を持つ人の頻度は多くの調査で4%,つまりクラスにひとりはいる計算で,一定の割合を保っているのだそうだ.しかし男性同性愛者(バイセクシャルを含む)は男性異性愛者と比べ5分の1程度しか子を残さないという.同性愛者は子を残しにくいはずなのに,なぜ同性愛に関係する遺伝的性質が消え去らず,同性愛者が一定の割合を保ち続けているか? 本書では上記命題に対するさまざまな仮説が紹介され,最終章に一番有力な仮説が示される.わかりやすく書かれているので本を読んでいただきたいのだが,有力な説として,免疫説と遺伝説が紹介されている.

3.免疫説

まず免疫説のヒントはカナダで行われた「男性同性愛者には男性異性愛者と比べ兄の数が多い(Arch Sex Behav 25; 551-579, 1996)」という発見であった.この現象は西洋人以外でも確認された.「たくさん男に囲まれているとその影響で・・・」と考えたくなるところだが,この「兄の人数効果」は血のつながりのない兄弟(養子など)では認められないことから単に環境の問題ではないということが分かった.まだ証明はされてはいないが,おそらく母体が男の子をお腹に宿すと,男の赤ちゃんの成長に必要な物質(Y染色体関連蛋白,候補として一番有名なのはH-Y抗原※)に対して免疫反応,つまり抗体産生が起こる.H-Y抗原はY染色体のSRY遺伝子(sex determining region Y)上に存在する遺伝子により作られるタンパク質で,生殖腺原基を精巣として分化させる作用を持つ.男性から女性に臓器を移植する際には女性には存在しないこの抗原の存在により拒絶反応が起る場合があることが知られている.おそらく,男児を妊娠する回数が増えるほど,この免疫反応は強くなる.この抗体が男児の脳,おそらく性の決定に関わる視床下部に存在するに物質(H-Y抗原)に対し影響を及ぼすという説である.よって脳の男性化が十分に起こらなくなり,男性同性愛者は女性的なのかも説明できる.しかし,同性愛者の頻度は保たれる理由については説明できない.

4.遺伝素因説

もう一つの仮説は,男性同性愛に関係する遺伝子がX染色体上に存在するというもの.その男性同性愛遺伝子が女性に存在する場合,繁殖にとって有利な働きを持っているのであれば,たとえ男性の体に存在して,彼の繁殖に不利になる働きをしたとしても,その不利を十分補いうる.つまり,男性同性愛遺伝子は母方の女に対してのみ,よく子供を産ませる働きをするので,男性同性愛者の遺伝子は残るという仮説である(父方では増えない).実際に男性同性愛者の母と母方のおばでは,男性異性愛者の母と母方のおばよりも,子供の数が多いというイタリアの報告がある(子供の数;2.69,2.32 vs. 1.98,1.51;Proc Biol Sci 271:2217-21, 2004).この現象は別の調査でも確認されている.たしかにそう考えれば,同性愛に関係する遺伝的性質が減少しない(自然淘汰されない)説明がつくかもしれない.しかしそのような原因遺伝子が同定されたわけでもないし,レズビアンについては説明がつかない.

5.その他の仮説

「同性愛の謎・・・」はわかりやすいのだが,どうも話を単純化している印象がある.実際,最近のreviewを読んでみると免疫説,遺伝説のほかにもいろいろな説があり,そんなに単純明瞭ではないことが分かる.

遺伝説・・・双生児研究に加え,分子遺伝学的研究でも可能性が指摘されている.連鎖解析にてXq28が男性同性愛家系に連鎖したとの報告があるが,連鎖しないという報告もあり論争が続いていて,必ずしも確定したわけではないことが分かる.

ホルモン説・・・先天性副腎低形成の女児におけるバイないしホモセクシャルの頻度増加が知られており,成長過程における性ホルモンの影響も可能性がある.妊娠中にdiethylstilbestrol(DES;エストロゲン関連化合物)の妊娠中曝露も女児におけるバイないしホモセクシャルの頻度増加をもたらす.内分泌かく乱物質,例えばプラスチック品の可塑剤として使用されるフタル酸エステルも,男児を「女性化」させる可能性が指摘されている.胎児のニコチン曝露もレジビアンの頻度を増加させるという報告がある.

社会因子説・・・妊娠初期のストレスは男性同性愛者の出現増加をもたらす.

6.おわりに

脳の性文化の領域は重要でありながら,まだまだ未解決の問題が残っているように感じた.今後さらに研究が進みメカニズムが解明され,誤解や偏見をなくす方向に向かうのであれば素晴らしいと思う(逆のリスクもありうる).しかし「なぜ生まれてくるか」のメカニズムにこだわるより,同性愛者が過ごしやすい世の中を考えることのほうが本当は大事であろう.TV等で取り上げられるような興味本意なものでなく,同性愛についてきちんと考える機会を持つ必要があるように思う.その点,「同性愛と異性愛 (岩波新書)」はホモフォビア(同性愛嫌悪)の実情,カミングアウトの意味,同性愛者が肯定的に生きていくための取り組みなどを紹介していてとても考えさせられる.

同性愛の謎―なぜクラスに一人いるのか (文春新書)

同性愛と異性愛 (岩波新書)

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役に立った本 2011

2011年12月29日 | その他
今年,役に立った実用書を記載しておきたい.まず,プレゼンテ―ション関連の本をいくつか紹介したい.実は今年,学会などのプレゼンテーションをいろいろ工夫してみた.そのきっかけになったのはまずこの本.

ガー・レイノルズ シンプルプレゼン
同じ著者によるプレゼンテーションzenデザインもお気に入りの本だったのだが,前者のほうがプレゼンテーションのコツがよりよく分かる.退屈なパワーポイントによるプレゼンテーションからいかに脱却するかがテーマである.学会でも明らかにこの本の影響を受けたと思しきスライドを見かけることが増えた.

パワーポイント関連といえばこちらの本は衝撃的.いきなりスゴイ! PowerPoint【超実践! これ一冊で完全マスター】パワーポイントで「こんなことができるのか!」と本当に驚く.私もこの本で学んだことを発表に使ったが,注目されることは確実!

そしてプレゼンテーションの達人といえば,Steve Jobsが思い浮かぶ.定番はスティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則だが,最近出版された図解 スティーブ・ジョブスのプレゼン術もさらに実践的で面白い.いずれにしても,伝えたいことをどのように相手に伝えるか工夫することはとても大切だし,研究すると案外,楽しめる.

次は勉強法について.まずおすすめはこれ.

新しい理系キャリアの教科書―30代・理系人間は知財を武器に勝ち残れ
理系研究者・技術者にとって,知的財産権や知財戦略を理解することは,今後,不可欠の知識となると思う.それらを理解するのに最適の一冊.

そして,言葉でたたかう技術.今日1冊だけ,お薦めするとしたらこの本.著者は「過去50年、欧米人と議論や口論をして負けたことがない」そうだ.そうなるまでの留学のエピソードがおかしくもあり,また感動的.日米文化の違い,将来日本はどうあるべきかなど多彩な内容はきわめて示唆に富む.

欧米人に学会で負けないための英語を学ぶにはこの一冊.
国際学会Englishスピーキング・エクササイズ口演・発表・応答.早くこの本を知っていたら,海外での発表も楽だったはず.

学生に読むように薦めたのは,今年,テレビでも放送されたスタンフォード白熱教室の20歳のときに知っておきたかったこと.「起業家精神」を学べる本だが,若者の人生を変えてしまうようなパワーある言葉がたくさん並んでいる.

あと,私の好きな野口悠紀雄先生の本.
実力大競争時代の「超」勉強法
勉強で獲得すべきものは「伝達能力の習得」と「問題の発見と解決の能力」であると説く.

また最近気になっている星海社新書からは武器としての決断思考.ディベートの方法を理解するための必読の書.

最後におまけ.実用書以外で一番面白かったミステリーは,文句なく,ジェノサイド.お気に入りのマンガは,とても夢のある宇宙兄弟かな.



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抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の再発

2011年09月11日 | その他
過去にも本ブログで取り上げた抗NMDA受容体抗体陽性脳炎()は,主に小児や若年女性に生じる疾患である(稀ながら男性でも発症しうる).精神症状に引き続き,痙攣,意識障害,言語障害,口部,顔面を中心とする多彩な不随意運動を主徴とする.呼吸不全や自律神経障害も合併する.卵巣奇形腫の合併を認めることが多いが,合併率は年令によって異なり,14歳より若い場合では9%という報告があるのに対し,18歳より年上の女性では56%にのぼると報告されている(Ann Neurol 66; 11-18, 2009; Brain 133; 1655-1667, 2010).集中治療室での治療が必要になる非常に重篤な疾患であるが,免疫療法と適切な全身管理により完全に回復する例や軽度の後遺症のみ残して回復する症例が多く,神経内科医の腕の見せ所とも言える疾患の一つである.大変なおもいをして治療したあと,患者さん本人も主治医ももう再発しないようにと強く思うわけだが,上記の報告では,再発率について15%ないし25%と記載している.よって残念ながら再発しうる疾患ということになるのだが,どのような症状で再発するのか,どのような症例が再発するのかについてはよくわかっていない.

今回,スペインから上記の疑問について検討した臨床研究が報告された.25名の抗NMDA受容体抗体陽性脳炎について後方視的に検討を行っている.再発は,新たに(他の原因によらない)精神症状・神経症状を呈し,さらに免疫療法により改善(一部は自然に寛解)するものと定義した.

結果としては,中央値20ヶ月の経過観察において,25名中の6例(24%)において合計13回の再発を認めた.6人中2人は1回,残り4人は2~4回の再発をしていた.初回のエピソードから中央値で2年後に再発していた(0.5年から13年後の範囲).再発率の中央値は0.52再発/人・年であった.

再発のリスクについての検討では,唯一,初回エピソードの際に免疫療法を受けていない人は,受けている人と比較し有意にリスクが高かった(P=0.009).その他,髄液検査,MRI所見,初回エピソードの際の予後,卵巣腫瘍摘出は2群間で有意差を認めなかった.血清抗体価の変化にて再発が予測できるかについては現時点では不明であった.再発時に卵巣奇形腫を認めたのは1名のみであった(1/6人;17%).

再発の症状に関しては,初回エピソードと同様の典型的症状が揃った重篤なケースは稀で,半数以上(53%)が典型的な抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の部分症状(partial syndrome)を呈した.具体的には言語障害(69%),精神症状(54%),意識・注意障害(38%),てんかん(31%)であった.また13回の再発のうち3回(23%)は,脳幹・小脳症状のみの非典型的症状であった.

結論として,抗NMDA受容体抗体陽性脳炎の再発は24%と少なからず認められることがわかった.初回エピソードからかなり時間が経過しても再発は起こりうる.再発の症状は必ずしも典型的ではない.いずれにしても初回における免疫療法をきちんと行うことが再発リスクを下げるためには重要であることがわかった.

Neurology 77; 996-999, 2011 
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放射線の健康への影響 児玉龍彦氏発言 (ぜひ動画を見てください)

2011年07月30日 | その他
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦氏が,衆議院厚生労働委員会で行なった「放射線の健康への影響」についての魂の発言です.原発事故に対する政府対応について猛烈に批判しています.子供たちを守るために,現状を正確に理解する必要があります.ぜひ多くの人に見ていただけるよう広めてください.児玉氏は以下の3点を訴えています.

1.食品・土壌・水の汚染の検証を,最新鋭機器を用いて行うこと
2.子供の被曝を減少させるための新しい法律をつくること
3.土壌汚染の除染を,民間のノウハウを結集して行う

将来,子供たちが,がんや放射線障害で苦しまないように,真剣にこの問題に向き合う必要があると思います.

you tube 画像
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100万ビューを超えていました

2011年06月11日 | その他
アクセス欄を見たら100万ビューを超えていました(驚).留学中であった2004年に,臨床の勉強も続けようと,読んだ論文を備忘録代わりに書き始めたのがきっかけでした.最初のエントリーは「感染性心内膜炎に伴う脳塞栓症例に対し,いつ弁置換術を行うべきか?」でした(全然,記憶にありません).
 早いものでもう7年目のようです.読んでいただけることも多くなり,いつまでも匿名で書いていて良いのかずっと迷っていましたが,最近,実名に切り替えました.ありがたいアドバイスをいただいたり,新たな交流が生まれたり,感謝しています.出来る範囲で続けていきます.今後ともよろしくお願いいたします.
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しゃっくり(吃逆)を止めたい!

2011年05月16日 | その他
テレビ新潟のディレクターさんからのお願いで,今回は身体のふしぎについて質問が届いた.「しゃっくりはどうして起こるのか?どうすれば止められるのか?」という質問だ.
難しいが,たしかにこれは,神経内科の守備範囲である.

 まずしゃっくりは何のために起こるのか,意味があることなのかということを自分は考えてしまうが,どうも生理的意義は不明らしい.

 つぎにメカニズムについて.しゃっくりを起こす刺激としては,以下のものが知られているそうだ.
1.胃腸やその周辺の温度の急激な変化(温かいあるいは冷たいものを飲んだ時)
2.胃の拡張(空気を飲み込んでしまう呑気症,食べ過ぎ,飲酒,炭酸飲料)
3.急に生じた感情の変化
4.タバコ

しゃっくりの神経経路(反射弓)については紆余曲折があり,現在,以下のように考えられている.

1.求心路(脳に向かう感覚入力)・・・鼻咽頭→舌咽神経咽頭枝,交感神経(Th6-12)
2.遠心路(脳から出て筋肉を動かす運動う出力)・・・
舌咽神経延髄孤束核→延髄網様体 →横隔神経→横隔膜・・・横隔膜が瞬間的に収縮する
    →迷走神経→声門・・・息の吸い込みと声門の閉鎖が起こる

ではどう止めるか?非薬物療法(身体刺激療法)としては反射弓の求心路を刺激して抑制するものが多い.

・ 舌の牽引
・ 外耳道圧迫(舌咽神経咽頭枝領域が何らかの変形・刺激をうけるらしい)
・ スプーンによる口蓋垂(のどちんこ)の圧迫
・ 綿棒による咽頭刺激
・ 水でのうがい
・ 氷水を飲む
・ 砂糖を飲む
・ レモンを噛む
舌の牽引と外耳道圧迫の有効率が高いという報告がある(近藤ら.2005).
また横隔膜の圧迫刺激が良いという報告もある.具体的には「膝を抱えて胸部に引き寄せる運動」を行う.
実は昨日,うちの娘がたまたましゃっくりしていたので,舌の牽引,外耳道圧迫を順に試した.いずれも無効.その後,膝抱えを行ったところ,即座にぴたっと止まった.膝抱えはもしかしたらお勧めかも知れない(笑).

一方,病的な吃逆も知られている.器質性と心因性,特発性(原因不明)に分類される.
器質性・・・脳梗塞,脳腫瘍,多発性硬化症,延髄脊髄炎など
心因性・・・転換反応,ヒステリー,神経性食思不振症など

持続性吃逆の症状としては,疲労,栄養不良,脱水,体重減少,不眠などが生じ,基礎疾患によっては生命にかかわることもある.

薬物療法としては,
抗精神病薬・・・ハロペリドール,クロルプロマジン
抗けいれん薬・・・バルプロ酸,カルバマゼピン
その他・・・バクロフェンなど

さてしゃっくりが4週間止まらなくて,全米の注目を集めた少女がいた.インターネットで彼女のしゃっくりを治す方法を募集して話題になった.でも動画を見てみると会話中には出ていなかったり,少し心因性の要素も気にはなるような気がするがどうなのでしょう.ちなみに睡眠中も出ているようなら病的なものといわれている.

http://www.youtube.com/watch?v=T-d8rXfKQhE&feature=related



玉岡晃.しゃっくりの臨床.Brain Med 17; 133-140, 2005(非常に詳しくかつ分かりやすい総説)
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7-8月のつぶやきから

2010年09月12日 | その他
この2ヶ月のあいだにつぶやいたもののまとめです.
リンク先をクリックしてもどうも自動で行かないようなので,リンク先をご覧になりたいときはコピペをしてブラウザで読んでみてください.

突然死との関連が疑われている多系統萎縮症の睡眠呼吸障害では,症例によっては気管切開術の適応がある.また中枢性呼吸障害を合併する際には人工呼吸器装着の検討も必要.患者さん,家族への病状説明は難しいが,以下のブログ記事はとても参考になった.http://bit.ly/cvKr5C 8:35 AM Jun 27th

前頭・側頭葉の萎縮に,パーキンソニズムと運動ニューロン徴候を合併するタウオパチー(4 repeat tau)の孤発例3例が新潟大学から報告されている.病理学的にはCBDやPSPとも異なる.新しい疾患か?http://bit.ly/9nNb10 8:47 AM Jun 27th

レストレスレッグス症侯群に対するプラミペキソールは,内服後,血中濃度が十分上昇したときにベッドに入れるように,寝る時間の2~3時間前に内服してもらうことがコツ. 7:03 PM Jun 29th

日本サッカーの挑戦が終わって,みんな,感動や勇気をもらった.仲間の大切さも示してくれた.世界レベルと戦っている彼らの姿を見て,これから自分のエネルギーをどう使うか,世界にどう挑むか,そう考える若い人が増えることに期待したい.日本の強さを一緒に世界に示そう! 9:22 PM Jun 30th

睡眠学会@名古屋に参加.「概日リズム睡眠障害」の講演は勉強になった.睡眠薬が効かない睡眠障害に対し疑う.治療は光照射療法(blue light)やメラトニンを用いる(メラトニンは視交叉上核の機能を抑え眠気を起こす).前者はいろいろ照射装置が会場で売られていた. 4:46 AM Jul 3rd

視交叉上核に存在するメラトニン1型受容体のアゴニストは新しい睡眠薬である.ラメルテオン(MT1アゴニスト) 4:50 AM Jul 3rd

1日の周期(τ;フリーラン周期)は24時間ジャストではない.長いほど夜型.短いほど朝型になり,極端なら睡眠相前進症候群になる.加齢による早寝早起きは本症には入れない.家族例もユタ州で多く報告されていて,常染色体優性遺伝. 早起きの自分はτが短いのかな? 4:51 AM Jul 3rd

「概日リズム睡眠障害」の治療は早朝の光照射で位相を前進,夕方から深夜の光で後退させる.例えば夜コンビニで,昔では経験しなかったような強い光を浴びると睡眠位相は後退してしまい,朝起きにくくなる.自分も最近,少し起床時間が遅くなったが,布団でiPadをいじり光を浴びているせいか?

レストレスレッグス症候群(RLS)ではドパミンアゴニストによる治療前に,背景にある病態を見つけること(鉄欠乏,透析,パーキンソン病,妊娠,リウマチなど),原因薬物(抗うつ薬や抗ヒスタミン薬も可能なら減らす),刺激物(カフェイン,アルコール,ニコチン)を避けるという生活指導が大切. 6:45 AM Jul 3rd

レストレスレッグス症候群の鉄の補正は,フェリチン 50 ng/ml がカットオフとして知られる.しかし,これを目指して鉄剤内服を続けると血清鉄が上昇しすぎることが多い.よって目標値として30-40 ng/mlで良いのではないか,との意見があった. 6:46 AM Jul 3rd

反跳現象とAugmentationの鑑別.前者は薬剤の切れた早朝に生じ,後者は症状発現時間が前進,かつ部位が拡大し,重症度の増悪が生じることで鑑別可能.後者の対策は,少量のまま分散投与,もしくは休薬する(ただしやめると症状増悪.オピオイド,ガバペンチンの併用必要) 6:48 AM Jul 3rd

Continuous dopaminergic stimulationがレストレスレッグ症候群でも良いらしい.ロチゴチン・パッチが良いらしい. 6:48 AM Jul 3rd

パーキンソン病に対するゾニサミド内服で問題となる副作用は眠気,無気力,体重減少,便秘である.http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17200492 4:08 AM Jul 9th

今後,TPPVを導入したALS患者さんに対しても,TLS(totally locked-in state)になる前に,再度,本人の意志を確認する必要が生じるのかもしれない.同時に「人工呼吸器を外すことの是非」に関する議論が不可欠である.http://bit.ly/bbR0Tn 4:58 AM Jul 9th

I am now attending the Asian Scientific Symposium on PD and RLS 2010 @Tokyo. #Neurology 2:35 PM Jul 17th
(この辺りから英語のつぶやきが出てくるのは韓国の友人に意味がわかるよう英語でつぶやくよう言われたため.でもまた面倒になってやめてしまった.JHoonチェソンハムニダ)

Non-motor symptoms in patients with Parkinson disease such as mood, psychiatric, and cognitive impairments could also fluctuate. #neurology 2:36 PM Jul 17th

Sensory dyspnea, the distressing feeling that one cannot take another breath, is observed in PD as a non-motor “off” symptom. #neurology 2:37 PM Jul 17th

NMS can be evaluated using the new version of UPDRS, MDS-UPDRS part 1, nM-EDL (non-Motor Aspects of Experiences of Daily Living). #neurology 2:40 PM Jul 17th

Combination of signs and imaging of “premotor phase” may be valuable to detect a subgroup of the population at risk for PD. #neurology. 4:04 PM Jul 17th

Interaction of linezolid (Zybox), an antibiotic for VRE, and SSRIs causes “movement disorder emergency” via serotonin syndrome. #neurology 6:27 PM Jul 17th

進行期のALS患者では食後高血糖を呈することがある.一過性であるため,HbA1cまでは上昇しないことが多い@神経治療学会2010 6:02 AM Jul 19th

Patients with advanced ALS may develop postprandial hyperglycemia. Because it is transient, HbA1c usually remains within normal. #neurology 6:02 AM Jul 19th

最近のニュース(TV,新聞)で覚えているものはなんですか?と質問することが認知症・MCIの診断に有用.わからない,不正確・古いニュース,取り繕いのいずれかが見られる.@神経治療学会2010 6:08 AM Jul 19th

MCI・認知症患者さんは怒りやすくなる.その原因は周囲からの不用意・不本意な対応に対する怒りが一番多く,ほかには病状を受け入れらない怒り,被害妄想的内容に基づく怒り・身体接触を含むケアに対する怒りがある.@神経治療学会2010 6:11 AM Jul 19th

レストレスレッグス症侯群のPSG所見として,全睡眠時間,睡眠効率,深睡眠(non-REM stage 3+4)比率の減少と睡眠潜時の延長が見られる.またPLMの合併も見られるが,PSG所見は診断に不可欠な検査ではない. 8:26 AM Jul 19th

症候性局在関連てんかんの発作症状の多くは,脳の局在性を示す良い指標になる.例えば,強直性頭部向反発作,頭部回旋,転倒は前頭葉病変(前頭葉てんかん)を示唆する. 8:12 AM Jul 25th

Certain Epilepsy Drugs May Increase Risk of Suicide, http://bit.ly/diTRgV #neurology 5:21 AM Jul 27th

里吉病の治療.ステロイド,IVIGは有効だが無効例あり.MTXやステロイド+FK506の有効例あり.AEDではCBZの有効例あり.女児では二次性徴をもたらすためホルモン補充療法を検討する. 4:59 AM Aug 5th

VZV脳炎の診断に髄液PCRは有用であるが,皮疹の出現から10日以降は検出されなくなり,逆に2~8週は抗VZV IgG抗体が陽性になってくる.PCR陰性でも診断を否定する根拠とはならず,両者の測定が必要である. 5:32 AM Aug 5th

Assessing the efficacy and safety of leuprorelin for spinal and bulbar muscular atrophy. #Neurology http://bit.ly/bmCHSh 7:36 PM Aug 5th

薬剤性過敏症症候群は高熱と臓器障害を伴う薬疹で,薬剤中止後も遷延化する.多くの場合,発症後2~3週間後にHHV-6の再活性化を生じる.http://bit.ly/djN00M 5:49 AM Aug 19th

末梢神経障害に伴って姿勢時いよび動作時の3-6Hzの振戦が生じうる.脱髄性ニューロパチーで多く見られると報告されている.末梢神経刺激により振戦にリセットがかかることから,末梢神経の感覚入力が関与していると考えられている. 5:50 AM Aug 19th

Polyneuropathy due to IgM monoclonal gammopathy(IgG MGUSP)の予後因子;予後不良因子(mRS 3以上)として,高齢発症と脱髄所見.一方,予後良好因子として抗MAG抗体陽性がある. http://bit.ly/9nzAr7 5:51 AM Aug 19th

ワイン好きの私に朗報.ノルウェイの研究にて,適度なワイン摂取と良好な認知機能検査成績が関連  http://bit.ly/d13MYU 1:28 PM Aug 23rd

失語性失書の最大の特徴は,自発書字と書取りが顕著に障害されるのに写字がほぼ正常であることである.失行性失書や構成失書との鑑別を要する. 5:43 AM Aug 26th

抗パーキンソン剤の換算計算で,L-DOPA 100 mg = プラミペキソール 2mgである.つまり,プラミペキソール 3 mg(6T)内服しても,L-DOPA 150 mg にしかならない.つまり,プラミペキソールの効力は弱いので,単剤では無理があるということになる. 8:54 PM Aug 28th

L-DOPAは重症度にかかわらず300 mg(分3)で処方されることが多い.つまり,症例によってはunder-treatmentになっている可能性がある. 8:56 PM Aug 28th

ドパコール(L-DOPAジェネリック)には50 mg錠があり,かつ割線があるので,ジスキネジアのための1回量を少量にする場合にはとても使いやすい. 8:57 PM Aug 28th

抑肝散では低カリウム血症が生じることが多いので,処方開始後に採血による確認が必要. 8:58 PM Aug 28th

DLBの不穏には非定型抗精神病薬のクエチアピンはむしろ症状を増悪することがある(薬剤過敏のため).ドパミン遮断作用のない薬剤として,テトラミドやデジレル / レスリンが良い(以上,5つのtweetは,パーキンソン病エキスパート・ミーティングより). 9:00 PM Aug 28th

週間のクロスオーバー試験の結果,パーキンソン病における病的賭博にアマンタジン(200 mg/day)が有効. Ann Neurol 2010;68:400-404 4:57 AM Sep 9th

若年性ミオクロニーてんかん(ヤンツ症候群).思春期に多い.ミオクロニー発作が朝方眠いとき出現.大発作や欠神発作が起こりうる.バルプロ酸が有効.朝のみの症状の場合,バルプロ酸はコンプライアンスを考え,夕方のみでも良い.内服中止に伴う再発率は高い.脳波は3Hz棘徐波および多棘徐波.41分前

新潟県浦佐にて行われた発症早期のALS患者さんと家族の集いに参加した.発症早期(今回は2年以内)に限った集まりを始めて経験した.病名告知後,病気を十分に受容できるまでの期間,患者さん・家族,医療・行政スタッフが集まって情報交換をする試みは極めて有用と実感した. 2分前
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Psychogenic movement disorderの診断・治療をめぐって

2009年10月11日 | その他
2009年10月8~10日,第3回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(いわゆるMDSJ)が東京で開催された.この学会のスケジュールはぎっしり詰まっていて,とくに恒例のイブニングビデオセッション(持ち寄った不随意運動のビデオを見て,その症候をどう表現し,どう考えるかコメンテーターが述べる名物セッション)のある2日目は,終了時間は夜9時を過ぎる.このセッションは,アルコールの影響もあって,普段の学会と違ったフランクなやり取りが行われたり,movement disorderの領域のauthorityの本音が聞けたり,とても楽しい!

今年もとても面白い話を聞くことができた.10題のビデオ演題のうち,とくにホットな議論になったのはpsychogenic movement disorderについてであった(psychogenic movement disorderについては,以前の記事を参照.下記の書籍も非常に勉強になるので,ぜひ目を通してほしい).この疾患に対する先輩神経内科医の先生方の考え方を拝聴できたのは,とても勉強になったので,以下,その中でも,とくに心に残った言葉を書き留めておきたい(少し表現が違うかもしれませんがご容赦を).

① 「psychogenic movement disorderは神経内科医がきちんと診るべき疾患である.神経内科医は,不随意運動を呈する症例の中から,神経症候学の知識をフルに活用して,psychogenicな原因を有する症例を全力で探し出さねばならない.そして適切な治療法をお示しすることは神経内科医にしかできない仕事である」
この点は個人的にはしっかり肝に銘じねばならないと思った.

② 「psychogenic movement disorderは,心理療法によって,不随意運動が消失した時点をもって診断を確定すべき」
どうみてもpsychogenicだろうと考えた症例であっても,実はorganicな原因が存在したという苦い経験を多くのベテラン神経内科医にはしていて,その教訓から上記のような慎重な態度が必要だという教訓が得られたということである.ただ一方で「psychogenic movement disorderはすべて治るというものではないので,必ずしもそうはならない」という批判もあった.確かにそうかもしれないが,診断に対する慎重な態度ときちんと治療を行うという点を強調した点で素晴らしい言葉だと思った.

③ 「psychogenic movement disorderでも後遺症が残ることがあるので(!),初期のうちに徹底的な治療介入をすべきである」
この発言にも驚いた.個人的にpsychogenic movement disorderの患者さんの経過を長くfollowできたことは多くなく,後遺症が生じうることについてはあまり考えたことがなかった.初期の治療がうまくいかず,徐々に症状がエスカレートしたらしき症例の提示もあり,とても勉強になった.

とても有意義な学会でした.とても面白い学会なので,ぜひ参加されることをお勧めします.来年は京都だそうです.

第3回MDSJ(パーキンソン病・運動障害疾患コングレス)

The Psychogenic Movement Disorders: Neurology and Neuropsychiatry (Board Review Series) 
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論文に挑戦しよう!

2009年02月28日 | その他
 若い先生方といっしょに症例報告や臨床研究をまとめていると,よく「初めて英文論文を書くとき,どうやって勉強をしたらよいのですか」と質問される.通常,最初の英文論文を一人で書きあげるのは至難の技で,ほとんど指導医が書いて,その書き方を教えてあげる必要があるように思う.それでもがんばって何度か書いていくうちに,文章のパターン・決まり文句を徐々に覚え始め,執筆はだんだん楽になってくる.決まり文句を覚えるには,良質の論文(その領域でレベルの高いジャーナルの論文)を,繰り返し声を出して読むのが良いと思う.論文として正しくない文章を読んだ時に「こんな表現見たことないなぁ」という違和感を覚えるようになったら,しめたものである.

 もうひとつのよく聞く質問は「最初から英語で書くべきですか,日本で書いてから訳せばよいですか」というものだ.英語で最初から書ければベターだが,なかなかそうはいかないと思う.個人的には,臨床の論文では症例の部分だけは最初から英語で書いている(あまり推敲の必要がないためである).つぎにIntroductionとDiscussionに移るが,書くべきことの骨子を日本語で箇条書きにし,論理の展開に誤りがないかなど十分に確認し,日本語である程度肉付けをしてから,英訳を開始するスタイルでやっている.Abstractはそれまで書いた文章を用いて最後に書く.基礎論文の場合も同様で,あまり推敲の必要のないMethod & Resultsは英語で直接書き始め,つぎにIntroductionとDiscussionを同様の方法で考え,最後にabstractを書く.
 
 自分は論文の書き方はボスに徹底的にしごかれたり,自分でも試行錯誤を行って学んだが,最近はつらい思いをしなくてもいろいろ指南書が出ている.このなかで一番のお勧めは「誰でも書ける!英語医学論文プロのコツ」である.著者は日本研究修士のイギリス人である.臨床より基礎系論文の書き方の本なのだが,IntroductionとMethod & Results,Discussionのそれぞれのセクションで気をつけねばならないことは何か?時制はどのように使い分けるか?などとても参考になる.またKISSの法則といって,Keep It Short, Stupid!といかに論文を冗長にせず,簡潔にまとめることが大切か,繰り返し述べている.100ページちょっとの薄い本にも関わらず,中身の濃い本なので,ビギナーにはご一読をお勧めしたい.

 あとは実際に論文を書き進めると,自分の書いた表現が正しいのか不安になる.これは面倒でもひとつひとつ確かめていく(そうしないと上達しない).このときに役に立つのはGoogle scholarだ.PubMedと違って本文を含めた全文検索を行うので,自分の表現が過去の論文にあるか,もしくはもっと良い表現がないのか,調べることができる.あとは「ライフサイエンス英語表現使い分け辞典」のような辞書を用いて,似た意味の単語をどのように使い分けるのか,また動詞のあとに続くのは前置詞なのか節が良いのか,前置詞なら何が良いのかなど確認を行っていく必要がある.このような実践的な技術を学ぶには「インターネット時代の英語医学論文作成術―プロが使っている究極のワザ」も良い本である.

 さらに,論文を書くとき,referenceを自動作成するソフト(EndNoteなど;EndNote X2(E) )を使用すると便利である.ソフトはやや高価ではあるが,便利なので購入して損はない.解説書の「最新EndNote活用ガイド デジタル文献整理術」も分かりやすくて良い本である.

 いずれにしても大事なことは,日本語でも英文でもがんばって若いうちに挑戦し,まずは一本書いてみることである.一度でも書いた経験があれば,次のハードルは低くなり,さらに書けば,さらにハードルは低くなる.学会報告だけで終わりにしてしまうこともあるかと思うが,学会報告のみではなにも残らない!学会報告と論文とまったくそれに要するエネルギー・苦労の度合いが違うが,その分,論文は形としていつまでも残るものである.

 ぜひ頑張って若いうちから論文執筆に取り組むことをお勧めしたい.自分の論文が見ず知らずの外国のドクターの目にとまり,手紙やメールで別刷りを請求されたり,コメントをもらったりするにはとても嬉しいもので,苦労も報われたと思える瞬間である.自分の経験が日本のみならず外国においてもドクターやその患者さんに役立つかもしれないということはすごいことだと思い.ぜひ頑張って論文に挑戦しよう!



おまけ;以下,最近,読んで面白かった本を挙げておく.

リサーチ・クエスチョンの作り方 (臨床家のための臨床研究デザイン塾テキスト)
  日常の臨床現場の中で生じた疑問を,臨床研究にて取り組むに値する「リサーチ・クエスチョン」の形に直すかを教えてくれる本.

臨床研究マスターブック
  臨床研究の行い方を様々な先生が指南している.臨床研究でのエクセルの使い方などビギナーにはとても良い企画である.

介護保険で利用できる福祉用具―電動ベッドから車いす・歩行器まで (岩波ブックレット)
  臨床研究とは関係ないが,恥ずかしながら初めて知ったことがいろいろあった.

 ゴールデンスランバー
  まったく医学とは無関係(笑).でも最近読んだミステリーのなかでは最高.
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