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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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いかに過剰医療を減らすか:Top Five ListとChoosing Wisely(てんかん診療を例にして)

2018年09月04日 | てんかん
【過剰医療防止のためのTop Five List】
患者さんに身体的,経済的負担をもたらし,無駄な医療費の膨張にもつながる「過剰医療」を見直そうとする試みがある.過剰医療の原因として,以下が知られている.

① 診療報酬における出来高払い制度
② 患者側の希望
③ 製薬・医療機器メーカーの営業圧力
④ コスト意識の欠如
防衛医療(医療過誤の賠償責任・刑事責任の危険を減らすために「念のために」行われるもの)

とくに⑤の問題は,日常診療でしばしば実感する.この過剰医療の実例を具体的に提唱することは,一定の抑止力となることが期待される.その試みが「Top Five Listキャンペーン」である.2010年,Engl J Med誌に,Medicine's ethical responsibility for health care reform- the top five listという論文が掲載された.テキサス大学家庭医学科のHoward Brody教授は,各領域の専門家に自らの領域を批判的に検討してもらい,エビデンスが乏しいにも関わらず,日常的に行われている診療を5つあげるよう呼びかけたものだ.

【医師と患者さんをつなぐChoosing Wiselyキャンペーン】
このキャンペーンをさらに発展させる形で,American Board of Internal Medicine財団が,2012年に「Choosing Wisely」,すなわち「賢く選ぼう」キャンペーンである.
オリジナルサイト)(日本語サイト
一般の人でも理解できる,カラフルで分かりやすい説明文書を作成し,医療者のみならずその医療を受ける患者さんにも情報の提供を開始するものである.つまり医療者と患者の会話を促進し,両者が情報や価値観を共有しながら,治療方針を決定していくShared Decision Makingを行うための有用なツールになるのである.

【てんかん診療におけるChoosing Wiselyの実例】
今回,てんかん診療におけるTop Five List,すなわち「行うべきでない5つのこと」が米国てんかん学会(American Epilepsy Society)より報告された.意外な記載も多く,とても参考になるため,以下にまとめたい.

① 発作が抑制できていて,副作用の疑いもない患者では,抗てんかん薬の血中濃度検査を漫然と行ってはいけない
抗てんかん薬の血中濃度を治療域に厳密にコントロールする必要はなく,その効果や忍容性は臨床的によって決定すべきである.血中濃度測定は,何らかの問題が生じた場合,例えば小児における体重を考慮した用量の決定,アドヒアランスの確認,毒性(副作用)疑い,妊婦といった場合に行う.

② バルプロ酸以外の治療が有効な妊娠可能女性へのバルプロ酸治療は避ける

どうしてもバルプロ酸が必要な場合は,最低用量を用いる.女性にバルプロ酸を処方する場合,その危険性について,受胎前にカウンセリングを行うべきである.妊娠第1期からの暴露は奇形を起こす可能性があること,また全経過を通しての暴露は,認知・行動異常を引き起こしうること,すなわちIQ低下や自閉症スペクトラム障害,ADHD(注意欠陥・多動性障害)のリスクが上昇しうることを説明する.

③ 失神の精査で,最初に行う検査として脳波は不要である

てんかん患者の大部分では脳波異常を認めず,逆にてんかんを認めない患者において脳波異常を認めることがある.つまり脳波における偽陽性所見は,不必要な抗てんかん薬の処方につながり,さらに失神の診断や治療を遅らせる可能性がある.脳波検査は単なる失神ではなく,てんかんの可能性が高いケース,すなわち病歴や検査,臨床症候からてんかんが積極的に疑われる場合において行う.

④ アルコールやその他薬物に対する離脱症状としてのけいれんに対し抗てんかん薬長期処方は不要

アルコール離脱症状としてのけいれん発作に対し,抗てんかん薬の適用はない.しかし,てんかんのリスクが高い場合,具体的にはてんかんの既往,アルコール中毒に伴う脳障害,離脱症状ではなくアルコール中毒に伴ってけいれんを認めた場合には必要になりうる.

⑤ てんかんと診断されている患者さんの発作のたびに脳画像検査をする必要はない
不必要な画像検査は放射線被曝を増やし,医療費の膨張につながる.画像検査は,けいれんに伴い頭部外傷を来した場合や,けいれん発作後に何らかの神経症状を呈する場合に行う.

なお上記の根拠となる論文は下記PDF(フルーダウンロード)をご参照いただきたい.
American Epilepsy Society;Five Things Physicians and Patients Should Question(August 15, 2018)
医薬ジャーナル2016; 52:27-29


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