診察中,「あれっ,瞳孔が歪んでいる」と思ったことがある.過去に虹彩炎でも起こし癒着したのかなと思い,深く考えることもしなかった.しかしTadpole pupil(おたまじゃくしの目)とよばれる現象があることを初めて知って考えを改めた.これは,1983年にThompsonらが報告した所見で,瞳孔が「おたまじゃくし状」に一時的に変形し,もとに戻るというものだ.原著では,脱神経した瞳孔散大筋の一部分だけが収縮(スパスム)し,瞳孔の一部のみ散大するため,おたまじゃくしの尾のような形になると考察している(図下段).
今回,JAMA Neurology誌に報告された症例はかわいい2歳の女の子.日中,瞳孔は正円で左右同大だが,朝起きた時に右目が「おたまじゃくし」になる(写真上左).起きて10分後には改善しはじめ(写真上中),40分後には正円形になる(写真上右).この女の子は生下時に右側の縮瞳と眼瞼下垂を認めていた.とくに外傷や頭痛の既往はなかったが,0.5%アプラクロニジン(アドレナリン受容体アゴニスト)を用いた瞳孔試験を行うと,右ホルネル症候群が確認された.MRIでは交感神経系の障害をきたす器質性疾患は認めなかった.
この機序をどう考えるか?Tadpole pupilは嚥下や運動など交感神経活動が亢進する状況で引き起こされることが知られている.著者らはコルチゾールが影響した可能性を考えている.コルゾールは起床時に最も高い値を示し,時間の経過とともに低下する.このため起床時にコルゾールは交感神経を刺激し,それが瞳孔散大筋の一部を収縮させるが,コルチゾール低下とともにもとに戻るのではないかという仮説である.
Tadpole pupilはホルネル症候群のほか,Adie緊張性瞳孔(内眼筋への副交感神経支配の症候性節後脱神経)にも合併しうる.また良性間欠性片眼性瞳孔散大というほぼTadpole pupilと同義の症候を呈した19例(全例女性)の検討では,月2~3回生じ,持続時間は12時間,病因は単一ではないと考えられるものの,14名が片頭痛の既往があり,発作時には視界のぼやけ15名,頭痛9名,眼窩痛を5名で認めたと報告されている(Jacobson 1995).よって片頭痛が基礎疾患にないか確認する必要がある.
一方,縮瞳する時に,瞳孔の一部が収縮しなくてもTadpole pupilと似た形になりうる.平山先生の「神経症候学」の瞳孔の項目には,不正円形瞳孔として,虹彩の癒着があるような虹彩炎,虹彩毛様体炎,そしてベーチェット病,Vogt-小柳-原田病を,また楕円瞳孔として,中脳の重篤な脳血管障害や神経梅毒,DRPLAを紹介している.瞳孔の形も奥が深く,幾つかの疾患を疑うヒントになることを学ぶことができた.
Thompson HS et al. Tadpole-shaped pupils caused by segmental spasm of the iris dilator muscle. Am J Ophthalmol. 1983;96:467-77.
Aggarwal K et al. The Tadpole Pupil. JAMA Neurol. 2017;74:481.
Jacobson DM. Benign episodic unilateral mydriasis. Clinical characteristics. Ophthalmology. 1995;102:1623-7.
今回,JAMA Neurology誌に報告された症例はかわいい2歳の女の子.日中,瞳孔は正円で左右同大だが,朝起きた時に右目が「おたまじゃくし」になる(写真上左).起きて10分後には改善しはじめ(写真上中),40分後には正円形になる(写真上右).この女の子は生下時に右側の縮瞳と眼瞼下垂を認めていた.とくに外傷や頭痛の既往はなかったが,0.5%アプラクロニジン(アドレナリン受容体アゴニスト)を用いた瞳孔試験を行うと,右ホルネル症候群が確認された.MRIでは交感神経系の障害をきたす器質性疾患は認めなかった.
この機序をどう考えるか?Tadpole pupilは嚥下や運動など交感神経活動が亢進する状況で引き起こされることが知られている.著者らはコルチゾールが影響した可能性を考えている.コルゾールは起床時に最も高い値を示し,時間の経過とともに低下する.このため起床時にコルゾールは交感神経を刺激し,それが瞳孔散大筋の一部を収縮させるが,コルチゾール低下とともにもとに戻るのではないかという仮説である.
Tadpole pupilはホルネル症候群のほか,Adie緊張性瞳孔(内眼筋への副交感神経支配の症候性節後脱神経)にも合併しうる.また良性間欠性片眼性瞳孔散大というほぼTadpole pupilと同義の症候を呈した19例(全例女性)の検討では,月2~3回生じ,持続時間は12時間,病因は単一ではないと考えられるものの,14名が片頭痛の既往があり,発作時には視界のぼやけ15名,頭痛9名,眼窩痛を5名で認めたと報告されている(Jacobson 1995).よって片頭痛が基礎疾患にないか確認する必要がある.
一方,縮瞳する時に,瞳孔の一部が収縮しなくてもTadpole pupilと似た形になりうる.平山先生の「神経症候学」の瞳孔の項目には,不正円形瞳孔として,虹彩の癒着があるような虹彩炎,虹彩毛様体炎,そしてベーチェット病,Vogt-小柳-原田病を,また楕円瞳孔として,中脳の重篤な脳血管障害や神経梅毒,DRPLAを紹介している.瞳孔の形も奥が深く,幾つかの疾患を疑うヒントになることを学ぶことができた.
Thompson HS et al. Tadpole-shaped pupils caused by segmental spasm of the iris dilator muscle. Am J Ophthalmol. 1983;96:467-77.
Aggarwal K et al. The Tadpole Pupil. JAMA Neurol. 2017;74:481.
Jacobson DM. Benign episodic unilateral mydriasis. Clinical characteristics. Ophthalmology. 1995;102:1623-7.