Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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頸原性頭痛の臨床像は従来の報告とは異なるようだ

2017年06月05日 | 頭痛や痛み
頸原性頭痛は,1983年,Sjaastadが提唱した頸部疾患を原因とする頭痛で,慢性・非拍動性で,痛みの程度は中程度から重度と比較的重く,後頭部,前頭部,眼窩周囲といった特徴的な痛みの分布を示す(図A).このような分布を示す理由として,頸部疾患による上位頸神経の障害が重要と考えられている.つまり,三叉神経脊髄路はC3まで脊髄を下降するが,上位頸神経(C1-3)からの入力は,三叉神経脊髄路核尾側亜核において,三叉神経とともに収束する(図B).このため,頸部疾患により上位頸神経が障害されると,三叉神経脊髄路核を刺激し,後頭部痛だけでなく,三叉神経領域の前頭部や眼窩周囲に痛みが及ぶらしい.しかし,この説で説明できない中下位頸椎疾患による頭痛も過去に複数報告されていた.

今回,新潟大学,亀田第一病院,新潟脊椎外科センターは,手術を必要とする頸椎疾患患者における頸原性頭痛を,国際頭痛分類第3版βに基づいて診断し,その有病率,臨床像,危険因子,手術による効果を,前方視的に検討した.対象は,頸椎手術を施行した70症例(頸椎症性脊髄症53例,後縦靭帯骨化症7例,頸椎症性神経根症5例,頸椎症性脊髄・神経根症5例)である.

結果として,既報と異なる複数の新しい知見を見出した.第1に,頸椎疾患手術患者における頸原性頭痛の頻度は,80%台という2つの既報と比べると顕著に低く21.7%であった.しかしそれらの既報では国際頭痛分類に基づいた頭痛の診断が行われてなかった.第2に頸原性頭痛患者は,後頭部やこめかみの重苦しい頭痛が多いものの,程度は比較的軽度で,鎮痛薬を必要とする患者は1例のみであった.さらに全例がC4以下の中下位頸椎レベルでの障害を認め,上位頸神経の障害の患者は含まれていなかった.どうも既報の頸原性頭痛と異なる頭痛を観察している可能性が高い.第3に頸原性頭痛の危険因子として,頸部痛,頸部可動域制限,Neck Disability Indexスコア高値を見出した.これらは基礎疾患である頸椎疾患が重篤であることを反映している.最後に本研究は初めて,頸椎椎弓形成術が,多椎間に及ぶ頸椎疾患による頸原性頭痛の治療に有効である可能性を前方視的に示した.

一番の関心は,なぜ中下位頸神経障害で頭痛が生じたかである.一つめの説は,痛み刺激は神経根から脊髄後角を経て,反対側の前脊髄視床路を上行するが,一部の侵害刺激は同側のspinocervicothalamic tractを上行する.この同側の背外側索を上行する温痛覚求心路の一部であるspinocervicothalamic tractが,三叉神経脊髄路核と連絡があるため,下位頸神経からの刺激で頸原性頭痛を生じるというものである.もう一つの説は,中下位頸椎の可動域が減少し,代償性に上位頸椎の可動域が増加し,その刺激が三叉神経脊髄路核を介して,頸原性頭痛をひきおこすというものであるが,今後の検証が必要である.論文の査読者からは,頸原性頭痛の臨床学的概念を拡大して,下位頸椎疾患に伴う頭痛を,国際頭痛分類のappendixとして加えるべきかの議論が必要であるというコメントを頂いた.

Shimohata K, Hasegawa K, Onodera O, Nishizawa M, Shimohata T. The Clinical Features, Risk Factors, and Surgical Treatment of Cervicogenic Headache in Patients With Cervical Spine Disorders Requiring Surgery. Headache (on line) DOI: 10.1111/head.13123 


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