ウィリアム・オスラー先生は「頭痛を治療する能力は内科医の力量を測るのに最も良い」とおっしゃったそうだ.ではその頭痛診療のクインテッセンス(真髄)は何であるかというと「問診である」と頭痛大学で知られる間中信也先生はそのご講演のなかでおっしゃっていた.第43回日本頭痛学会での間中先生のご講演をまとめてみたい.
間中先生は様々な頭痛の中から,まず危険な頭痛(red flag)を見つけ出すには,Dodick先生が提唱した「SNOOP(詮索好きな人,Snoopyスヌーピーはこの形容詞)」を利用すると良いとおっしゃっていた.
■ SNOOPは以下の頭文字
Systemic symptoms・signs(全身性の症状・徴候:発熱,筋痛,体重減少)
Systemic disease(全身性疾患;悪性疾患, AIDS )
Neurologic symptoms or signs(神経学的症状や徴候)
Onset sudden(突然の発症:雷鳴頭痛)
Onset after age 40 years(40 歳以降の発症)
Pattern change(頭痛発作間隔が次第に狭くなる進行性の頭痛,頭痛の種類の変化)
さらに間中先生は「頭痛のABCDE分類」を提唱されていた.5つに大きく分類し,診断・治療を構築する方法である.
A 頭痛: Acute 急性期頭痛・・・直近3ヶ月以内に発症→二次性頭痛の可能性が高い.
B頭痛: Bind 急性期+慢性期頭痛 ・・・普段も頭痛もちだが,「今回の頭痛はいつもの頭痛とは違う・とても痛い」という状況である.
C頭痛: Chronic 慢性反復性頭痛:片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛が含まれる.
D頭痛: Daily 慢性連日性頭痛(CDH)で薬物乱用なし:連日(月15日以上),3カ月以上頭痛が続く状態.
E頭痛: Excess慢性連日性頭痛(CDH)で薬物乱用(3カ月以上)がある・・・薬剤の使用過多による頭痛に相当する.
このなかで慢性頭痛は片頭痛と緊張型頭痛が混合して現れ,うっかりすると片頭痛を見逃す可能性があることを強調されておられた.やはり片頭痛の診断能力が極めて重要となる.以下,間中先生による頭痛診療のTipsを箇条書きにまとめたい(なるほど!と思うことがたくさんあった).
・A頭痛に関連して,「急性」の捉え方は,医師と患者さんで違うことがある.医師は「数分での症状の出現」をイメージするが,患者さんは「最近起きた頭痛」を思ってしまう.
・紹介状の「CT正常」は疑ってかかるように.とくに軽微なクモ膜下出血は見逃されていることもある.
・歩いて診察室にやってくるクモ膜下出血(Walk in SAH)を100%診断することは困難.見逃しは起こりうる.大切なことは,カルテに「項部硬直と突発性の有無」をきちんと記載しておくことである.
・B頭痛(慢性期頭痛に急性頭痛が合併)に関連して注意すべきは,もともと片頭痛があるところに,「激しく割れるような頭痛,トリプタンでむしろ悪化するような頭痛」が生じるものである(crash migraineと呼ばれる).原因としては,可逆性脳血管攣縮症候群 Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome(RCVS)が最も考えやすい.
・RCVSは片頭痛の患者さんに起きやすい.RCVSの血管攣縮は,何らかの誘因が引き金になり,末梢血管から始まり,その攣縮が中枢へ波及することが明らかになってきた.片頭痛は末梢血管の攣縮を引き起こす誘因の一つと考えられている.
(補足)RCVSは以下のHP(頭痛山歩)に詳しい.
・C頭痛の一つの片頭痛に関して,注意すべきは「必ずしも片側性ではない」ことである.また「必ずしも拍動性でもない」.拍動性とならない理由は,原因となる血管の部位が影響するものと推測されている.
・頭痛の問診の際,オノマトペ(擬音語)は頭痛の性状を理解するのに有用.例えばズキズキ,ズキンズキン.ガンガン,キリキリなど.(参照)メディカル・オノマトペ
・片頭痛のズキズキ(ズキンズキン)感は拍動によるものと考えられるが,じつは脈拍数とと一致していない.
・片頭痛に合併するアロディニア(通常では痛みをもたらさない微小な刺激を,すべて疼痛として認識されてします感覚異常のこと)を患者さんは自ら言わないので,積極的に問診する必要がある.
・光過敏・音過敏も,患者さんは自ら言わない.問診の方法として,片頭痛のとき,「明るい日差しと暗い部屋,どっちが良いですか?」「賑やかな音楽と静かな部屋,どっちが良いですか?」など工夫をすると良い.
・片頭痛と緊張型頭痛の鑑別に関して,身体を動かしたときの症状の変化が重要.片頭痛では痛覚過敏があり,身体を動かすと悪化する.逆に緊張型では悪化なしか,むしろ改善する.
・肩こりは緊張型頭痛を想起させるが,「片頭痛でも必発」と思ったほうが良い.
・閃輝暗点もいろいろで,ギザギザとは限らない.見本を見てもらったり,スケッチをしてもらったりすると良い.
・片頭痛の誘因に空腹(低血糖)があるが,そのような患者さんには,朝食をしっかり取っていただく.
・パソコンなどによるブルーライトは片頭痛を誘発しやすい.とくに夜,寝る前のブルーライトへの暴露は減らしたほうが良い.
・早朝頭痛での問診として,床の中から痛いのか,床を出てから痛いのかを確認する.前者はPOTS(postural tachycardia syndrome:体位性頻脈症候群),後者は髄液減少症である.POTSは①起立すると頻脈を起こすが,血圧は下がらない.②思春期,成長期に多い.③朝に調子が悪く,起きられない.朝の頭痛やふらつきを呈し,午後から夕方にかけて調子が良くなる.そのため,他人に怠けていると思われることもある.
・D頭痛に関して,片頭痛の慢性化は月15日.鎮痛薬乱用は月10日.この日数は,根拠はないエキスパート・オピニオンではあるが,決まりがないと診療・研究をやりにくいので仕方がない.
・患者さんに破局的思考(やけっぱち)がないか見抜く.患者さんは自ら言わないが,やけっぱちだと治療がうまくいかない.これをポジティブな気持ちに切り替えてあげることが医師の腕の見せ所である.
・E頭痛に関して,薬剤乱用=違法ドラックではない.つまり患者さんは悪いことをしているわけではないので責めてはいけない.患者さんは,申告すると注意されてしまうと警戒している.「つらいからですよね」と共感することが大切.
・5種類あるトリプタンの選択では,患者さんの嗜好が大事.内服しなくなるので,合わないもの,嫌なものは継続して処方しない.
・片頭痛では首こりが起こる(C2レベル).
・片頭痛の予防療法の効果発現に,2-3ヶ月かかることがある.
・バルプロ酸が女性において安易に使用される傾向があるので,慎重に処方する.
・患者さんの満足のために,ツールを使って効率的に情報を収集し,パンフレットも使って分かりやすく説明する.サービストークで患者さんの満足度を上げる.コミュニケーションは大切で,最初の3分間は患者さんに話をしてもらう.
・医師は努めて明るく,ポジティブに!医師の態度自体が治療効果になりうる.そのためには,自分自身が健康でないといけない.
・頭痛診療で重要なのは「一に問診,二に問診,三に問診,四にコミュニケーションである.
間中先生は様々な頭痛の中から,まず危険な頭痛(red flag)を見つけ出すには,Dodick先生が提唱した「SNOOP(詮索好きな人,Snoopyスヌーピーはこの形容詞)」を利用すると良いとおっしゃっていた.
■ SNOOPは以下の頭文字
Systemic symptoms・signs(全身性の症状・徴候:発熱,筋痛,体重減少)
Systemic disease(全身性疾患;悪性疾患, AIDS )
Neurologic symptoms or signs(神経学的症状や徴候)
Onset sudden(突然の発症:雷鳴頭痛)
Onset after age 40 years(40 歳以降の発症)
Pattern change(頭痛発作間隔が次第に狭くなる進行性の頭痛,頭痛の種類の変化)
さらに間中先生は「頭痛のABCDE分類」を提唱されていた.5つに大きく分類し,診断・治療を構築する方法である.
A 頭痛: Acute 急性期頭痛・・・直近3ヶ月以内に発症→二次性頭痛の可能性が高い.
B頭痛: Bind 急性期+慢性期頭痛 ・・・普段も頭痛もちだが,「今回の頭痛はいつもの頭痛とは違う・とても痛い」という状況である.
C頭痛: Chronic 慢性反復性頭痛:片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛が含まれる.
D頭痛: Daily 慢性連日性頭痛(CDH)で薬物乱用なし:連日(月15日以上),3カ月以上頭痛が続く状態.
E頭痛: Excess慢性連日性頭痛(CDH)で薬物乱用(3カ月以上)がある・・・薬剤の使用過多による頭痛に相当する.
このなかで慢性頭痛は片頭痛と緊張型頭痛が混合して現れ,うっかりすると片頭痛を見逃す可能性があることを強調されておられた.やはり片頭痛の診断能力が極めて重要となる.以下,間中先生による頭痛診療のTipsを箇条書きにまとめたい(なるほど!と思うことがたくさんあった).
・A頭痛に関連して,「急性」の捉え方は,医師と患者さんで違うことがある.医師は「数分での症状の出現」をイメージするが,患者さんは「最近起きた頭痛」を思ってしまう.
・紹介状の「CT正常」は疑ってかかるように.とくに軽微なクモ膜下出血は見逃されていることもある.
・歩いて診察室にやってくるクモ膜下出血(Walk in SAH)を100%診断することは困難.見逃しは起こりうる.大切なことは,カルテに「項部硬直と突発性の有無」をきちんと記載しておくことである.
・B頭痛(慢性期頭痛に急性頭痛が合併)に関連して注意すべきは,もともと片頭痛があるところに,「激しく割れるような頭痛,トリプタンでむしろ悪化するような頭痛」が生じるものである(crash migraineと呼ばれる).原因としては,可逆性脳血管攣縮症候群 Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome(RCVS)が最も考えやすい.
・RCVSは片頭痛の患者さんに起きやすい.RCVSの血管攣縮は,何らかの誘因が引き金になり,末梢血管から始まり,その攣縮が中枢へ波及することが明らかになってきた.片頭痛は末梢血管の攣縮を引き起こす誘因の一つと考えられている.
(補足)RCVSは以下のHP(頭痛山歩)に詳しい.
・C頭痛の一つの片頭痛に関して,注意すべきは「必ずしも片側性ではない」ことである.また「必ずしも拍動性でもない」.拍動性とならない理由は,原因となる血管の部位が影響するものと推測されている.
・頭痛の問診の際,オノマトペ(擬音語)は頭痛の性状を理解するのに有用.例えばズキズキ,ズキンズキン.ガンガン,キリキリなど.(参照)メディカル・オノマトペ
・片頭痛のズキズキ(ズキンズキン)感は拍動によるものと考えられるが,じつは脈拍数とと一致していない.
・片頭痛に合併するアロディニア(通常では痛みをもたらさない微小な刺激を,すべて疼痛として認識されてします感覚異常のこと)を患者さんは自ら言わないので,積極的に問診する必要がある.
・光過敏・音過敏も,患者さんは自ら言わない.問診の方法として,片頭痛のとき,「明るい日差しと暗い部屋,どっちが良いですか?」「賑やかな音楽と静かな部屋,どっちが良いですか?」など工夫をすると良い.
・片頭痛と緊張型頭痛の鑑別に関して,身体を動かしたときの症状の変化が重要.片頭痛では痛覚過敏があり,身体を動かすと悪化する.逆に緊張型では悪化なしか,むしろ改善する.
・肩こりは緊張型頭痛を想起させるが,「片頭痛でも必発」と思ったほうが良い.
・閃輝暗点もいろいろで,ギザギザとは限らない.見本を見てもらったり,スケッチをしてもらったりすると良い.
・片頭痛の誘因に空腹(低血糖)があるが,そのような患者さんには,朝食をしっかり取っていただく.
・パソコンなどによるブルーライトは片頭痛を誘発しやすい.とくに夜,寝る前のブルーライトへの暴露は減らしたほうが良い.
・早朝頭痛での問診として,床の中から痛いのか,床を出てから痛いのかを確認する.前者はPOTS(postural tachycardia syndrome:体位性頻脈症候群),後者は髄液減少症である.POTSは①起立すると頻脈を起こすが,血圧は下がらない.②思春期,成長期に多い.③朝に調子が悪く,起きられない.朝の頭痛やふらつきを呈し,午後から夕方にかけて調子が良くなる.そのため,他人に怠けていると思われることもある.
・D頭痛に関して,片頭痛の慢性化は月15日.鎮痛薬乱用は月10日.この日数は,根拠はないエキスパート・オピニオンではあるが,決まりがないと診療・研究をやりにくいので仕方がない.
・患者さんに破局的思考(やけっぱち)がないか見抜く.患者さんは自ら言わないが,やけっぱちだと治療がうまくいかない.これをポジティブな気持ちに切り替えてあげることが医師の腕の見せ所である.
・E頭痛に関して,薬剤乱用=違法ドラックではない.つまり患者さんは悪いことをしているわけではないので責めてはいけない.患者さんは,申告すると注意されてしまうと警戒している.「つらいからですよね」と共感することが大切.
・5種類あるトリプタンの選択では,患者さんの嗜好が大事.内服しなくなるので,合わないもの,嫌なものは継続して処方しない.
・片頭痛では首こりが起こる(C2レベル).
・片頭痛の予防療法の効果発現に,2-3ヶ月かかることがある.
・バルプロ酸が女性において安易に使用される傾向があるので,慎重に処方する.
・患者さんの満足のために,ツールを使って効率的に情報を収集し,パンフレットも使って分かりやすく説明する.サービストークで患者さんの満足度を上げる.コミュニケーションは大切で,最初の3分間は患者さんに話をしてもらう.
・医師は努めて明るく,ポジティブに!医師の態度自体が治療効果になりうる.そのためには,自分自身が健康でないといけない.
・頭痛診療で重要なのは「一に問診,二に問診,三に問診,四にコミュニケーションである.