最後の告白シーンを読みながら、涙が出てきそうになった。単純に可哀想とか、そういう話ではない。彼が「悪人」になってしまった理由なんかを突き詰めたって何の意味もない。
出会い系サイトで知り合った女性を殺し、さらには同じように出逢った別の女性を連れて逃亡し、最後にはその女の首を絞めようとした男を「悪人」と呼んでもいい。しかし、彼を認めるのではないが、彼の最後の告白の中にある彼の人に対する優しさが、 . . . 本文を読む
読みながら、途中で「これ以前読んだことある」と気付いた。数年前の話なのにもう忘れているなんてスゴイなぁ、と自分でも驚く。でも、面白いからどんどん読みすすめてしまい2日程で400ページくらいあるのにラストまで読んでしまった。
シリアスな物語ではなく、ちょっとファンタジー的なお話で、一瞬で駆け抜けた夏のことが、主人公のららの走り同様に軽快に綴られる。高校の運動会の5キロマラソンからスタートして、 . . . 本文を読む
いかにも芥川賞候補になりそうな作品だ。こういうちょっと、とんがった文体を持つ作品は確かに目を引くが、小手先で作ったキワモノと紙一重だ。芥川賞の選考委員のセンセー方は、ここをしっかり見極めなくては結局1作だけの泣かず飛ばずの作家を受賞作家として、作ってしまうことになりかねない。
川上さんは今回残念ながら落選したようだが、この1作では彼女の真価は伝わらない。まだなんとも言い難い。
前半、なん . . . 本文を読む
オリジナルのジョン・ウォーターズ版同様、ストーリーらしいストーリーはほとんどない。ハリウッドのミュージカル大作なのに、ここまで何もない話でいいのか、なんてこちらが心配になるくらいだ。
オリジナルでディバインが演じた母親をジョン・トラボルタがやる!とても綺麗でキュートなオデブさんで、はまっているが、それだけでは飽きる。もちろん主人公は彼女の娘である同じようにオデブさんの女の子のほうで、彼女が堂 . . . 本文を読む
前回はあまりに簡単に書いたのでもう少し補足したい。
あのギレルモ・デル・トロの映画とは思えないくらいに端正なファンタジーである。とても美しく哀しい。でも、デル・トロなんで、やはりかなりグロテスクで、残酷なシーンがいっぱいある。
ただ、内戦下のスペインを舞台にして、(なんとエリセの『みつばちのささやき』を意識したらしい!)少女の不安と孤独に焦点を当てているので、グロが暴走することはない。
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突撃レポーター、マイケル・ムーアが、今度はアメリカの医療問題に挑む。相変わらずエンタテインメントしてるのが、凄い。なのに下品にはならない。
キューバ行きのシーンから、ラストまで、こういう救いをしっかり用意しているところが凄い。ストーリーラインもしっかり用意してあり、クライマックスもあるし、当然カタルシスもあるというハリウッド映画のような明快さが、ドキュメンタリーであるにも関わらず、本国でも大 . . . 本文を読む
角田光代がこんなものを書くなんて。きっと実体験をベースにした半分ノンフィクションなんだろう。日記スタイルで、妊娠から(性交した、なんて書き出しだ!)出産なでの日々が静かに綴られていく、と書いてからあとがきを読むと、「私、妊娠してません。まして出産なんて」と書いてあったので苦笑する。
僕たち読者は単純なんで、こういう小説を読むとすぐ、ついつい私小説だと思ってしまうのだ。ごめんなさい。
これ . . . 本文を読む
結婚がゴールに設定されたドラマや映画なんて今ではもうない。単純に「めでたし、めでたし」ではなかろうが、それにしてもこのあまりにクラシックな映画が今作られた意味は一体どこにあるのだろう。これをつまらない映画だと一蹴しきれない理由はそのへんにある。
絵に書いたようなラブストーリーはお決まりの展開を見せていく。いくつかの場面なんかリアルとは程遠く、「まるで恋愛ドラマのワンシーン」のようだ。この21 . . . 本文を読む
あまりに単純すぎて、あっけないやら、退屈やらで、最後の方では居眠りしてしまいそうになって困った。2人のかわいい恋の顛末をファンタジックでファンシーな夢の世界の描写満載で見せていくのは悪くないし、出てくるアイテムの可愛らしさには思わず目を細めてしまうくらいなのだが、ここまで単調に見せられたら、やはり困ります。
あの『エターナル・サンシャイン』のミッシェル・ゴンドリーなのに、どうしてここまでスト . . . 本文を読む
連続して2本見る。この濃密な空間には圧倒される。『ソウル市民』を見るのは2度目だが、それなのにドキドキさせられた。静かで淡々としたいつもの平田オリザの世界なのだが、それがこんなにも緊張感を抱かせる。この後どうなるのか、なんて分かっているのに、である。手品師はもう出てこなくなるなんて知ってるのに、あの手品師はどこに行ってしまったのだろう、なんて考えてしまう。
1909年夏、日韓併合前年の朝鮮、 . . . 本文を読む
今までの吉田修一とはがらりとイメージを変え本格派推理物のスタイルで犯罪小説を見せてくれる。しかし、犯人探しなんかには当然ならない。
21歳の保険外交員、石橋佳乃が、福岡市と佐賀市を結ぶ国道にある三瀬峠で殺される。犯人は長崎郊外に住む若い土木作業員、清水祐一。出会い系サイトで知り合い、痴情の縺れから殺害に至ったものと思われる。とても簡単な事件だと思われた。しかし、殺人に簡単も難しいもない。人の . . . 本文を読む
このとってもおしゃれでシンプルなフライヤーと、タイトルに心惹かれた。ここには何ひとつ情報はないのに、なんとなく信じられる。そんなフライヤーである。こういうセンスのいい人たちが作った芝居には、きっとハズレはないはずだと思って劇場に向かう。(実は、ISTの佐藤さんから、「ゲネ見てとても面白かったので、ぜひ来て!」って連絡が入らなかったら、他の芝居を見に行ってたくせに、よくそんな事が書けるよな、と心の . . . 本文を読む
とても微妙な仕上がりの作品になっている。占い師によって自分たちの運命を預けてしまうなんていう、とてもありえないようなお話を通して、今まで信じていた夫婦の絆のようなものが、本当はどこにもなかったという事実を目の当たりにされていく夫婦の姿を描く。
ストーリー先行の展開を見せて行きながら、もともと希薄だったお互いの気持ちが見事なまでものすれ違いを見せていく終盤の展開はおもしろい。
この夫婦は最 . . . 本文を読む
この映画を凄い映画だ、という人と、これって退屈という人がいる。その両者の気持ちがとてもよく分かる。これはかなり微妙な仕上がりの映画だ。嵌ってしまうとこの映画のすべてがギレルモ・デル・トロのねらい通りだと思ってしまうことだろう。彼のバランスを欠いた作劇すら精緻に組み立てられたものに見えてくるはずだ。
いつもの残虐な描写は決して影を潜めたりしないのもいい。こういう題材を扱ってもお上品にならない。 . . . 本文を読む
いつもながらのシチュエーション・コメディーを楽しく見せてくれる。今回はいつもにも増して内容が全くない。これだけなんにもないお話で100分以上を引っ張っていくって、かなり怖いことではないか。なのに果敢にも、ともさかさんはそこに挑戦していく。正直言ってネタがなくてこんな話を作ったのではないか、と思うぐらいに話自体には仕掛けがない。だが、これだけシンプルな設定で芝居を立ち上げるのは並大抵のことではない . . . 本文を読む