一昨年11月公開されたジャ・ジャンクーの『世界』を見た時、居ても立ってもいられなくなった。《世界》では今何が起きているのか、そこから目を背けるわけにはいかない、と思った。この世の中でどれほど悲惨なことが起きていようとも、そこに行き、何かをしようなんて、思いもしなかった。無力な自分にはそんなだいそれたことが出来るわけがない、と思ったからだ。それよりも自分が今ここで生きていることで精一杯だ、と思って . . . 本文を読む
なんと舞台上に110人に及ぶ人たちが出てくる。20人ものキャスト。ピンクチャイルドのダンサーたち、沖縄かりゆし会のメンバー。さらには、対馬丸の生き残りである上原妙さん。生演奏を聞かせてくれる奏者たち。これだけの人々が登場する小劇場の芝居は見た事がない。ラストではその全員が一斉に舞台上を埋め尽くす。凄まじいエネルギーが伝わってくる。祝祭的空間がそこに展開することになる。
再演を繰り返すごとにど . . . 本文を読む
短編連作2本立。それぞれは独立した作品なのだが、互いにリンクし、まるで2本で、1本の長編作品のような作品世界を提示する。2本とも屋上を舞台にした男女の物語という共通項はある。しかし、そんなこと以上に演出の森本洋史さんの見せる歪な世界観のようなものが、全編を覆い、それが共通して底辺に流れているから、そんな風に思うのかも知れない。
強烈な個性が何をやっても彼でしかないという状態を形成する。そんな . . . 本文を読む
4話からなる短編連作なのだが、これも『ビカルディーの三度』と同じようになんとも言い難い話ばかりだ。『メンソールベイベ』は『ハッシュ』や『きらきらひかる』(2本とも素晴らしい映画だ。まだ見た事がない人はぜひレンタルしよう!)を思わせる愛し合う男2人とそこに入り込む女1人のホモ恋愛もの。続く『夕焼けブランコ』は女装癖のある男と父親に性的虐待を受けている12歳の少女とのSM的純愛もの。『アメ車とグルメ . . . 本文を読む
スカトロもの、なんていうのも憚られるくらいに、なぜだかとても爽やか(な、わけないのに)な小説だった。音大受験のため、個人レッスンを受けにいく。そこで出逢った先生を好きになる。これって『個人教授』の世界だわな。
しかし、先生は全く教えることには興味がなく、いきなり「洗面器にうんこをして見せなさい」なんて言う。そのあまりのことに驚き、羞恥を感じつつも(あたりまえだ)先生のためにそこにうんこをする . . . 本文を読む
アダム・サンドラー主演のコメディー。人生を巻き戻したり、早送りしたりすることができるリモコンを手にした彼が、自分の人生のどうでもいいところを、どんどんはしょったりしていくうちに、取り返しのつかないことになる、という話。
早送りしたら、その部分は「心ここにあらず」状態になり、さらには当然のこととして、そこで起こったことに対する記憶もないまま、先の人生を送らなくてはならなくなる。そこには味気ない . . . 本文を読む
初演から1年で再びこの作品に取り組むという無謀とも思える行為に挑戦することで、今楽市が目指そうとする姿勢を明確に打ち出してきた長山さんの勇気と冒険には敬服させられる。これは単純な再演ではない。リスクは承知の上で自分たちのスタンダードを目指す。
バリエーションをつけた新作としてシリーズものを連作していくというやり方もあったはずである。しかし、それは敢えて封印した。いくつもの物語は必ずしも必要と . . . 本文を読む
あまりにアホ過ぎてわざわざここに書くまでもない、と思った。予定通りにアホでずっと2時間笑いながら見た。それってなかなか大変なことだろう。どんなバカでもだんだん飽きてくる。なのにこの単純バカは飽きることがない。お菓子食べながら何ひとつ頭を使うことなく、アハハ、と笑い、呆れてみる。それだけの映画を作ることが出来るのが三池崇史という人だ。
この上なくバカバカで、見ていてあいた口が塞がらない。茫然自 . . . 本文を読む
『ラストコンサート』という、どうってことない誰もがもう忘れてしまったイタリア映画がある。一種の難病もので、笑顔が素敵な少女が白血病で死んでいく映画だ。当時ヘラルドの宣伝が上手くかなりのヒットを飛ばした。どうってことのない映画だけど、この映画は実はとてもよく出来ている。
まだ高校生だった僕は大毎地下でこれを見た。こんな甘い映画なのに、案の定泣いてしまった。だいたい僕映画を見てよく泣く。情けない . . . 本文を読む
久しぶりに劇団天悟を見ることになった。今回のフライヤーは、いつものタッチとは趣を変えて、なんだか少し可愛らしい。「隅田川、ほとり。僕は毎日に夢中だった。」という左端に書かれたコピーにも心惹かれた。川べりの町並みを捉えた可愛らしいイラストがいい。今までと少し違う芝居を見せてくれるかも、なんて思い、劇場に足を運ぶ。
派手な立ち回りではなく、江戸の庶民の哀歓が愛しく感じられるように描いてあればいい . . . 本文を読む
別にどうってことない映画なのだが、ちょっと疲れた体には、こういう心優しいラブ・ストーリーは胸に沁みる。
一人で突っ張って生きてるけど、なんだか少し寂しい。別に誰かに助けてもらいたいわけではない。立派に一人で生きていける。今までだってそうして生きてきた。これからだって大丈夫だ。だけど、近くに居てさりげなく支えてくれる。そんな人がいる。そして、その人が信じられると思ったとき、一緒に生きたっていい . . . 本文を読む
行定勲はとてもよく出来た物語作家だ。お話でしかないようなストーリーを、リアルに見せるのではなく、お話そのものとして、丁寧に見せる。だから、見ていて心地よい。安心してこの物語にのめり込める。しっかりしたお話は、人の心を打つことが出来る。細部のリアリティーを大切にして、この小さなお話を綴る。『お話』なんて言いながら、実はこの映画にはほとんど話らしい話はない。
引っ越してきた部屋に残された前の住人 . . . 本文を読む
SFのスタイルで(というか、これはジャンル分けするとSFなのだろう)語られる子供の時間の終わりを描く佳作。閉ざされた時と場所で、永遠の17歳を生きる少年少女の物語。
彼らは18歳になるとここを出て行き戦場に送られる。だから、本当は永遠の17歳というのは嘘で、17歳でエンドを迎えるのだ。しかし、ここで生きる彼らはその短い時間を永遠のように生きている。不安の中で過ごす時間は諦めと背中合わせだ。個 . . . 本文を読む
久々に三田誠広を読んだ。『僕って何?』でデビューした頃は時代の旗手だった。そして、『いちご同盟』は青春小説のひとつの金字塔だろう。鹿島勤監督の同名映画も素敵だった、なんて懐かしく思い出すくらいに、いつの間にか彼の小説から遠ざかっていた。
これは中高生向けのジュブナイルだが、彼の優しさがしっかり伝わってくる作品だった。
正統派のラブストーリーであり、永遠に続く放課後にいつかピリオドを打たな . . . 本文を読む
ノスタルジア(パンフではノスタルジーという言い回しをしてるが)というテーマを設定する。かなり困難を伴うことになる、なんて承知の上で岩橋さんは今回敢えてそこに焦点を当てて芝居作りをする。しかもノスタルジアというものに対してある種の距離感を抱いたまま、芝居を作る。どっぷり「あの頃」なんてものに浸りきることはない。その分幾分居心地の悪い芝居となる。これは思い出の彼方、あの頃を懐かしむための芝居ではない . . . 本文を読む