大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルセレクト・『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・2』

2020-01-28 07:08:52 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・193
『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・2』  


 
 従妹の由香里はブサイクだった。

 だった……に力が籠もる。過去形なんだ。いや、過去完了だ。ベテランのMCに質問される由香里は、まっすぐにMCに顔を向け、笑顔を絶やさず、考えるときは少し首をかしげる。まったくもって可愛い。

 俺の知っている由香里は、下ぶくれの不細工な輪郭に目だけが大きく、その目は、いつも怯えて涙で潤んでいた。ちょっと失敗すると大泣きになり、涙の他に水ばなとヨダレがいっしょになり、俺は、いつもタオルで拭いてやったもんだ。そして話をするときにも人の顔が見られず、いつも俯いてばかりいた。
「いいか由香里、そんなんじゃ学校行っても友達もできないでいじめられっ子になっちまうよ。人と話すときは、キチンと相手の顔を見て、少しニッコリするぐらいでやるの。いいか、こんなふうにね」
 俺は、そのころ好きだったMを想像し、Mに話しかけるように言った。

「お早う、どう、昨日の宿題できた? ボク、最後の問題がとけなくってさ。出来てるんだったら……あ、答を教えてほしいんじゃないの。ヒント聞かせてもらったら自分でやるから……あ、そう。どうもありがとう。そうか、これは距離から考えちゃダメなんだ。時間なんだね。うん考える!」

 てな感じで、想像のMをエアー友達にして、由香里に見せてやった。
「すごい、薫ねえちゃん、ほんとに人がいるみたいに話すんだ。由香里もやってみた~い!」
 で、由香里はやってみるんだけど、目の前に人がいると思っただけで、顔が真っ赤になり、声がしょぼくなってしまう。
 
 ま、そんな子だった。

「由香里さんは、子どもの頃はとてもはにかみやさんだったってうかがいましたけど」
 MCが聞く。
「はい。自分に自信のない子だったんで、あ、今も自信なんてないんですけどね」
「やっぱ、AKRできたえられたんですか?」
「それもありますけど、従姉のお姉ちゃんに鍛えられたってか、憧れてて、真似してばかりいたんです。とってもマニッシュでかっこいい美人のお姉ちゃんで、あ、今度の撮影H県のホール使ってやるんで、久方ぶりにお姉ちゃんのところに泊まって現場に通おうかと思ってるんです」

 ゲ……由香里のやつがうちに泊まるって!

「で、今度は初の映画出演で張り切ってるのよね?」
「ええ、まだ研究生に毛の生えたようなものなんですけど、プロディユーさんが『由香里クンみたいなのが、ひねくれたら、どんな感じになるか。そのイメチェンぶりに期待』とおっしゃって。あたしも芸の幅をひろげるためにアタックです!」

 と、いうわけで、由香里が家に泊まることになった。

「すごい。由香里ちゃんが来るんだ!」
 オカンは舞い上がって叔母さんちに電話。

 俺は悩んだ。いったいどんな風に接したらいいんだ!?

 とりあえず由香里が出る映画が『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』というタイトルで、由香里の役は、ラスト寸前まで主人公のはるかをいじめる東亜美という役ということを知り、駅前の書店に原作本を買いにいった……。
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巷説志忠屋繁盛記・20『13人の予約』

2020-01-28 06:55:36 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・20
『13人の予約』     
 
 
 
 
 マスターは外国人の友だちや知り合いが多い。
 
 国別で言うとフランスが多いが、アメリカや韓国の他十か国余りになる。
 
 そのくせ自分は外国に行ったことが無い。
 
「ひょっとして、パスポートを取得できない理由があるのかい?」
 馴染みのフランス人が、客が居なくなるのを見計らってカウンター越しに聞いたことがある。
「ヤバイパスポートやったら持ってんねんけどね、(ΦωΦ)ふふふ・・・・」
 とケムに巻いた。
 
 そのケムが本当ではないかと思ってしまうことがある。
 
 めずらしく客ハケの早かったランチタイム。
 トモちゃんが早手回しにカウンターとテーブルの拭き掃除にかかろうとすると、お客さんが入って来た。
 
「いらっしゃいま……」まで言うと。
「えと、ディナータイムの予約に来ました」にこやかに返答が返って来た。
「マスター」と首を振ると、それまで居眠りしていたマスターがガバっと顔を上げる。
「お、これは湯田さん、めっちゃお久しぶりで」
 そこから湯田さんというお客さんはペラペラと外国語で喋り出した。
 
――え?――
 
 トモちゃんは英語とフランス語が喋れて、聞いて凡その意味が分かる程度ならドイツ語・韓国語・北京語もOKだ。
 他の言語も、意味は分からずとも、ああ~語で喋ってるんだ。ということは分かる。
 ところが湯田さんの言葉は分からない。
 自分には日本語で話しかけてきたので日本人と決めてかかっていたが、その横顔を見ると、小柄ではあるが欧米系だ。
 だが、その発する言語は聞いたことが無い。
「そうでっか……湯田さんも苦労しまんなあ」
 マスターは、もろ河内訛の日本語で会話が成立している。
「……OK、ま、あのお方も来られることやったら大丈夫でっしゃろ、ほな、今夜19時から十三名様でリザーブさせてもらいます」
 湯田さんは、嬉しそうに頷くと「お邪魔しました」とトモちゃんにも笑顔を振りまいて帰って行った。
「十三人も来られるんだったら、ヘルプで入りましょうか?」
「ありがとう、でも、オレ一人で間に合うから、トモちゃんは定時でええよ。今夜ははるかも帰ってくる日やろし。食材の買い出しだけ頼めるかなあ」
「はい、もちろん」
 買い出しをしながらもトモちゃんは不思議だった、あの言語は何だったんだろう?
 こだわる性質ではないので、買い出しの帰りには気にしなくなった。
「はるかが帰ってくるんだ、わたしもオデンの仕込みしなくちゃね」
 トモちゃんは娘の好物のオデンの材料も併せて買った。
 はるかは慣れない大阪で文句も言わずに適応してくれたが、ことオデンのレシピにだけは関東風こだわった。
 関東風はちくわぶを使うこととスジ肉の使い方が違う。厳密には、それに合わせて出汁も違うのだが、今夜の出汁は、マスターが前もって用意してくれている。東京と大阪の二重生活をしているはるかには、こういうことが憩いになるだろうと力が入るのだ。
 さすがに十三人分の仕込みは大変そう、チーフも法事で休みなので、トモちゃんは仕込みだけ手伝うことにした。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・23「押すんやない!!」

2020-01-28 06:48:33 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)23
「押すんやない!!」                   


 
「殺虫スプレーだけでは、どもならんやろなあ」

 薬局のおばちゃんは、首にかけたタオルで汗を拭きながら言った。
 商店街の薬局は冷房が効いていない。半分開け放したドアのせいか、エアコンそのものの効きが悪いのか、その両方のせいなのかは分からない。
「ちょっと、見せてみい」
 調剤室に居たおっちゃんが、体のあちこちをボリボリ掻いている須磨と千歳に言う。
 庶民的な空堀商店街の薬局ではあるが、部室ではない。いちばん被害の多いマタグラや胸などを見せるわけにはいかないので、腕の裏側を見せた。
「あ~~~これは虱とダニの混成部隊にやられとるなあ……あんたは3か所、こっちのお嬢ちゃんは4か所……腕でこれだけやから、服で隠れてるとこはもっとやろなあ」
 おっちゃんの一言で、ムヒでおさまっていたあちこちの痒みが蘇ってくる。
「ああ、カユカユ……」
 痒みは広がって、2人は頭まで掻き始めた。
「ちょっと、頭かしてみい」
 2人は、おっちゃんおばちゃんにヌソーっと頭を差し出す。
「毛虱やなあ……ほれ」
 おばちゃんは、櫛ですくったそれを見せた。

「「ギョエー!!」」

 赤い芥子粒のようなのを見て、2人は店の外まで逃げ出した。
 
「まあ、とりあえず、これだけのもんがあったらええやろ!」
 おばちゃんが渡してくれたレジ袋には12畳用のバルサン2個、そしてアタマジラミ専用のシャンプーにアタマジラミ専用の梳き櫛まで入っていた。そして、ダニ・虱駆除のダンドリもていねいに教えてもらい、学校に帰った。

「来週、事務所と技能員さんが入って調査してくれるて」

 部室に帰ると、学校に掛け合ってくれた啓介が戻ってきて報告してくれた。
「来週まで待ってたら、血を吸いつくされちゃうわよ」
 演劇部の3人は、即応対処組と学校掛け合い組に分かれて対応していた。どちらかが無駄でも効果が出るように心掛けたのだ。カイカイ被害が出てから30分のことである。状況判断力と行動力が高いといえるのだけれど、まだ3人に自覚は無い。

「よーし、もう部室に残したもんはないなあ!?」

 敵陣地に爆薬を仕掛けるヒーローのように啓介が台詞をきめた。
「ラジャー!」
 ダニ用シャンプーで髪を洗い、ジャージ姿でスタンバイしている須磨と千歳が返事する。なぜジャージ姿かというと、制服にもダニが付いている可能性があるので、脱いで部室の中に置いてある。
「ほんならいくぞ!」
 啓介は、規定量の水を入れた専用の外缶に薬剤の入った内缶をセット、直ぐに煙が噴き出した。
「退避! 退避!」
 3人は、直ぐに部室を出て、ドアを閉めた。
「スゴイ煙だねえ!」
 窓から見える室内を見て感嘆の声が上がる。
「これで、ミッションコンプリートやなあ……」
 自分の後ろをエンドロールが流れていくような気がした啓介。

 しかし、演劇部ダイハードは終わっていなかった。

「啓介せんぱい……なんで制服のままなんですか?」
「え?」
「やだ、制服もバルサンするって言ったじゃない!」
「いや、ついウッカリ……」
「もう、ダメじゃん! 千歳、いくわよ!」
「ええ、須磨ちゃん先輩!」
「「いっけー!!」」
「うわー、やめろって! 押すんやない!!」

 2人は、声を揃えて啓介を部室に放り込み、鍵をかけた上でドアをパックテープで目張りした。

 10秒たらずの早業であった。
 
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不思議の国のアリス・15『カーネル・サンダースの謎々』

2020-01-28 06:35:57 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・15
『カーネル・サンダースの謎々』
    


 
 帝都ホテルのスィートでシンミリと女子会をやったあと、フカフカのベッドで眠ってしまった。
 
 お風呂に入ったのは、ほとんど日付が変わるころだった。
 
 明くる朝、メインダイニングのビュッフェでしこたま朝食を食べた後チェックアウト。大阪城を見学した。大阪に来てすぐの頃に、一度見学に来たが、あれからいろいろ調べたので、アリスには新鮮だった。

 アメリカには、お城がない。カリフォルニアに新聞成金のオッサンが建てたマガイモノとディズニーランドのシンデレラ城があるくらい。
 
 今の大阪城は、ヒデヨシ政権が1615年に滅亡したあとに、トクガワ政権が立て直したものだけど、それでも歴史的には400年で、アメリカの国としての歴史のほぼ倍である。それだけでアリスには興味深かった。天守閣タワーは、1931年に大阪市民の寄付金によって再現されたコンクリート製だけど、迫力はあった。『プリンセス・トヨトミ』という映画では、この城のホンマルエリアの真下に大阪国の国会議事堂があることになっていた。あの時大阪国の総理大臣役をやった中井貴一を、この映画でアリスはファンになった。
 表の顔は、空堀商店街のお好み焼き屋のオッチャンで、裏が大阪国のプライムミニスター「カッコええわあ!」とアリスはシビレた。今でもヒデヨシの子孫であるプリンセスは、自分がプリンセスであるという自覚もなく普通の中学生として生きている。それを大阪国のオッサンたちは密やかに見守っている。なんともクールな話だと思った。
 
 日本人は、ファンタスティックだ。
 
 フィギュアスケートの選手に織田信成(アリスが必死で覚えた漢字)という選手がいて、彼が織田信長の本当の子孫であることを知って、アリスはタマゲタ。
「鳴かぬなら、殺してしまえ、ホトトギス」
 ご先祖の信長はぶっそうなことを俳句というカタチで残しているが。プリンス信成は、こうである。
「鳴かぬなら、それでいいじゃん、ホトトギス」
 これでファンになり、ネットオークションでサインを競り落とした。アリスの二番目の宝物。一番は近所のお葬式でもらった数珠である。あれは、ただ日本の伝説的な霊柩車が見たくて、待っていたら、アメリカと変わらない霊柩車だったのでガッカリしていたら、それが、とても悲しそうな顔に見え、感心した近所のオバチャンがくれたものである。
 
 天守閣の、すぐ南に西洋のお城のような建物がある。最初来たときは分からなかったが、今は分かる。
 
「あれは、天守閣建てるときに、陸軍との交渉で建てた師団司令部やねんで」
「ほんま……?」
 千代子が気の抜けた返事をする。
「集まった寄付金の2/3は、これ建てるのにつこてんで」
「え、なんで軍隊に、そんなんしたげたん?」
「え、知らんのん。大阪城は軍隊が管理してたんやで。その一部を公園にして天守閣建てる見返りやで」
「それ、エゲツナイなあ」
「ウチは、そこまでやって、天守閣建てた大阪のオッチャン、オバチャンらがエライと思う」
 アリスは、戦前の軍隊の力の強さと折り合いをつけた大阪の人間を賞賛する演説をした。
「ここに、万博の年に埋めたタイムカプセルがあるねんよ!」
 千代子も負けずに言う。
「むかし、ここに紀州御殿いうのんがあってんよ」
 アリスは、その上をいく。
「紀州御殿?」
「明治時代に、和歌山城から移築した、立派な五点……ちゃう、御殿」
「戦争で焼けたん?」
「ううん、戦後、進駐軍……て、ウチとこのアメリカ軍やけどな。タバコの火の不始末で焼けてしもてん。大阪の消防車が大手門まで来たんやけど、中に入れてもらえへんで、丸焼け……アメリカにもしょうもないオッサンらがおるわ」
 ウンチクにかけてはアリスの勝利って、アリスは別に千代子と勝負したわけではない。何事にも好奇心の強いタチなのである。

 それから二人は梅林に行った。
 
 まだ五分咲きだったけど、アリスは満足だった。密かに、大学に入ったら、また留学生で日本に来ようと決心していた。アリスは、この不思議の国が大好きだ。
 比較的花を多く付けている梅の前でシャメを撮った。二枚目を撮ろうとしたら、着メロがした。

「サンダースのオッチャンからやわ」

 そのメールには、かなり手の込んだ謎々が添付されていた……。
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ジジ・ラモローゾ:010『ジャーマンポテト』

2020-01-27 13:17:30 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:010

『ジャーマンポテト』  

 

 

 お祖母ちゃんが新じゃがを買ってきた。

 

 子どもの拳くらいのが四十個ほど。重さで二キロくらい?

「ジャーマンポテトを作ろうね」

 半分フランス人のお祖母ちゃんが作るんならフレンチポテトじゃろうがと思うんだけど、フレンチポテトというのは無いんだそうだ。

 ジャガイモはきれいに洗うだけで皮は剥かない。新じゃがの皮は柔らかいから、そのまま食べられるそうだ。

 スライスしたニンニクをたっぷりの油でゆっくり炒める。きつね色になったら、いったんニンニクを取り出して、厚切りのベーコンをぶち込んで炒める。

「あ、しまった!」

 お祖母ちゃんは、ジャガイモの加熱を忘れていた。

「ま、今からでもいいわ」

 ジャガイモを入れたボールにラップをかけ、レンジで七分間チン。

「あたしが出す!」

「火傷に気を付けてね」

「はいはい……アツッ!」

「そんな布巾みたいなのじゃダメよ、しっかりグローブのやつで」

「へいへい(;'∀')」

 焼けた鉄でも持てそうなグローブ嵌めて再チャレンジ。テーブルに置いてラップをとると、湯気と言うよりは蒸気がボワッとたって、もろに顔にかかってしまう。

「うお!」

 いっしゅん息が出来ないほど。小粒だけど新じゃがと言うのは凶暴だ。

 新じゃがを、さっきベーコン炒めたままの鍋にぶち込んで、チャッチャカ炒める。塩を振って黒コショウをパラパラ、とっておいたローストガーリックを戻して、しょう油を鍋肌に垂らすと香ばしい香りがキッチンに満ちる。

「味見しよう!」

 爪楊枝を出して、お祖母ちゃんと試食。

「ワッチッチ!」

 表面大人しそうになった新じゃがは、ひと齧りしただけで「オレはまだアチチだぜええええ!」と狂暴ぶりを発揮、上あごを火傷してしまう。

 アハハハハハハハハ((´∀`*))

 あ、えと……そんなに笑うことないでしょ、お祖母ちゃん!!

 

 夕食で敵討ちすることを誓って、ジージのファイルを開く。

 

『ジージのファイル』

 担任を持って第一にやる事は生徒の顔と名前を覚えること。

 書類や生徒手帳に貼る写真を預かっているので、予備になっている一枚の裏に氏名を書いて、全員分紐で閉じ、英単語を覚える要領で、何度も繰ってみる。

 一発で憶えられる子と、何度やっても憶えられない子がいる。

 どういう子が憶えられて、どういう子が憶えにくいのか、うまくは言えないけど、あるんだよ。

 そうやってると、この子はちょっと……感じる子が居るんだ。

 気になると、中学校や前の担任から預かった書類を見るんだ。

 そうすると、この子は、早くから関わった方がいいというのに出くわす。

 新入生なら入学式の日に、二三年生なら始業式の日に家庭訪問する。

 家庭訪問には理由が居る。何もないのに家庭訪問というのは、警戒されて逆効果になることもあるからね。連絡し忘れたことがありましたとか理由を付けて訪問する。多少抜けたように受け止められても、わざわざ来てくれたということで、まあ、一点先取という具合だ。生徒と言うのは学校と家とじゃ見せる顔が違うからね。うまく保護者に会えたら、二点先取。

 なにごとも先手必勝。

 あ、別に遠まわしの説教じゃないからね。

 

 

 ジージは、かなり気を遣う人だったんだ。

 説教じゃないからね……ちょっと気になる。

 わたしがファイルを読むときは説教というか……なにかメッセージを残そうと思ってたから?

 

 あ、こういう気の回し方はネガティブだよね。

 思いついて、ジャーマンポテトをお供えすることにする。

 

 

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ライトノベルセレクト・『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・1』

2020-01-27 06:20:39 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない・1』 


 気が付くと連休だった。

 今年こそ、がんばるぞ! と決心して三週間ちょっと。最初の一週こそは遅刻もせずに、授業中もちゃんとノートをとり、先生の話も聞いていた。
 それが、先週になって遅刻はするは、授業中に居眠りはするは、ノートは数Ⅱだけでも、三時間。全教科一週間分は取り遅れている。選択教科を入れて十教科。もうノートを借りて写そうという気持ちもおこらない。
 もっとも友達の大半が似たり寄ったり。ラインで連絡取り合うだけ無力感にさいなまれるだけ。

 このまま没落の一年の予感。

 ま、こう言っちゃなんだけど、学校がショボイ。我が県立H高校は、偏差値42。県内でも有数のダメダメ高校。
 俺の人生は中学三年で狂ったと言っていい。いろいろ理由というかワケはある。例えば数学。
 二年までは、公式は「成り立ちを理解してから使え」だったけど、「とりあえず覚えろ、使って暗記しろ!」に変わった。俺は、物事の因果関係がはっきりしないと落ち着かない人間だ。

 例えば、中一のとき「日本はニッポンとニホン、どちらが正しいのか?」で、悩んだことがある。

 先生は明確に答えてくれた。
「ニッポンが正しい」
 理由は分かり易かった。昔の日本人は「H」の発音ができなかった!
「なんで、そんなことが分かるんですか?」
 俺は、すかさずに聞いた。
「平安時代のナゾナゾにこんなのがある『父には一度もあわず、母には二度あうものはなにか?』で、答は『唇』なんだ。つまり『母』は『ファファ』と発音していた」
 そう言われて唇をつけて発音すると……なるほど『ファファ』に、ぶきっちょにやると『パパ』になる。
「そうなんだ、江戸時代の最初ぐらいまでは『H』の発音ができなかったんだ。だから『ニホン』とは発音できずに『ニッポン』と言っていた。ただ時代が進んで『H』の発音が出来るようになると使い分けるようになった『ニホンギンコウ』とは言うけど、サッカーの応援なんかの時は『ニッポン』だろ」
「そうか、ここ一番力をこめる時は『ニッポン』なんだ!」

 そういう理解をする子だった。

 ただ分かっていても、ことの本質が理解できなければ、分かった気にもならないし、学習意欲も湧かない子だった。
 それが、やみくもに「覚えろ、とにかく公式を使え!」は受け付けなかった。

 で、結局は三年生はつまらなくて、よく学校をサボったし、授業も不真面目、あっというまに成績は下がり、高校は県内でも最低のH高校しか行けなかった。ここだけの話だけど、家出もした。高校に入る直前にはバージンを失い……そうになったこともある。

 あ、ここで誤解を解いておく。
 
 一人称は「俺」だけど、俺は女だ。中一までは世間並みに「あたし」と言っていた。ときどき「ボク」という言い方もしていた。世間でいう「ボク少女」だった。
「ボク」と「俺」の間には大きな開きがある。「ボク」は年下の子なんかに「自分は世間の女の子とは違うんだ」という感じで使ってた。それが中三の時に好きだった男子に使うときは、ちょっとした媚びがあった。その男子も「ボク」を可愛いと思い、ボクを女の子から女にしようとした。けっきょく、そいつは最低な男子だったけどな。

 それから一人称は「俺」に変わってしまった。

 H高校の一年生も最低だった。俺は、これでも高校に入ったらやり直そうと思っていた。一人称を変えてもいいと思った。でもダメだった。

 予感は、入学式の時に気づいた学校の塀。

 塀には忍び返しって、鉄条網付きの金具が付いている。普通、これは外側に俯いている。外からの侵入を防ぐために。
 しかしH高校のそれは、内向きに付いている。つまり、中から外への脱走を防ぐためにな。

 授業は、どれもこれもひどいものだった。33人で始まったクラスで進級した者は20人しかいなかった。かろうじて俺は進級組に入っていた。だから、なけなしのやる気を振り絞った。最初のホームルームの自己紹介で「あたし」と言おうと思ったが、先生やクラスの人間の顔をみていると「俺、一ノ瀬薫。よ・ろ・し・く!」とやらかしてしまった。ケンカも二度ほどやって、一目置かれるようになったけど、群れることはしなかった。

 そんなこんなで、連休初日。昼前に起きてリビングに行くとオカンが叫んだ。

「ちょっと、これ、由香里ちゃんだよ!」
 
 テレビは、日曜の朝によくある、その道の有望新人のインタビュー番組だった。

 そして、そこに映っていたのは、我が従妹の由香里だった。MCの質問にはにかんだり小首をかしげたり、可愛く顔の前で手を打ったり、笑うとつぶらな瞳がかまぼこ型になって涙袋が形よく浮かんだり……。

 俺の従妹がこんなに可愛いわけがない!

 大波乱の連休の始まりだった……。
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巷説志忠屋繁盛記・19『アイドルタイムはアイドルタイム・5』

2020-01-27 05:52:18 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・19
 『アイドルタイムはアイドルタイム・5』  
 
 
 マスターの喜怒哀楽の半分は演技である。
 
 子どものころから心がけていて、生の感情は見せないようにしている。
 
 生の感情をむき出しにしたとき、かならずトラブルがおこるからだ。
 捨てられていた子犬がめっぽう可愛くて抱きしめているうちに心肺停止状態にしてしまったり、煽りをかけてきた車にブチ切れて、車を降りて相手のフロントガラスを軽くたたいただけで粉みじんにしてしまったり、愛おしさのあまり彼女を抱きしめ肋骨を折ったりした。
 
 子犬を仮死状態にしてしまった時など、最初に見つけた幼なじみの百合子に鬼畜のようになじられた。
 いっしょに居た酒屋の秀が「おばあに頼もや」と提案、おばあとは町内で古くからオガミヤをやっているヨシ婆で、子犬を連れて行くと「このバカタレが!」と一括した後、見事に子犬を蘇生させた。それ以来、なにかにつけて生の感情を爆発させないようにしている。ヨシ婆は向かうところ敵なしのマスターにとって数少ない鬼門筋になった。
 
 だから、このロケでの驚きを制御するのは並大抵ではなかった。
 
「マスター……やっぱ怒ってる……?」
 中川女史が恐る恐る声を上げた時は、撮影が中断してしまった。
 マスターの驚きオーラが強すぎて、人には静かに激怒しているように見えるのだ。
「な、なにかありましたか!?」
 ロケ現場の異様な空気に交番の秋元巡査まで飛び出してきて、マスターの大魔神のような顔に思わず拳銃のホルスターに手を掛けたほどだ。
「みなさん、滝川浩一はただただ驚いているだけです! 秋元はん、拳銃は抜かんように!」
 長年の付き合いの大橋が出てきて、真実を叫ぶまで呪縛は解けなかった。
 
「え……あ……いや、さっき夢子やってたんもお母ちゃんやってたんも上野百合さんなんでっか!!??」
 
「え、あ、は、はい……」
 身体を張って百合の縦になったチーフADの陰から小動物のように百合は応えた。
 
 な、なんちゅうーーーこっちゃーーーーー!!
 
 マスターの雄たけびで半径五十メートルの建物のガラスにヒビが入った。
「百合さんは、うちのはるかが居た乃木坂学院高校の先生だったんですよ。分けあって退職されてからは女優に転身されたと聞いていましたけど……いや、こんなに演技幅の広い女優さんだとは思いませんでした! 夢子の時は完全にハイティーンでしたもの!」
「え、え、じゃ、坂東はるかさんのお母さんでしたの……?」
「はい、はるかの母でございます。『春の足音』でははるかがお世話になりまして」
「いえ、あ、その節はこちらこそなんですけど……てっきりアルバイトの女子大生くらいにお見受けしておりました」
 これには志忠屋の一同も驚いた。
 毎日接しているから分からなくなっているが、トモちゃんは、とても二十歳の娘の母親には見えなかったのだった。
 
 ロケは、協議の結果、月に二回のペースで行われることになった。
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・22「なんですってえ!?」

2020-01-27 05:45:12 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)22
「なんですってえ!?」                     


 

 かゆ~いいいいいい!!

 寝ていた須磨が飛び起きた。

 

「どうかしたんですか?」
 ワンピース8巻目から目を上げて、千歳が聞く。
 PCゲームをやっていた啓介も、マウスをクリックする指が停まってしまう。
「なんか居るんじゃないかなあ……あちこち噛まれてるよ……ウウ、手が届かない。千歳ちゃん、ちょっと背中掻いてくれない」
「は、はい」
 千歳は器用に車いすを旋回させて、須磨の後ろに回ってブラウスの上から背中を掻きはじめた。
「……それじゃ、たよりない……直接やって」
「はい」
 千歳は、須磨のブラウスに手を突っ込んで、直接背中を掻いてやる。
「たしかかゆみ止めが……」
 啓介は部室奥のロッカーをかき回し、数分後に、まとめ買いされていたムヒを発見した。
「先輩、これを……」

 ムヒを手に振り返ると、須磨はスカートをたくし上げてマタグラを。千歳もブラウスのボタンを外してボリボリかいている。

「あ……いちおう、オレも男子やねんけど」
「「あ……」」
 さすがに二人の手は停まった。
「オレ、ちょっと外出てるさかい、ムヒ塗っておさまったら呼んでもらえます?」

 廊下に出て、啓介は二人のかゆみが収まるのを待った。

「この部室、虫が湧いてるわよ」
「ほんと……キャ、これってダニじゃないですか!?」
「この大きさは虱だろうね……」
 血を吸ってまん丸になった虫を掃き集めた。
「ウウウウウ、なんで、こんなのがいるのよ!? ちょっと、啓介せんぱーい!!!」
「え、え、え、なにかなあ……って、その前に服装なおしてもらえませんか」
 須磨も千歳も、ムヒを塗ったり、痒いところを掻いたりで、あられもない姿になっている。
「いや、あの、だーかーらーー!!」
「信じらんないわよ、この不潔さ!!」
 かゆみとおぞましさと怒りのために、恥ずかしさを忘れて、啓介に噛みつく二人。
「ところでさ、小山内君は、どうして痒くならないわけ?」
「あ、そりゃ、オレは虫除け塗ってますから」
「「なんだってえ!?」」
「え……オレ、なんか間違えてる?」

 女子二人のジト目に耐えきれなくなってきた啓介であった……。
 

 
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不思議の国のアリス・14『星に願いを……』

2020-01-27 05:38:02 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・14
『星に願いを……』
     


 
 ベルボーイがチップを取らないことに驚いた。

 アメリカじゃ、当たり前にチップを取る。ほんの一ドルかそこいらなんだけど、部屋まで荷物を運んでくれたベルボーイは笑顔で、やんわりと無言で――けっこうです――の意思表示をした。

 そして、入った部屋にびっくりした。

 さすがにスイートではないし、広さも千代子と二人で使っている部屋とあまり変わりはなかったが、その清潔さは世界一だ。洗面台やバスは、まるで自分たちが初めて使うようにピカピカで、水滴一つついていない。アリスは、バスのカランの裏側まで見たが、そこもピカピカで、むろん髪の毛一本落ちていない。
 窓からは、大川の向こうに大阪城がライトアップされて、とてもファンタスティック。

 やっぱ、千代子と東クンが……とは、思わなかった。もう吹っ切って千代子とパジャマパーティーのノリでやるつもりだ
 
「あと二週間なんだね……」
 
 千代子がポツリと言った。
 
――そうだ、あと二週間で、日本を離れなければならない。―
 
 バカみたいだが、アリスは全然忘れていた。日本に来て、いや、大阪に来ての半年考えもしていなかった。特に、この十日あまりは、千代子と東クンを、どうゴールインさせるかで、月日のたつのを忘れていた。
「ほら、あそこの駅ね、桜宮いうて、季節になったら、満開の桜で一杯になるのんよ」
「惜しいなあ、もう一カ月のばせたらなあ……」
「あっちいくと……」
「造幣局の通り抜けやろ?」
「なんや、アリス知ってんのん?」
「うん、となりのオバアチャンから、よう聞いたわ。そのオバアチャン、娘時代に、通り抜けでダンナさんと見合いしたんやて」
「うわー、素敵やなあ。そのダンナさんといっしょにシカゴに移住しはったん?」
「……ううん。ダンナさんは、すぐに戦争に行って戦死」
「え……ほんなら?」
「戦後大阪に来た進駐軍のダンナさんに出会うてオンリーさんにならはった」
「オンリーさん?」
「なんや、千代子、なんにも知らんねんなあ……」

 それから、アリスはTANAKAさんのオバアチャンから聞いた話をした。
 
――ウチは、幸せな方や。ダンナがちゃんと結婚してくれて、アメリカに渡って生きてこれた……――
 TANAKAさんのオバアチャンは、それ以上のことは言わなかったけど。同じような境遇の女性が不幸になったことは、オバアチャンの無言の語尾で、アリスにも分かった。
「ふうん……そんなことがあったんやねえ」
「なんで、アメリカ人のウチが、日本人のあんたに説明せなあかんのよ」
「せやかて、習うたことあれへんもん」
「なんや、けったいやなあ」
「ほんまやなあ……千代子の気持ちも分からんくせに、ウチて、変なとこで日本に詳しい。けど、その詳しいことは、ほとんど今の日本にはあらへん」
「なあ、アリス」
「なに?」
「アメリカ帰ったら、何すんのん」
「となりのオバアチャンに、大阪の話したげる」
「ちゃうやん。その先」
「ああ、進路か?」
「大学いくんやろ?」
「うん。この留学で、ハイスクールの単位はみんな取れるよって。大学で日本の勉強するわ」
「ああ、そう……ちゃんと考えてんねんね」
「当たり前やん、うちの人生やねんから」
「そやけど、えらい!」
「ああ、そう……ハハハハ」
 何を思いついたのか、アリスが笑い出した。
「どないしたん!?」
「発見した!」
「なにを?」
「『ああ、そう』は英語の『are so』と言葉も意味もいっしょや」
「ほんま?」
「うん、今の会話で気いついた……日本て、不思議な国や」
「アリスも不思議なアメリカ人や」
「あ……星が流れた!」
「ほんま!?」
「星に願いを……間におうた!」
「あ、アリスだけズルイ」
「ほんなら千代子も、空見ときいや」
「うん、バレンタインの流れ星。なんか効き目がありそうやなあ!」

 そうやって、春まだ浅い夜空を見ているうちに眠ってしまうアリスと千代子であった……。
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せやさかい・117『新型コロナウイルスとお善哉』

2020-01-26 14:13:14 | ノベル

せやさかい・117

『新型コロナウイルスとお善哉』 

 

 

 全校集会で中国発の新型コロナウィルスの話があった。

 

 校長先生の話なんて、いっつも右から左やねんけど、今日ばっかりは、みんな真剣に聞いてる。

「うがい手洗いをちゃんとしましょう。特に手洗いは有効です。みんなは手のひらを重点的に洗っていると思いますが、手の甲、指の股のとこなどをしっかり洗います。こんな風ですね……」

 校長先生は右手と左手の指の股を交差させて洗い方の見本を実演。

 マイクが手を合わせるシュッシュッいう音を拾って、ちょっと可笑しいねんけど、笑うもんは居らへんかった。みんな、ネットやテレビで見て大変なことを知ってるから。

 十三年の人生でエライこっちゃと驚いたんは、まず地震。東日本大震災は、まだ二歳やったから記憶にない。

 いちばん怖かった地震は一昨年の北部大阪地震。

 ほら、登校途中の小学生の女の子が、倒れてきたブロック塀の下敷きになった。しばらくは、ブロック塀を見ると、ギョッとしたもんやし。

「あ、そうなの?」

 頼子さんは言う。

 怖いのは地震! というとこまでは一緒やったんやけど、うちと留美ちゃんが北部大阪地震!と声が揃ったのに、頼子さんは「東日本大震災!」と言うたから。

 頼子さんは、当時四歳……そら、憶えてるわなあ。当時は東京に住んでたらしいし。

「あ、そんな年寄りみるような目で見ないでくれる(;^_^A」

 

 ミヤーーー

 

 襖の向こうでダミアの声、ネコ語で「早よ開けて~」と言っているので、留美ちゃんが開けに行く。

 ダミアの首輪にメモが挟んである。

 本堂裏の部室で部活をやってると、ときどきダミアはメッセンジャーになる。庫裏の方から怒鳴っても聞こえるんやけど、伯母ちゃんとかはメモにする。ダミアも、このお使いが好きなようで「ありがとう」とお礼を言うてモフってやると喜んでる。

―― お善哉が出来たから、食べにおいで(^▽^)/ ――

「おお、これはこれは!」

 あたし、頼子さん、留美ちゃんの順番でお茶の間に向かう。ダミアは頼子さんにモフモフされて、これまた上機嫌。

 お寺のお正月はいっぱいおモチがある。

 仏さんにお供えするのがハンパな量やないさかいにね。

 ご本尊の阿弥陀さんが一番大きいし、聖徳太子に親鸞聖人、うちの開祖や歴代住職、それに酒井家の御仏壇のお供えでも、一般家庭の倍の大きさはあるしね。そういうのんを、焼いたり善哉にしたりして、二月の最初くらいまではあるらしい。

「おお、三つも入ってるし! すみません、いっつも」

「え、五つがよかった?」

「あ、いえ、そんなあ(*ノωノ)」

 むろん、伯母ちゃんは冗談で言うてんねんけど、頼子さんはまんざらでもない顔。頼子さんは時折こういう顔を見せる。ほとんど完璧なプリンセスぶりがこういうところを見せると、うちらの頼子さんいう感じで嬉しい。

 頼子さんは大食漢というわけやないんやけど、お餅は好物なようで三つのお餅をペロリンと食べる。

 留美ちゃんは一個、あたしは二個。

 

 善哉で幸せになってるとこに詩(ことは)ちゃんが帰ってきて輪に加わる。

 

 詩ちゃんはマスクをかけて学校に行ってる。

 電車通学やし、途中で難波とか阿倍野とか通るしね。

 マスクの詩ちゃんはとびきりのベッピンさん。

 むろんマスクなしでもベッピンさんやねんけど、マスクしてると目ぇが強調されるでしょ。

 詩ちゃんの魅力は切れ長の目ぇやということを発見。なんかメーテルみたい。

 頼子さんも留美ちゃんも思ってるけど、本人の前では言わへん。言うて恥ずかしがる詩ちゃんを見てみたい気ぃもするけど、詩ちゃんは褒められるのが苦手、特にルックスについて褒められると、信じられへんけど落ち込む。理由は……またいずれ。

「おーーこれこれ、これを楽しみに返ってきましたのよ、わたくし(o^―^o)」

 マスクを外した詩ちゃんは、思いのほか大きな口を開けてお餅にかぶりつく。

「あ~おいしい」

 やっぱりいつもの詩ちゃんでした。

 

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巷説志忠屋繁盛記・18『アイドルタイムはアイドルタイム・4』

2020-01-26 06:01:07 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・18
 『アイドルタイムはアイドルタイム・4』  
 
 
 ……にしては若すぎる。
 
 トモちゃんの確信は揺らいだ。
 
 ロケの最初は、上野百合演ずる夢子が学校から直で夢中屋に帰ってくるところだ。
 地下鉄の階段を駆け上がり、交番の角を曲がって店に突撃してくる。
「ごっめーん! ホームルーム長引いちゃって!」
 言いながら上着を脱いで通学カバンといっしょに壁のフックに掛かっているエプロンと交換して、チャッチャと着替えている。
「……え、あ、それもあったんだけどね。ま、この時期の高校生っていろいろとね。今日のランチは……(ボードのランチメニューを睨む)トルコライスのボローニャ風。お父さん得意の国籍不明ランチだね……ううん、文句はないけど、お皿が増えるのがね……いえいえ、よっろこんでいたします!」
 
 店の手伝いのため早く帰って来た夢子がプータレながら手伝いをするというシーンだ。
 狭い店なので、最低人数のキャストとスタッフしか入っていない。
 
「相手役の役者さんて、お父さん役の人だけですか?」
 ロケバス横がスタッフの控え場になっていて、そこのモニターを見ながらトモちゃんが指摘する。
「狭いから別撮りすんねんやろ」
「それもあるんですけどね……」
「すんまへんな、狭うて……」
「あ、いやいや、ちょっと仕掛けがあったりしましてね(^_^;)」
 中川女史が額の汗を拭く。
 
「カットー!」
 
 カメリハとランスルーを一発で済ませると、スタッフが照明やら音声のセッティングのやり変えに動き回り、監督は百合とお父さん役の役者に身振りを交えて説明を始める。
「了解しました、じゃ、着替えますね」
 百合は、さっき挨拶に来た時とは違う真剣さで受け答え。そのクールな姿にマスターの目尻が下がる。
「孫ほど年下の女性にときめいたらあきまへんで」
 チーフが突っ込む。
「じゃかましい、ええもんはええんじゃ」
「思うだけにしといてくださいね」
「手ぇワキワキさせたら、やらしいでっせ!」
「ほぐしてるだけじゃ」
「目つきがやらしいー」
「そっちが偏見の目でみるからじゃろがー」
 志忠屋のメンバーで盛り上がっているうちに、ロケバスからお母さん役の女優さんが下りてきた。
 
「……じゃ、本番いきまーす!」
 
 さっきよりも簡単にテストもリハーサルも終わって本番になった。
「え、掃除当番とか言ってなかったっけ?」
 なるほど、お母さんの台詞は先ほどの夢子の台詞と噛みあうように発せられる。
 別撮りにしてはめ込むようだ。
 だが、いくら狭い店とは言え、夢子といっしょに撮ればいいのにと志忠屋の三人は思う。
――お母ちゃんもええけど、やっぱり夢子役の百合がええなあ――と、マスターは思う。
 
「カットー!」
 
 監督の一言で本番の緊張が緩む。とたんに役者のオーラが役のそれから役者個人のものに変わる。
「お疲れさまでしたー」
 キャスト・スタッフに声を掛けながらお母さん役が出てきた。トモちゃんは再びハッとした。
「あ、あ、貴崎先生じゃありませんか!?」
「え、あ……」
 お母さん役がビックリして立ち止まる。
「わたし、坂東はるかの母でございます!」
 え、え、えーーーーーー!
 
 その場にいたみんなが、それぞれにビックリした。
 
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オフステージ(こちら空堀高校演劇部)・21「もちろんよ!」

2020-01-26 05:52:43 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)21
「もちろんよ!」                     

 
 
 たいていの学校がクラブの存立要件を部員5人以上としている。

 でも、この「5人以上」というのは全校生徒が1300人以上いた大昔の話で、半数ほどに減ってしまった今日では厳しすぎる。
 ここに思い至り、生徒会を凹ました須磨はたいしたものだと、啓介も千歳も思った。

「……でも、これが、あの須磨先輩なの?」

 そうこぼしてしまうほど、須磨の寝姿は無防備だ。
「あ、また……」
 持ったマイクをテーブルに置いて、啓介は寝返りで落ちてしまったブレザーを、須磨の下半身にかけてやった。

 あれから演劇部の3人は、近所のカラオケにくり出して凱歌を上げた。
 所属する目的は三者三様。共通しているのは演劇などには何の関心もないこと。
 その3人の意見が一致して、初めて行動をともにしたのが、このカラオケであったのだ。
「このへんにして、もう帰ろうか」
「そうね、もう充分発散したわよね」
 ほんとうはこれからという気持ちが強かったが、もう一度須磨を起こすのは気の毒……というよりは興ざめなので制限時間を20分ほど残してカラオケを出ることにした。

「ごめんね、寝てばっかりで」

 やっと目を覚ました須磨謝ったところで、千歳の迎えがやってきた。
 
「おお、これはスゴイ!」
「なんか、サンダーバードの世界やなあ!」
 迎えに来た千歳の姉への挨拶もそこそこに、啓介と須磨は、ウェルキャブに収納される車いすに見とれてしまう。
 ウェルキャブは、さらに改良されていて。千歳が助手席に収まると、車いすは自動で車のハッチバックまで移動し、せり出したスロープを上って車内に収まった。
「それじゃ、これからも千歳のことよろしくお願いします」
 姉の留美は、深々と頭を下げて運転席に戻った。

「いい先輩たちじゃないの」

 手を振る2人にバックミラー越しに頭を下げて留美が呟いた。
「え、あ、うん。今日だってね、部室明け渡しを迫る生徒会に乗り込んで、先輩たちがんばってくれたの!」
 千歳は、数時間前の顛末を熱っぽく語った。
「ふーん、松井先輩って美人なだけじゃなくて、頭も回るし度胸もあるのね」
「うん、ダテに(高校6年……と言いかけて)その……美人やってないわよ」
「そうね、人数が多いばかりが演劇部じゃないわよ。3人いればお芝居なんて、どうにでもなる。先輩に恵まれたんだから、千歳もがんばってね」
「う、うん、もちろんよ!」

 そう答えながら、千歳は自己矛盾におちいった。

 自分は、演劇部が潰れることを前提に入部した。部活にがんばったけど、潰れてしまったんじゃしかたがない……そういうことで、一学期の終わりには空堀高校を辞めるために。

 でも、まあ、ちょっとは頑張ったというアリバイにはなったよね。そう、アリバイなんだ。

 自己矛盾は簡単に消えてしまった。

 
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不思議の国のアリス・13『アリスのミッション・ゲリラ編』

2020-01-26 05:36:52 | 不思議の国のアリス
不思議の国のアリス・13
『アリスのミッション・ゲリラ編』
    


 
 
「え…………」
 
 千代子は開いた口がふさがらなかった……で、ポッと頬が赤くなっていくのが恥ずかしかった。
 
 今日は、アリスの伯父さんのカーネル・サンダースの口利きで、大阪にある陸上自衛隊S駐屯地に来ている。
 
 ここの司令はカーネル・小林で、アリスとは『二人のカーネル』以来の付き合いでもある。
 S駐屯地には「さざれ石」がある。そう、日本の国歌にも出てくる、あの「さざれ石」である。
 その見学に、千代子と東クンを別々に呼んだのである。衛門の前でばったり出会った二人は、二人のところだけ夏の日差しが当たったように熱くなっていた。もっとも間にアリスを挟んでいるが、挟まれたアリスはモドカシイばかりで、寒かった。
 
「アリスウウウウウ!」
 千代子が、怖い顔をしてアリスを見た。
「なんか文句ある?」
「東クン来るんやったら言うてえよ!」
「あ……ボクも渡辺さんが来るとは思えへんかった」
「いややったら、ここから帰るか?」
「「いや、それは……」」
 二人が同じ表情をして、同じ言葉を言ったのがおかしかった。
「もう、あんたら、アメリカの元国務長官の前で公認のカップルになったんやさかい、もっとイチャイチャしいな!」
「こういうものは、押しつけるもんじゃないよ」
 門衛室から、いきなりいかついオッサンが……よく見るとカーネル・サンダースの伯父さんが現れた。
「おっちゃん!?」
 いきなり言語感覚が切り替えられないアリスは大阪弁で呼んでしまった。

「やあ、よくいらっしゃいました」

 司令室に案内されると、小林一佐が立ち上がった。案内してくれた隊員がキビキビと礼をして、四人のために椅子を引いてくれたり、お茶を入れてくれたり。やっぱり収まるところに収まっているとカーネル(一佐)の自然な貫禄がうかがえた。
「ヒラリ元国務長官からの感謝状を預かってきました」
「おお、わたしがゴラン高原に行っていたのをご存じだったんですな。光栄です」
「これがあるので、公用でこられたんですよ」
「いやあ、お国も粋なことをされる。君、広報の大空一曹を呼んでくれたまえ」

「大空一曹入ります」
「入れ」

 意外だった、一曹と言えば米式では一等軍曹のことで、たいがいマッチョなニイチャンが多いが。大空一曹はAKBにいてもおかしくないような、かわいい女の子であった。
「わたしは、ヒラリさんに返礼の手紙を書きますので、その間、大空一曹に案内させます。大空一曹よろしく」
「ハ、大空一曹、サンダース大佐御一行のご案内をうけたまわります!」
 見てくれとは大違いな軍人らしい返答にカーネル・サンダースは自然に軽い敬礼を、三人はギャップにオタオタしながらも、背筋を伸ばした。

「これが、岐阜県より寄贈いただきましたさざれ石です。長い年月をかけて小石の欠片の隙間を炭酸カルシウムや水酸化鉄が埋めることによって、1つの大きな岩の塊に変化したもので、学術的には「石灰質角礫岩」と申しますが、私たちの家庭も地域も国家もみんなが心を合わせれば、千代に八千代に栄えてゆくことを象徴するものにほかないとお祀りいたしております」
 大空一曹が、キビキビした説明をしてくれた。
「「amazing!(アメージング=驚くほど素敵)」」
 伯父と姪が母国語でため息をついた。
「………はい」
 日本人のカップルは、社会見学のように、お行儀はいいが、気のない返事。

「あれが、軽装甲機動車、ライトアーマーです」
 千代子と東クンが目を停めたので、大空一曹が説明をした。
「かっこええなあ……」
「うん!」
 日本人カップルの反応。
「「ああ」」
 と、アメリカの伯父と姪の気のない反応。伯父も姪もM-1など、いかつい戦車を見慣れている。軽装甲機動車など、機関銃をつけたオフロード車ぐらいにしか見えない。伯父が姪に耳打ちした……で。
「あの前で、写真撮ったらあきませんか?」
「いいですよ、どうぞ」
「千代子と東クン、そのライトアーマーの前に立ちい」
「う、うん」
 少しはにかんではいたが、小学生のように喜んでライトアーマーの前に立った。
「そのライトアーマーの通称はな、ラブ(LAV)て言うねんで、ラブ!
「え!?」
 瞬間的に赤くなった二人を、アリスはシャメった。

「あの、大空さん。さっきのさざれ石、撮ってもよろしい?」
「ああ、いいですよ。じゃ、もう一度こちらへ」
 アリスもアメリカ人である。さざれ石には、神聖なものである注連縄(しめなわ)がしてあり、気後れがしたのだ。ここは逆に伯父と姪がシャッチョコバって写真を撮った。次ぎに千代子と東クン。
 ここで、アリスは、あることを思いついた。
「ちょっと、あんたら、このマフラーの端っこ持ってみい」
「え、なんで……?」
「ええから、ええから」
 千代子と東クンは、アリスの勢いに押されて、言われるままにマフラーの端っこを握った。
「よ、お伊勢さんの夫婦岩!!
 アリスは、そう叫んで連写した。これには、さすがの大空一曹も女の子らしく声を出して吹き出した。
「なにか楽しそうですな」
 小林一佐が現れて、その場は、いっそう楽しくなった。
「オッチャンと小林さん。並んでシャメらせてもらえませんか。動画にするさかい、官姓名を名乗ってくださいね」
 二人は、心得た顔で並んで叫んだ。
「カーネル・サンダース!」
「小林イッサ!」
 半径二十メートルにいる隊員の人たちが笑った。大空一曹は、こぼれる笑いを堪えて涙をながしていた。

 すっかりリラックスした帰り道。
「やっぱり明日は二人で、お泊まりしたら」
「こらあ、アリス!」

 さざれ石の前でみんなの笑い声が木霊した。
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巷説志忠屋繁盛記・17『アイドルタイムはアイドルタイム・3』

2020-01-25 06:37:21 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・17
 『アイドルタイムはアイドルタイム・3』    
 
 
 
 年齢不詳というのはウソだと確信した。
 
 ロケバスから降りてきた中谷芳子似の女優……いや、その清楚な雰囲気はアイドルという方がしっくりくる。その彼女はマスターの姿を認めると、まっすぐにマスターの前にやってきた。
「『夢中屋の四季』で新月夢子をやります上野百合です。急なロケでご迷惑おかけいたしますが、よろしくお願いいたします」
 
 ペコリと下げた百合からはシャンプーの良い香りがして、クラっときた。
 
 もちろん五十年前の中谷芳子とは違うのだが、フレッシュなオーラは芳子と同じものだった。首から上は整形やスキンケアでごまかせるが、耳元や襟足、お辞儀した時にフト見える胸の谷間の佇まいなどは騙せない。十中八九、百合はハイティーンだ。
 日ごろバカにしまくっているが、大橋が御贔屓のアイマスのステージ衣装を着せて『お願いシンデレラ』などを歌わせたら似合うと思った。
 
「百合ちゃん、道具のチェックして!」
「あ、はい……キャ!」
 スタッフの声に振り向きざま、百合はよろけてしまう。
「おっと……」
「あ、すみません!」
 こういう時の反射神経はピカイチで、よろけた百合をきれいに抱きとめる。
 どさくさに紛れて胸などを触ったりはけしてしない。重心のある所ををしっかりホールドして男らしく支えてやる。
「まちがいない……」
 服を通してではあるが、両手に残った感触は百合が16歳~18歳の処女であることを確信させた。
「タキさん、目がヤラシーーー」
「うっさい!」
 トモちゃんの冷やかしを一蹴するとロケの借用料の積算根拠になる売り上げの釣り上げ……計算に没頭するマスターであった。
 
 ドラマは『夢中屋夢レシピ』というタイトルの九十分の単発もの。
 高校生のヒロインが母の不慮の死のあと、家のイタ飯屋を父とともに繁盛させるという物語である。
 
 志忠屋の厨房に女性が入ったことは無い。
 特に女人禁制というわけではないのだが、四半世紀の志忠屋の歴史の中でそうなってしまった。
「でも、先代の奥さんは……」
「あいつは女の内には入れへん」
 なぜかこだわるマスターだが、理由はすぐに分かった。
 店の使用料の交渉をやっているのだ。
「……というわけで、女が入ったことが無い厨房やさかいなあ、ま、つまらんこだわりやけど、知ってもろといた方が……」
「ん? でも、トモちゃん入ってなかったっけ?」
「あれはイカの皮むきだけや。厨房のカナメは鍋や、火の周りはオレとKチーフしか触らへんねんぞ」
「アハハ、信ぴょう性に欠けるなあ、後ろでトモちゃん笑ってるよ」
 
 男子禁制は通らなかったが、使用料はマスターの皮算用よりも二割ほど高くなった。
 
「月に三日もやってくれたら助かるなあ……」
 
 マスターが欲どうしい愚痴を呟いているうちにトモちゃんは気づいた。
 
 上野百合って……あ、あの人だ……だよね?
 
 
 
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・20「ウグ……」

2020-01-25 06:30:17 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)20
「ウグ……」                   


 
 須磨の姿が二回りほど大きく見えた。

 啓介はアクション映画で、こんなシュチュエーションがあったような気がしたが、タイトルは思い出せない。
 その映画では、次の瞬間に部屋に居た者は女が持っていたマシンガンで皆殺しになった。

「部員が5人以上いなければ部活としては認めない……いったい、いつの規約よ!?」

 書記の眼鏡少女が律儀に生徒手帳を繰り始めた。
「……昭和21年に新制高校に移行したときに、生徒会規約第28条第3項として作られました」
「そうね、日本国憲法と同じくらい古いの」
「それがなにか? 古いからダメと言うんじゃ話にならないわ」
「そうね……でも、考えてみてよ。その時代って生徒数は今の倍よ、ざっと1300。今は580あまりしかいないの。1300で5人が存立条件なら、580では3人が順当な水準じゃないかしら。国会議員の定数配置だって見直されているわ、生徒定数を頭に入れないで存立条件を70年にわたって放置してきたのは怠慢じゃないかしら」

「「「「「「「「ウ……」」」」」」」」」

 生徒会役員たちが顧問の松平とともに息をのんだ。
 
「松平先生が支持してらっしゃる政党は、議員定数改善の急先鋒でしょ、足元の生徒会の規約をほったらかしにしているのは本末転倒よ」
「ウグ……」
「以上のことは、学校名を伏せた上でSNSに挙げて置いたわ。演劇部はこのまま部室を使用する。いいわね」
「待って」
 美晴が手を広げ、須磨たちの前に立ちふさがった。
「なによ」
「たとえ理屈がそうであっても、規約は規約。守ってもらうわ」
「リスクを考えなさいよ、追い出されたら黙ってはいないわよ。全校生徒にこのことを訴えかけていくわ、同時にネットを通じて同じような目に遭っている日本中のクラブにも働きかける」
「そ、そこまでしなくても。な、瀬戸内も……」
 松平が割って入った。
「先生!」
「これ以上言うのなら弁護士に入ってもらいます。本気です……伊達に4回目の3年生をやってないわ」
「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」」
「じゃ、行こうか小山内君。最後は君が締めてよ、部長なんだからさ」

「えと……今のが演劇部としての申し入れです。えと……きちんと規約が改正されるまでは、現状のまま部室を使います」

 演劇部の3人は、揚々と部室に引き上げて行った。

 
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