廊下そのものには、まだだれの姿も見えなかったが、各部屋のドアは、すでに、動きはじめていて、何度もすこしあけられたかとおもうと、すぐまたいそいでしめられるのだった。こうしてドアを開閉する音が、廊下じゅうかまびすしかった。天井にまで達していない壁の切れ目のところに、ときどき寝起きらしく髪のみだれた顔があらわれてはすぐ消えるのが見えた。
☆方法はなるほど空虚な小舟だったが、企てはすでに動いており、再び開閉装置は素早く閉じたり開いたりしていた。天井まで達する壁の裂け目では、モルグ(身元不明者の死体公示所)で頭をかきむしる一人が現れてはすぐに消えて行くのをKは見た。
中に犬、と指定された物体。手足が省略されている。確かに手足は飛行において不要であるが、ばねとして身体に機能するが、飛ぶ際には手足は身体と一つになるということなのか。
飛び方・・・抵抗を最小限に抑えるだけでは浮上しない。(重力圏では)重力に抗し、空中で前進するエネルギーが必須となるが、風や浮力では重さを持った犬の場合、飛ぶことは難しい。飛ばされるのではなく、飛び方とは自ら飛ぶ意思を以て飛ぶ意であれば、生命力に潜むエネルギーを空中に費やすことであり、消費することである。
つまりその生命体のエネルギーが、空気を振動させることで、犬は空中の空気を圧し破っていく。
静止画像のような瞬時の空気の振動・・・犬の呼吸(熱気)は気泡となって上昇し、身体を浮上(持ちあげる)させるエネルギーは細分化して見ると明らかに均等を欠く。
『犬の飛び方』、犬(生命体)の形状を推して測った三本の支えの差異の所以であり、犬(生命体)の移動(飛び方=空中移動)を分析し、可視状態に刻んだ図である。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館
ゴーシュはやぶれかぶれだと思ってみんなの間をさっさとあるいて行って向ふの長椅子へどっかりからだをおろして足を組んですわりました。
☆詩(言葉)を換(入れ替える)考えである。
交わるものを調べ、異なる詞(言葉)を測(予想して)組(くみ合わせる)。
それは、ピクニックに出かける支度をしている子供たちの歓声のように聞こえることもあれば、にわとり小屋の朝の目ざめのように、これからはじめる一日と完全に一致していることをよろこんでいるように聞こえることもあった。それどころか、どこかの部屋でにわとりの鳴き声を真似てみせる役人もあった。
☆先祖の傷痕は、小旅行の用意をする子供たちの歓声のように響くこともあれば、ほかの汚点(傷痕)で(舟などに)乗って出発するように、これからの一日と完全に調和していることを喜んでいるように響くこともあった。それどころか、どこかの大群は(舟などに)乗って行く叫びを真似する者もいた。
毎日が日曜日のわたし、それでも日々ブログを続けているけれど、昨年あたりから土日祭日を休みにしたらそれなりに楽しい。
別に何をするでもないけれど、お婆さんの手仕事とでもいうようなことをやっている。
爆安屋の店先、段ボールに入ったスカートを50円(二割引きの日だったので43円)で購入し、手提げとエプロンを作った。
『1-2-2』中に犬・飛び方
作品の細部まで覚えていないので、中の物体が明らかに犬の態を為していたのかが不明であるが、中に犬と題しているのであれば犬なのだろうか。
中空に浮いており、ぶら下がっている・・・上部から三本の支えがあるが均等でない。
犬(生命体)が飛び上がる時、上部の空気を圧すエネルギーは均一ではない。つまり重力への抵抗にばらつきが出る。要するに生命体の引き起こす振動は一定ではなく、空気の振動は歪んでいる。
上の鉄板には気泡のような膨らみがある。
犬(生命体)が飛んだ時の空気の振動、エネルギーの発散を具体化した想像上の計測である。
犬(生命体)の移動(飛ぶ・走る・泳ぐetc)に見る空気圧、振動。
地上(重力圏)にいる限り常に圧を受けている。飛ぶということはその圧を打ち消すエネルギーを消費するが、身体の部位によってもそれは均一ではなく、その変則のバランスを保たねばならない。
犬の飛び方は、すべての生命体に共通する見えない空気とのせめぎ合いであり、振動を起動させるものである。重力に抗して飛ぶことは、エネルギーによる振動が必須であり、そのバランスは画一的ではない。
生きることの一パターンである。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館
曲が終わるとゴーシュはもうみんなの方などは見もせずちゃうどその猫のやうにすばやくセロをもって楽屋へ遁げ込みました。するとがくやでは楽長はじめ仲間がみんな火事にでもあったあとのやうに眼をじっとしてひっそりすわり込んでゐます。
☆極めることの衆(大ぜいの人々)の法(神仏の教え)が現れる。
平(平等)と絡(つながる)也。
沌(物の区別がつかないさま)の個(一つ一つ)の絡(筋道)也。
絡(つながり)を重ねて注(書き記し)換(入れ替える)。
化(教え導くこと)の字が現れる個(一つ一つ)である。
このひとりごとは、朝の五時だというのにもう廊下の両側のどの部屋もにぎやかになりだしたという状況にぴったりだった。」部屋のなかでざわめくこれらの声は、非常にたのしげなものだった。
☆それと同時に無線で知らせ合い、すでに至る所の側面で生きているかの動きがあった。題(テーマ)での詳しい話は事実に合致し、楽しさからは遠く離れたものだった。
〈残り元素Ⅰ〉の謎が解けない。
非物質・・・精神だとして、人の心理にはどうしても細分化できない業の根源があるということだろうか。
喜怒哀楽・愛憎・・・人の心の奥底に潜む激震の起爆剤、何よりも強力な振動元。
死に直結する破壊力を持った闘争心。守備と攻撃、破滅にまで至る暴走。
〈切れる)という。自身の崩壊、究極のパニックがもたらす無謀。
哀惜、震える心の揺れ。精神の振動が景色(物理的条件)を変換する。戦禍の惨劇に実りはない。
死して元素に還る肉体に幻の元素(精神)は残らない。否、(残り元素Ⅰ)は霊媒として残存するのだろうか。
目に見えない哀れは、生々流転、歴史という時間の中に神秘の振動を伝えている。
写真は『若林奮 飛葉と振動』展・図録より 神奈川県立近代美術館