グロリオサ
画・江嵜 健一郎
ポツポツと雨粒が落ち始めていたが、グロリオサのご機嫌伺いに土曜の昼過ぎに例の更地に出かけた。2つ3つと賑やかに咲いていた。シクラメンも全開で一枝描き込んでスケッチを終えた。
グロリオサは小さなつぼみを付けながら上へ上へ伸びて行く。つぼみは下向きのまま少しづつ開く。先の方から色を帯びてくると開花が近い。
下を向いていた花弁が一転して上向きに変わると開花となる。一度見たいと思うが、まだ一度もその瞬間は見たことがない。
グロリオサの花の盛りは長くて1週間である。上を向いていた花弁がお辞儀を始めると選手交代となる。ただ、次々とつぼみが大きくなるから、花が切れることはない。花全体としては花期は2か月とヤフーのブログにあった。
フエンスを飛び出した花なので前回と同じように側溝に腰を下ろし左手で傘を差しながら右手一本で鉛筆を走らせた。
ほぼ描き上げたタイミングをまるで見計らったかのように肩越しに、絵をのぞきこむように、さるご婦人が声をかけて来た。
「青木駅前のお花畑を毎日、楽しみに見させていたいています」と話し始めた。型どおり「お声をかけて下さりありがとうございます」と挨拶した。ご婦人は「シクラメンのいい香りがマスクをしていても感じます」と言葉を添えた。
「先日も「あ、グロリオサの花が咲いてる」と通りがかりの女の子が声をかけてくれたと話すと「私もそうですが、皆さん、お花を楽しんでおられるようですよ。」と持ち上げてくれた。
青木と書いてなぜ「おおぎ」と読むのかの話になった。「青亀(あおぎ)がなまって「おおぎ」になった。大昔、ウミガメの産卵の場所だったとの伝承がある。青木の浜にある記念碑に紹介されていたのを見ました。」とご婦人も先刻ご存じだったことが分かった。
物知り顔に「隣町の深江は「深い入り江」の意味。海が内陸に入り込み、国道2号線まで海だった。国道2号線際に八幡神社がある。神社まで海だったことが六甲図書館の古地図にあります」と話した。
「失礼ですが、こちらにはいつごろからお住まいですか」と伺うと「10年ほどです。今日はいろいろな話を聞かせていただき楽しかったです」と言われた。
花が仲立ちでこの日も話が弾んだ。ご婦人がおっしゃる「お花畑」は多少、おこがましいが、健康が許す範囲であるが、花とのおつき合いを、あとしばらくは楽しみたい。(了)