思索の日記 (クリックで全体が表示されます)

武田康弘の思索の日記です。「恋知」の生を提唱し、実践しています。白樺教育館ホームと共に

詩集 『たった一度の物語』(アジア太平洋戦争幻視片)石川逸子著の「かなしみが」

2013-06-05 | 書評

   社会契約論に基づく近代民主主義の『日本国憲法』を廃棄、日本主義=国体思想による新憲法づくりが《旧支配階級の孫たち》によって画策されています。

  新しく見せようソフィスティケートしてみても、物事の本質が分かる健康な生活者の理性には、それが近代以前に過ぎないことがすぐに分かります。彼らが狙うのは、戦前と同じく、一部の国家エリートたちによる日本支配です。

  優れた感性と独特の平易な文体による民知の詩人・石川逸子さんの詩集は、そうした流れに抗して、人権と反戦平和のうたですが、説得力ある「語り」を読んで最後に、「かなしみが」に至ります。実存として生きる者の浄化的反省といのちの充実を感じ、深い感動に襲われます。

  全文を書き抜きます。ぜひ、音読してみてください。

 

  かなしみが     石川逸子

 

かなしみが

天から白い花のようにふってくるときは

そのまま 体中 花に染まって

あるいていこう

はるかな山のふもとまで はたらきものの蟻のように

 

にくしみが

ふいにサソリのように襲ってくるときは

はたはたと川のほとりへ駆けていって

笹舟を浮かべよう

太古からながれつづけ ときに淀む川が

はねる魚が 苦い心を冷やしていくだろう

 

深い悔いが

深夜 怒涛のように押し寄せてくるときは

七転八倒しながら

ごめんなさい ごめんなさい

暗い木々に向かって 頭をさげよう

 

この世という旅は

おわるまでつづくのだから

一人ひとり似ているようで それぞれちがう旅なのだから

すれちがえば さりげなく挨拶し

花散る駅 スミレ咲く宿で見た夕日なんか

ぼそぼそと 告げよう

 

よろこびは

すでに旅を終えたひとたち

走っていく幼子からも

与えられるから

しずかに しずかに

耳をすましてあるこう

 

ほっそりとつづいている小道を

ときに茨除け 石につまずき

また つまずきながらも

コメント (2)
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