グールドのバッハは、その玉を転がすような美音による沈潜で、麻薬的な効果をもち人を虜にします。神経を病んでいる現代人の癒し。
ペライアのバッハは、美しい絵画を見るようで、豊かな和声による美音で惹きつけます。洗練されたエンターティナーが奏でる贅沢な一時。
でも、昨日の文化会館と先週の所沢ミューズで聴いたリフシッツのバッハは、素朴で自然、かつ圧倒的なまでに多面的で多色、音楽の豊かさは驚くほど。
うがった見方をすると、西側の最高峰が東側の大きさ・パワーと精神的な深みに負けているのではないか。
いま、人類文明が転換点に入ってるのかもしれない。東側のコパチンスカヤにしろクルレンツィスにしろ、自由さとスケールと精神の自立において桁違いの人間と音楽だ。
武田康弘