「モモを取り巻く世界は、「灰色の男たち」というきみょうな病菌におかされています。
人びとは「よい暮らし」のためと信じて必死で時間を倹約し、おいたてられるようにせかせかと生きています。
子どもたちまで遊びをうばわれ、「将来のためになる」勉強を強制されます。
この病気の原因に気づいて警告しようとする人は、ベッポのように狂人として精神病院に隔離されるでしょう。
夢に生きているジジは、この世界では巨大な情報産業におどらされる操り人形のような作家になります。
こうして人々は時間を奪われることによって、ほんとうの意味での「生きること」をうばわれ、心の中はまずしくなり、荒廃してゆきます。それとともに、見せかけの効率のよさと繁栄とはうらはらに、都会の光景は砂漠と化してゆきます。」(『モモ』訳者あとがきー大島かおり)
ミヒャエル・エンデが1972年に出した『モモ】は、本国ドイツのみならず、世界中で大ベストセラーとなりましたが、この童話がきっかけとなって、ドイツでは労働時間短縮の国民運動がおこり、いまのドイツがあります。
わが日本は、労働時間もこどもたちの学校拘束時間もダントツ世界最長です。おどろくほど非人間的な環境で人々は生きていますが、羊のようにおとなしい(そのように教育で馴らされた)日本人は、声もあげず行動も起こしません。そうなので問題は改善されるどころか、裁量労働という名の残業代ゼロ法案を通すことに、安倍内閣はいま燃えています。
自然児の少女モモは、いまどこにいるのでしょう。日本人にも心があると信じたいですね。
武田康弘