★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

Le vent se lève, il faut tenter de vivre.……et un grand nombre de personnes perdirent la vie.

2013-09-14 23:24:28 | 映画


宮崎駿監督の最新作「風立ちぬ」を観てきた。零戦の設計者堀越二郎と「風立ちぬ」の作者堀辰雄を掛けた作品である。が非常に私的な作品であって、戦闘機と美少女大好きアニメ監督宮崎駿と、ロボットと人造美少女大好き監督(を主人公の声優に抜擢……)を掛けているといってよい。前者は強さと外見の美しさ、後者は弱さと内面の美しさを追求するところがあり(といっては語弊があるが……)、われわれがつい後者に立脚して、労働者だの病気だの敗者だのといった観念によりかかり、表現ではなく、自分の内面の慰撫に集中してしまうのに対し、宮崎監督は、自分の表現の美しさのためなら、世の中にあふれかえっている後者の存在を一瞬でも忘れることができる、という感じの人である。というか、仕事を一生懸命するというのはそういうことなのであるが、われわれはそうではなく、人間や趣味やイデオロギーや病気や悪口に逃げ込むことが誠実さであるかのような社会を作ってしまっている、のかもしれない。まあ、宮崎監督は、自分のアニメがそんなつもりじゃなかったにもかかわらず、アニメオタクをつくり、戦争の描写を喜ぶ少年少女たちを作ってしまったこと、ひいては日本人の子供化に一役買ってしまっていることを後悔しているのかもしれない。実際、二十超えた大学生が、森鷗外より「トトロ」や「ポニョ」に喜ぶという事態をどうにかしてくれや……

「風立ちぬ」で描かれている事象や、作品そのものについては、わたくし自身の研究とあまりに領域が近すぎるため、いまはじっくり語るまい。まあ印象的だったのは、堀越の夢の中に出てくる外国人の天才飛行機設計者がおそろしく多くの人間を乗せた機体を夢見ていたのに対し、堀越の夢の機体には人間が乗っていないのである。というか紙飛行機が大きくなった感じなのだ……これがわたくしの心に残ったのである。彼の紙飛行機は、菜穂子との恋の媒介になるわけであるが、どうもわれわれの社会は、人間ではなく美的物象と媒介に憑かれる傾向があるのではなかろうか。堀越は、目つきのあまりよくない労働者階級や避難民の中で異様に丸い目をして…このコントラストも、人間を描いているというより「美的」なそれなのである。……というか、明日「パシフィック・リム」を見にゆくので、正直、枢軸国のいいわけアニメにかまっている暇はない。

というわけで、わたくしの、というより、「風たちぬ」に対する批評で、どのようなものが出てくる可能性があるのか。思いつく限り列挙して寝ることにしよう。(もうわたくしの耳に入ってきてしまっているのも含まれている……)

1、日本の風景美しすぎる。この風景の中には絶対トトロがいる。「となりのトトロ」は「風立ちぬ」の後日談だ。

2、堀越二郎は所詮資本の手先・ブルジョアだ。二等車と三等車の間にわざとらしく行きおって、二等車の美少女に帽子飛ばしてフォーリンラブとはけしからん。軽井沢粉砕!革命万歳!

3、菜穂子かわいそう……。宮崎駿は女をなんだと思ってるんだっ。飛行機の夢のために女は死んでくれませんよ。いくらどっちも美しいからといって菜穂子の死と零戦の墜落を一緒にするな。

4、枢軸国万歳!宮崎駿は実は軍国少年の生き残りだ。日本の軍事産業に誇りを持とう。

5、煙草吸い過ぎ。結核をなんと心得る!

6、宮崎駿は、堀越二郎のように人情がありません。アニメのためならスタッフや日本を滅ぼしても平気だし、夢の中で美少女に会ったりワインを飲んだりしてます。

7、すみません、ぼくの行った映画館では外国語に字幕がなかったんですが……わかりにくかったです。あと、堀越さんの行っていた学校の偏差値を教えてください。

8、幼女が足りない。キスシーンが破廉恥だ。

9、「風立ちぬ」って、どういう意味ですか?

10、聖子ちゃんの歌が足りない。荒井由実ってユーミンの声まねしてるよね。

11、宮崎駿は、ついに直接に描かなくとも、戦場や日本の支配層の無能ぶりを描くことが出来る境地に達したのである。監督が引退しても、われわれは、彼が描かなかったものまでありありと思い浮かべることが出来るのであった。ありがとう、宮崎監督。