人生の裏側

人生は思われた通りでは無い。
人生の裏側の扉が開かれた時、貴方の知らない自分、世界が見えてくる・・・

ポピュラー音楽の目覚め

2015-06-13 12:34:42 | 映画・音楽など
ミスター・レトロこと”すぎた”とはよく音楽談義をします。
私はロックとかポップスなど、若者向きの音楽も聞きますが、彼は言わばレトロ音楽原理主義者です。
何でも大学時代にふとラジオで流れてきた昔のジャズを聴いて目覚めたんだそうです。
”じゃ、その前はどんなのを聴いていたんだ”と訊いたら”フランク・ザッパ(アメリカの前衛的ロックの鬼才)だとか…”と言うんだから私には全く理解出来ません。まあ、例えば古代のアステカ人が書いたという絵も見ようによってはピカソの絵に見える…という事を考えたらいいんでしょうか? いや、アバンギャルトに走るとどうしても原点に回帰せざるを得ないという事か…いや彼の原点は戦前? そんなバカな!
なんにしても、彼が嬉々として古臭い音楽について語っているのを聞いてるうち、何か骨董屋さんでお宝を見つけるような楽しさに駆られてきます。
今日もシューシューとすり切れた音楽を聴きながら話は弾みました。
―ところで君は古典的な音楽オタクなのはわかるけど、古けりゃいいってものでもないんだろ?
「そりゃ、そうだよ。1920年代以前のレコードなど、ハッキリ言って単調極まりなくて何十分も聞いてたら飽きてしまうよ!」
―…そういや、君は事あるごとに言っていたよなあ…”ポピュラー音楽の歴史を変えたのは、アメリカン・ジャズだ!”って。
「そうとも、1920年代中頃、ジャズで革新的な演奏スタイルが生まれたんだ。それにはいくつかあるけど、顕著なのはソロ・パートの大幅な導入、それとアンサンブルとのバランス、対比、さらにシンコペーションもより強調されるなどして起伏に富んだ、多様な表現力が生み出されたのだ…このソロと合奏との合間にブレイクと呼ばれる間を入れる。これが又動の中に一瞬の静が生まれるような変化の妙をもたらすんだ…」(まるで大学の授業を受けてるようで、面白いのか、どうか私には微妙です)
―ブレイクか…一瞬思考が止まったようになるよねえ…クリーム(エリック・クラプトンが在籍していた英国のロック・トリオ」のライブ録音でもふんだんにやってたねえ…一瞬時間が止まったようになって、さあ、来るぞーと思ったら、延々とドラム・ソロやってたりして、これが実に退屈極まりない…”一体、いつまでタイコ叩いてんだジンジャー!”って言いたくなるよ…ソロというのは長けりゃいいってもんじゃないよ。ヤッパリ君も言うように個と全体のバランスってのが重要なんだな…
「クリーム? ああ、アート・ロックか…」
―アート・ロックだと! とっくに死語になってるじゃないか!その言葉何十年ぶりで聞いた事だろう…それはLPレコード文化時代ならではのネーミングだね。アートなジャケと切り離せないだろうからなア…
「おい、おい、私にコンテンポラリー(彼はロック・ポップスを総じてこう言う)音楽の話をしないでくれ給えよ!」
―ああ、スマン、スマン…梅雨時だし、カビ臭い話ばかりになると思ってね(クリームでさえも十分古典的なのだが)…で、その…そのジャズが世界中に広まり、その周辺の音楽に影響を与えたんだったね…
「そう、ハワイアン、ブラジル音楽、とりわけアルゼンチン・タンゴだ。タンゴを演ってた連中はこぞって、ジャズに追いつけ、追い越せと発奮してたものだ」
―やはり、ジャズと同じ20年代中頃ソロとアンサンブルとの対比とかが生まれたんだね? コール・アンド・レスポンスとかいう…
「ウン…それはジャズ用語だが…呼べば答える、答えれば呼ぶ…こういう個と全体との相関関係、それとメリハリといったものによって音楽も俄然面白くなるんだ…その時代のタンゴもジャズに負けないくらい高度な音楽性を持っていたと思うよ。ただ如何せんジャズの様に国際的な流行にはならなかった…ポピュラー音楽の裏側に回らざるを得なかったようだ…アルゼンチンはやっぱり裏側だし…」
―こうしてジェリー・ロール・モートンとレッド・ホット・ペパーズ、オルケスタ・ティピカ・ビクトル…続けて聴いてみると君の言わんとする事が良く分かる。
「それは私が最初に買ったジャズ、タンゴのそれぞれのアーティストなんで感慨深いね、ともに26年の録音だ。電気録音というのもこのころ生まれたんだ。ポピュラー音楽が目覚めたってとこかな」

という具合に彼のマニアックな話に付き合ってるうち、すっかり日が暮れてしまいました。何だか帰路の街並みもセピア色に見えてきました…


Jelly Roll Morton & Red Hot Peppers "Original Jelly Roll Blues"
Orquesta Tipica Victor "Negro"


コメント
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