県道22号を2キロ半ほど歩くと勝浦川と並行する16号に突き当たる。
その角に件のコンビニが有った。
立江寺を出てから約6.5キロ、1時間半ほど経過していた。
広い駐車場を斜めにショートカットで左折すると、ここから暫くは勝浦川に沿って歩く事になる。
「間に合いますかねぇ~」
突然の声に振り返ると、立江寺の門前で写真を撮りあったあの青年が、息を切らせてそこに居た。
走ってきたらしい。
「間に合いますかねぇ~」と繰り返した。
札所の納経所は5時には閉まる。
20番札所・鶴林寺に間に合うかと聞いているのだ。
時計を見ると15時45分を過ぎている。
「無理だろう」
ここからだと恐らくまだ6キロ近くは有るだろう。
それに鶴林寺への道は、焼山寺道と並び称される厳しい登り道の難所として知られている。
とても1時間余りで登る事は無理だろう。
今晩の宿を決めていないのでどうしても鶴林寺まで行きたい。
寺には泊るところが有るらしいと聞いたから行って見るのだと言う。
「我々はこの先の金子やで泊る。そこに泊ったらどうだ」と勧めてみるが
「とにかく行ってみます」と言う。
「無理だよ」
との言葉も聴かぬ内に青年は再び走り出した。
「気をつけて~」
青年の背中に声をかけると、赤いザックを左右に大きく揺らしながら、軽く手を挙げてそのまま
走り去っていった。
一本道の先に、その姿が見えなくなるのに大した時間は必要としなかった。
「元気が良いなぁ!」
県道を離れ、旧道を20分ほど歩くと生名の集落だ。
今晩の宿「旅館金子や」が有る。
立江寺からは11キロ弱、2時間半で陽の有るうちに到着することが出来た。
6時から夕食が始まった。
余り広くは無い食堂だが、20名分ほどの食事が準備されている。
どうやら今日は満室らしい。
既に多くの人が食事を摂っていたが、そこに件の青年の姿は無かった。
青年はどうしたのだろうか?あのまま山を駆け上がったのだろうか?(続)