簾 満月「バスの助手席」

歩き旅や鉄道旅行のこと
そして遊び、生活のこと
見たまま、聞いたまま、
食べたまま、書いてます。

懐かしい人

2011-01-12 | Weblog
 「こんばんわ~っ」と声が響いた。
強い北風の吹く寒い冬の夜、近くのスーパーに出かけたその玄関先での出来事。
周りに居た数名のお客が、声のする方に振り返った。

 どうやら知らない人のようだ。
そう思った私は、風除室に置かれている買い物籠を手に店内に入ろうとした。
「いゃぁ~ン!無視しないで~・・」と再び声がする。
振返ってみると同時に、周りを見回すと他には誰も居ない。
どうやら、その声は私に向けて発せられたようだ。



 二三歩後戻りして、正面から声の主を見る。
「ほらぁ、私、私よっ、私、解らない?」
誰だろう?思い出せない。
何処かで見たことがある様な、無いような・・・・。誰だろう?
首を傾げる私に、「思い出して・・・、私、解らない・・・?」と畳み掛けてきた。



 思い出せない。
誰だろう・・・誰だろう・・・?少し焦り始めた。
声の主は、暫く私の顔を覗き込んだあと、人差し指を鼻に当て、
「ほら、私。××(姓)の、T子よっ、T子、T子よっ」

「えっ、Tチャン?Tチャン・・・か?」
「そう、T子、T子よっ」

 昔、所属する職場こそ違え、同じ事業所で働いていた。
直接の付き合いは無かったものの、スポーツや、色々な集まりを通じて彼女の事は良く知っていたし、
顔を合わせば立ち話をする程度の知り合いでもあった。
その後転勤で事業所を離れ、何年かして彼女が退職した事を知った。

 「今、如何しているの?何処にいるの?」
「うン、いろいろと・・・・」と言葉を濁す彼女は、随分と変わっていた。

  身体が、少し大きくなったように見た。
あの頃の明るさが消えた土色の顔に、化粧気は無かった。
髪も随分と乱れていたが、あながち冷たい北風の性だけではなさそうだ。
当たり障りの無い話を10分ほどし、次に会う約束をしたわけでも無いのに、「じゃぁ、またねっ」
と店先で別れた。
コメント
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