深い山の中を走ってきた列車が再び海岸に出て、右手に海が見えてきた。
久しぶりに車窓から三厩湾の海が見えた。
なんだか懐かしい人に巡り合えたようだ。しかし、そんな感慨に浸っている
間もなく、列車は再び山に向き、暫く進むとその先が「津軽線」の終着駅・
三厩だ。
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以前は「みうまや」と読んでいたが、平成3年に「みんまや」とその読みが
改められた。
ここは義経伝説の残る地で、奥州平泉で自刃したとされる義経主従がそこ
を脱出、蝦夷地に逃れる出発地となった所と伝えられている。
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三頭の竜馬を得て、その駒をつないだとされる厩石が残されていて、それ
がこの地の名前の起こりとされている。
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改札の上には、一日5往復の列車の時刻が、随分と大きな字で書かれ、
掲げられていた。小さな駅である。
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こじんまりとかわいくて、なんだかモダンな感じの駅は、津軽半島の最北
端の駅でもある。冬の寒さが厳しいとこらしく、待合室の真ん中には、石油
ストーブが据えられている。
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件のご婦人の連れは、一つ手前の津軽浜名で降りて行った。
途中の停車駅では人の乗り降りはほとんど無く、結局この駅に降り立った
のは、たったの三人だけだった。
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もう一人は観光客で、熱海に家が有り、市場で働いていたと言う青年(?)
で、釣竿片手に気ままな一人旅の様子だ。
その三人で、駅前広場に停まっていた冬季は運休すると言う町営バスに
乗り込んだ。(続)
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