
三江線の0番乗り場は、駅の外れの寂しい場所にある。
ホームに人影も無く、この日の乗客は明らかに青春18切符の利用者と思しき数名のみ。
それでもたった一両の気動車は定刻、力強く走り出した。

列車は、日本海に下る江の川に沿って走る。
その江の川は、広島県内では可愛川(えのかわ)と呼ばれているらしい。
山間を流れるその川が、いつも車窓を楽しませてくれる。

所々、僅かばかりの平地に橙色の石州瓦を乗せた民家の集落が現われると駅がある。
列車は律儀に停車を繰り返すが、乗客の乗り降りはほとんど無い。
川沿いでカーブも多いせいか、エンジン音の割にスピードは出ず、早い自転車程のスピード(そんなことは無いか?)で、ユックリ、ユックリと進むのがもどかしいほどだ。
少し長いトンネルを抜けると突然目の前が開け、随分と高い位置にある駅に停車した。
三次からは1時間ほどの字都井駅だ。
この駅は何とトンネルとトンネルの間、谷に架かる高架橋の上に有る駅で、ここに来るには100段以上、建物で言えば六階分もある階段を上らねばならないらしい。
興味が沸いたが、ここで降りてしまうと次は六時間後の18時まで列車が無いから降りるわけにはいかない。


こんな過疎の町で、こんなにも便利の悪いところに駅を作って、地元の人に鉄道を使おうと呼び掛けても、鉄道好きの話題になる事は有っても、どだい無理が有るように思う。
この日ホームには二三人のファンらしき人がいた。
車で訪れた人たちであろう、到着した列車に向かい、しきりにカメラのシャッターを押していた。(続)
