本日はオスカー・ピーターソンが1964年にライムライト・レーベルに残した「カナダ組曲」をピックアップします。半年前に始めたこのブログでオスカーを取り上げるのは「ハロー・ハービー」、「オスカー・ピーターソン・トリオ+1」についではや3回目。そう書くとまるで私が彼の大ファンみたいですが、実態は違ってむしろ今までは敬遠していたぐらいなのです。ジャズビギナーの頃に定番「プリーズ・リクエスト」を聴き、その軽快なピアノに親しみを感じる一方で、ノリ重視の深みに欠ける演奏に対して一段低く見ていたというのが率直なところです。私と同じような評価をしているジャズファンは他にもいるのでは?
ただ、この「カナダ組曲」はそんなオスカーのイメージを覆してくれる作品です。スタンダードの名曲をカクテル調に軽快に演奏するという従来のイメージとは違い、全曲自作曲で固めた入魂の力作。しかも、カナダのケベック出身(ここがまず意外なんですが)のオスカーが、曲ごとに故郷への思いを綴った明確なコンセプトを持つ作品なのです。特に冒頭の幻想的な“Ballade To The East”や、続く愛らしいメロディの“Laurentide Waltz”はビル・エヴァンスもかくやと思わせるロマンチックな展開。途中アップテンポな“Place St. Henri”やブルージーな“Hogtown Blues”など彼本来のイメージを裏切らない曲もありますが、小麦の広がる草原をイメージしたリリカルな“Wheatland”、ラストの“Land Of The Misty Giants”など全編を通じて静謐な美しさに満ちあふれた作品です。サポートメンバーはいつものレイ・ブラウン(ベース)&エド・シグペン(ドラム)。黄金のトリオの隠れた傑作です。